ガーディアン・フリート❮はいふり×GAMERA❯   作:濁酒三十六

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九話・にじり寄る影

 四月も半ばに入り、桜の花も散り葉っぱの緑色が目立って来た。本日…岬明乃は遅刻はせずとも徹夜で晴風クラスの班分けを考え、完全に寝不足になっていた。

 

(大まかな班は何とか出来たけど…、教官…海洋実習が“明日”とか……、さすがにないです!)

 

 話によれば始めは海洋実習のやり直しを四月の下旬一杯で予定を進めていたのだが校長から予定を早めてほしいと要望…と云うより明らかな強制的変更を言い渡され、正に猫の手を借りに明乃を頼ったのである。

 そして出来上がった班は…、

 

武蔵…柳原麻侖~若狭麗緒~駿河留奈~八木鶇~宇田慧、

 

比叡…立石志摩~日置順子~武田美千留~小笠原光、

 

明石…和住媛萌~青木百々~等松美海~野間マチコ、

 

間宮…伊良子美甘~杵崎ほまれ~杵崎あかね~鏑木美波、

 

長良…西崎芽依~松永理都子~姫路果代子~万里小路楓、

 

名取…黒木洋美~伊勢桜良~広田空、

 

摩耶…勝田聡子~山下秀子~内田まゆみ、

 

アドミナル・グラーフ・シュペー…岬明乃~宗谷ましろ~納沙幸子~知床鈴、

 

…となった。

 この班分けは帰りのホームルームにて古庄教官の下で発表、機関科の柳原麻侖と黒木洋美が少々ごねはしたが、ましろのフォローもあって洋美は説得され…麻侖は洋美が良いなら仕方ないと納得した。薫も急な日程の変更に明乃は良くやってくれたと付け加えホームルームを解散…下校となった。

 寮へ帰り、明乃は幸子と鈴…ましろを部屋へ呼び明日のアドミナル・グラーフ・シュペーでの大まかな対応を話し合う事とした。勿論明日の用意をして皆明乃の部屋にお泊まりである。…因みに明乃の同室の娘は彼女達と同じ理由で別の部屋にお泊まりだ。

 四人は床に直に座り色々と話し合い、明乃の机の上でこの前明乃に拾われた亀のトトがエサをモキュモキュと食べていた。

 アドミナル・シュペーはドイツの留学生艦で今回艦のない晴風クルーの便乗を学校側からお願いされ、其れを快く受けてくれた。しかし明乃には大きな不安があった。明乃は苦笑いをしながら三人に聞く。

 

「みんな…、ドイツ語…話せる?」

 

 最初に答えたのは知床鈴である。

 

「私は…ドイツ語はおろか、英語も無理…です。」

 

 幸子は自信ありげに答える。

 

「私は単語はかなり知ってますよ。」

「知ってる単語を言ってみろ?」

 

 早々にましろに突っ込まれて幸子は彼女から視線を反らし、ドイツの単語…を口にした。

 

「バっ…、バームクーヘン?」

 

 それを聞かされた三人は深い溜め息を吐いて項垂れた。…とまぁ、ましろは其処で当たり前の事に気付いた。

 

「まぁ、向こうに日本語の通訳が出来る者がいる筈だ。…でなければ日本の生徒を受け入れるなどないだろう。」

 

 ましろの言葉に明乃達はホッと安心感を顔に出し、ましろはそんな三人を少し曇らせた表情で見る。そして気持ちもまた海洋実習の方には向かず、昨日…校長室で横須賀女子海洋学校の校長にして彼女の母親である宗谷真雪との会話の内容を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横須賀女子海洋学校校長室で宗谷ましろは校長である母親と対面…来客用のソファーに座りテーブルを挟み真雪と向かい合っていた。テーブルには紅茶が用意されており、ましろは何故か母親の前で緊張し過ぎて熱い紅茶をズズズといきなり口に含んでしまった。

 

「熱っ!?」

「フフ…、慌てて飲むからよ。

…だからテストの回答枠を間違えたりするの。」

 

 優しげながらも厳しい一言を末娘に投げる真雪。ましろは沈んだ顔になり、「申し訳ありませんでした…。」と小さな声で陳謝した。真雪は落ち込むましろの目を見つめる。

 

