『目覚めたら~』についても、#199以降の様々なことを無視しています。以降の原作との食い違いは多いでしょう。
本当に長いこと筆が動きませんで…
(どんな選択肢がある?)
カイ・ヴァッタ船長の苦悩は続いていた。
助けを借りて撃退した海賊。味方は三隻しか残っていない。
シウダッド星に行かなくては、ザバラ船長の死、奮戦、名誉を告げるために。アンダーソン船長の死を告げる先もある。そして私掠船艦隊……
間もなく帰ってくるであろう、〈クリシュナ〉のキャプテン・ヒロ。別時空からの客人(エトランゼ)。
どうする?
別時空との接触。目の前の門。
膨大な利益のチャンス。危険。
その存在自体が気づきのきっかけになる、恐ろしすぎること。帝国。この時空の全人類の代表者。星間交易の守護者。
選択肢。
全部見なかったことにして、シウダッド星に行く。別時空からの遺伝子資源でも技術資源でも得られればそれにこしたことはないが、欲張らない。
だめ。すでに宙賊に、あたしたちが航宙船アンシブルを持っていることは知られている。どこまでも狙われる。一族も……ステラもトビーも、ヴァッタ一族と宙賊連合はどちらかが滅びるしかない。
それに、何もしないということは、宙賊をこの時空の代表と認めるのと同じだ。
ふざけるな。キャプテン・ヒロからも宙賊を憎む心は感じている。
三隻だけで、宙賊からも、並行時空の艦隊からもここを守り、起きたことを伝えるべき人に伝え、金鉱に群がる人々もどうにかする。
どれほどとてつもない不可能?
ラフェと連絡し、星間通信局(ISC)にすべてをゆだねる。
星間通信局に、全人類を支配し代表する組織に、変化してもらう。
どこかの星系政府に、すべての星、すべての人類を支配するという野心を持ってもらう。
「あたしがやるしかない」
声は、自然に出た。
あたしは、何を言った?自分の言葉が信じられない。
だが、はっきりとわかる。それしかない。
ガミスが代表者、皇帝になることだけは絶対に許せない。
(それが見えるのは、あたししかいない。
他の人には見えない。ラフェも、星間通信局の偉い人もだめ。ステラにも見えない。スロッター・キーの政治家?ヴァッタ家を見捨てた人たち?どこの星系政府が、どこの大提督が、どこのだれがそれを見てくれる?)
どうやって?
何人かの私掠船船長は応えて来てくれた。だが、その誰が敵のスパイかもわからない。
あちこちの星で、起きていることを大声で言う?それこそ、どこの星系政府も大都市に爆弾を落とされる方がましだろう。そして誰が信じてくれるだろう?
今すぐ、力のある協力者が必要だ。
〈クリシュナ〉のキャプテン・ヒロを全面的に信じる。
何度、信じてはならない人を信じた?そのたびに誰かが死に、あたしも死にかけた。
でも、本当に誰も信じられないのなら、宇宙船に乗ることも商売をすることもできやしない。一人で森の奥で暮らすしかない。
あたしはヒュー副長を、マーティンを、クルーみんなを信じてる。ステラも、故郷のグレイシーおばさんも信じてる。商売相手が契約を守ってくれることを信じてる。各星系の軍が、ステーションにドッキングする瞬間発砲しないでくれることを信じてる。
キャプテン・ヒロは?そしてその背後の、グラッカン帝国は……
士官学校でなにを習った!まず、遠い目標を見る。その次に、単純な、現実にできる目の前のことをする。山頂を見て、全霊で一歩踏み出す。命令は明確に、誤解曲解の余地なく。
自分が持たないものを数えるのではなく、持っているものを確認する。ガラス瓶ひとつしかないなら、それでできることを考える。割って破片を槍先にするとか、燃料を入れて火をつけて投げるとか。
まずするべきことをする。まずこちらから、正しいことをする。
キャプテン・ヒロとは、共に戦い、疲れ切っているときに少し話しただけだ。軍人の雰囲気も、暗黒街もよく知るラフェの空気感も、無法者の殺し屋という感じもなかったが、格闘では強いことも感じた。
第一印象は悪くない。
船での戦いでは恐ろしい腕、あたしはもとより士官学校の教官たちよりはるか上。有能な部下もいた。素早く通信を確立した部下も、あたしの疲労を気遣ってくれた部下も。船の性能もかなり高いが、素手で正規軍に立ち向かうような、戦いにならないほどではない。
