第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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今回はミスがきっかけです。…もちろん、「昔の部下と再会」はエリのつもりでしたが、時系列計算したら一年以上のずれ…でも、「昔の部下」はエリだけではないと思ったら話が膨らみました


ギャラクシーエンジェル2/時空の結合より1年3カ月

 ゼントラーディ基幹艦隊を倒したルクシオールとともに、ヤマト、ミレニアム・ファルコン、ワスプ号が〈ABSOLUTE〉に着いた。

 ガルマン・ガミラス帝国、ローエングラム銀河帝国からも外交官がついてきている。

 

「さあ、パーティだ!」

 タクトが音頭を取る。古代もマイルズも、すっかり慣れている。

「クリス、ルーク、覚悟しておけよ。ここの連中はピクニックが大好きだから」

 マイルズの忠告に、クリス・ロングナイフらは戸惑っていた……アビーはクリスを磨きあげ、ジャックはルークやハン・ソロ、太助まで海兵隊的にワックスに浸け、頭からつま先まで回転砥石にかけていた。

 まあ、それはフェザーンでもやられたことだ。

 

 数日前までの、ローエングラム朝銀河帝国での祝勝パーティも大変だった。

 ラインハルトは治療のためガルマン・ガミラス帝国に出発、ヤン・ウェンリーらもついて行ってしまった。デスラーも、ウルヴァシーでのちょっとしたパーティ……そこでトリューニヒトを射殺した……だけつきあって、さっさと帰ってしまった。

 だが、帝国としては何かしなければならない。本当はほかにやるべきことが山ほどあるとしても、国家の体面が優先する。

 いやもう、ほかにやるべきことは、山ほどあるのだ。

 ガルマン・ガミラスや〔UPW〕との外交交渉、貿易の準備。安全な航宙に必須な、信号体系・交通法規のすり合わせ。

 並行時空の人たちから話を聞き、外交を準備する。

 降伏したゼントラーディの監視、恨みから虐待して和平を台無しにしないよう自軍を監視。技術調査。

 軍の損失査定。消費した物資の査定。

 戦死者の処理……何百万通もの通知と、恩給措置。負傷兵の見舞い。賞罰。戦死した将官から下士官に至る穴埋め人事。

 難民となった人々の生活確保。

 同盟の正式併合に伴う、膨大な政治処理。同盟の民間人被害の情報収集、処理と、難民対応も指導しなければならない……同盟の官僚と協力する体制の構築。

 ラインハルトがいないという非常事態に対応する、国家組織の構築。

 新しい技術に対応した社会、軍のビジョン構築。それこそ技師将兵の育成、工場建設から。それ以前の問題として、新しい技術を理解することから。

〔UPW〕から多くの時空に紋章機がある、と話を聞いて、あらためてこの時空での紋章機さがし。

 この戦争以前からの、新帝国の立ち上げと遷都。

 それらすべての優先順位付けと、人事の割り振り。

 本当はパーティどころか、一日100時間あっても足りないのだ。オーベルシュタインが自殺や発狂をしていないだけで、実はロボットだったんだ疑惑が強まっている。

 このパーティは、どちらかというと一時の現実逃避に属する……

 

 アンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃が、唯一の皇族としての責任を果たさんと立ち上がった。

「わたくしはローエングラム王朝唯一の皇族。本来ならば、この私も戦陣に出なければならぬところでした」

 その覚悟に、説得に出たヒルデガルド・フォン・マリーンドルフはさすが皇帝を育てた姉と感じいったものだ。

 特に、並行時空からの援軍の皆は歓迎された。

 ただ遷都の最中で、しかもラインハルトは質素な性格でもあり、フェザーンのホテルで開催されている。

「こういうことになると、ラインハルト陛下の質素さが恨めしくも思われますな」

 メックリンガーが苦笑気味に言うのに、マイルズが笑って答えた。

「幸い、ここには気にする者は一人もいませんよ。全員実戦で、ラインハルト陛下の雄姿はしかと見ています」

「道端で飢え死にしてる人がいない、ってだけでもたいしたもんだよ。まあ、弾正さまもしっかりしてたし、兄きもがんばってるけどねえ」

 太助の言葉に、帝国の貴顕たちはうれしそうに笑った。

「まさに。民を飢えさせず、侵略者の剣にかけさせぬ、それこそが国家のすべてですな」

「至言です」

「路傍に窮民がいれば、それは伝染病となり、国家の危機です」

「ローエングラム朝は、民を敵・家畜とのみ扱うゴールデンバウム朝に反する王朝です」

「まあ難しいことはおいらわかんないけど、雷の兄きはいつだって、みんながおなかいっぱいで、笑って暮らせるように、ってがんばってる。おいらにも、いつも腹を減らしたり、やってもいない罪で拷問されたりしてる人がいないか見て回れ、って」

