第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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ちょっとゴキ描写あり。絶対ダメな人は要注意。


とある無人時空/時空の結合より3年4カ月

〈ABSOLUTE〉から行ける名もない時空の一つ。

 多くの戦いで出た難民たち、その他いろいろな人が、多数ある無人時空の遺跡や無人星を開拓した。多数の有文明時空から多くの人々、いや人間だけでなく様々な種族があちこちの時空に新天地を求めた。

何千の時空、そのすべてに千億の千億倍の星がある。

 幾多の技術がかけあわされることにより、開拓はより容易になり、開拓地からも多くの物資や精鋭がのちの戦いに供給されるようにもなった。それは開拓が割に合うということであり、より多くのさまざまな種族が開拓に出ることにもなる。

 手の届く低い枝についた実だけで暮らしていたのが、脚立や木揺すり機という技術があれば高い枝の実もとれるように。

 ローエングラム帝国やガルマン・ガミラス帝国、バラヤー帝国などは自らが暮らしていた銀河の、これまでの技術では行けなかった膨大な未開発星の開拓も始めている。

 

 開拓。古代地球でも重要な要素であった。

 新天地に行き、大抵は先住民を皆殺しにするなどし、伝染病を克服したら、森や草原を暮らす場とする。

 草原を焼き払い、森があれば木を切り根株を掘り起こし岩を除き……爆薬ができたのちは爆破し、田畑とする。家畜を放牧する。豚などは鼻で根を掘り、開墾の助けにもなる。

 できるだけ早く、食料を得る……本来なら開拓には最低でも収穫までの半年分、少しでもリスクを考えれば数年分の食料と、大量の道具が必要になる。斧やツルハシ、シャベル、釘、毛布、着替え、水をためる袋など……だが現実には多くは食うや食わずの難民が大地に挑む。ことごとく餓死・凍死することも多い。

 騙されて塩原に絶望し、多数の死人を出しながら耕したら土地を奪われるという残酷話もよくある。

 多くの人が苦難の末に森を農地にする。そして多くは、年月の末に農地は土を失って荒れ地となる。森に戻ってしまったアメリカ東海岸は幸運だろう。

 腐敗と疫病で帝国が流民の渦と化して滅亡し、戦乱の中かつての農地は荒れ地に戻り、何十年、時には何百年の戦乱ののちまた開拓されるのを繰り返したのが中国だ。

 多くの人が血と汗を流して森を切り開き、雪の山脈から砂漠まで地下水路(カナート)を掘った。

 さらに大きい範囲で言えば、港や灯台、運河や灌漑のような大規模な土木工事もかかわった。

 そうして人は人口を増やし、領域を広げてきた。

 それは宇宙でも変わるものではない。

 

 宇宙では、海と呼吸可能な大気がもともとある星を使う開拓が一番容易とされる。

 だが、それ以外考えることをなくすと、ルドルフ以前の連邦のように、銀河の五分の一で人口が三千億という馬鹿なことになってしまう。

 それを変えたのが多数の文明の超技術を、

(かけあわせる……)

 という、〈コーデリア盟約〉の精神である。

 

 では人が生きる条件を考えてみよう。

 ガス大気。ある範囲の気圧、酸素分圧が多すぎず少なすぎず、二酸化炭素や亜硫酸など毒性が強いガスが充分少ない。

 それが宇宙空間に逃げないような気密。

 温度が一定範囲。できれば湿度も高すぎず低すぎず。

 放射線が少ないこと。

 水、食料。

 糞尿・垢・食器・衣類などの汚れに直接さらされないこと。

 それらを維持することである。

 常に清浄な呼吸ガス・水・食糧・住居・衣類・食器など家具を維持する。

 そのためには、多くの人は、大気と海のある惑星が必要だと考えていた。

 新しい島に移住した有史以前の人のように、大気や放射線の心配などしないで、水と食料と住みかだけ考えればいい、それが人の好みだったのだ。

 また、居住可能惑星は技術力が低下しても、莫大な量の海水と大気、生物そのものが生命維持装置となり、大小便を浄化して肥沃な土に戻してくれるという安心感もある。複雑で困難な、浄化装置が必要とされない。

 

 それら条件が整い、男女があれば人は繁殖できる。動物なのだから。

 同様に文明、特に宇宙船を作るような文明が増殖するには何が必要だろうか?

 人類が地球の上で生活している時には、アメリカが「文明が増殖した」と言えるだろうか。はるか昔の、ギリシャ植民地都市も「文明が増殖した」と言えるかもしれない。だが近代文明ができてからは、強大すぎる欧米に圧迫され多かれ少なかれゆがむ……特に貿易を断ち自給自足しようとすると、本がそろっていても極貧となる。文明の増殖は簡単ではない。

 本国の立場で言えば、

(わが子に滅ぼされては、たまらぬ……)

 このこともあろう。

 

 考えるべきなのは、宇宙進出以前の近代文明は、多くの資源、それも広い地域で産される資源を必要としたことだ。食料と水だけではない。

 鉄鉱石、石炭、石油、何十種もの金属元素、リン、カリウム。新大陸のバッファローの骨からとられたこともあった。グアノを掘ることもあった。

 窒素さえハーバー・ボッシュ法以前は硝石という、鉄鉱石と同じく地下資源であった。

 石油や多くの金属資源は、ヨーロッパから遠い地域に集中していたことも重大だ。

 さらに厄介なのが、農業で手に入れる資源が、工業にも必須だったことだ。特にゴム。パーム油、綿花なども。砂糖・コーヒー・カカオ・バナナなどもヨーロッパでは育たない、近代文明に必須とされる作物だ。鯨油が必須だったころもあった。