これから知っていくしかない。まず、こちらが信じるに足る存在だと、行動で示す。
カイは、短い熟睡はあるがまだ疲労は大量に残る体を起こした。
体を洗い、着替え、食事。いつもの食事とは違う、消化がいいもの。ブドウ糖剤も入れる。
とにかく動けるように、無理矢理注油する。本当は数日間の静養、その後また何日もかけて食事と運動が必要だが、時間こそどんな金でも買えない。
そして残り二隻には接近し手が空いている人に通常通信に応じるよう告げ、〈ヴァンガード〉では食堂に集合するよう告げた。
副長は黙ってうなずいた。
画面には、傷を簡易治療しただけの顔もある。
カイは呼吸を制御し、語り始める。
「まずはあらためて、みなさんの奮戦に感謝と称賛を。そして戦死した人たちに感謝と祈りを。黙祷」
静かに目を閉じる。
「やめ。あなたがたが聞きたいことを伝えます。救援してくれた〈クリシュナ〉は、この座標にある未知の宇宙現象から出現した、別時空の方です。
彼の態度は友好的でしたが、その背後の国がどうであるかはわかりません。
また、こちらでの宙賊の動きの早さと強さも、あらためて知りました」
わずかに息を置く。士官学校の、もっともすぐれた教官たちを参照して。
別時空、という言葉に興奮する皆が少し落ち着くのを待つ。
「宙賊が、すべての星を制圧しようとしている。さらに別時空の存在。
これは全人類にとっての、地球以来最大の危機です。だから」
カイは目を見開く。
「このカイラーラ・ヴァッタが、全人類の代表となります」
狂っているとしか言いようがない一言。
沈黙。
「狂ってはいません。そうするしかないのです、宙賊ガミス・トゥレックを皇帝と認めるのでなければ」
その言葉に、画面の皆が激しい反応を見せる。
二隻の味方どちらにとってもガミスは仇敵だ。追い詰めた報復にクルーを拉致・惨殺されたことがある〈シャーラズ・ギフト〉。故郷を攻め落とされ追われた〈バスーン〉。
「独立した星々と星間通信局(ISC)の時代は終わりました。船載アンシブル。別時空への門。全人類というもの。
以前からもありましたが、誰も見ていなかったこと。新たな現実を見なければならないのです。
スロッター・キー。ヴァッタ家、ヴァッタ航宙。それらを超えた『公(パブリック)』。それを見ることができるのは、あの別時空の船を見たあたしたちと……
連絡を受けたであろう、この時空の人類すべてを手中に収めつつある宙賊だけ。
どちらかです」
一人一人を見つめる。
「宙賊と戦う。そして別時空の戦艦にこの時空を売るのではなく、別時空の星間国家と対等な関係を築く。一つ一つ、星系政府を説得する。星間通信局にも役割を担ってもらう。
まず、することを言います。別時空からの船が戻るのを待ち、交渉します。
それから、あたしは〈シャーラズ・ギフト〉に移乗し、〈バスーン〉との二隻でシウダッド星に向かいます。ザバラ船長の誇り高き死を伝え、味方を募ります」
通信画面の、食堂のクルーたちが目を輝かせてうなずき、直立不動の姿勢を示した。軍経験者は敬礼を。
生命の重さが、カイの肩にかかる。
++++++++
〈クリシュナ〉がゲートをくぐって戻る。
「無事戻れましたね」
ミミがほっとする。
「また美人と知り合えてうれしいんじゃない?」
エルマがからかうような、微妙な表情をする。
「美人は否定はしないが、それよりトラブルのにおいがきつすぎてなあ……」
「トラブルだったら……ああ、まず」
エルマが言う間もなく、次々と大型艦船が現れた。
まっさきに、一時退避していたクリスの、ダレインワルド艦隊。
ミミが超光速から出現した艦船を忙しく確認、連絡を取る。メイとエルマも加わる。
美貌にして有能だが、ヒロにはわがままで抜けた面も見せる侯爵家令嬢で軍人、セレナ=ホールズ中佐率いる、独立対宙賊艦隊。
「またやってくれましたね」
「……ぼくのせいじゃないもん」
「斬りますよ?」
画面内で、セレナが腰の剣に手をかける。ヒロがセレナにホールドアップをしてみせる。
「じゃれあえてうらやましいです」
と、クリスがすねてみせた。
「さて、ミミ、データを送って」
「はい」
「詳しくはデータに。とりあえず報告、あのアンノウンは別時空へ行き来できるゲートだ。どうやら出入りはウラオモテ別。こちらの体調や機械に問題はない。