「それは名君ですな」

「われらも油断できぬ」

「見習わねば」

 その笑い声を見守る、またナノバグを用いて自在に姿を変え、みえそでみえない状態を作る高度技術そのものをまとった長身のプリンセスに、一人の男が笑顔を向けた……ケスラー憲兵総監がクリスに話しかけた。

「あの太助という男とアビーというおつきの方、もうかなりの情報を集めていますね」

 自分たちの能力をアピールし、(人の庭で好き勝手するな)と釘をさしているのだ。

「おほほ……」

「いや、この短期間で使用人層とお見事なつながりをつくっています」

「……何か聞き出せたら、お伝えします」

(あの二人をコントロールしろといわれても無理だけど!)

「お任せします。この銀河の人類のため戦い、われら帝国を救ってくださった方ですから。特に地球教徒やフェザーンの残党など、面倒な連中は多い。味方は多いにこしたことはありません」

(味方になってくれ、私たちは敵になったら恐ろしいぞ)という意味でもある。

「クリス王女、お国の詩についてのお話を続けましょうか」

 助けに来てくれたメックリンガーに、クリスはあでやかに微笑みかけた。

 

 生来の貴族教育を受けていないルークやハン・ソロ、太助には、クリスのボディーガードであるジャックが軍人としてのマナーを指導していた。

「本当はとても、公の場に出せる水準じゃないです。故郷の方々は何を考えてこのような」

 ジャックは頭を抱えているが、ルークたちの方がずっと苦しんでいる。

 結局、アビーがボディーガードの名目で海兵隊員を貼りつけて、妙なことをしないようリードを持たせている。

 といっても、彼らと話が合う粗野な将兵も多くいるし、豊富な実戦の話や遠い故郷の話だけでも人々をひきつける。

 ちなみに、古代進たちもジャックやクリスから見れば容認できないほど粗野。まともなのは南部ぐらいだ。古代は宇宙戦士訓練学校の優等生だが、出身は中流階級であり、戦闘以外の教育は不足している。

 軍や政府としては、その古代が事実上外交を独占しているのは重大な問題とされており、別に外交官をしつらえようとしている。だが、デスラーが事実上古代以外相手にしていない以上どうしようもないのだ。

 万一古代が死んだときどうするか、という者もいるし、なら仕方ないから古代を教育しようという者もいる。

 古代が私腹を肥やそうとしたら、という人もいる。まあ古代や雪の身辺は清潔で、ふたりを買収・脅迫しようとしたら南部や藤堂司令長官が強烈に報復するので、それは起きていないが。

 

 マイルズ・ヴォルコシガン一家はそつなく外交をこなしている。大貴族のマイルズと厳しくしつけられたヴォル・レディのエカテリン、どちらもマナーは、異質ではあるが完全だ。

 ルクシオールのルーンエンジェル隊は、約三名……正規の軍教育が短いカズヤ・シラナミとアニス・アジート、年齢自体があれなナノナノ・プディング以外は、申し分ない。

 

 

