第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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宇宙の戦士/時空の結合より2年11カ月

 アッテンボロー艦隊は中型輸送艦に乗った、コルムに率いられる陸戦隊と数機の人型機を受領し、戦いの目標を得た。

「この時空の、この星だ」

 何人かの予言者や、レンズマンの指示。

 示された星を見て、旧同盟・帝国問わずその時空出身者は、大笑いした。

「ここは、恒星アルテナじゃないか」

 こちらの人類は別の名で呼ぶ。だが、同盟帝国どちらも、嫌というほど知っている星だ。

 イゼルローン要塞があった、惑星のない星。

 太陽系からは何千光年もの距離にある。

 そこまでの航路を、旧貴族連合の航法士と相談しながら素早くまとめ、一気に星海を押しわたる。三日もかからない。

「何カ月もかかっていたのになあ」

 そういう者も多かった。

「油断するな、その道に罠があるかもしれない」

 と、慎重な人もいた。

 ジェイン航法でアンシブルを積んだ無人機を送り、多くの情報を得てはいる。それは今までのところ、アッテンボローらが知っている情報と矛盾していない。

 それでも、

「それすら罠かもしれない。無人機に偽情報を与えて」

「都合よく行っていたら疑うべきだ」

 ラオなどはそこまで考えている。

「ここはフォールド断層、2235隻を失った」

 かつてアッテンボローと激しく戦い、今は部下となったゼントラーディの提督が、同盟にとって航行不能宙域だったため知識がないところについて教える。

 そして常に、無人艦隊や少数の前哨小艦隊を派遣し、探りながら前進する。それでも、以前より圧倒的に速い。

 五万隻。旧自由惑星同盟の艦や、ゼントラーディ水準のキロメートル単位の艦。

〔UPW〕所属アッテンボロー艦隊ではあるが、多くは自然と不正規隊(イレギュラーズ)の名で呼ぶようになっている。タクト・マイヤーズらもそう呼んでいる。

 旧自由惑星同盟の、帝国で暮らしたくないが軍人ではいたい者。重い傷病を新技術で癒してもらうかわりに軍務についた者。ゼントラーディの軍人や旧貴族連合の軍人。バガーやペケニーノ、頭部が魚のモン・カラマリ族……実にいろいろな人たちがいる。

〈カビ〉と組んでいるらしきデルゴン上帝族に深い恨みを抱くヴェランシア艦隊も多くの戦力を送っている。銀河パトロール艦隊もかなりの艦隊を派遣しており、すべてアッテンボローの指揮に従っている。

「これをまとめるって、ヤン艦隊フルメンバーでも無理だよなあ」

 と、アッテンボローはぼやいているが、旧同盟軍の昇進最年少記録をいくつも更新した実力は誰にも明らかだ。

 たとえば、旧貴族で軍事的には使えない者は、その文化素養の高さを活かし、文化を求めるゼントラーディを満足させる仕事を押しつけていたりする。

 それらには、この艦隊を作りアッテンボローに譲ったオーベルシュタインの力量も大きい。

「ご飯がおいしい軍隊なんて夢だからねえ。オーベルシュタイン元帥はさすがだよ」

 と誰もが感心している。

 フルメンバーでない悲しみにとらわれることもない。同盟軍は人事異動が頻繁で、せっかく家族のようになじんだチームがバラバラになることはいつものことだった。グエン・バン・ヒューら、戦死者もいる。

(与えられた札で、愉快にやって、勝つ。それが軍隊ってもんさ……)

 と、悟るしかないのだ。

 

 一つありがたいことがある。補給が不要に近い。

 巨大機動要塞のいくつかは、六つの月がダイアスパー技術とつがって作り上げた自動工場である。それに住めない星の大気や海、小惑星を食わせてやれば、食料や部品はどんどん作ってくれる。