向こうには、こちらの人々と見た感じ変わらない人類がいた。宙賊と私掠船が戦っていた」
「どこにでもいるわけね、宙賊は」
セレナの目が鋭い光を帯びる。
クリスがはっと息を吸う。
「さて、それでどうする?」
と、ヒロがクリスをまっすぐに見た。クリスがほんのわずかに泣きそうな気配を漏らし、目を伏せようとして伏せずに、ヒロの目を見る。
「お祖父様と皇帝陛下に、報告は出しました。返答が来るまでは、私が責任者です」
ヒロがうなずく。クリスはにっこりと笑った。押しつぶされそうになりながら、
(顔だけでも、笑っている……)
のがわかる。そしてヒロを支えにしていることも。
「すべての責任は私が取ります。すべてを、キャプテン・ヒロ、あなたに預けます」
ヒロのあごが落ちた。エルマが苦笑する。
「そうきたか……」
「このコーマット星系はダレインワルド家の勢力圏。この事態はイレギュラーですが、その権限を尊重します」
貴族令嬢でもあるセレナがクリスに礼をし、ヒロをにらんで強めに言った。
「で、どうなさるんですか?」
「……先に会話映像を見てくれ」
と、ヒロ。すでに送信は終わっており、クリスとセレナが、ヒロとカイの会話に目を向ける。その前にふたりとも、映像でヒロと話したカイが美女であることで、少しヒロに鋭い目を向けたが。
中心人物たちが、ヒロとカイの会話や戦った宙賊の装備など情報を頭に入れる。
同時にヒロたちが戻ってからも何度か、主に観測機器を積んだ無人艇をゲートに放って戻させ、時空全体の物理法則や星の配置などを確認させ始めている。
「まず大きい方針だな。
征服しようと思えば、独立艦隊とダレインワルド艦隊でできるだろう。俺はやるつもりはない、ただし宙賊が支配する時空が隣にあることは許さない。
宙賊と戦おうという人を支援するのが最初だな。だが……」
ヒロが、主にメイとエルマを見ながら言う。
「それも、征服の第一歩と判断されるでしょう」
メイが静かに言う。
「まあ、俺はそんな政治はわからないから、エルマとメイで相談してくれ」
「それが正しいでしょう」
「うわ……貴族業しろっての……」
エルマは貴族家の生まれで、家を飛び出して傭兵になった。
「貴族としての、政治とかの知恵は俺にもミミにもないからな」
ヒロが肩をすくめる。
「さて、これぐらいの戦力で、二度目の訪問と行くか。覚悟はいいな?」
このゲートが信用できるとは限らない。二度と帰れない可能性は多分にある。
それでも、クリスもセレナも、メイやドワーフ姉妹もうなずいた。
クリスのダレインワルド艦隊、セレナの対宙賊独立艦隊から、戦艦4隻、重巡洋艦6隻、軽巡洋艦10隻、駆逐艦16隻、コルベット30隻、巨大輸送艦4隻が選抜されている。失っても容認できる、そして考えられる宙賊艦隊を葬れるだけの戦力。
++++++++
ゲートから艦隊が出現する。
カイたちは緊張した。
何度も無人艇が着たり戻ったりし、そのときに前の接触でカイたちと決めていた暗号で多少通信して予告されていたとはいえ。
「カイラーラ・ヴァッタです。あらためてこの時空へようこそ」
「キャプテン・ヒロだ。改めて紹介する、向こうの惑星を開拓している領主代理のクリスティーナ・ダレインワルド伯爵令嬢、支援に来た独立対宙賊艦隊のセレナ・ホールズ中佐」
カイは画面に出た美少女と美女の目を見た。
クリスからは強い意志。
セレナからは、何度か接した有能な軍人の眼光。
緊張が広がる。軽くつばをのむ。
「ダレインワルド家、グラッカン帝国は、連絡が来るまでは対処をキャプテン・ヒロに一任します。独立対宙賊艦隊も了承済みです」
クリスの言葉に、
(年齢以上の経験と教育)
カイにもすぐ伝わった。
「そういうことだ。とりあえず征服はできるがしない。ただし、宙賊に支配された世界が隣にあるのは許さない。交易はしたい」
ヒロの単刀直入すぎる言葉に、クリスは目を見開いた。
「あ、あたしが必要なのは……力。この時空の代表者になる。宙賊連合を倒す。多くの人に、このゲートがあることを信じてもらう。
提供できるのは、ヴァッタ家のあたしの相続分と、あたし自身」
強い目。
