第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

6 / 70
ファウンデーション/時空の結合より3カ月

 百を超える惑星は、劫火におおわれていた。

 六十以上の星と百の居住可能惑星、銀河帝国最盛期には合計人口は兆を超える。

 七つの豪族に分かれ争いつつ、千億以上の人口を維持していた。

 その人は、もはや一人も生きてはいない。

 パルパティーン帝国、練、両国とも、この地域を容赦なく蹂躙した。強い勢力がいない、原子砲やシールドを備える艦船も技術の低下で使い物にならない地元民のはかない抵抗は、圧倒的な武力で粉砕された。

 炎。

 一人ひとり、営々と生きてきた。名前があり、父祖があった。地を耕し、過ちを犯し、伝統を受け継ぎ、祭りを楽しみ、子を産み育ててきた。男であり、女であった。母であり、父であり、息子であり、孫であった。さまざまな仕事をする人であった。

 そのことごとく、いまは劫火に焼けて屍をさらしている。少なからぬものには、死は果てしない拷問と輪姦の終わり、救いでもあった。

 虐殺、拷問、強姦。略奪。あらゆる文化財の徹底した破壊。

 人間の性であり、多元宇宙の誰もが共有する最大の楽しみである。

 力あるものが力なきものを蹂躙する、それこそが多元宇宙唯一の掟なのだ。

 

 力ある二つの艦隊が、今や激突の時を迎えようとしていた。

 背後には累々と広がる、徹底して破壊された星々。

 一方には鋭い矢じりのようなデストロイヤー艦隊。

 他方には鋼の塊、鬼の面を思わせる、帝虎級を中心とした艦隊。

 

 いくつもの目が、その戦いを見守っている。

 

 決戦の場として選ばれたのは、とてつもなく巨大な赤色巨星のすぐそばであった。

 すさまじい炎とガスが渦巻き、そこに浮遊惑星の水が激しく荒れ狂う。血の池地獄ともいうべきだ。

 どちらも出いくさ、全力など出さなくても勝てると思っている。ともに二個艦隊程度しか派遣してはいないし、将帥も優れてはいるが、王・皇帝自らではない。

 だが兵卒たちにとっては、いのちがけであり楽しみでもある、いくさにほかならない。

 故郷から遠く離れ、厳しい規律と慣れぬ食物。並行時空の産物を略奪したものが、構成する分子は同じとはいえ口に合うはずもないのだ。

 昨日まで虐殺と拷問に明け暮れた、地獄の悪鬼たちも今はいくさを前に震える、弱い一人のひとに過ぎない。

 食べ、飲み、大小をたれる。ただそれだけだ。

 だが集まれば虐殺魔ともなり、また一つの機械のように巨大な戦艦を運営もする。

 練の、未開野蛮の民はより勇武を重んじ文化を嫌う。

 対照的にパルパティーン帝国の軍人は、人命軽視と厳しい規律で機械的な服従が身についている。

 だが、いくさを前に隊形を組みなおす今は、どちらも血の流れる人だ。

 

「牛魔王さま!敵スターデストロイヤー三十あまり、帝虎級銀虎を狙って円錐陣を組んでいます」

 報告を受けた牛魔王将軍は軽くうなずき、超巨大戦艦にさらに本隊から遠ざかるよう命じた。

『よいな、帝虎級は単独で一個軍団に匹敵する。艦隊の中核に据えるより、むしろ囮として動かす、敵の最も固い陣を突き破ったりするなど、使いこなすのだ』

 姜子昌の言葉と訓練を思い出さずにはいられない。

 

「見よ、あの原始的な船を!火薬砲ではないか」

「よくもまあ、あのような船で恒星間を飛び、超光速で進撃しているものよ」

 パルパティーン帝国側は、すっかり笑い油断しきっていた。

 見るからに文明水準が違うのだから。

 ぶつかった先遣艦隊がなぜ帰ってこないのかなど、考えようともしない。うぬぼれきっている。

 ゆえに、特段の考えもなく単純な円錐陣を二手に分け、戦利品にと二隻の帝虎級戦艦に突撃した。

 

「ぎりぎりまでひきつけろ。ぶつかられてもいい」

「あの敵の砲火には耐えられる。水と塩をたっぷり配っておけ!」

 高速で迫る艦隊を前に、帝虎級艦隊の将兵はおびえつつ刃の柄をいじっていた。

 二秒……三秒……じりじりと、その時は迫る。

「動くなよ、勝手に撃つな。勝手に撃った者は八つ裂きにしてくれる」

「敵射程圏に入ります」

 突然、天の一角が太陽より眩しくきらめく。

 無数のターボレーザーが集中して着弾する。

 鉄板が瞬時に白熱し、蒸発する。

「やられたふりをしろ!煙幕を出せ!全速前進!」

 牛魔王の叫びとともに、機関が回り轟音を上げ、加速に将兵は壁に押しつけられる。

 煙を吹く巨塊。パルパティーン帝国側は歓声を上げ、移乗白兵戦の準備を始めた。

 そして距離が急速に迫り……突然、巨大な鋼の塊がまばゆく輝き、真っ黒な煙におおわれた!