「入学テストなんてブルーマーメイドになる為の最初の関門に過ぎないわ。その失敗を次に活かせる様に頑張りなさい。」

「ハイッ、母さ…校長先生…。」

「今は二人だけだから母さんでも良いわよ、ましろ。」

 

 母親の微笑みが末娘の緊張を解し、ましろは晴風クラスの話を真雪に聞かせた。彼女の話は艦長の岬明乃を中心とした愚痴ではあったが…、真雪は笑顔のまま聞き続け…唐突にこう言った。

 

「珍しいわね、貴女を其処まで振り回せる娘なんて。

中学までの同級生は表面のキツい態度に怖がって一歩引かれていたのにね。」

 

 表面のキツい態度と言われてましろはちょっぴり眉間を寄せた。真雪の言う通りでましろは中学校までの友達が殆どいない。理由としては運が悪い事もあったが…学業に奮闘するあまり同級生達との関係を疎かにしてしまっていたのである。真雪は口隠ってしまったましろに言葉を続けた。

 

「ましろ、今の貴女の居場所を大切になさい。

そして岬さんや晴風クラスの皆との関係を大事に育みなさい。それはましろにとってとても大きなプラスとなる筈よ。」

 

 ましろは母真雪の瞳をジッと見つめ、入学式より以前からあった自分へのわだかまりが柔いた気がした。そしてソファーから立ち上がり、笑顔を向けてましろはもう一度真雪を見た。

 

「ありがとう、母さん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ましろは無意識に表情が綻び、笑顔を浮かべる。…と、その顔を明乃が自分の顔を間近に近付けて覗き込みましろは「うわっ!?」と悲鳴を上げて驚き、後ろへと倒れてしまった。

 

「あっ、シロちゃんゴメン!…大丈夫…?」

「顔近過ぎ、何なんですか艦長!?」

「あっ…、何かシロちゃんが嬉しそうに笑ってたから近くで見たいな~と思って。」

 

 ましろは明乃の言葉を聞いた途端に顔を真っ赤にしてまたもや悲鳴を上げた。鈴と幸子もちょっぴり頬を染めながら二人のやり取りをジッと見つめていた。

 

「岬さんって、宗谷さんの扱いが馴れて来たよね…?」

「いえ、あれは副長を明らかに堕としにいってますね。」

 

 鈴は「え~っ!?」と声を上げて幸子はニタニタと嫌らしい顔付きで明乃とましろを見る。明乃は困り果て、ましろに助けを求めようとしたが彼女の目は明らかに明乃に不信感を向けていた。

 

「…かっ、艦長にわたっ、私の心と身体は絶対に渡さないからな!」

「何を言ってるの、シロちゃん…?」

 

 明乃は怪訝な表情でましろを見、鈴は含み笑いを…幸子は床をバンバン叩きながら大笑いをした。そして明日には皆が楽しみにしているであろう海洋実習が待っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある基地内にてダイビングスーツに身を包んだ男性3~女性1の合計四人が小型艇へと乗り込み基地を出向…、船内でリーダーより作戦内容を聞かされ、仲間達から溜め息が洩れた。作戦内容は横須賀女子海洋学校の海洋実習にて西之島新島を目指すドイツの留学生艦であるアドミナル・グラーフ・シュペーを拿捕し、研修船員である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事。彼等からして見ればいつもの汚れ仕事である。

 四人の内の一人…、身体のフォルムからして紅一点の女性であろうか…彼女は仲間と一つの部屋で待機しながら岬明乃の顔写真をジッと見つめ、何やら思いに老けっていた。

 

(もしかして()()()()()()()()()()()かな…?

だとしたら奇妙な縁かな~、だったらいいな~。)

 

 そんな事を考えながら彼女…床枝蓮美は自身の水中用ライフルをばらし、手入れを始めるのであった。




やっとこさ九話を更新。新キャラの床枝蓮美は今後の人の闇に深く関わる女性です。ビジュアルイメージははいふり第一話で幼い頃の明乃ともえかに手を振り替えしてくれたブルマーのお姉さんです。…これちょっとネタバレです。

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