一瞬、クリスもセレナも、エルマもミミも嫉妬交じりのジト目になりかかったが、ヒロの言葉に気持ちを切り替える。
「別時空の人類の遺伝子、それだけで三百万にはなるな」
ヒロ自身、この時空に船と身一つで出現してから、その「身」、遺伝子情報だけで大金になったことがある。尊い犠牲も払って。誰もが入れている翻訳インプラントがないし、遺伝子がかなりこの世界の一般人とは違ったのだ。
同じように、未知・処女地の人間の遺伝子には価値が出るだろう。
カイも即座に理解した。
(なら、そのお金を元手にあちらの何であれ買えば。犬みたいに)
カイには、ある星で、まだ子供のクルーがごみ箱に捨てられた子犬を拾った、別の星では犬が貴重で犬の精液が大金になった……という経験がある。
「提供します。それでそちらの何かを購入できれば、こちらではきっと」
「ちょっと待ちなさい。そんな売り買いはなんであれ、こちらにとってもそちらにとっても、巨大なリスクになるのよ」
セレナが咎めた。
遺伝子を手に入れれば、それに合った病原体を作って瞬時に皆殺しにするかもしれない。
どんな伝染病を持っているかわからない。何がコンピュータを破壊するかわからない。絵の背景の、人間には平坦な塗りがコンピュータに読まれたらウィルスになることもありえる。何が人間以外でも大規模なバイオハザードを起こすかわからない。どんな本が巨大宗教や危険なイデオロギーを作り、革命騒ぎを起こすかもわからない。
互いに、相手の些細なものを手に入れても、相手の技術につながるヒントを得られるかもしれない。
征服者であれば、砂浜にキスし十字架を立てれば、その時点で大陸は王のもの、とやるかもしれない。
〈共通歴史〉のマダガスカルではフランス軍が原住民を虐殺し、その弾薬代から航海費用まで借金として原住民に負わせ奴隷化し、さらに原住民の許可など皆無で港湾などを作ってその費用も借金に加えた。ばかばかしい金額に膨れ上がった借金はいまだに有効とされ、マダガスカルの人々は払い続けている。他のあらゆる列強が、世界のいたるところで同じかもっとひどいことをした。
ある地域では、泥棒がうっかり塩をひとなめしたばかりに、せっかく盗んだものをすべて返したという話がある。塩を口にしたら客だ、泥棒ではない、と。逆にその地域では豪族でも貧家でも、塩を口にした客を害することが絶対に許されず、命を捨てても守り抜かなければならない。
どんな法や慣習の体系があるかわからないのだ。
「わかってる。でも、宙賊以外の代表者を作るためには、なんでもやるしかない。力がいる」
カイの目を、ヒロも、クリスやセレナもしっかり見た。
「わかった。……俺は可愛い女の子が困っているのを見ると助けずにはいられない性分なんだ」
ヒロの言葉にカイが目を見張る。
「……疑うのはわかるけど、本当だから」
額を押さえ天井を見たエルマが言い添えた。ミミも強くうなずく。
「か、可愛い?」
カイが少し慌てるようなしぐさをして、それからまた強い目をヒロに向ける。
「とりあえず、こないだの戦いの戦利品からこっちの分はもらう。死体もだ」
ヒロの言葉にカイはうなずき、副長を見て、ヒロを見る。
「わかった。用意してあるわ」
当然の要求。まず、
(道理と約束を守る者だと示せ……)
だとわかる。
「ミミ、ウィスカ。それと交易品の具体的なことは、ここで俺たちが話すより両方担当を決めたほうがいいだろ。こちらから提供できて一番金になるのを。逆に一番欲しい物。あとイナガワテクノロジーにも連絡。相場の金額を貸す」
「はい」
担当を決め、
「さて、これからの予定は?」
「あたしはこの船は置いて、別の船で別の星系に行くわ。先の戦いで戦死した人の故郷に、誇り高い死を伝えたい。そのついでに、別時空の商品を売り、味方を募る」
「わかった。同行する」
と、ヒロはセレナに目配せした。
「分遣隊を編成します。ダレインワルド艦隊からも加えます」
「私も同行します」
とクリスが言った。
「少し軽々しく感じられますし、本国からの連絡を受けられるここにいたほうがいいと思いますよ?」
「ですが、星系政府に対応するには地位が高いほうが」
「あの」カイが口を出す。「これから向かうシウダッド星は、激しい男尊女卑があります。その点はあたしも……」
「なら」
