ガーディアン・フリート❮はいふり×GAMERA❯   作:濁酒三十六

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十二話・海夜に鮮血の狂弾…

 各艦に研修をする課題として晴風クルーは各艦の実習ぶりを自身の持ち場と照らし合わせレポートと取るのだが海洋実習の三日目、アドミナル・グラーフ・シュペーに研修員として搭乗した岬明乃達四名は只只感嘆し、自分達の未熟さを痛感した。航行演習も主席である知名もえかの武蔵に次ぐ航行技術を見せ、ソナーによる索的演習は何と演習艦隊一位を取って見せた。

 明乃はアドミナル・シュペーを指揮するテア・クロイツェルの才のみならずヴィルヘルミーナの的確な補佐、乗組員達の無駄のない動きは武蔵と同等かそれ以上にも思えた。

 

「スゴいよね、テアちゃんも…ミーちゃんも。」

 

 誰にふる訳でもなく呟く明乃に知床鈴と納沙幸子もちょっと落ち込みがちに頷いた。

 

「当たり前だ、彼女達は我々より数年以上も長く船に乗っているんだ。

寧ろそんな船と同等に渡り合っている知名さんの武蔵も称賛すべきだろう。」

 

 宗谷ましろの言葉に“オオーッ”と鈴と幸子が感嘆し、明乃は親友を褒めてくれた嬉しさで思わず抱きついてしまった。

 

「そうだよね、モカちゃんもスゴいよね!ありがとーシロちゃん!!」

「こおおらああ、ハアナアレエロオオ!!」

 

 クワガタの如きその食い付きっぷりに鈴と幸子は苦笑してシュペーの艦橋員達は含み笑いをする。…と、ましろは明乃の被る帽子の上を見て目を細めた。

 

「艦長…、頭に何を乗っけているんですか…?」

「ふえっ?」

「このコ何時の間に乗っかったんでしょうね~?」

 

 明乃の頭の上の何かに幸子も気付き彼女の頭の何かに手を伸ばしたが“其れ”は帽子に“爪”を立てて一緒に脱げてしまった。

 

「えっ、トト!?」

 

 明乃の頭に乗っていたのは陸亀のトトで明乃の帽子に爪を引っ掻けて放さずにいた。

 

「トトってばどうやって部屋から出たのかな?」

 

 明乃は幸子から帽子とトトを受け取るが、ヴィルヘルミーナが渋い顔をして明乃に忠告をして来た。

 

「晴風艦長、さすがに艦橋に生き物の持ち込みは見逃せんぞ。」

 

 ヴィルヘルミーナはそう言ってテアに視線を向ける。だが彼女の見解は意外なモノであった。

 

「構わない、亀程度に気を取られていては“ブルーマーメイド”など夢のまた夢だ。

皆、これも訓練だと思え!」

『了解!!』

 

 ヴィルヘルミーナもテアに敬礼して合意を表し、此処でもシュペーの凄さを見せ付けられた気がする晴風クルー…彼女達の意思は艦長であるテアに完全に統合されていた。…しかしトトが何時の間にどの様にして明乃の帽子の上に乗っかったのかはやはり謎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日目の実習も終わり、夕食の時間となり乗組員は皆食堂へと集まり明乃達はテアとヴィルヘルミーナ二人と席を共にした。

 

「どうだ、レポートは進んでいるか明乃?」

 

 テアの質問に明乃は苦笑いをし、ソーセージをほうばった。

 

「ソーセージ美味しい…、あっ、ゴメン。

レポートはテアちゃん達のお陰で結構進んでるよ、でも内容はもう反省する事ばかりで一杯になりそう。」

 

 テアとヴィルヘルミーナはクスクスと笑い、意外と人の事は言えないましろはやはり苦笑いとなった。幸子はもうヴィルヘルミーナと映画の話をしたくてウズウズしており、鈴は夕食が美味しくて口一杯にほうばっていた。

 

「…太りますよ。」

「ひええ、ココちゃんそれ言っちゃやだ~!」

 

 幸子に突っ込みを入れられて泣きを入れる鈴。二人のやり取りに明乃やテア達はケラケラと笑い声をあげるが其処へ何と緊急アラートが艦内に鳴り響いた。テアは立ち上がり、彼女の元にクルーの一人が報告に駆け寄った。

 

「何事だ!?」

「艦長、“侵入者”です!」

 

 テアとヴィルヘルミーナの表情が険しくなり、明乃達も只事ではないと悟ると突然艦内の電信管から本来ならいる筈のない“男の声”がドイツ語で響いた。

 