 それらを温室栽培することは、安価なビニールハウスが普及した後もなされなかった。

 古代文明には、錫という制約があった……青銅を作るのに必須で、銅や鉄と違い極端に産出地が限られる。金銀もそうだった。

 軍事的な問題もある。強くなったわが子文明に滅ぼされたら……というわけで、植民地の発展を封じ、支配・搾取関係を保つことも多かった。搾取の極端な形が、ローエングラム帝国の遠い過去に滅ぼされた地球やヴァル・ファスク、かつてのガミラスにあった。

 白色彗星帝国の、通った後は無人、小石一つ残さぬ手法が、もっとも賢明とさえいえる。

 というわけで、人類には「文明の自己複製」という発想がほとんどなかった。文明は唯一であり、大腸菌や犬のように増えるものではない……それがあたりまえとされた。

 その「あたりまえ」には多くの派生する固定観念がある。

 

 だが、この「あたりまえ」は明らかに間違っている。また、人類が本格的に宇宙に進出すれば、事実上不可能でもある……距離が長くなり、輸送も通信も困難になるからだ。

 必要なだけの元素資源と、必要なだけのエネルギーがあり、必要な作物をすべて温室水耕栽培すれば、それだけで文明は自己増殖可能なのだ。

 自由惑星同盟が、その最大の例だ。わずか40万人、ドライアイスをくりぬいた巨船に流刑星から盗み出した資材と脳内、わずかな情報機器の情報。

 それだけでいくつも超光速船を作り、遠い旅に出た。

 そして人数を半減させる苦難の末、よい惑星を見つけ、人口を増やし工場を作り、帝国と戦えるだけの産業文明を作り上げたのだ。

 それと同じことが、多数の時空の千億の銀河と千億の星で、できぬはずがない。

 

 思えば、ローエングラム帝国は多元宇宙がつながらなくても「文明の自己複製」に至っていたかもしれない。ガイエスブルク要塞の移動はそれほど重大なことだった。

 トランスバール皇国も、ネフューリアと〈黒の月〉のコアが、資源小惑星から短期間で多数の無人艦隊を作った。

 ヤマトの地球もデスラーも、白色彗星帝国を見ている。

 移動でき、必要なものをすべて生産できる設備。

 大小便や汚水を飲料水と食料に戻す水耕農場がある。ミサイルを作れる工場がある……少しいじって資源小惑星を食わせれば戦艦を、人間の生活に必要なすべてを作れるだろう。

 ならば、その中で暮らし子を産み育てて人口を増やし、要塞そのもの部品を作って組み合わせて第二の同じ要塞を作ることは可能だろう。

 中で人が生活しつつ、自分自身を複製することができるひとかたまり……糖液中の酵母に同じ、食べて分裂し、それぞれがまた食べて太り分裂する。

 エンジンがついたガイエスブルク要塞が反乱すれば。航行不能宙域に亜光速で侵入し追撃を撃退して、内部で水耕栽培で食料を作り、適当な小惑星の資源を得て戦艦を、そして自分自身の部品を作り、移動しつつ中の人ぐるみ自己複製する存在になれた可能性はあるのだ。超光速を捨て、ウラシマ効果があるので連絡もあきらめれば、既知世界の四倍以上の星々を手に入れられる。

 ラインハルトはそこまで考えて、巨大要塞にエンジンをつけたのか。またヤン・ウェンリーは考えて、巨大な氷の塊を光速ギリギリまで加速したのか。

 そこまでわかっている者はごく少ない。

 

 

 さてここで、宇宙以前の地球における、開拓のボトルネックを考えてみよう。

 ボトルネック……ビンの細い部分。砂時計の細い部分。総量を阻害する一点。

 人類が毛皮を着、石器を持ち、犬を連れて全地球に広まったときには、ある意味ボトルネックがなかった。石を割り、人を恐れることを知らぬ巨大獣を狩り、肉を食べ毛皮をまとう。狩りつくしたら増えた子が次の土地に行く。

 それを繰り返すだけで、わずかな年月でユーラシア大陸を踏破し、氷河期のため海水が低かったためにつながっていたアメリカ大陸やオーストラリア大陸に至った。

 丸木舟と豚を得てからは、太平洋の島々をも制覇した。種芋と豚のつがいを乗せた船で島にたどり着けば、芋が育ち豚の子が育つまでは魚をとり、人を恐れぬ飛べない鳥を食べていればよかった。家や服、武器や道具の材料はすべて島で得られた。

 かれらのボトルネックは、地球そのものが有限であった、それだけだった。

 石を割り、木を切って槍と投槍器を作り、毛皮を着た。肉を食い、新鮮な内臓からビタミンを得た。そこに生えている木の実を火で調理した……犠牲を払って無毒と有毒を区別できるようになった。

 実質火種と知識だけで新生活をはじめられたのだ。

 

 農耕牧畜を手に入れた人類が新天地を開拓するのは、やや厄介になる。

 農耕牧畜が成功すれば確かに、石器を用いる狩猟採集より人口は多い。だが、それで食料を得られるまでにすべきことが多くなる。

 より多い人数、狩猟採集には頼れない。人を恐れない大型動物も絶滅している。まいた作物が実るまで最低半年分、まともなら三年分の食物が必要になる。

 先住民と戦う。木を切り倒し、根株や岩、石を除く。灌漑、排水、防壁など土木工事すら必要だ。家や服も作らなければならない。

 石器で森を切り開くのは大変であり、青銅、鉄、鋼鉄、チェーンソーと道具がよくなるごとに開拓できる範囲は増える。それは社会システム自体を変えるほどの力がある。

 また、特に古代中国が領土を広げた南方密林は、様々な伝染病の地獄だった。常に先住民がいて、長い年月で伝染病とともに進化していたのだ。水が豊かということは蚊も多いということだ。その地獄で生き延びるには、多くの世代そのものが必要だった……多数の子を産み、大半は死んで、突然変異で免疫を持つ者だけが生き延びるのを繰り返した、本来の意味で進化することが必要だったのだ。長い長い年月をかけて、徐々に南に広がっていった。