「これがなかったら、土下座してでもキャゼルヌ先輩を引っ張ってこなかったら終わってましたね」

「というか、ガイエスブルク要塞が動いた時点で、補給不要艦隊はできてたよな」

「まあ、必要なかったんですよ、ラインハルトには。だって敵は同盟しかなかったし、そのために別の移動要塞作る費用を考えると」

「でも実際、輸送艦狙いでかなり痛手は負ってるけどな」

「やった当人ですよ、僕らは」

「そうそう、ヤマトが前に戦った敵は、母星がなくてとんでもなく大きい要塞で動き続ける帝国だった、って聞いたよ」

「ガルマン・ガミラス帝国のデスラー総統も、首都星が壊れたあとは巨大艦を首都にしているそうです」

「ラインハルトの獅子の翼(ルーベンフリューゲル)もそのくちだな」

「昔の軍には補給の概念はなかった、略奪するからだ、などとヤン元帥がいたらいいそうですね」

「先輩がいたら安心そのものなんだがなあ……仕事量は同じでも」

 アッテンボローがぼやく。

 この艦隊では、ヤンの名前はタブーにするべきだという声もある。

 アッテンボローにとっての最大のプレッシャーはヤン、さらに〔UPW〕の同僚となったロイエンタール、艦隊を編成したオーベルシュタインとの比較だろう。

 だが、アッテンボローはあえて、彼らの名前を出しまくり、ほかの人にもそうするよう要求した。

「先輩と比べられる?それがどうした!」

 と。

 自分に厳しい態度でもある。わかる人はそれを理解し、信服している。

「ユリアンにでも指揮は押しつけて、黒幕に回りたかったなあ……」

 などとぼやいてばかりいるが、同盟で野心的な軍人がぼやいてもあまり相手にされない。

 同盟軍の歴史に燦然と輝く、ぼやきのユースフ……リン・パオとともにダゴン開戦の大勝利を導いたユースフ・トパロウルの真似だ、と誰もが思うからだ。

 

 この時空の人類と共同で、〈カビ〉の操り人形と判明した〈クモ〉と〈痩せっぽち〉の艦隊と戦い続けてきたイレギュラーズは、多くの情報を収集していた。

〈クモ〉〈痩せっぽち〉それぞれの宇宙艦隊戦力を分析していたのだ。

 アッテンボローも、情報重視はヤンに徹底的に仕込まれている。

 チェレンコフ推進を活用し、一切生命を惜しまず押し切って来る〈クモ〉。

 人類に似た、感情と統制があり、その感情を操られている〈痩せっぽち〉。

「厄介ですね、人間的な敵と非人間的な敵の混合は」

「人間を相手にしているつもりでいたら人間でない……」

 技術の優位で何とか戦えているが、その切り替えが実に面倒だ。

 

 高速の、別時空での侵攻にはこの時空の人類も全面協力している。

 技術水準は、特に艦艇防御がやや劣るものの、星を破壊できる兵器とチェレンコフ推進があり、バカにできない。

 多種混成部隊で、

(常に、パターンを変える……)

 ために、アッテンボローはヤンに倣うようにいろいろな種族の意見を聞いている。

 

 そして、目的宙域の近く。回廊の帝国側入り口にはフォールド断層が広がっていたため、同盟側から侵入し、敵の大艦隊を見つけた。

 ヴァンフリート星周辺。旧同盟軍人は、その宙域については、

(いやというほど……)

 ということばではいいあらわせぬほどに、知っている。

 何人の戦友・家族・恋人を失ってきたかわからない。何度死にかけたか数えきれない。

 ゼントラーディも、その周辺でヤンの策略やラインハルトの猛攻に、多くの戦友を失った。記憶は新しく、吐き気など肉体が反応する者も少なくない。

「同じとは限らない、徹底的に空間を調べろ」

 多数の無人機が、重力場やガス雲、恒星の波長、氷に刻まれた恒星フレアの履歴を調べる。

 

「ここ以外は、くまなく妙な艦で固められていて、まともな時間では抜けられない。ここを突破するしかない。

 グレゴ、通訳を頼む。ペケニーノが立てる作戦を教えてくれ」

 アッテンボローが、一人のペケニーノと、エンダーの継子のひとりグレゴに命じた。

 グレゴは優秀な物理学者であり、周辺の乱気流を地形図のようにわかりやすく描き直した。

 ペケニーノたちは直感的に扱えるコンピュータを用いて、何十人かのペケニーノのアイコンを動かした。故郷の草原での戦いのように。

 アッテンボローはそれを艦隊の動きにアレンジし、そのまま命令とした。

 多くの将兵は驚いた。

(犠牲を多く出すことを目的にしているような……)

 作戦だったからだ。

(一人でも、多くの将兵を生きて家に返す……)

 ことを至上とするヤン・ウェンリーの衣鉢を継ぐものの、すべきことではない。

 だが、アッテンボローはペケニーノの性質を知ったうえで、断行したのだ。

 