 パーティが終わってすぐ、エックハルト星系から〈ABSOLUTE〉に向かった一行を、またもパーティが待っていた。

 トランスバールからもシヴァ女皇・シャトヤーン・ルフト宰相らが来ている。

 そして、解散している元ムーンエンジェル隊のメンバーもそろい、ミルフィーユの菓子をはじめ用意はできていた。

 ヤマトが港に着くのももどかしく、マイルズと古代たちはタクトたち、ムーンエンジェル隊、そしてシヴァ女皇と再会を喜びあった。

「ネイスミス……会いたかった……」

 少女に戻ったシヴァ女皇が、マイルズを固く抱きしめた。

「シヴァ、こんなに美しくなるとは思わなかったよ」

「雪、古代!」

 シヴァはすぐにそちらにも走る。

「エルシオールは?」

 古代の問いにミントが、なんでもないことのように答える。

「自爆しましたわ、でも人的被害はございませんよ」

「それは……よかった」

 どれほどつらいことか察してはいる。それがなんでもないほどの経験を、相手が積んでいることを理解して軽く答えた。逆に古代も経験を積んだからこそ、そこまでわかる。

「奥さま?おめでとう」

 シヴァの言葉にマイルズがにっこりして妻を抱き寄せる。

「エカテリンだ。ありがとう!タクト、ミルフィーユ、きみたちも結婚したんだね。あらためておめでとう」

「おめでとう!」

 島や古代が拍手する。

「はい、式に出ていただけなくて残念でした」

「出たかったよ!」

「そちらの方々は?」

 シャトヤーンが、ゆっくりと降りてきた人々を見る。

「あ、紹介する」

 古代が前に出る。

「ローエングラム朝銀河帝国のヴォルフガング・ミッターマイヤー元帥。

 元同盟、エル・ファシル自治政府のダスティ・アッテンボロー氏、ワルター・フォン・シェーンコップ氏。

 こちらはガルマン・ガミラス帝国のフラーケン大佐。

 こちらは、また別の時空から……

 知性連合のクリスティン・アン・ロングナイフ王女。

 反乱同盟軍のハン・ソロ将軍、ルーク・スカイウォーカー中佐、チューバッカ副長。

 新五丈の太助どの」

「〔UPW〕長官のタクト・マイヤーズだ。よろしく」

 タクトのあけっぴろげな表情に、笑顔が広がる。

「さあ、しゃっちょこばらずにとっととパーティにしよう。

 こちらはトランスバール皇国のシヴァ女皇陛下とルフト宰相、それに〈白き月〉管理者のシャトヤーンさま」

「無礼講でよい」

 シヴァが率先して会場に向かった。

 そして全員、ミルフィーユとカズヤのクッキーに舌鼓を打つ。

「ちょっと、話しておきたいことがある。ヤマトのみんなとマイルズだけでいい……冷静に聞いてくれ」

 酒の気がないレスターが、一人の少女を連れてきた。一瞬戦闘態勢になるかつての仲間を抑えて、冷静に説明を始める。

「説明させてくれ。この子は、似ているが君たちが知っているあのノアじゃない。

 これはあの戦いの後に判明したことだ。まず、〈黒き月〉と〈白き月〉から……どちらも、ずっと昔の文明が作った実験的兵器だ。人類を守るために。

 だが、その文明が崩壊し、〈白き月〉はトランスバールの人々を導き、同時に記憶の大半を失った。

 それに対して〈黒き月〉は一人の管理者が、代理の要するにロボットを作って眠った。みんなが知っている、エオニアを操ってたあれは、その代理が暴走したものだ。

 今の、このオリジナルのノアは、今までのところ行動では人間の味方をしている。信頼してほしい」

 昔の戦いを共有したものは、激しいショックを受けている。

 していないメンバーにとっては意味不明だ。

「……どうも。さっさと研究に戻りたいんだけど」

 ノアはただ、憮然としていた。

「こらちゃんと謝れ」

「謝ってなんになるの?過去を変えることはできないのよ。未来のために戦力と技術を高める、あたしはそのためにいるの」

「すまん」

 レスターとタクトが深く頭を下げた。

 

 ショックはあるが楽しいパーティの中、トイレに出たマイルズは廊下で夫婦者と出くわした。

 知っている二人だ。とても、とても。エレーナ・ボサリ・ジェセックとバズ・ジェセックの夫婦。

 エレーナは(作戦中。接触してはならない)という意味の、デンダリィ隊の暗号ハンドサインを出してマイルズを無視した。バズは憔悴しきっていた、マイルズに気づかないほど。