 灌漑や排水に必要な知識もボトルネックになる。

 遊牧民が新しい土地に行くのは確かに簡単だが、刃物・釘・鍋などを入手するには大文明との接触が常に必要だ。

 ある程度以上の規模の開拓は、水の入手そのものが大きなボトルネックになる。

 地理によっては塩も重大なボトルネックとなる。人は塩なしには生きられない。栄養としても絶対必要であり、食物の保存にも必要である。海や塩湖の近くならいい。だが内陸で塩を手に入れるには、よい岩塩鉱がなければ交易しかない……交易ができるか否か、交通や政治もボトルネックになりえる。

 塩と鉄、それは文明そのもののボトルネック、要点であり、だからこそ中国はそのふたつを死命とした。

 文化がボトルネックになることもある。たとえば、偶蹄でない動物も、血液も脂肪も旧約聖書が禁じているため口にできないユダヤ人は、寒冷化で作物を作れなくなったグリーンランドでは生存できない。イヌイットのようにアザラシの生肉・生脂肪を食べることは、ビタミンC欠乏症で死ぬとたとえわかっていてもできないのだ。生命より神が優先なのだから。

 逆に、馬戦車など技術革新により大帝国が育った枢軸時代には、きわめて離れたところでほぼ同時に大宗教ができた。大男の声と拳で支配でき全員に血のつながりがある社会サイズと、大河の流れを変え地平線どころではない広さを灌漑し、多くの部族を従わせ、文字で統治する帝国は、宗教という道具も必要だった。大宗教がないことも、ボトルネックであったのだろう。同様に成文法、法の技術、文字や計算技術も重要だったろう。もっと単純な人を支配するノウハウ……神話の浮き彫り、軍旗と連隊を永遠とする考え方……それどころか焼き印や足枷も、重要な発明だったのだろう、おぞけが振るうが。

 税金・徴兵、単純な攻撃、商人・貨幣を嫌い無茶な戒律を押しつける宗教などは、開拓を止めるボトルネックになることもある。要するに暴力で脅してタダ飯を食い、頭の中まで支配したがる連中だ。政府は灯台を作ってボトルネックを広げることもあれば、過酷な統治でボトルネックをより狭めることもある。

 開拓でも征服でも、中央から距離がある地方で強い者が出れば、中央にとっては潜在的に敵になる。開拓が荘園となり、地方に自立した武将を作ってしまい、民もそちらに移住して中央の権威が衰える……開拓は王朝そのものを滅亡に向けることもある。

 

 王朝の滅亡で忘れてはならないのは、土地は長期的には使い捨て資材と言えることだ。特に乾燥地では塩害がまず避けられない。それがなくても森林破壊・石材や銅鉱石の枯渇はどうしようもないし、水路も港湾も砂に埋まる。

 環境破壊と地方豪族の興隆独立、それに宮廷の腐敗や宗教さえ複雑に絡み合うのが、王朝の興亡というものだ。

 人類の歴史全体を、開拓から砂漠化して滅び、別の場所に移動してまた開拓から砂漠化を繰り返す、巨大な魔獣が地球の森を食い荒らし破壊しつくすまでの過程とみることもできる。

 

 ここで注目すべきなのは、ボトルネックは開拓派遣元=親文明が、子文明を支配し続ける手段ともなりえるということだ。

 文明の自己複製などということは、親文明にとっては悪夢に他ならない。資源が尽きた老いた土地の自分たちより、若く強い子が育って、自分たちが倒されてしまうかもしれないのだから。

 文明の自己複製の成功例である、アメリカというのはイギリスから見れば大失敗と言える。

 さらにそれは、大帝国に常にある、地方をどう統治するかという問題でもある。

 軍事的・宗教的な支配関係で枷をつけることもある。

 経済的に、兵器・船といった先端工業の生産を本国が独占し、植民地は単純な資源の供給以外させない……生きていくための主食の生産も許さない、という方法もある。

 特に技術でボトルネックを制するのは可能ならば有効だ。鋼や複合弓の製法、航海術などを本国が独占していれば、植民地が船と兵器を作って独立することが困難になる。スペイン帝国は戦国から江戸の日本に、太平洋を横断する方法を知られるまいと腐心したという。

 国や犯罪組織が勝手に核兵器を作らないよう監視するには、ウラン同位体を分離するのに必要な遠心分離機に必要な、とても強い特殊鋼を監視していればいい。

 ゴールデンバウム帝国も、ワープ可能な船の船体を作ることをボトルネックとして、監視コストをかけずに流刑星を管理できた……アーレ・ハイネセンがドライアイスをくりぬくまでは。

 

 そのボトルネックは、大航海時代でさえも他人事ではない。アメリカ大陸に入植して全滅した集団は多数あるのだ。先住民との戦闘、伝染病、飢餓、寒波……様々な理由で。

 鋼の道具や医薬品、弾薬、凶作のとき次の年まで生きのびるための食料は、船で本国から運ばなければならない。悪天候で船がこなければ全滅する……いや、釘・医薬品・蒸留酒・火薬がないだけでも寒さ・反乱・敵襲で全滅するだろう。

 開拓には、本国からの支援も必要だ。距離、通信、交通技術が重要になるというわけだ。

 それが大きく変わるのは、開拓地で鍛冶屋がハンマー・やっとこ・鉄床・ふいご・炉などの鍛冶道具を得た時だろう。多くの道具を修理し、廃物から新しい道具を作ることができる。ノミひとつでもあれば、木で生活用具の多くを作り出せる。

