ガーディアン・フリート❮はいふり×GAMERA❯   作:濁酒三十六

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十三話・篝火は海にて揺れる

 9年前…、床枝蓮美はブルーマーメイドであった。成績も優秀で後輩からは尊敬され、先輩達からは一目置かれて超大型作戦艦大和の乗組員としても抜擢される程に未来を有望視されていた。

 ある日、大和の甲盤の清掃中に岬にて二人の幼い子供が此方に手を振っているのが見えた。蓮美は目が良い方でその子達が女の子であるのが直ぐに分かり二人の幼い少女に手を上げて振り返した。蓮美は微笑み、少女達の見本となれる様にブルーマーメイドとして頑張ろうと誓った。…しかしその数ヶ月後、彼女はある事件を起こしてしまい…ブルーマーメイドの資格を取り上げられたのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アドミナル・グラーフ・シュペーの左舷上甲板では未だ二人のテロリストが拳銃の銃口を向け合っていた。一方のリーダーである男は裏切者に撃たれた仲間を案じながらも数分前までは仲間であった女を睨み、裏切者である女…床枝蓮美は岬明乃達を背に置いたまま額に玉の汗を滲ませ銃口をリーダーの男から離さず膠着状態は続く。テロリストのリーダーは自分の覆面を剥ぎ取り素顔を晒した。少し頬骨が出た中年顔のテロリストはかなり焦っている表情で向けた銃口をそのままに撃たれて苦しむ仲間の容態を見る。

 

(右脇腹か…、弾は貫通している。…だが出血が酷いな…。)

「“床枝”、何故裏切ったかは聞かん。…今はこのまま俺達を逃がしてはくれまいか?」

 

 リーダーの男は彼女を名字で呼び、蓮美はニヤリと笑うと彼の懇願を受け入れた。

 

「構わないよリーダー、…でも早くしないと此方の状況に気付いた“猿島”が来ちゃうから急ぎな。」

 

リーダーの男は撃たれた仲間を担ぎ、侵入に使ったロープを手繰り寄せて握り、下にあるクルーザーへと降りていく。宗谷ましろは自分達を助けてくれた筈の女性が仲間を逃がそうとする行為に反発…声を上げた。

 

「なっ、奴等を逃がすのか!!

やはり私達を助けたと見せかけて何か罠を仕掛けているのか!?」

 

 すると女テロリストがましろの胸ぐらを掴んで引き寄せ抱き込むと何とこめかみに拳銃を突き付け、ましろは“ヒッ!?”と顔を引きつらせた。

 

「副長!?」

「宗谷さん!!」

 

 知床鈴と納沙幸子が悲鳴を上げ、明乃彼女にしがみつきましろを離す様に訴える。

 

「やめて、シロちゃんを離して!!代わりなら私が…っ!!」

「撃ったりしないわ、此は猿島の乗員の足止めの為。

彼奴等ずっと居たら膠着状態が続いて撃たれた娘の治療が遅れるでしょ。…それにさっきまで仲間だったんだもん…逃がすくらいは許してよ。」

「それでも…、それでもシロちゃんを離して下さい!!」

 

 明乃が強く言葉を告げ、目尻に涙を溜める。床枝蓮美は困りげに頭をかき、パッとましろを解放した。彼女は歩けずにフラフラと蓮美の足元にへたり込み、明乃がましろを抱き止める。

 

「かっ…、艦長ぉぉぉ~。」

「大丈夫、シロちゃん!?」

 

 ましろはポロポロと涙ぐみながら二度頷き、明乃は蓮美を見上げてキッと睨んだ。

 

「私、暴力や脅迫で物事を解決しようとするのは…大嫌いです!!」

 

 強い意志を込めて明乃は蓮美に怒声を上げる。…が、蓮美はやはり困りげな…しかし少し悲しげな表情を見せた。

 

「君はやっぱり良い娘だ。…だから此から君達が巻き込まれるであろうその暴力と謀略の世界がとても憎らしい。

…だから私が来たの。君達を守る為に…ね。」

 

 明乃とましろにはこの女テロリスト…床枝蓮美が何を言っているのか解らなかった。そしてその間に艦下のクルーザーがスクリュー音を上げて逃走し、同時に此方に眩しい限りのサーチライトがあてられた。大型教員艦“猿島”である。アドミナル・シュペーとの間に橋が掛けられ猿島から教員達が乗り込み蓮美と明乃達を囲む。そして蓮美に対し何と教員達が拳銃…いや、拳銃型のスタンガンを向け、彼女は拳銃を放し両手を万歳した。彼等と共に乗艦した古庄薫が明乃達の前に立つ。

 

「岬明乃艦長、負傷者はいるっ!?」

「は…っ、ハイ、艦橋でテア艦長が撃たれました!至急担架を!!」

 

 薫は即他の教官に指示し、担架が艦橋へと持ち込まれた。明乃とましろ…幸子、鈴は教員達により保護され蓮美から引き離される。

 

()()()()、薫。」

 

 蓮美に声をかけられ、古庄薫は彼女に視線を向ける。

 

「テロリストに知り合いなんていないわ。」

「冷たいな~、同じ釜の飯を食べた仲じゃない。」

 

 手を上げたまま飄々とする蓮美とは反対に薫は腕を組み怒っている様な哀しんでいる様な…しかし喜んでもいる様な複雑な表情で言葉を返した。

 

「こんな形で会いたくはなかったわ、“蓮美”。」

 

 すると床枝蓮美も古庄薫と同じ表情となり同意をした。

 

「えぇ、こんな形では会いたくなかったね。」

 

 二人はそのまま見つめ合いながら黙り込み、明乃達はそんな二人を同じ様に見つめるしか出来ずにいた。…だがその時突然海上の向こう側で“ドオンッ”と爆発音が響き炎と煙が立ち上がった。此には他の練習艦航洋艦も気付き海洋実習艦隊は大騒ぎになった。明乃達は茫然とし、薫は確認を急がせ、各艦の艦長に騒ぎを抑える様指示を出した。爆発は先程テロリストのクルーザーが逃げて行った方角で蓮美は遠くで燃える炎を眺めながら誰に訊かせる訳でもなく一人ごちをした。

 

()()()()()()()()。作戦に失敗した責任を…ね…。」

 

 それを聴いた明乃は炎に目を向け、あれが自分達を襲ったテロリスト達のクルーザーであると確信した。

 

「そんな…、死ぬ必要なんて…、ないのに…!」

 

 明乃は訳も解らず、涙が出…彼等の死を目に焼きつける。蓮美もまた先程まで仲間であった者達の冥福を心の中で強く祈るのであった。

 

(みんなごめんね…、さよなら。)


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