 巨砲が一斉に火を噴いたのだ。

 だが、それはパルパティーン帝国側は、単に敵艦が破壊されたとしか見えなかった。

 違った。パルパティーン帝国には想像もできないほど分厚い装甲の、表面三メートル……ほんの薄皮が蒸発したに過ぎない。その蒸発した鉄蒸気は有効な対ビームシールドとなる。さらに、残りの熱は艦全体に、急速に分散される。その世界の装甲材は、異常なほど熱伝導率が高くビームに抵抗があるのだ。

「あちち」と、船の奥にいる何人かが、暖かくなった艦の壁から身を離す。

 ちょうど暖かいと壁にへばりつく者もいる。

 逆に、誰もがせせら笑う火薬式の巨砲……質量実体弾は、パルパティーン帝国艦隊の誇るシールドとは、全く無関係だった。シールドはあくまでレーザーや荷電粒子砲を防ぐためであり、鈍速大質量の実体弾など想定されてすらいなかったのだ。

 艦が次々と破壊される。その内部では何千もの人が、死んでいった。

 巨大な鉛の塊に、一瞬で液体・固体・気体の区別をなくす者。

 油圧を制御する、超高圧で有毒な液体のパイプがちぎれ、噴出した刃に胴体を両断された者。その近くの、毒液を頭からかぶって目がつぶれ呼吸もできなくなりのたうち回る者。

 真空にもがきながら目を飛び出させ、破裂する者。

 高電圧に焼かれ、意思と関係なしに全身の筋肉を跳ね回らせる者。

 切断された手足を呆然と眺め、笑いながら死んでいく者。

 タンクが破壊されてあふれる汚物に呑まれる者。

 爆発に呑まれ一瞬でハンバーグと化す者。

 頑丈な部屋にいて、安全だと思っていたら激しい衝撃でひき肉と化す者。

 一人一人、名前があった。親があった。子や妻がある者もいた。友があり、仕事があった。

 もちろん、その多くは虐殺に手を染めた、罪ある者でもある。同情には値しないかもしれない。

 だが、一人一人は人間なのだ。

 

 そのようなことは、艦隊指揮官が考えることではない。艦隊の被害は、スクリーンに浮かぶ光点の色の変化でしかないのだ。

「ひるむな!移乗白兵戦で仇を取れ!あのでかぶつをぶんどって皇帝陛下に献上するぞ!皆殺しだ!」

 そう、全艦隊に放送が回る。

 ハッチで準備をしている兵士は、今兄弟たちがどのように死んでいったかは知らない。

 

「踏みつぶせ!」

 スター・デストロイヤーと帝虎級が、正面衝突する。

 鋭い刃が、すさまじい速度で厚い厚い装甲板に深く食い込む。

 大きな被害を出しながら移乗する兵たち。迎え撃つ練・南蛮連合の兵。

 どちらも、修羅だった。

 ブラスターの嵐に、特に顔を撃ち抜かれたものが次々と倒れる。

 そして矢と銃弾が帝国兵をなぎ倒す。

 練・南蛮の兵が着る、重厚な金属鎧はブラスターにもかなりの耐性を持つ。

 そして旧式火薬の銃器は濃い煙幕を作り出し、装甲化されていない兵の肺や眼を冒す。

 接近戦となれば、南蛮の蛮兵がふるう剣や薙刀が優位となるが、集団白兵戦の訓練は帝国兵も受けている。

 ひたすら、意思と意思、力と力……白兵戦に、正義もないし戦略もない。ただ目の前の敵を倒すだけだ。

 

 艦隊そのものは、それとは関係なしに動いていた。

 帝虎級を狙う敵艦隊を、牛魔王の命令を受けたほかの戦艦群が横から突撃し、分断したのだ。

 戦列艦。何十隻も並ぶ戦艦が、ベルトコンベヤーのように行きすぎながら巨大な機関砲と化す。

 次々と、スター・デストロイヤー級が粉砕される。

 そしていくつかの練戦艦は大型艦に突撃し、その巨大な衝角をぶちこみ、息を止めた兵が何千と乗り移る。

 あとは、芋を洗うような白兵戦……ブラスターも槍も役に立たない泥沼となる。

 