 マイルズの体が従い、何事もなかったように離れた。

 エレーナの態度は、完全に傭兵時代。それも決死作戦の最中だ。

 衝撃にふらつきながら戻ったマイルズを、彼よりも小さく動物のような耳がある女性が誘った……元ムーンエンジェル隊、ミント・ブラマンシュだ。

「ヴォルコシガン卿、お話があります。むしろ、パーティの中でしたほうがよい話です」

 以前の冒険も共にした彼女だが、「ネイスミス提督」と間違えるような隙がある女ではない。秘密の話ができる密室、などというものは存在していないことを、よく知っているのも優秀さのあらわれだ。群衆の中で大きい声でしゃべれば、誰の耳にも入らない。

 マイルズが食物と飲み物を用意した、そこで妻エカテリンと目が合う。彼女は、心配そうにささやいた。

「誘発しないと」

「大丈夫。話が終わったらかけるよ」

 冷凍療法の後遺症で、マイルズは緊張が高まりすぎると発作をおこす。幸い、外から頭に埋め込まれた電子機器で発作を起こさせ、制御する方法が発見されている。

「はい」

 マイルズは発作を少し心配しながら、ミントのところに向かう。

 エカテリンとロイックがすぐ介護できるよう、比較的近くに来ていた。

「コーデリア……子供は?」

 マイルズがまず聞いたのはそれだ。

 夫婦二人。それが最大の違和感だった……エカテリンとの結婚式で二人の赤ん坊を見た。マイルズの母の名をもらったコーデリア・ジェセック。マイルズは、両親の初孫を見たような喜びようや、エカテリンやタウラの笑顔をはっきりと覚えている。

「誘拐されましたわ」

 単刀直入。

 ミントは相手を低く見ているときは外見通り幼いふりをすることもある。水準の高い相手には冷徹で隙のない姿も見せる。

 これほど隙がない彼女は、戦場でも見たことがない。

 マイルズの目の前が暗くなり、爆発的に噴出したアドレナリンをコントロールして冷静を保つ。

 その眼の端で、エカテリンが石になるのがわかる。彼女は感情を表に出さないことに、いやというほど長けている。

「ご夫妻はこちらに、三日前にいらっしゃいました。退役されたんですってね。そのことは言葉でうかがいました。

 ここから申し上げることは、ご夫妻の心から読み取ったことです……

 クァディー宇宙に寄港されていたご一家が、白昼襲撃されたそうです。

 エレーナさんは、ご自分に人質としての価値があることをご存知ですし、お仕事にはハイジャックの脅威があります。退役兵士の護衛はいましたし、警備がある施設でした。

 ですが敵は明らかに技術水準が上の、訓練された小隊。護衛と、近くにいただけの十人ほどがとても残酷に、死体も残らないように殺されたそうです。

『警察はもちろん、バラヤーとは接触するな。

 第三ステーション七番倉庫から4-225コンテナを積め。お前たちなら大型荷物を、検査なしで船に積みこめる。

 超光速エンジンを手に入れ、船ごとグリーンフェルド星に持って来い、子供はそこで返す』

 と命じられ、多額のおカネまで渡されました」

 丁寧な言葉、この上なく冷静でなめらかな口調で語るミントが、ふと視線を上げた。

 長身の女がそびえていた。クリス・ロングナイフ……ジャックが引き止めるのも無視し、すさまじい殺気を噴き出している。

 パーティは、内緒話にはいい場所だ。「誘拐」という言葉限定で地獄耳の人間がいなければ。

「で?」

 マイルズの目には入っていない。ミントはクリスを無視して語り続ける。

「従うしかありません。エレーナさんは〔UPW〕から派遣されていたブラマンシュ商会の者に連絡し、エンジンの購入を希望されました。もちろん、一言も余計なことはおっしゃっていません。

 たとえ監視されていても、文句のつけようがない行動です」

「ブラマンシュ家がテレパスだと覚えていたから、か」

 マイルズが激情を抑えて言った。

「はい。そちらにいたのは能力の弱い親戚でしたが、わたくしに連絡してくれ、ぐらいは読めました。また、ジェセックご夫妻はわたくしの話をして、個人的な知り合いだとも伝えました。