 さらに原始的であっても製鉄・製鋼ができれば……そして道具を作るための道具を作ることができれば、完全に自立できる。

 

 そして人類が宇宙に出ようとするとき、波動エンジンなどの技術も軌道エレベーターもない時空では、化学ロケット反動推進の効率の低さがボトルネックとなった。

 ほかの技術もなかなか進歩しないこと……生命を守る大気の濃さ、大気を保ち生命をはぐくんだ重力の強さすら、ボトルネックとなった。大気が濃ければマスドライバーが使えない。重力が強いから、巨大なロケットのほんのわずかな比の質量しか宇宙に上げられない。軌道エレベーターを作るために鋼より桁外れに丈夫な繊維が必要になる。

 とんでもない費用がかかる……百人足らずの金持ちが人類の下半分より多くの金を持っていても、月旅行すら行けないほどに。

 

 技術が発達しても、たとえばローエングラム帝国の時空では、大小便を処理して飲み水と食料に戻す技術の低さがボトルネックとなった。

 巨大なイオン・ファゼカス号やその後の超光速船団、それが役目を終えたらイゼルローン要塞ぐらいしか、そのシステムはない……キロメートルの長さに至った大型戦艦にさえも、大小便を食料に戻すシステムはない。それがあれば、焦土作戦で飢えて壊滅するなどなかったろう。

 対し、ヤマトには「大小便を水と食料に戻す」システムがあった。だからこそ銀河距離、一年に及ぶ航海が可能だった。その応用で、いつも全滅していたとはいえ、多くの宇宙基地を太陽系のあちこちに構築できた。

 エンタープライズのレプリケーターも、その派手さにとらわれなければ、廃棄物を元素に戻し食事に再転換する装置と考えていい。だからこそ年単位の長期航海が可能になる。さらに惑星連邦は貨幣を卒業している。

 ヤマトや、ゼントラーディの技術に触れたことで、〈コーデリア盟約〉加盟国はすべて200メートル級の船でも、大小便を処理できるようになった……ただし食料にして食べるのは不快感が強いため、繊維にする遺伝子改変ウツボカズラが売れているが。その繊維をバター虫の餌とすれば食料は得られる。

 もっと簡単なシステムとして、下水に空気を吹きこんでできた汚泥を食べつくし、大きくなったら産卵のため清潔な陸に行き、巨大な卵塊を産み消化液で消毒する大型ゴキブリも智で発見された。その卵は清潔で栄養価が高い、ニワトリやブタの飼料には極上で、由来を我慢すれば人間も食べられ珍味。さらにセルダールで発見されたキノコが、そのゴキブリの糞が大半の残渣すら処理し、工業材料になることでシステムが完結した。このシステムは嫌悪感はあるがより低い技術水準でできるので、地域によっては売れている。

 機械的に、水が水素と酸素に分解されるほどの高熱で処理するシステムを好む人々も多い。

 さらにエネルギーさえあれば、あるいは宇宙のどこでも簡単に手に入る水素・メタン・アンモニアがあれば遺伝子を編集したバター虫を育て、食料を得られる。

 さらに細胞培養で肉を直接作る技術も発達した。

 レプリケーターが入れば、ほぼ完全に普段の食事と同様だ……ただしそのレプリケーターの生産が高価だ。それは様々な工夫で、レプリケーターほど便利ではないが限られた用途には同様に使えるものが作られつつある。ひき肉チーズピザとネジが出力できれば、それで十分というものだ。

 

 他にも通信と移動速度もボトルネックになる。ヤマトの時空では通信にボトルネックがあった。ローエングラム帝国の時空も、超光速通信は送れる情報が少なく高価だった。ワープも遅く制約が多く、開拓地と本国の連絡、交易がなかなか進まなかった。

 移動では港や灯台、道路・運河・鉄道・空港・軌道エレベーターなどインフラも重要な要素だ。それらは極端に高価で、成功すれば費用対効果が高い。宇宙時代であっても、惑星上の移動では道路などは重要になる。

 

 ボトルネックはそれだけではない。核融合炉やワープエンジンを作るための工場の規模だ。あまりにも時間がかかり、あまりにも多くの人数と資本を必要とする。

 こちらは技術で克服されようとしている。

 トラクターを作るのに地球全体が必要だった過去……特に電気プラグは多くの希少金属を用いたし、ゴムや石油化学製品がタイヤ、燃料パイプ、電装絶縁などに必須だった……。

 が、小惑星の金属核、ケイ酸塩のマントル、水と氷、メタンやアンモニア……それらは周期表の安定元素実質すべてを網羅する。

 あとは、それを採掘し、分け、組み合わせる技術だ。

 さらに元素転換装置とレプリケーターの組み合わせは、巨大ガス惑星の水素だけからあらゆるものを作り出す。

 ここで、多くの研究者が血眼になっていることがある。

(どうやって、一番安く低技術で修理可能な、窒素酸素大気・海がない岩塊を開拓できるキットを作るか……)

 このことだ。

 修理可能性、信頼性。これらは困難な地域を開拓したり活動したりするのにはもっとも重要だ。軍にとってこそまさに重要だ。

 AK-47。スーパーカブ。ジープ。未開の地でも使える信頼性の高さ。どこででも手に入る部品で、あるいはハンマーだけでも修理できる構造の単純さ。低い教育水準でも使える操作性。

 それらを兼ね備えたものが必要となる。

 特に、遺伝子編集で作られた生物は価値が高い。自己増殖性があるのだから。半面、遺伝子的な弱さ、疫病、暴走のリスクもある。

 できるだけ何重にも、別々のシステムを用いることが推奨されている。水耕農場が全滅しても飢えと酸欠で死ぬことがないように。コンピュータが複数の原理の別々のもので、最低三重に演算して校正しているのと同じように。