「おのれ……スーパー・スター・デストロイヤー級をもって叩き潰してくれる!」

 超巨大艦が、超巨大艦に迫る。

「相互支援で後退せよ。敵陣を伸ばすのだ」

 牛魔王自身は突撃したかった。敵の巨艦に正面からぶち当たりたかった。部下たちも、みなそれを望んだ。

 だが、姜子昌の命令と訓練は、それを許さぬ別の思考回路を勇将たちに植えつけていた。

 二隻の帝虎が、激しく砲煙を上げつつ後退していく。一方が下がるときはもう一方が弾幕を張り、そして交替し後退する。

「屈辱はもうすぐ晴らしてやるぞ!敵の血を浴びるときを楽しみにしていろ!」

 牛魔王が絶叫する。

 次々とスター・デストロイヤーが肉薄し、粉砕される。

 帝虎級の装甲も何メートルも蒸発し、あちこちには敵艦が刺さった本物の傷が口を開いている。

 艦全体が熱くなり、鎧を脱ごうとして殴られる兵もいる。

 都市一つ蒸発させられる火力が注がれているのだ。

 

 伸びきった帝国艦隊の両横から、ガスに隠れていた高速戦艦二十の小艦隊が襲いかかった。

 狙いはスーパー・スター・デストロイヤーのみ。

 集中射撃に先頭の三隻が爆散するが、その残骸と蒸発した金属ガスをそのままシールドに、縦陣は突撃した。

 その瞬間、帝虎級二隻も後退から前進に切り替える。

 

 スーパー・スター・デストロイヤーと帝虎級、その巨体はどちらも白兵戦の地獄と化した。

 次々と練の戦艦が砲撃し、激突し、兵員を送り込む。

 広い広い、巨大艦のいたるところが地獄と変わる。

 

 帝国艦隊のほかの艦は、旗艦の危機に浮足立ったと同時に、大きく回って襲撃する練艦隊の本体と激突する羽目になった。

 火薬砲の煙と濃い星間嵐が反応し、全く視界がきかない。

 それは、巨艦内部の白兵戦と全く変わらない、敵も味方も見えない泥沼の戦いだった。

 その戦いを続けさせるのは、ただ訓練と意思だけ……戦う機械になりきり、命令に従って。

 

 巨大な爆発が、赤い水流れる星間空間を揺るがした。

 スーパー・スター・デストロイヤーが、万に及ぶ移乗していた敵兵を道づれに、崩壊し赤い水に沈んでいく。

 そして激しい流れに引きちぎられ、砕かれていった。

 練・南蛮連合艦隊の激しい勝どきとともに、戦いはさらに激しさを増した。

 

 勝利、というべきであろうか。

 帝虎級も一隻は大破していた。

 練・南蛮連合艦隊の、半分は破壊されていた。

 パルパティーン帝国艦隊は、三割がかろうじて逃走した。残りは破壊され、降伏した者も容赦なく皆殺しにされた。

 

 戦いが終われば、虚脱と……戦っていたうちは気づきもしなかった傷の痛みと疲労、それだけだ。

「さあ、これでこの銀河はわがものとなった。征服を続けるぞ」

 そう笑う牛魔王も深い傷を負っている。補給や修理、兵員補充の必要もあった。

 勝利者は、むしろ敗者をうらやみすらした。

 そして次の戦いの勝敗は、どちらがより多くを戦いから学んだかで決まるのだ。

 

 その無残な戦いを、ただ眺めていた人たちも多かった。

 その人たちにとっては、数万の死者は意識すらされない。

 ただ、双方の武器・防御の性質、そして士気の良しあしを、他人事のように論評するだけだ。

 まして、両艦隊に踏みつぶされた数百億の弱者のことなど、思い出す者もいない。

 

 一人一人は生きていたのだ。血の流れる人だったのだ。誰かの父であり、兄であり、息子だったのだ。母であり、妹であり、娘だったのだ。

 命を捨ててかばってくれた戦友だったのだ。

 

 多元宇宙の戦乱は、これからも続くのか…それを思って暗澹とする者もいる。

 そして、ただ復讐心と、征服の喜びに満たされる者もいる。

 明日のことも考えず、ただ戦い続ける者もいる。

 助けようとする手を封じられ、唇を噛み破る者もいる。

 すべてを計算式の変数としか考えず、代入して計算を続ける者もいる。

 

 赤い水流れる星団の星間空間に、わずかな鉄が混じった。炭素と水素と酸素、少々のリンやカルシウムも。

 星々は美しく輝き、傷ついた艦は修理と治療……苦痛の叫びと、安楽死を感謝する最後の言葉さえ多くある。

 虐殺を前に拷問される捕虜の絶叫が、徐々に弱くなっていく。

 多元宇宙には、戦乱しかないのか。弱肉強食だけが、多元宇宙の現実なのか。




ファウンデーション
銀河戦国群雄伝ライ
スターウォーズ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。