 ペケニーノは故郷惑星でずっと部族間戦争をしていたが、実際にはデスコラーダ・ウィルスに操られていた。

 人口を制御していた。また戦死者は樹木に変態するから、それでアルベドを調整し、惑星の環境そのものを制御していた。

 それを知らされたペケニーノたちは、激しく怒った。第三の生を投げ捨て、デスコラーダ・ウィルス無害化の実験台となった者がいたほど。

 そして、人間に近いのに〈カビ〉に操られ戦わされている〈痩せっぽち〉に強烈な感情を抱いた。同情と憎悪と闘志を掛け合わせたような、人間語には訳せないような感情だ。

 本来のペケニーノが戦うとき、一人一人の目的は単純だ。部族の勝利はもちろんだが、それ以上に日当たりがよく肥えた土で名誉の戦死を遂げること。または功績を挙げ、優れた敵か友の手によって生きながら切り刻んでもらうこと。

 名誉と苦痛の中で死ねば、樹木に変態し、しかも人間に近い第二の生より高い意識で長く生きる繁殖雄になれる。名誉ある戦死なら、敵の部族と子を作れる……遺伝子を拡散・交換することもできる。

 人類で言えば、徴兵検査前に冷凍精子を保存し、出征して勲章をもらえるような戦死を遂げれば、多数の女性に冷凍精子を人工授精させ、十分な養育費も出して育ててもらえるようなものだ。さらに、それが昔から遺伝子に刻まれているようなものだ。

 戦友を殴ってでも手榴弾に覆いかぶさり、神風特攻隊の倍率が何百倍にもなるだろう……名誉勲章が百人の子を意味し、性欲のような回り道なく欲望が子を増やすことに直結しているなら。

 むしろ人間が、ずっと考えなかったことの方がおかしいのだ……勇敢で体の丈夫な者から子を残さず戦死し、遺伝子プールが劣化することを。

 徴兵検査で優れた者は、出征前に多くの女を与え、子の養育を地域で保証してから戦場に送るべきだったのだ。

 

 かように目的が人間とは全く違うペケニーノの行動は、絶対に読めない。日当りのいい場所で戦死することが目的、それが遺伝子レベルで仕込まれているのだ。

 しかも、真の敵である〈カビ〉は戦死者の断末魔をエサにしており、それを求める。

 それを積極的に差し出すペケニーノの動きは、欲しいものだからこそひっかかる。

 そして、ペケニーノの作戦には常に罠がある。自分が肥えた土地で戦死することと同時に、自らの部族が勝利することも計算しているのだ。

 もちろん、宇宙で戦死すれば樹木にはなれないことはわかっている。だが、デスコラーダ・ウィルスに対する怒りのため、第三の生を求めていないペケニーノも多くいる。第一、人間も繁殖できる確率を計算しているのではなく、性欲や食欲に従っているだけのことが多いのだ。

 

 アッテンボローのそばかすの消えない顔に、人の悪い笑みが浮かぶ。

 ペケニーノの作戦通り、多くの犠牲は確実に見える……いくつもの分遣艦隊が包囲されている。さらにひどい混戦があちこちで生じている。知り尽くしている迷宮のようなヴァンフリート星域……

 味方を大軍で包囲し、次々とチェレンコフ推進艦を体当たりさせてくる敵軍に、アッテンボローは十八番を出した。

 潰走の演技。

 これだけは、ローエングラム朝の諸将も及ばぬ。

 人間性を残す〈痩せっぽち〉が真っ先にひっかかる。

 そして、〈クモ〉もそれに便乗するのが正しいと判断し、膨大な艦隊が巨大惑星近くにさしかかる。

 複雑な宇宙気流が絡み合い、即時通信があっても自分の位置がわからないため艦隊の形が保てない。

 ある敵艦隊は気流の弱い一か所に集められる。

 ある敵艦隊は迷子になり、あちらこちらうろつく。

 ある敵艦隊は、ヴァンフリート4=2に築かれた基地に、何億としれぬ〈クモ〉を投入する。

 先回りを狙った艦隊との、激しい撃ち合い……多数の爆発が激しい乱気流に流される。

 ひどい混戦。かつて同盟と帝国がやったような、だらだら混戦になりそうだった。そうなるような星域なのだ。

 逆に、艦隊決戦では圧倒的な火力を持つアッテンボロー艦隊にとっては、これほど不利な場はない。

 混戦の中、数十隻の大型艦が逃げようとしてミスをし、巨大ガス惑星ヴァンフリート4に飛びこんだ。

 それをよそに、混戦は激しさを増す……ように見えた。

 瞬間、光が別の方向から走った。

 1キロメートル近い旧同盟艦、そして1.5キロメートルが小さい方のゼントラーディ艦隊。そのすべてがクロノ・ブレイク・キャノンと、六門以上の波動砲を装備している。

 両方を三桁装備している、50キロメートル以上の大型機動要塞もある。

 それが数十隻巨砲を放つ。ヴァンフリートの、どの惑星や大衛星にも人が住めないほど不安定な恒星に。さまざまな場所に、ピアノでも弾くように綿密なタイミングで。

 その作戦は、桁が何百も離れたいくつもの文明のコンピュータ、技術をつがわせた超コンピュータが、何兆回も精密にシミュレートしていた。さらに何日も前にローエングラム帝国に連絡し、同じヴァンフリート星でテストしてもらっていた。