 反論もある……もうじき自己増殖性全自動工廠の指数関数が爆発する、百億の大型都市艦を作れるので、それを待つ方がよい、と。

 核融合や人工重力、波動エンジンなどは、まだまだ高価だ。人工重力は、要するに振り回すバケツの底で安価に作ることもできる。

 

 鍛冶セットや旋盤のように汎用性が高い、道具を作る道具を小型で安価なものにし、開拓民が手に入れられるようにする……

 出した糞尿や汚れを肥料に、また食物や衣類を作り出す……いや、アンモニアを肥料として食物を作るバイオテクノロジー産物。

 多くの天才が研究している。

 

 宇宙服という誤った技術もボトルネックとなった。誤った固定観念だった。

 本質的に、宇宙服は薄く高価だ。なにしろ本質的にサイズが合わなければ使えないのだ。さらに装甲がつけばオーダーメイドに近くなる。

 だから誰も環境がいい惑星しか開拓したがらない。

 宇宙服より改造ショベルカーの方が、よほど安いし強い放射線に耐えられるよう重装甲にできる、とは誰も思いつかないものだ。

 そして宇宙服同様に使えてより手軽な作業用小型宇宙船が実現したのは、脳とコンピュータの直結、大小便を処理し体を清潔にする技術、意識不明状態の肉体を動かし、呼吸させ、水分と栄養を補給する技術が発達してからだった……それがなかったこと自体、開拓を遅らせるボトルネックだった。

 

 最悪のボトルネックは、採算・財政という言葉だ。

 たいていはさまざまなボトルネックの総合からなる。ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが出たのも、結局は『採算割れ』で人類圏の拡大が停滞し、テラフォーミングが途中までなされた星も放棄されるほどだったからだ。

 金の動きそのものが滞る、それは民主主義を破壊するほどに強い力となる。

 完全に自立した開拓など不可能。結局は資本を投下し、収益を得る……それが開拓だ。

 貨幣の言葉を使わなくても、単に手の届く木の実を食べる、と考えてもいい。ある木の低い実を食べつくせば次の木に行けばよい、木登りなどしなくていい、と。

 

 地球時代では、開拓そのものの動機はどうだったろう。

 人口が増え、増えた分を別のところに送る……それだけとは限らぬ。

 スペイン・ポルトガルはスパイスを求め、新大陸では信仰を広め金銀を得た。農業を嫌い、豊かな植民地を作ろうとはしなかった。

 ゴールドラッシュもたびたび、未開の地の開拓のきっかけとなった。

 毛皮や、クジラやアザラシなどの油脂が巨大な収益を生むこともある。毛皮はシベリアやアラスカの開拓を進め、捕鯨のためにアメリカは江戸に黒船をよこすに至ったほどだ。

 長く文明が栄えた地では枯渇する、巨石巨木も必要とされた。

 スパイス・砂糖・ワタ・タバコ・茶といった、ヨーロッパでは育たない作物のためもあった。

 純粋に地政学的な理由で、不毛の地に要塞を築くこともあった。

 流刑地が大国になったこともあった。

 帝国主義時代には、市場が欲しい、という声が多くの征服の理由となった。

 人口制御さえできてしまえば、それ以上の開拓は必要ないという声が勝つことも多い。宇宙以前でも、中国やイスラムは新天地への航海をしなかった。欲望の有無、好奇心の有無が文明の明暗を分けたともいえる。

 

 それに関連するのが、宇宙以前であれば土地そのものだ。

 よく雨が降る大草原なら実に簡単に開墾できる……耕すだけだ。砂漠から風で飛んだチリが積もった、石が少なく肥沃な土なら最高を通り越している。

 森は木を切り倒し根株を除かなければならない。

 湿地は溝を掘り泥炭を除かなければならない。

 砂漠は水路を掘らなければならない。

 海は堤防を築き、風車で水を排し、土を洗わなければならない。

 採算という言葉がどうしても出てくる。

 宇宙時代にも、有利な惑星と不利な場所はあった……だが、ローエングラム帝国もトランスバール皇国も、ガミラスも今は連絡がつかないがラアルゴンも、あまりにも採算がとれるかどうかを厳しく見積もりすぎた。

 

 

 それは、多元宇宙の今も同じなのか……それはわからない。

〈コーデリア盟約〉参加時空の上層部がわかっていることがある。トランスバールやセルダールの遠い過去……無数の時空がつながり、超光速船が星々、そして時空の間を飛び回っていた文明が、ヴァル・ファスクのクロノ・クエイク・ボムによって数百年間超光速エンジンが使用不能になった。それだけでわずか六つを除いた時空は、人類が全滅した。

 トランスバール皇国も、人口の大半を切り捨て、社会を剣と馬の水準、皇帝と貴族の社会にしてやっと生きのびた。

 同様にゲートが自然消滅したことで剣と馬の水準に落ちたバラヤーも、その苦しみと苦闘をよく理解している。だからトランスバールのシヴァ女皇とバラヤーの皇帝一族は実に仲がいい。

 誰もがどこかで恐れている。超光速航法が、アンシブルが断たれ、時空間ゲートが消滅するときを。

 そのために、開拓地一つ一つが孤立しても自給自足できること、自力でわが子を作れることを追求するよう、上層部はひそかに指示している。

 また、ゼントラーディに襲われたローエングラム帝国やメガロードの上層部は、

(いつ、なにが起きるかわからない……)

 ことを、よく知っている。

 ならば、

(タンポポが種を多数飛ばすように……)

 どれか一つが生き残ればよい、と積極的に、全情報資源・遺伝子資源を持たせての開拓を奨励する。

 開拓地との自立と、交易。どちらも。

 

