第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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銀河戦国群雄伝ライ/時空の結合より2カ月

「きょーみないね」

 大覚屋師真は手紙をあっさりと焼いた。

「行かなくていいんですか、兄さん?」

 弟の英真は焼けていく手紙を、見ている。

「五丈の利害を離れて、なんてきれいごと、あるわけねーだろ」

「でも素晴らしいきれいごとですね」

「行きたいか?」

 師真の言葉に、英真は微笑み、話題を変えた。

「〈ABSOLUTE〉は、狼刃元帥が亡くなられた金州海近くに門を開けたそうですね」

(行きたい、か。だが、お前にもその資格はない。『この世は思い通りにならないこと』を知らないからな)

 師真のおひゃらけた目に、弟を心配する憂いが、ほんのかすかによぎる。

「やっかいなこった。まあそれより、正宗がどう動くか見てみるか」

「今正宗公がいる夷にも、また南蛮のほうにも門があるとか。練はそちらにも軍を出している、と。兄上はどのようにお考えですか?」

「んー?練とその向こう側が戦争やっててくれれば、少なくともこっちに来るのは遅くなるだろ。今はうちは、骸羅の暴政から国を立て直すのに精いっぱいだからな」

 と、師真は自堕落に姿勢を崩して伸びをし、膨大な書類をまた一枚処理して、英真が差し出した茶を飲んだ。

「竜王陛下は?」

「あいつも、自分の実力はわかってるさ。金州海とつながってるトランスバール皇国は攻める気はないと言ってる。それだけでもありがたいよ、交易でも儲かるし」

 英真も別の商人との交渉に出て、師真はまたひとしきり仕事を進める。しばらくして、廊下を通りかかった英真を師真が呼び止めた。

「そうそう、南京楼の商人を通じて、南蛮方面から来る連中に情報を流せ。心理歴史学はうちが手に入れた、と」

「え?あのあちこちが求めている、素晴らしい数学ですね?手に入れたなんて初耳です」

「んなもん手に入れてねーよ。いいんだよ、〈セルダン・プラン〉はずるいんだ、現状がどうなっていようが、『これは一時的な逸脱だ』ってごまかせる。まるっきり儒者の戯言だ、ホンモノであろうとなかろうと。だが、それを武器にすることならできる」

 師真はそう笑い飛ばして、首を振りながら出ていく弟を見送った。

 その手には、乏しい情報で作られる多元宇宙の、複雑なつながりを描く図や各時空が擁する戦艦の戦力など、多くの情報が積まれている。

 

 王宮の広い庭には、激務の間を縫って時間を作り、兵たちと木刀で汗を流す若い男…新王、竜我雷の姿があった。

 激しく息をつき、井戸水を頭からかぶって、岩に腰かけて一息つく。

 横からどんぶりでぬるい茶が差し出され、一気に干した。

「うまい」

 振り返ると、正妻の紫紋。彼女は優しく微笑んで、同じく疲れている兵たちの間もまわり、水や菓子を振舞っている。

 その謙虚で仁慈あふれる振る舞いは、旗上げ以来の武官や兵士、賢者たちにこの上なく愛されている。豪奢で廷臣や商人に人気のある側室の麗羅とは対照的に。

 だからこそ、懐妊が待たれてもいるのだが……

 いつしか替えてくれた、熱く濃いおかわりの茶を干しながら、雷は空を見ていた。

「多元宇宙、か」

 師真らがまとめた報告を思い出す。知られている限り、有人だけで14、無人を含めれば100を超える別時空。その一つ一つに千億の星と千億の銀河、いくつかは銀河一つで百兆の人口を持つという。

(正宗、羅候……やつらを倒し、この銀河を統一しても、幾多の宇宙と戦わなければならないというのか。狼刃元帥……誓いました、必ず銀河を統一し平和を実現してみせる、と。でも、そこへの道が、見えなくなりそうです。広すぎる、多すぎる……)

(シヴァという女皇帝の手紙。率直な言葉が偽りでなければ、平和を求め多元宇宙の広さに圧倒されている。俺と同じく)

(俺は平和は、剣と血、恐怖からしか出てはこないと知っている……だが、これほど広い多元宇宙を、一人の力で統一することが……疑うな、疑ったら狼刃元帥も、俺のために死んだ幾多の将兵、俺が殺した敵の命も、すべて無駄になってしまう)

(話したい、知恵を借りたい……狼刃元帥、弾正公……正宗……)

 遠い正宗との幻のような逢瀬も、もう終わりを告げた。その肌の感触を改めて思い出す。

(次に正宗と会うとすれば、どちらかが死ぬ時……それが戦国の世、ならそれを終わらせる)

 雷は静かに茶を干し、立ち上がった。

(今は、今できることを。足元を大切にしよう)

「三楽斎!税率と港湾整備の話、さっさと片付けるぞ!」 

 

 

「行きたいなあ」

 片目の女将軍、智の紅玉……すでに正宗の名は幼い弟王に譲ったが、誰もが正宗と呼ぶ……は〔UPW〕からの手紙を手に、そうつぶやいた。

 彼女は策を用い、練から弟王を取り返しはした。だが軍事力の衰えはどうしようもなく、智の大半を放棄し、辺境の名もない星で勢力を立て直そうと苦心している。

 そんな彼女を、甲冑に身を固めた同じく女将軍が必死でいさめた。

「そんなめっそうもない、多元宇宙各地から優れた軍師を引き抜き自分のものにしたい、というだけです。まして御屋形様は最強の武将の一人、それを部下にして自分を強めたいと……それに御屋形様が行かれては、この智は終わりです。それによるこの時空の変化を、自国の利に用いるのみでしょう」

 わかっているよ、とうなずきかけ、星空を見つめる。

「行きたくても、〔UPW〕への門は五丈領内だ」

 それでもあきらめきれぬように、何度も手紙を読み返す。

(私が行けば、智は終わり……なら、終わっているということだ。後継者を育てられなかった指導者など指導者失格)

 自らの余命が短いことも自覚している。

(このシヴァという女皇は、この頭脳を必要としてくれるのだな)

 そう思うと、胸が激しく騒ぐ。

(だが……ああ、〔UPW〕に行きたい、竜我の部下全員と練の大戦艦全部が欲しい……そう思っても愚かなことだ。私についてくる者のため、智のために最後まで戦い抜く……それしかできぬ)

 自嘲気味に手紙を破って未練をふり捨て、立ち上がった。

「それより、〔UPW〕とは別の時空との門に、手が届くそうだな」

「は、そちらは……」

 飛竜は、手紙が破かれるまでの時間の長さを気にしていた。だがそれ以上考えることはなかった、しなければならないことは多いのだ。

 並行時空からの使者や、五丈の密使も何人も紅玉との面会を待っている。彼らも暗殺者かもしれず、それから主を守るためには……

 

 

 その頃、練軍は〈ファウンデーション〉の銀河に攻め込み、殺戮を繰り広げていた。

 そして、同様にその銀河を攻めているスター・デストロイヤーを中心とした艦隊とぶつかりつつある。

 さらに、離れたところではファウンデーションの残党や、ハン・プリッチャー将軍率いるミュールの高速船団も様子を見ている。

 多元宇宙がつながってから最初の、大戦が始まろうとしていた。




銀河戦国群雄伝ライ
ギャラクシーエンジェル2
ファウンデーション
スターウォーズ

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