 膨大なエネルギーをぶちこまれた恒星が、ろうそくの炎を吹くようにゆらぐ。強烈な崩壊磁力線が光速で走り、さらに不安定な巨大ガス惑星、ヴァンフリート4を打つ。

 ヴァンフリート4のガス雲に飛びこんでいた艦が分子破壊砲を時限設定で放ち、逃げ、ガスが薄れるのを待ってバーゲンホルムで距離をとっていた。

 膨大な水素分子が光速の連鎖反応で瞬時に切り離され、その力場が強烈な磁力線と融合し、巨大ガス惑星深部の金属水素に働きかける。

 そのときだった。

 チェレンコフ推進の光と共に、ものすごい数の敵艦隊があらゆる逃げ道をふさぐ。

 そして数十隻の巨大艦だけが、逃げる。

〈カビ〉に操られた〈クモ〉や〈痩せっぽち〉は最初から命を惜しまない。

 そして、デルゴン上帝族や、他のボスコーンだけが逃げている。

「そうだろうな、ボスコーンとやらがそっちについてるなら、知らされているだろう。ひきつけて爆発、というパターンは」

 アッテンボローの表情が、とてつもなく邪悪な笑みにゆがんだ。

 とんでもないのを不安定な恒星にぶちこんだ、その星域に閉じ込められ絶体絶命だというのに。

 だが、起きたことは単純な爆発ではなかった。

 巨大ガス惑星から、地球の数倍もある鉄核が北極方向に押し出される。光速の78%にもおよぶ速度で。あまりのガスの抵抗で、針のように引き伸ばされて。

 北極からだけなのは、恒星からの電磁衝撃波の影響と、分子破壊砲投入が南極に集中していたからだ。

 もちろん包囲している〈クモ〉艦隊など、波動砲の前の粉雪よりあっさり破壊しながら。

 しばらくして何十もの、地球や月ぐらい大きいダイヤモンドや金属水素が光速の数%で飛び散る。

 その一つが、衛星4=2をのみこむ。ダミーの、無人の即席基地もろとも、人が住める大きさの衛星が消し飛ぶ。

 その一つが、逃げようとしていたボスコーン艦隊をのみこんだ。

 また、激しく渦巻く電磁嵐が、ネガティブ・クロノ・フィールドを持たない敵艦を襲い、内部の電子機器や生命をすべて沈黙させる。

 アッテンボロー艦隊は、迷っていたふりをかなぐり捨てて動いた。何も見えない宇宙気流に支配された星域を、庭であるかのように正確に移動する。すばやくネガティブ・クロノ・フィールドを張り、強烈な電磁波を別時空に飛ばす。

 そして数百発のクロノ・ブレイク・キャノンが同時発射、地球の何倍もある針に横から穴を開ける。ちょうど針に糸を通す穴のように。

 全艦隊が亜光速に速度を合わせ、穴に飛びこむ。

「メルカッツ提督やフィッシャー提督にしごかれてる、帝国の将官に笑われるなよ」

 そう言い合いつつ、超コンピュータの助けも借り精密に隊形を保って。

 そのまま、超巨大な針と一緒に光速に近い速度で宇宙乱流地獄を脱し、敵包囲を粉砕し、バーゲンホルムで離脱した。

 恒星と巨大ガス惑星……まるで、銃弾で小さい火薬樽を爆発させ、その力で巨大な核爆弾を起爆したように、二段階のエネルギー増幅が桁外れの破壊を生み出したのだ。

 

「ここで死んだ、何百万としれない同盟・帝国の死者……彼らの犠牲のおかげですね。この星域のことを、知り尽くすことができたのは……」

「それより、考えて下さいよ。不安定な恒星と不安定な巨大ガス惑星があれば、気軽にこんな大破壊ができる……そのデータを、帝国にさしあげたようなもんですよ?」

「ま、うちらは帝国と敵対しない、って誓約しちまったからなあ。こううまくいったってことは、むこうさんが送ってきた実験データも正しかった、ってことさ。今はありがたいと思っておこうよ、お礼も送ってくれ」