 距離……移動、通信両方で……というボトルネックはかなり広くなった。広帯域即時通信のアンシブルと、惑星ごと動かせる大規模バーゲンホルムがある。複雑になると計算力が必要だが、特に『大量の水』など単純なものなら即時移動が可能なジェイン航法もある。

 

 何よりも、本格的に宇宙に出た時点で、水、メタンなど炭化水素、二酸化炭素、アンモニア、ケイ酸塩鉱物、ニッケル鉄、金属の大方は、事実上無制限に容易に手に入る資源になっている。

 

 

 

 ある平凡な、太陽系に似た星系でも開拓が始まっていた。ほかの多くの星系のように。

 エンケラドゥスぐらい……直径500キロメートルほどの氷巨大衛星にデスラー砲一発。氷・岩石マントル・鉄核からなる中惑星が半分以上貫通される。直径数十キロメートル・深さ数百キロメートルで金属核に達する穴を、別のところで切断し、バーゲンホルムをかけて牽引ビームで持ってきた、厚さ20キロメートルぐらいの氷でふさぐ。

 

 宇宙に出られる・出られないを問わぬ重大なボトルネックに、穴掘り技術がある。

 いや、人類そのものと穴掘りは密着している。

 人類の進化が完成してからの百万年以上、その多くで人類は洞窟に住んだ。

 人類は大きいことを考えるべきだ。だから土に穴を掘って住むのが難しい。アリ、ネズミ、プレーリードッグなどは、土に穴を掘ればまず崩れず楽に住める。人類は大きすぎて、人類が快適に過ごせる穴を掘ると、土の粘着では崩れてしまう。

 ただし、人類の大きさは火を扱うことを可能にした。半径1メートルの丸太でも、1ミリの爪楊枝でも、米は炊けない。丸太には火がつきにくく、爪楊枝はすぐ燃え尽きる。

 話を戻すと例外的に、簡単に穴を掘りその内部で暮らせる地勢はある……カッパドキアなどの凝灰岩と、中国の黄土だ。だが、それは地球全体では狭く、不便も多かったので、地下生活をする人間はごく少数だ。

 人類が必要とする多くの資材が湿気に弱く、また火を使うため余計な湿気と二酸化炭素を出すことも、地下生活を困難にした。

 だが、特に強い放射線に襲われる、大気と地磁気というエンタープライズE以上のバリアに守られていない宇宙空間では、分厚い氷や岩石、金属に穴を掘って住むのが最善なのは明らかだろう。

 居住可能惑星にこだわる人々は、そのためもあって大気を欲しがるのだが。

 

 今の〔UPW〕は、穴掘りの技術も進んでいる。分子破壊砲を魔法を応用したフィールドで包むことで、惑星すら切断できるが惑星を全破壊することがないよう制御できるようにもなった。

 波動砲を応用して、切断ビームや牽引ビームを惑星水準に強化することもできるようになった。

 ハイパー放射ミサイルを改造し、何百キロメートルもある氷の奥で熱だけを数日間ばらまきながら動いて大トンネルを作り、かつ放射性物質は消費しつくしてまあ安全にできるものもできた。

 ヤン・ウェンリーがアルテミスの首飾りを粉砕した、ラムジェットエンジンで氷塊を加速する手法も、手軽に大穴を掘る手段となる。

 バーゲンホルム装置をつけた鉄塊をブラックホールの降着円盤でめいっぱい加速し、遠隔操作でバーゲンホルムをかけて牽引ビームで引っ張り出し、必要なところに運んでバーゲンホルムを解除すればほぼ光速の衝突エネルギーが気軽に出せる。

 小惑星や彗星を食って穴をあける、何キロメートルもある巨大生物も、五丈や智から輸入された。遺伝子改造でさらに性能は高まっている。

 イワン・ヴォルパトリルの妻の一族……かつてセタガンダ帝国がバラヤーを占領したときに帰ったら処刑されそうなのでジャクソン統一惑星に逃げた者がつくった、土を食べてトンネルを作るウィルスも〈緑の月〉とダイアスパー技術の統合体が遺伝子をさらに編集して強化した。

 ゼントラーディの砲艦や、ゴールデンバウム帝国・自由惑星同盟問わず、何十万も艦船のスクラップがあり、中にはエンジンと主砲が生きているもの・修理できるものも多数あった。それで氷惑星を撃てば手軽に穴を掘れる。

 デスラー砲搭載の大量生産無人艦が、ちょっと開拓地にバーゲンホルムで行き、数個の中惑星の氷マントルに風穴を開けて帰るには、一週間もかからない。それで大金になる。

 様々な技術が発達し、比較され、統合されている。

 

 それで、宇宙放射線から遮断された生活空間はできた。次には、その内部に船をつける。その開拓船もスクラップを寄せ集めたような代物だ。

 優良な資源が多いところ……H2O水、アンモニアやメタンを含めた液体で鉱床ができたマントルと氷の境界部や、金属核の近くを選ぶ。

 穴の内部は今も、水蒸気や岩石蒸気、鉄蒸気などで沸き返っている。それによる負担が大きすぎるところも避ける。キロメートル単位のひび割れも多数あり、その中は割と安定している。

 蒸気の多くは宇宙に飛び出し、別の業者が回収している。加速度によって遠心分離に近い形で分離しているので、簡単に純度が高い資源を得られる。

 船のエネルギーはゴールデンバウム帝国の門閥貴族艦隊が出したスクラップの、いくつかの部品を集めた核融合炉。

 同時に、別の鉄核だけが残った小惑星に別の船が降り、ニッケル鉄を多数の極薄の鏡に加工している。この星系の恒星のすぐそばを周回させ、制御して日光を大量に集め、穴を掘った氷衛星に送る。