《初めましてアドミナル・グラーフ・シュペーの諸君、突然だがこの艦は我々が占拠した。

我々の要求に応えてくれれば危害は加えない。因みに分かっているとは思うが即座に潜入占拠出来たのは我々が武装しているからだ、艦橋にいる乗組員は人質だ。

時間は限られている、人質は六人…五分置きに一人ずつ射殺していく。》

 

 其れは突然の危機であった。シュペーのクルーは震え上がり、テアとヴィルヘルミーナも唖然として立ち尽くす。

 

《我々の要求だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

アドミナル・シュペー艦長、君に選択権はない、即座な返答を…。教官艦及び各航洋艦もまだ此方には気付いていない、例え今気付いても助けに来るのに二十分近くは掛かる筈、あてには出来ないぞ?》

 

 考える間を与えない…、此方に気付かれず艦橋を占拠した時点で武装している事も明らか、そして人質を使った脅迫は確かめるなど出来はしない。テアは無言ながら申し訳ないと言わん…悔しげな表情を明乃に向けた。

 

「うん、分かってるよテアちゃん…。艦橋に行こう?」

「すまぬ、明乃…。」

 

 明乃はましろ・幸子・鈴の顔を見渡して力なく謝る。

 

「ゴメンねみんな、勝手に決めちゃって…。」

「…仕方ない…だろうな。」

 

 ましろも彼女の決定に賛同するが、幸子と鈴は抱き合って怖い気持ちを抑えていた。晴風の四人はテアとヴィルヘルミーナに連れられて艦橋へ向かった。

 艦橋内には三人のダイバースーツを着込み銃で武装した不審人物がおり脇には縛られたシュペーの乗組員が座らされていた。

 

『艦長…!』

 

 人質にされた乗組員は泣きながら助けに来てくれたテアに感謝をする。不審人物達は覆面をしていて顔が分からないがボディラインから女性が一人いるのが分かった。テアは苦しげに声を発し、人質の解放を求める。

 

「お前達の約束通りに晴風の者達を引き渡す。

仲間を解放してやってくれ…。」

 

 テアの言葉に不審人物が頷き、明乃達と人質が交換された。テア達は不審人物…謎のテロリストに屈してしまった事実を悔しがりながら彼等を睨む。テロリスト達は何やら頷き合った次の瞬間、“パンッ”と音がした。気付けばテロリストの一人が硝煙の立った拳銃を構えておりテアが崩れる様に倒れ込んだ。

 

「テア!!」

「テアちゃん!?」

 

 ヴィルヘルミーナがテアを抱き起こし明乃が彼女の名を叫ぶ。皆が戦慄し改めて彼等が本気である事を気付かされた。

 

「急所は外しているが時間が経てば出血多量で死ぬ。此れも時間稼ぎだ、悪く思うな?」

 

 まるで他人事の様に言い捨てテロリスト達は明乃達を連れてシュペーからの脱出を謀る。明乃は彼等の非情な行いに怒り、声を張り上げた。

 

「何でテアちゃんを撃ったの、そんな事しなくても私付いて行くのに!!」

「言ったろう時間稼ぎだ、此れ以上騒ぐなら何人か撃ち殺すぞ。」

 

 明乃は口を悔しげに口を噤む。銃で脅され歩かされる明乃達。左舷甲板まで出て艦下にあるであろう仲間の船に一人が前に出て合図を送った途端に敵の一人で背後を守っていた筈の女性テロリストがいきなり仲間を撃った。

 

「グアッ!?」

 

 明乃達に銃を突きつけていたテロリストが倒れ船に合図を送っていた一人が仲間である筈の女性に拳銃を向け女性テロリストも明乃達の前に立ち仲間に銃口を向けた。周囲を見ればシュペーの乗組員は一人もおらず、二人のテロリストは艦の端…女性テロリストは自分達の盾となっている。土壇場で明乃達は彼女に助けられたのである。

 

「な…何で…助けてくれたんですか…??」

 

 明乃に声をかけられた女性テロリストは覆面を自分で剥ぎ取って素顔を晒す。だが明乃にその顔に覚えはなく首を傾げた。

 

「ん~、話すと長いようで短いんだけどね。今はこの拮抗状態を何とかするからチョイと待っててね。」

 

 軽い口調ではあるが彼女…“床枝蓮美”は仲間…いや、自分達のリーダーであった男と銃を突き付け合い口端を引きつらせながらグリップを握る手に汗を滲ませた。


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