 それでわたくしが、こちらにご招待したのです。大きい契約のチャンスですものね」

「グリーンフェルド星は、ピーターウォルドの本拠よ」

 クリスの言葉にこめられた殺気に、ミントもマイルズもぞっとした。

「すまない。彼女は」

 ジャックが何を言おうか迷っているが、クリスははっきりと言った。

「弟を誘拐され殺された。心を読めるなら、全部読んでいい」

「〔UPW〕ならびにトランスバール皇国は、戦友でもあるエレーナご夫妻のためにいかなる支援も惜しみません。わたくしも、もちろん」

 ミントの態度は冷静そのものだ。

「わたしも」

 クリスの口調は地獄の底から響いてくるようだ。

「プリンセス・ロングナイフ、あなたにはお国のためのお仕事がおありでしょう?」

「いまからわたしは、その子を救い出すことを最優先します。

 信用できない?なら……ネリー、すべてのプロテクトを解除。外から、分解・解析されても自己破壊せず解析されなさい。プリンセス・クリスティン・アン・ロングナイフ、168321-55、168321-55、168321-55」

 そう言って背中から故郷の技術、機密情報、コンテンツのすべてが入った最高の……長年の相棒でもあるコンピュータを外し、ミントに差し出す。

 さらに左手で、ティアラを外した。

「このティアラはスマートメタル製。ふくらんだ部分に入ったカプセルには三種族の遺物、ネリーでも解析しようとして死にかけた代物だ」

 ミントも、マイルズも度肝を抜かれている。

「うあ……」

 マイルズの声は、人間の声とは思えないものだった。かたわらで、エカテリンがニッキを強く抱きしめていた。

(この子がそんな目にあったら)

 と、エカテリンの全身から伝わってくる。

「発作を処理してくる」

 マイルズはそれだけ言って、自室に引き上げた。

「エカテリン」

「コーデリア坊やを助けて、どんなことをしても」

 エカテリンの激しい言葉に、マイルズは妻の腰を強く抱いた。彼の気持ちの強さは、言葉にできるものではない。

 クリスはシヴァ女皇のほうに足を向け、

「おいとましてくる」

 と言った。即座に行動する気だ。

「お待ちなさい。誰であれ妙な行動を取れば、人質の身に危険が及びます」

 ミントの言葉が引き止める。

「なら、指示を」

「わたくしは、ブラマンシュ商会として販路を開拓するため、ご夫妻に同行するつもりです。ハイジャック防止のため、軍経験のある人を雇えればうれしいのですが」

「わたしは」クリスが激情をこらえ、冷静さを取り戻す。「ピーターウォルドに、顔を覚えられている。どう変えようと、しぐさでもDNAでも暴かれたら人質がやられる。

 隠密性のある船」

 と言って、会場を見まわした。

「フラーケン大佐!」

 談笑している、ひげの英雄のところにクリスは飛んで行った。

「マイルズの、戦友が、子を誘拐され脅迫された。次元潜航艇とあなたが欲しい。なんでもする」

 率直無比な必死の言葉に、フラーケンは一瞬呆然とした。

 だが、にっと笑う。

「命の恩人、だ。ガイデル長官が、名誉の戦死ができたのも、あんたのおかげだ」

「ありがとう」

「まず、顔だけでも笑うんだな」シェーンコップが微笑みかける。「乗った。伊達や酔狂ってやつだ」

「妙な予感がする。手伝う。ソロも、行こう」

 ルーク・スカイウォーカーが微笑みかける。

 少し低いところから、全員にワインの盆が差し出された。

「おいらもいくよ、一つでも多くの世界の情報が欲しいし、恩を売れるし」

 太助が盆を手に、自然に加わっていた。

「帝国風に行こうか。グラスを床で割って、『プロージット』って言うんだ」

 シェーンコップが皮肉に笑う。

「そうね。プロージット!」

「プロージット!」

 時ならぬ、ガラスが砕ける音。ミッターマイヤーは敏感に反応した。

「力はいるか?」

 大股に歩み寄り、穏やかに語りかける。誠実な表情と声。

「今は軍事力は無用、でも必要があれば」

 クリスは必死の表情で懇願する。

「何でも。帝国元帥として、ローエングラム朝の名誉にかけて」

「必要にならないよう、がんばってみる。ピーターウォルドに気をつけて」

 クリスの脳裏に、ミッターマイヤーとタクトが率いる何万隻もの艦隊が、星々を焼き尽くしていく業火が一瞬浮かんだ。そしてフラッシュバック……幼い弟を最後に見た姿。堆肥から突き出した、ふさがったパイプ。何年もアルコール漬けになった。