 それが一番安いエネルギーとなる。

 第一の目標は、とにかく生きのびること。

 第二の目標は、船を再生産して穴の内部を満たすこと。

 第三の目標は、穴の内部全体を一つの居住システムにすること。

 第四の目標は、この星系の別の小惑星などや惑星も開発すること。

 

 ほかにも、初期開拓支援艦隊はいろいろとやっている。

 金星のような星に分子破壊砲をぶちこみ、原子からなる雲を作り出した。その雲にデスラー砲を叩きこみ、その巨大な圧力で原子を密度順に分離、いくつかの有用資源は回収した。

 その巨大な原子雲は恒星の光圧に押されながら凝集してくだろう。何年もしたら、別の資源を回収できるかもしれない。

 別の方法がその時にはできているかもしれない。

 たまたま、別の炭素でできた中惑星が何かに衝突してばらまかれた、数十キロメートルサイズのダイヤモンドがいくつか見つかったのでそれも回収した。ダイヤモンドは宇宙ではとてもありふれた資源である、イスカンダルでは建材だ。だが用途は多い。

 いくつかの巨大ガス惑星に、そのガスと電磁波嵐で生きる巨大生物も放った。

 

 

 そして開拓船の中では、まず食料を作る。様々な機械の部品を作り、部品を組み合わせて機械を作る。

 開拓船の中ではバター虫設備と、虫バターを食べる家畜も飼っている。

 生のニッケル鉄が小惑星の核として得られるので、それを加工して大きな空間を作り、その内部の環境を整えて、まずバター虫設備。次に水耕農場。次に家畜を育てる。

 アンシブルで、この時空の門の近くにある設備のテレビやラジオを聞き、ゲームも楽しむ。ほかの開拓地とも連絡を取り、ノウハウを交換する。いざとなれば助けてもらえるだろうし、こちらも助けなければなるまい。

 巨大な穴の中でも外でも、生身では動けない。ゼントラーディ艦のスクラップをベースにしていたら生活サイズが違う、ということも結構ある。

 一番需要が大きいのが、要するに手足のある小型宇宙船だ。深海探査船にも似ている。スクラップ宇宙船をちょっと改造すれば容易に作れる。マッスルスーツは技術水準が高いため、買うしかない。

 脳直結も高くつくし抵抗があるので、多数のレバーで何本もの手を操るシステムになることもある。

 また、別の手足制御システムも発明された。自分より一回り小さい、上半身だけの人形を抱える。その両手を、抱いている人間が手で操ると、小型宇宙船の船首についている二本の細長い腕が同じような位置関係で動く。人形の手の部分だけは普通の人と同じ大きさ、センサーと抵抗モーターが入った親指・人差し指・中指でマニュピレーターの指を操作、中指と小指はふたつの押せるホイールを回す。

 宇宙船自体の制御は足でやるか、他の人と協力する……

 結果的に、120メートルぐらいの、半分切断されたような小型船から8本の手が出て共同作業する、という不気味だが効率の高いことにもなっている。

 人型機も売られているが、高価だ。

 少しでもいい食事をしたい、という思いもある。最初はそれこそ、缶詰やレトルト食品の類を高い金を出して買うのでなければ、栄養はそろっているとはいえ無味無臭の虫バター生活になる。

 だからこそ、とにかく繁殖が早い家畜や作物……それこそ虫や雑草の類、モルモットやアメリカザリガニさえ……持って行き、少しでも料理のバリエーションを増やそうとする。

 そういう素材から作れるうまい料理のノウハウも、アンシブルを通じて交換される。

 スターウェイズ議会がアンシブルで多数の星を支配したノウハウを知っている人は、同じように支配できる/されるのではないかと恐れてさえいる。

 資源はいくらでもある。土地もすぐに無限になる。

 足りないのは、人の知恵と、情熱だけだ。

 

 無数の開拓地には当然、闇も忍び寄る。遠くから侵入するボスコーンの麻薬売人(ズウィルニク)たちをはじめ、様々な勢力のエージェントが時に薬物を売り、あるいは薬物を育てさせろと言う。

 それどころか単に襲撃して人をさらい、売買することすら狙う。

 宗教で洗脳しようとする勢力もある。

 交易路を襲う者も絶えない。昔の地球でも多くの帝国を滅ぼしたのは、結果的には山賊海賊でもある……通商と通信を断たれれば、もはや帝国に実体はない。狭く閉ざされた地方小国は簡単に滅ぼされ、あるいは高度技術を維持するための社会ピラミッド、余剰な人を養う余裕を失う。

 それとの戦いで重要なのが、バガーと小型ドロイドだ。

 生来体内器官としてアンシブルを持つバガーは、距離無関係の集合精神を持つ。それにある程度の火力を持たせることで、エージェントを確実に排除できる。あらゆる開拓地にバガーがいることが推奨されている……逆に反政府的な情念が強いところには嫌われるが。

 特にローエングラム帝国の農奴など、文明水準が低い難民を保護するような開拓地では、すべての人に小型ペットサイズのドロイドを配備する。ドロイドが常に見て聞き、小型兵器で主を守り、通報し、配給を受け取り、仕事のやり方を教える。音声会話が可能なので、読み書きができなくても使える。

 放っておけば紛争地帯のように、テロリスト同然のボスの暴力に支配され、血族・部族で世界を閉ざし、復讐の掟・沈黙の掟で生き、名誉殺人すらやらかすしかない人たちに、法を教えるためだ。

(ボスが君を殴り命令し援助食糧を取り上げることはない、ボスは倒す。ボスに従わなくても食事もできるし、水も飲める)

(血族の敵に全員で復讐しなくても、警察が犯人を逮捕し君と君の家族を守る。だから法を信じ、沈黙の掟ではなく法を守れ)