と、セレナがやや年配で男性の少佐を選んだ。
「血液などのサンプルは取っておきたいから、一度クリスの戦艦に来てほしい。ついでに食事でもしよう」
「お互いにどんなものを食べているか、からね。わかった。礼儀作法は学ぶので送って」
と、カイが身軽に動き出した。
だが、通信を切った瞬間、すさまじい疲労に崩れそうになる。
全人類の命運をかけた交渉の重さはすさまじいものがあったのだ。
覚悟をしていた、体を求められなかったことなど些細といえるほど。
「へえーなんでもするんですねー」
「よかったですね」
などと、ヒロはしばらく女性陣に責められながら連れてクリスの旗艦に移譲した。
〈ヴァンガード〉が巨大な戦艦のそばにつける。ドッキング設備の規格が合わないので、カイは宇宙服を着て移乗した。
無論その時も強い恐怖は感じている。今この時、向こうが牙をむいて船を奪いに来るかもしれないのだ。お互いに。
互いに相手の礼儀作法を知らないことが、また緊張を強める。
ヒロ・エルマ・メイ・セレナを脇に置いたクリスの、幼いながら貴族らしい歓迎に驚きつつ、血液などを採取されたクリスは食堂に向かった。
互いに、どんなものを食べているかなどの話になる。
お互いに驚いた……多くは動植物を調理しているカイたちと、養殖した藻類などからできたカートリッジを利用して、普通の料理に近い食物を再現するクリスたちの技術。
「お互いに交換できますね。そちらからは料理と食材、こちらからは食品生産技術」
「その技術だけでどれだけの金になるか」
「そ、それよりそっちに、炭酸飲料はあるのか!黒くて炭酸と糖分がぎっちりでしゅわしゅわからくて冷たいの!MCハ〇ーが飲んだらバラードを歌いだすほう!」
ヒロがわめくに近い口調になる。
彼が異世界で傭兵として、一生暮らせるを何千倍にもした金を稼いでいる大きい理由は、大金がかかる惑星上で生活する権利を買うため。それも、愛する炭酸飲料を飲むためである……クリスの世界では宇宙生活者が多いせいか、炭酸飲料の概念自体がないのだ。
それから物資の交易をする。カイたちが軍需物資として持ってきたものも、手に入れたばかりの宙賊艦の残骸でも、さらにクルーの私物であっても、向こうから見れば膨大な価値がある。
逆にクリスの側が選りすぐった、
(異世界の技術の産物だと一目でわかり、軍事技術を流出させるものではなく、特に金持ちにとって価値があるもの……)
を積んだ〈バスーン〉と〈シャーラズ・ギフト〉、そして分遣隊と〈ブラックロータス〉がシウダッド星に向かう。その航路情報自体、
(万金の価値がある……)
と、いうものだ。
船長たちが会食をしている間にも、荷物の受け渡しなどをしているクルー同士も会話するようになるのも自然な成り行きだ。
そうなると、お互いの船長の評判が一番の噂のネタとなる。
カイの『武勇伝』を聞いた〈クリシュナ〉のクルーなどは、乾いた笑いしか出なかった。
「子犬をほっとけないトラブルに突っ込むのが趣味なお嬢はんと、吸引力の変わらないトラブル特異点……」
ティーナが乾いた笑いを浮かべる。
「ブラックホールとブラックホールが衝突したらどうなるんでしたっけ?」
ミミが少し乾いた声で言った。
「重力波をまき散らして大きなブラックホールになるわね」
エルマがため息をつく。
それから移乗した〈シャーラズ・ギフト〉にいたスロッター・キー軍からの軍事顧問が、士官学校時代のカイの元彼氏だったことが判明して騒ぎになったりしたが、とりあえず順調に艦隊はシウダッド星に向かう。
超光速航行の原理の違い、それゆえに船と巨大飛行船が同航するような厄介さ。また航路はカイたちにとっては開かれているが、ヒロたちから見れば未知の海。
カイたちから見れば多く航行されている航路でも、ヒロたちの超光速航行では事故確実の暗礁地帯かもしれない。
だからこそお互いをいたわり、膨大な観測情報を受け渡しつつ、旅が続いた。
両方のクルーの有能さあってのことだ。
そしてシウダッド星に着いた時、そこで待っていたのは……
とある「なろう」戦国小説で織田信長をナレ死させた、がごとくあっさりと肝心なことを。
ちなみに、今回はヒロは紳士でしたが、ミミとエルマの時には部屋まで来たこともあり遠慮なく手を出してます。