 クリスは見たことのない子の無事を、自らの体を引き裂きたいほど願った。

 

 翌朝、発作誘発の後遺症で憔悴したマイルズ、タクト、レスター、ココ、新旧エンジェル隊、そして志願者たちが集まった。

 多忙なミッターマイヤーは……もちろん、前夜は徹夜でルフトと条約を詰めて……駐在官を残し、帰った。

「クロノゲートの近くに、演習の名目で艦隊を集めておく。クナップシュタイン艦隊の生き残りが情報を持ち帰った、赤色巨星超新星化兵器の研究も命じておく。

 いつでも呼んでくれ」

 事情も聞かずそう言い残して、だ。

「ヤマトには何も言わず、帰ってもらったよ。ずいぶんと故郷を空けているしね」

 見送ったばかりのタクトが部屋に入って、会議を始める。

「必要なのは密偵と白兵戦の強者、残念ながら名将も星を破壊する戦艦も無用だ」

 マイルズがつけ加えた。

「必要にならないことを祈るよ」

 フォルテ・シュトーレンが、平静そのもので脱線を止める。

「ジェセック夫妻の船の作業は、二日長引かせた。明後日の昼出発できる」

「確認しておきます。運べといわれたコンテナは点検しない、で?」

 ココの言葉に、フォルテが軽くうなずく。

「エレーナは、単なる毛皮だって言ってる。こっちは間抜けにも真に受けることにした」

「エレーナさんは、こちらが全面協力していることを、明らかに理解されています」

 ジェセック夫妻と朝食を共にし、ひたすら商売だけの話をして、たくさんの情報をテレパシーで読んだミントが微笑んだ。何事もないかのように。

 クリスが発言許可を求め、ネリーから、故郷の星図を見せる。ネリーはノアが徹夜でいじれるだけいじって、五分前にしぶしぶ返した。

「〔UPW〕からの最短ルートですが、われわれ知性連合が見つけたゲートから、無人の銀河がありました。そこに〔UPW〕の無人ブイがあったので、そこにこちらから連絡してあります」

