ガーディアン・フリート❮はいふり×GAMERA❯ 作:濁酒三十六
のどかな海原を航行中の航洋艦晴風。そのブリッジから記録員であり書記の納沙幸子は空を飛んでいるカモメを見上げて思いに老けりながら小さく微笑んだ。
「いいな~、この船も飛べたら集合地点まで直ぐなんだろうな~。」
…などと夢見がちに呟くと宗谷ましろが呆れながら幸子に言葉を返した。
「空飛ぶ船など今の技術ではまだ空想の産物にすぎん。」
ちょっとだけ周りは沈黙、するとまた幸子が笑顔で全く意味不明な事を言い出した。
「ラピュタはきっとあるんですよ。」
「ある訳ないだろがっ!!」
「副長は夢がないですね、そんな人にはこの言葉を送ります。」
そう言って幸子は砲術長…無口のおとなしめな立石志摩の右手を握りましろに突き出して何かを察した志摩とハモって唱えた。
『“バルス”。』
瞬間、ましろのこめかみを青筋が走り、幸子に飛びかかった。
「キッサマーッ!!」
「イヤー、
ましろは本気で怒っている様ではあるが端から見れば女子同士のじゃれ合いである。晴風艦長の岬明乃はそれを見ながら顔を綻ばせた。
「良かった、みんなうちとけて来たね。」
しかし西崎芽依は少々呆れがちに口を開く。
「いや、明らかに副長弄られてるだろ。」
そんな時、無線が入り幸子はましろの攻撃を軽やかに避けて受話器を取った。…途端、彼女の表情が青醒めていって受話器を無言で明乃に手渡す。急に冷めて行く艦橋内で明乃を中心にして皆が受話器に注目すると、明乃もまた蒼白になり艦橋内の艦員に伝えた。
「太平洋沖に“ギャオス”らしき反応有り。横田基地から戦闘機が出撃してもう直ぐ接敵…ギャオスと確認次第攻撃に移る…!?」
ギャオスに関してはやはり今の若者でも知っていた。艦橋内を一気に緊張感が走り、明乃はましろに艦内にギャオス出現を伝えるよう指示…そしてマスト上の見張り室にいる見張り員の野間マチ子には艦内に避難を命じた。
「見張り員を降ろしちゃったらギャオスが来た時直ぐに分からないんじゃ~?」
操舵長の知床鈴がおどおどしながら意見を言い、それに明乃が答えた。
「ギャオスと遭遇した場合、一番高い位置にある見張り室…マチさんが一番に狙われるわ!
看板甲板も出ちゃ駄目、ギャオスは横田基地の人達に任せて私達は一刻も早く西之島に向かうよっ!」
明乃はエンジンに無理がかかるのを承知で晴風のスピードアップを指示、機関室では機関長の柳原麻侖が大声でぼやくが艦長指示に従い、機関員で麻侖とは幼馴染みの黒木洋美も険しい面つきで文句を言いながらも手を動かし他の機関科メンバーも汗だくになりながら頑張った。
「クッソ~、エンジンどうにかなっちまうぞおっ!!」
「あの艦長は此方の苦労なんて考えてないのかしら!」
『熱いよ~~っ!!!!』
航洋艦晴風は速度を上げて西之島新島を目指すが、激しい轟音が晴風の頭上を走り抜け、明乃は即座に双眼鏡を用意して上空を駆け抜けた4つの影を探した。ましろ達も操舵を握る鈴以外は皆艦橋から空から周囲を見渡す。すると芽依が大声を出して北東側を指差した。
「“あれ”コッチに来るぞお!!」
明乃達が芽依の所ヘ集まると2つの影がギャオスとF―15Jへと変わり二度晴風の上空を通過、ギャオスは全高20mはありそうで翼幅はその二倍以上はある。しかしF―15Jは臆する事なく20mmバルカン砲を撃ち出して前方のギャオスを追い詰め、ギャオスの速度が落ちた所に空対空赤外線ミサイルを二発発射した。赤外線ミサイルはギャオスの体温熱を追いホーミングして二発共命中。ギャオスは爆炎を纏い落下、海面に激突と同時に激しく水蒸気を立ち上げて高熱を燻らせたままゆっくりと沈んでいった。そして此方に機体を見せる様にF―15Jが晴風の前方に姿を見せ、もう一機もまた合流をした。此でギャオスを2体撃破したのである。
すると晴風に通信が入り、明乃が取ると男性の声が聴こえて来た。F―15Jのパイロットだ。
《此方F―15Jコードネームワイバーン1のパイロット、小金井一等空尉だ。
航行艦晴風、そちらは損害はないか?》
「此方晴風艦長の横須賀女子海洋学校の一年、岬明乃です。
お心遣い感謝致します。此方の損害はありません。小金井一等空尉さん達がギャオスをやっつけてくれたからです、本当にありがとうございます。」
明乃にお礼を言われて小金井は気分を良くしたのか、燃料はまだあるからと西之島まで護衛を申し出てくれた。
《もうギャオスは出ないとは思うが正に十数年ぶりの再来だ、何が起こるか分からないからな。》
「本当ですか、じゃあ御言葉に甘えて…」
そこでましろが明乃に横槍を入れる。
「おい、只でさえかなりの遅刻な上F―15Jなんて引き連れて行ったら…!?」
「古庄教官驚くかもね。」
明乃はましろにニコリと笑いかけ、小金井の申し出を受けようとした次の瞬間、晴風の頭上で爆発が起きた。明乃もましろも艦橋メンバー全員が動きを止め、上空より放たれた黄金色の閃光がもう一機のF―15Jを撃墜して海面に海の壁を走らせたのを凝視した。明乃は小金井一等空尉に何度も通信を送るが返事は返って来ない。
「小金井さん、小金井さん、返事をして下さい!!」
未だ状況が飲み込めないのか…、通信機の受話器を見つめる明乃。ましろは躊躇いながらも彼女に声をかけようと肩に手を伸ばす。しかし途端に明乃は俯きながらも艦橋メンバーに命令を大声で下した。
「晴風、対空戦闘用意っ!!」
その声にましろは驚いて自分の肩を弾ませ、芽依も幸子も鈴も志摩も彼女の命令に未だかつてない緊張感を走らせた。
「艦長…まさか!?」
「シロちゃん、主砲の解除キーを…!」
明乃は涙を溜めながらも怒りと決意の眼差しをましろに向けた。航洋艦晴風の主砲は艦長と副長が管理する2つの解除キーを同時に回さないと使えない。ましろは今の岬明乃を分析する。たった今二機のF―15Jが上空からの謎の攻撃によって撃墜された。パイロットは…、脱出は確認されなかった。彼女は…いや、自分達はつい今まで親しく話していた人の死を目の当たりにしたのだ。彼女に限らず感情的にならない筈がない。なら、合理的に考えて主砲を使わずに打開出来るのか。そう考えたましろは歯を食い縛り解除キーを出して明乃と並んだ。
「私は…
明乃はましろの覚悟に頷き、二人同時にキーを差し込んで回し、主砲を解除した。空はいつの間にか陽が落ち始めて赤く染まる。そして空の上から巨大な影が皮膜の翼をはためかせてゆっくりと降りて来た。
「ウソ……、何あのデカさ!?」
芽依が驚愕し、幸子は声も出せずに足がすくんでしまう。
その姿はやはりギャオスではあったが、サイズが先程の2体よりも明らかに大きく、翼幅はそれこそ晴風の全長に近かった。夕陽を背に置いた巨大なギャオスは晴風を睨み耳障りな鳴き声を張り上げた。