ガーディアン・フリート❮はいふり×GAMERA❯ 作:濁酒三十六
「馬鹿な、そんな都合良くギャオスが真ん前から真っ向勝負など仕掛けてなど来やしない!!
根拠のない思い込みでこの艦を沈める気か!?」
副艦長である宗谷ましろがあまりに勘に頼り過ぎる明乃に反論と暴言を投げつけた。納沙幸子も知床鈴も不安げに二人のやり取りを見つめる。明乃の提案は既に作戦と言えるものではなかった。正面からやって来るギャオスの顔面に至近距離で主砲を撃ち込むと云うものであった。
「根拠がない訳じゃないの。ちょっと考えたんだ、私がギャオスならどう狙ってやるか…。
この艦に取り付くにはどうすれば良いか、足止めをして左右のドチラか…。右も左も体重を乗せるスペースがないから無理。
なら真上からは…、取り付いてもバランスを崩して船体を倒してしまう可能性がある。
後ろから取り付くのは…、安定感は良いけど…艦橋のみんなに艦内に逃げるだけの時間を長く与えてしまうかも知れない。
じゃあ前からは…、シロちゃん想像してみて?」
言われた通りに想像するましろ。高速で低空飛行し春風に取り付いた巨大ギャオスは真っ先に艦橋を狙い、艦橋に口を突っ込むか屋根を剥がして……。
其処でましろは吐き気を覚えた。彼女が想像した光景はとても恐ろしい…悍ましいものだった。
「艦長、艦内ヘの避難を進言します!
我々は良くやりました。“猿島”へも連絡していますから救援も来ます、此以上は本当に命を落とします!!」
挑みかかる様に岬明乃を見つめる宗谷ましろ、そして明乃も暫し沈黙するが、表情を曇らせながらもましろの進言を素直に受け入れた。
「分かった…。全員、艦内に退避して!」
しかし副長の進言と艦長の決定に対し異を唱える者がいた。西崎芽依と立石志摩である。
「何かそれスッゲー悔しくね?」
「Oui。」
ましろはこの状況下で“悔しい”などと私情を持ち出す芽依が信じられなかった。今死ぬかも知れないと話している中でこのまま逃げるのは悔しいと西崎芽依は言い、立石志摩は大人しげな顔で芽依に同意する。何故この二人はあの怪鳥と戦う事を望むのか…、ましろには理解が出来なかった。
「何故だ、此以上あのギャオスなんかと張り合っても勝てる見込みはないんだぞ!?」
「私はそうは思わない。みんなで彼奴と戦って何となく私もあのギャオスの考えてる事が分かった様な気がした。だから私はまだ彼奴と戦える!
タマちゃんもそう思うよね!?」
芽依の言葉に志摩は無言ながらも強く頷いて応えた。彼女は砲術長、ギャオスに対して強い手応えを掴んだ様である。明乃は二人の意志をとても嬉しく感じるのだが、ましろの進言も無視は出来なかった。自分の我が儘で皆の命を危険に晒すのも此処迄だと明乃は思った。
「ありがとう、芽依ちゃんタマちゃん。…でも、副長達と一緒に艦内に避難して。艦橋には私が残るから。」
“バチンッ”!!
彼女がそう話した瞬間、ましろは思い切り明乃の左頬を叩いてしまった。叩かれた左頬は赤くなり、明乃は驚いた顔をましろに向けた。そしてその間も幾度と超音波メスが降り注ぎ晴風の船体を揺らす。
「全員だあ、全員で避難するんだ!!
誰一人欠けずに…みんなで生還したいんだ、どうして其れがわからないんだ艦長!!?」
涙を浮かべた強い眼差しで睨み付けるましろと彼女の目をまともに見れないのか…、少し俯く明乃。…だがその時マチコが
「艦長、みんな、“超音波メス”が…っ!?」
明乃はマチコの青醒めた顔と艦橋の外を見て表情が凍りついた。
(
「みんな艦橋から緊急退避、今直ぐ逃げてえっ!!!!」
明乃が叫んだ時、ましろは艦橋の正面から低空飛行で此方に飛んで来る巨大ギャオスの姿がハッキリと見え、次の瞬間、突然強く突き飛ばされ…艦橋にギャオスの嘴が突っ込んで来た。巨大な異物を詰められた艦橋はひしゃげ、引き裂かれ、全ての設備を押し潰しギャオスはその醜悪な顎を開いて艦橋にいた者達をかっ込もうとバクンと顎を閉じたが、明乃の声が早かった為皆両端に逃げ込み難を逃れていた。皆が皆ガタガタと全身を震わせ這いながらギャオスの顎から逃れようとするが、宗谷ましろだけは絶望を露にし、その光景から目を離す事が出来なかった。
「艦……長…!?」
其処には閉じられたギャオスの“アギト”に挟まれ、その牙に貫かれた岬明乃の姿であった。
「イヤア…、イヤアアアアアアアアアッ!!!!!」
ましろの叫びは壊れかけた伝声管を通り艦内に響き渡る。そしてその声が聴こえたのか否か、深海深くから巨大ギャオスよりも更に巨大な岩山の様な影が大きく揺らぎ、浮上を始めた。
決着着かずです。次回でガメラ登場です。