『ゲートの無人銀河側からの、天体観測データを送信しました』

 ネリーの声が補足する。機械的な声、拗ねているなどというものではない。

「確認してくる」

 レスターがドアから出た。もちろん、外部との通信が遮断された部屋だ。

「それで知性連合からグリーンフェルド星へ向かえるはずです。わたしの故郷は三種族が作ったジャンプシステムを用いていますが、そちらの超光速航行を用いますか?」

「そのほうがいいですね。ロングナイフ王女、確認します。あなたと海兵隊、それにマイルズ・ヴォルコシガン卿は、フラーケン大佐と?」

 ココが名簿を広げた。

「ちょっと生活できるコンテナを増設させてもらいます」

 クリスとフラーケンが目を合わせる。

「わかりました。ルクシオールの工作設備をご利用ください」

「はい」

 今、アビーとジャックは文句たらたらで準備を始めている。

 レスターが戻ってきた。

「無人銀河は確認した。艦船の出動準備リストも作っておいた」

 と、全員にリストを示す。

「さすがに有能だな、レスター」

 ほめたマイルズは軽く机に手を乗せ、注意を引く。

「ここで、メンバーの能力を一度、確認しておきたい。

 密偵として、社会に溶け込んで物事を調べ出せるのは太助、ハン・ソロ、アニス、ミント」

「カズヤやミルフィーユも料理で、ヴァニラやナノナノも医者で潜入できるぜ」

 アニスの言葉に、

「年単位の時間があるなら。今回は日単位です」

 とタピオ・カーが首を振る。

「歩兵として、戦闘力が特に高いのはテキーラ、ルーク、シェーンコップ。フォルテ、リリィ、蘭花も次ぐ。アビーは……敵のブラックリストに入っている」

 マイルズが指折り数え上げる。

「リリィは銃ではなく剣だから、不利な局面もある。テキーラと蘭花は、武装解除・身体検査の後でも戦えるのが強みだな」

 レスターがつけ加えるのにタクトが、

「裸だと別の意味でも強烈だね、二人とも」

 と冗談を飛ばし、女性陣の冷たい視線に謝罪する。カズヤなどは真っ赤になっていた。

「ハッカーとしてはわたしとR2-D2……ただし、ネリーの一段下のコンピュータを身につければ、誰でもかなり水準を上げられます。

 指揮能力は役に立ちません。傷を治す能力も、ここでは役に立ちませんね」

 クリスが話を引き継ぐ。

「ナノナノは変身もできるけど」

 カズヤの言葉に、ナノナノが少しひきつった。

「ナノマシンでの治療は、拷問や暗殺にも使えないか?地球を救うために研究された太陽制御技術が、赤色巨星超新星化兵器になったように」

 フラーケンの言葉に、新旧両エンジェル隊の表情が凍りついた。

 凍りついた会議場に、ヴァニラ・Hの静かな声が響く……

「ご指摘ありがとうございます、潜在的な可能性はあります。

 だからこそ、迫害を防ぐためにナノマシン使いは、宗教を用いて悪用を禁じてきました。ナノナノたちにも、とても深い部分でプロテクトがかけられています。拷問や暗殺はできないように作られているのです。

 もちろん、わたしたちも紋章機を通じて人を殺しています。手がきれいだとは言いません」

「……すまない」

「いや、事実を机に乗せるのはいい」

 謝罪したフラーケンをタクトが慰めた。

 震えているナノナノを、ヴァニラが抱きしめる。

「変身能力も、使い方の難しい札ですね。準備が必要ですし、優れた機械技術の持ち主にはすぐにばれます」

 タピオが冷静に言う。

「でも、小さい子がお母さんやお父さんからさらわれて、泣いてるのだ。助けるためならナノナノ、がんばるのだ」

「ありがとう」

 マイルズが、限りなく深く優しい声で言って、クリスとうなずきあう……

(もし、拷問や暗殺が必要なら、ぼくたちが手を汚す)と。

「ぼくも、潜入工作には実績がある。ただ経験上時間がかかるし、敵に顔を記録されている可能性がある」

 そう話を変えたマイルズは、本当は自分こそ探索任務を志願したい。

 だが、経歴を思い出している……指揮官として客観的に見れば悪夢としか言いようがない、ゲートキーパーの資質を試してもらいたいほどの凶運のなせるわざばかりだ。それをあてにするのは、狂気の沙汰だ。

(イリヤンは狂っていたんだな、ぼくを使うなんて)

「ジェセック夫妻の船に、ミントとあたし、リリィ、アニス、テキーラ、ルーク、シェーンコップ、太助ってとこか」

 フォルテが冷然という。

「紋章機を、増設エンジンに偽装する。そのほうが作業も早い」

 レスターが皮肉気に笑う。

「技師は苦労してますけどね、別の船を二機で押してクロノ・ドライブなんて」ココが苦笑する。「つき従う次元潜航艇には、コンテナに積んだ紋章機を収納できますか?かなり大きな増設作業になりますが」

「まあ、やってみるさ」

 フラーケンは余裕のある表情だ。

「こちらに残るのはドラゴ船長、ハン・ソロ将軍とチューバッカ氏、それにエカテリン・ヴォルコシガン夫人とニッキ……」

 ちとせが実際的にリストアップしていく。

「ミレニアム・ファルコンで密偵を先行させたらどうだ?」

 ハン・ソロが身を起こし、机を拳で押す。じっとしていたくないのだ。

「そうだな、修正しよう。今からミレニアム・ファルコンをグリーンフェルド星方面に先行させておく、太助とアニス、ミントかな?」

 タクトの提案。

「リプシオール級をつけたほうがいいんじゃないか」

 レスターが言うが、

「時間が命だよ」

 フォルテの言葉に納得する。

「レリックレイダーなら、ファルコンについていけるな?」

「あったりめえだろ」

「だいじょうぶ、今確認しました」

 カズヤが軽くフォロー。

「間違いありません」

 アプリコットが検算し、レスターとタピオがうなずく。

「ミントは、別に商売の船として送ったらどうだ?」

 マイルズの提案に、ミントがうなずく。

「そのほうが自然ですわね」

「いっそルクシオールを出そう。それならそのまま紋章機を運用できる」

 タクトの提案。

 タピオ・カーが発言許可を求めた。

「メリットとデメリットを。

 メリットは単艦でも高い戦力があり、紋章機すべてが戦うことになった場合、補給や修理が可能になること。

 デメリットは、見るからに軍事力が過剰で、砲艦外交の非難や開戦のリスクがあること」

(砲艦外交でいいじゃない、あいつらがさんざんやっていることよ!)