 このことを。

 レンズマンも、強力な対麻薬警察網を作り、常に情報を集め、悪に脅かされる人を守るため戦い続ける。

 

 

〔UPW〕の開拓史を語るのに、外せないパターンがある。まったく無人の星系をゼロから開発するのとは、大きく異なる。

 初期に〈ABSOLUTE〉とつながった時空の星々や、ダイアスパーのある銀河の星に多く見られる……住んでいた人類が滅んで長い年月が経った星だ。

 さまざまな植物に覆われ、さまざまな野獣が生息していた。砂漠化・金星化した星も多くある。

 森の奥や砂漠の下には、放棄された工場や都市、艦船も多数眠っていた。

 宇宙空間をただよい、巨大惑星を周回する幽霊船……それも惑星サイズから金持ち用クルーズヨットまで……も多数あった。

 そこには、巨大な樹木という希少な資源があった。

 自己増殖性全自動工廠が本格的に稼働し、波動エンジンやクロノ・ストリング・エンジンで膨大なエネルギー出力を事実上無限に出せる巨大船が莫大な量作られても、鉄も金銀もダイヤモンドも無限に得られても、なお希少なものがある……木材だ。

 確かに大型レプリケーターで作ることもできるが、限度があるしどこか不自然だと思わせる。どうしても人工より自然を尊ぶのも人の性の一つであり、文化だ。

 そうなれば、何千年も時を経た木材が希少となる。赤く焼かれたヤマト地球でも、歴史が短い自由惑星同盟やフェザーンでも、誰もが欲しがる。

 大径木は、時間の缶詰ともいうべきものだ。

 それぞれの星に固有な、あらゆる遺伝子資源……土壌や海の微生物から、多種多様な草花の薬効成分、何億種もある昆虫や様々な小動物、カビ、キノコ、多様な大型獣の毛皮や角……それらも高額商品となる。特にダイアスパーのあった銀河は、人類以外の種族も栄えていたため遺伝子が多様だった。

 生物学者のように、森の惑星の隅でキノコを採集し、土や泥水を分析するだけでも、当たれば惑星が買える一攫千金となる。

 特に南蛮にあるような、宇宙開発に資する大型生物は桁外れの価値がある遺伝子資源だ。

 大径木は、五丈や練でもあるところにはあり、人気のある輸出商品だ。

 

 そしてもちろん、砂や緑に覆われた無人の工場……それらは最も容易に手に入る資源であり、少しの修理とメンテナンスで稼働し膨大な無人艦を作り出す。指数関数の宿命で最初は増殖が遅い自己増殖性全自動工廠が軌道に乗るまでは、そのサルベージが第一次タネローン攻防戦を支えていた。

 それが膨大な人数の仕事になったことは言うまでもない。

 そしてそんな廃墟星系の小惑星などは、確かに多くは採掘されてしまっている。だが廃坑は危険だが住みやすいし、廃墟を再開拓するのは容易だ。

 それだけに人口も多い……すでに〔UPW〕の重要な工業都市とされるところも多い。開拓のノウハウを積み上げるにも役立った。

 

 

 別の開拓生活を送る人々も、特にローエングラム帝国には多くいる。無数のスクラップが漂う古戦場で、スクラップをサルベージし、修理できるものは修理する。

 エンジンと生命維持装置が生きていれば、トイレ~食料循環システムさえあれば生きていくことはできる。廃船の内部で暮らし、作物や小型家畜を育て、時々手足のついた宇宙船で別のスクラップに出かけて修理したり使える部品を回収したりする。

 手足のついた小型宇宙船なら、残留放射能にも耐えられる。その中に1LDKから小規模マンションぐらいの人数が生活できるものもあり、放射能が多い廃船内部で暮らさずそこで生活を完結させつつサルベージを続ける人々もいる。

 ヤマト地球の周囲にもかなりの量のスクラップがある。特に白色彗星帝国のスクラップは膨大だ。

 第一次タネローン攻防戦も、あちこちにとんでもない量のスクラップ……それどころか無人で漂流する、中身が詰まった輸送艦すらあるのだ。

 

 

 未開の地を切り開くように、様々な星で苦しい生活を始める人々がいる。

 希望がなかった人々に希望。法を知らなかった人に法。他者がいない、狭い世界で生きてきた人も、人間とは異質な別種族との生活、別時空で作られた娯楽を知った。

 変化の激しい世界は、魂が若い者には無限の機会がある天国だ。だが、逆に魂が老いている者にとっては地獄ともなる。




いつか出したいなと思っている「宇宙軍士官学校―前哨―」シリーズは、まず『居住可能惑星至上主義』、その理由として『穴掘り』がボトルネックになっていると思っています。
どの種族も居住可能惑星を欲しがる。だから余計な欲が出て権力抗争をする。
地球人もモルダー人も、太陽が消えたり異常燃焼したりしても、必要な生態系ごと隠れられるだけの穴を月や火星、エンケラドゥスなどに掘っておける技術がない。
ドローンに穴を掘らせているけれど、遅すぎる……それで地球人の生活はとても不便になっている。

あと、人口や生産力を増やす方向に、せっかくの人口を活用できない。活用されていない人口が結構ある。……使える人間と使えない人間が極端で、使えない人間は何にも使えない、という感じがあの作品には強くあるんですよね。


同じように銀河英雄伝説も、この『現実』も、穴掘り技術がボトルネックです。
楽に穴を掘ることができれば、この『現実』だって土地の奪い合いなんてしなくて済むのに。

開拓話が多いですが、僕は結構開拓・自給自足を妄想するのが好きなようです。前に書いた「奇・・ドラクエ1の続き」もほとんど開拓話ですし。

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