「返信。メルカッツ士官学校校長より、『ラインハルト陛下から、礼はいいからデータを送るように、と伝言をいただきました』と」時空間で生きた電話となっているレンズマンが、デルゴン上帝族の死を見て嬉しそうに続ける。「波動砲の、重力の裂け目を通して異空間に流れこんだエネルギーも大きい。〈カビ〉にとってもあれはかなり痛かったはずだ」

「あの人らしいな。クレンダツウのゲートのところに残る艦に、アンシブルでデータを送れ」

 軽く息をついたアッテンボローが、厳しい表情で机を軽く叩いた。

「戦術勝利に溺れて戦略目標を見失うな、とヤン先輩が見ていたらいいそうだ。目標、恒星アルテナ!」

 崩壊していくヴァンフリート星系と、光速に近い速度で飛んでいく巨大すぎる鉄針を茫然と見つめていた皆は、我に返って動き出した。

 

 

 故郷の時空ではイゼルローン要塞が頑張っていた、まさに同盟軍人の血で舗装された惑星のない恒星、アルテナ星。

 そこの近くは、異常な空間歪曲があった。

「ここは?」

「おれたちが知ってる恒星アルテナには、こんな空間歪曲はなかったぞ」

「ここがゲートだ。波動砲の集中射撃で空間を曲げるんだ。半径六キロメートルぐらいの回廊が開く」

「そこに小型個人戦闘艇の援護で、コンテナをつけたカーテローゼ・フォン・クロイツェルの紋章機を侵入させる」

 予言者であるベンジャミン・シスコと、第二段階レンズマン……実はくっついている幼い第三段階レンズマンの指示で、恐ろしい作戦が構築される。

 

 

 ヒリュウ改隊の機動兵器や、デンダリィ隊の可変機が数機、銀河パトロール隊の特別巡察巡洋艦……小型だが絶対防御と高速を誇る……に積まれる。

 ヒリュウ改の修理は間に合わなかった。

 その隣で、カリンの紋章機が光を放つ。

 

 多数の波動砲が空間を破り、開かれた回廊に飛びこんだ。

 早速放たれる、強烈な攻撃を防御力に優れた特別巡察巡洋艦は受け止め、かつすさまじい速力で突撃する。

 速力も、敵の攻撃力を無にする最大の防御の一つだ。敵の機関銃が1秒10発、距離100メートル……なら100メートル20秒の速さなら200発食らい、100メートル5秒の速さなら50発で済む。

 援護に回ったオクトパス小隊と、デンダリィ隊のA-4スカイホークに似た可変機、そして加藤四郎らコスモタイガー改が飛び出し、敵に激しい攻撃をかける。

「敵は?」

「知らねえよ」

「こちらの資料で見ましたわ。未確認の異星人が使う、惑星制圧用の兵器のようです」

「まあ、とにかく守りましょう」

 見たことのない、巨大なエビのような敵機動兵器。

 その巨大なハサミに食いちぎられる寸前に身をかわし、激しい射撃を叩き込む。

 同じくハサミのような手を持つジガンスクード・ドゥロが、激しく力と力の取っ組み合いをしている。

 そんな中、超高速の紋章機がステルスで身を隠し、コンテナを抱えて飛び出した。

「花道は作ってやるぜ!」

 カチーナとタスクが並んで無謀な突撃をかけ、ラッセルとレオナが冷静に援護する。

 デンダリィ隊の、ダイアスパー技術の機体が圧倒的な防御で突貫し、敵を爆砕する。

 シャルバート技術で改良されたコスモタイガーが弾幕を張り、鮮やかに敵機をかわし重力の刃をまとった翼で一刀両断する。

 わずかな隙間を、流星が翔る。

 空間の裂け目から、かすかにのぞく青い地球型惑星に向かって。

「いけっ!」

「頼みました」

「戦友たちを……」

 戦友たちの願い。コンテナの慣性補正装置が吸いきれぬ振動に苦しむ戦士たちは、前近代文明に溶けこむための偽装甲冑や斧を抱きしめ、闘志に身を震わせていた。

 心ある人型機もまた、主を見つめていた。どれほど恐ろしい敵が待つか知っているのは、人型機の奥にある何かと、第三段階レンズマンである幼女であろうか……

 

「帰りは別のところから」

 と言われたアッテンボロー艦隊は特別巡察巡洋艦を収容し、これまた激しい攻撃をかける敵艦隊を突破して、長い旅を続けることにもなった。




宇宙の戦士
銀河英雄伝説
レンズマン
エンダー四部作(エンダーのゲーム・死者の代弁者・ゼノサイド・エンダーの子どもたち)

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