 クリスが内心叫んだが、自重した。

「砲艦外交、というのも手の一つですわ」ミントが平然と言ってのけた。「ですが、この中型輸送船がすぐ動けます。ルクシオールはもう三日もかかってしまいます。

 こちらの船でも、紋章機を一機ぐらいなら乗せられますし、商品もすぐに積めます。そのほうが準備期間が短いです」

「一度、紋章機とメンバーの割り振りを整理してみよう」

 レスターが告げて、プレゼンを準備する。

「ジェセック夫妻の船。ルーク大尉、シェーンコップ、フォルテ、リリィ、テキーラ。紋章機はイーグルゲイザーとスペルキャスター、エンジンに偽装する。

 フラーケン大佐の次元潜航艇。マイルズ卿、クリス王女と海兵隊、ナツメ。紋章機はパピヨンチェイサー。

 商船でミントと蘭花、アプリコット。クロスキャリバーを乗せる。

 一番先に、ハン・ソロ将軍のミレニアム・ファルコン。太助が同乗し、アニスがレリックレイダーでついていく。

 ルクシオールとリプシオール級五隻が待機。ナノナノとカズヤ、ファーストエイダーとブレイブハート。ホーリーブラッド改部隊もつく」

「各方面に、ぼくやシヴァ陛下も手紙を用意しておく。ある程度の技術も、貨幣としてつける」

 タクトがつけ加えた。

「わたしも紹介状を書きます。知性連合では有効なはず、判断はお任せします」

 クリスはもう、ネリーに文面をまとめさせている。

「ミッターマイヤー元帥も、バックアップとして艦隊を準備してくれている」

 と、アッテンボロー。

「〔UPW〕も全艦隊を準備しておく。連合艦隊の指揮は?」

 レスターがつけ加える。

「レスター、きみが見てくれ」

 タクトの命令にレスターがうなずく。

「わかった、バラヤーへの連絡は?」

 マイルズは首を振った。

「一切しない。もちろん、父上も母上もグレゴールも、聞けば何でもやるだろう。だがそうすれば人質を危険にさらす。必要があればぼくから連絡するし、成功失敗にかかわらずバラヤーの感謝は、ヴォルコシガンの名、皇帝直属聴聞卿の誓約にかけて誓います」

「やれやれ、一人の幼児のために多元宇宙の外交関係が、根こそぎ変わってしまうんだな」

 レクターがため息をつく。

「責任は〔UPW〕長官のぼくが負う」

 タクトはへらへら笑っているが、実はマイルズやクリスに劣らず怒っている。決意は固い。

「ここにいる全員、支持します。その結果を共に負います」

 全員が立ち上がり、ばらばらな故郷の敬礼を……敬礼に近い動作をした。

「タクト、シヴァ陛下も全面的に支持している」

 レスターの言葉に、タクトはうれしそうにうなずいた。

 

 無人銀河とされ、たまにしか開かない銀河へのクロノゲートが開き、無人設備が回収された。

 同時にミレニアム・ファルコンが高速で飛び、星図を読みつつゲートに向かう。

 

 そして、焦燥と感謝を瞳に宿したエレーナの操船で、何事もなく商売をするだけのようにコンテナ船が埠頭を離れた。奇妙な大型エンジンが、激しいエネルギーを放出している。

 その航跡から、小さな潜望鏡が突き出し、すぐに引っ込む。異空間で、ぶかっこうにコンテナを増設した次元潜航艇が静かに動き出した。

 もう一隻の輸送船が、無人の銀河に航りだす。




ギャラクシーエンジェル2
銀河英雄伝説
超時空要塞マクロス
宇宙戦艦ヤマト
スターウォーズ
海軍士官クリス・ロングナイフ
ヴォルコシガン・サガ
銀河戦国群雄伝ライ

*すみません、EP6でハン・ソロが救出された直後の、チューバッカの同盟軍での階級がわかる方いたら教えてください

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