機動戦士ガンダムSEED 焔を刻む銀のロザリオ   作:ファルクラム

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PHASE-20「戦の担い手」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「CPU、回路断裂!!」

「機関出力、0.000000001パーセントまで低下!!」

「後部工作室、連絡不能!!」

「艦稼働率、7パーセントまで低下します!!」

「下部弾薬庫誘爆!! 手が付けられません!!」

 

 次々ともたらされる報告が、巨艦の命運が旦夕に迫っている事を如実に告げている。

 

 エンドレスの砲撃によって大破した大和は、既に全ての動力を停止し、激しい炎上を繰り返していた。

 

 バルムンクの直撃を受けた艦首部分は半ばまで千切れ、ひしゃげた状態で僅かに残っている下部装甲によって、辛うじて船体にくっついている状態である。そこに備わっていた筈のバスターローエングリンは砲身が引きちぎられ、辛うじて砲門部分の残骸だけが見えている。

 

 第1砲塔は爆発の衝撃で完全に吹き飛ばされ、影も見えなくなっている。第2砲塔は辛うじて原形を留めているが、甲板装甲がまくれ上がり、内部のターレットリングが歪んで旋回不能。当然、射撃不能である。

 

 弾薬庫に火が回り、爆炎は艦内を我が物顔で席巻している。今も小爆発はあちこちで沸き起こっていた。

 

 艦内でまともに稼働しているのは、ブリッジ周辺の数ブロックのみ。それもいつまで持ちこたえられるか判らない。

 

 後部甲板には辛うじて被害は周っていないが、機関はとっくに停止し、今は補助動力で辛うじて稼働している状態である。しかし、それも徐々にか細くなりつつある。

 

 と、

 

「僚艦カゲロウより入電、『我、アカツキを回収。フラガ司令の生存を確認』!!」

 

 通信担当オペレーターからの報告を聞き、ユウキは胸をなでおろした。

 

 ムウが敵の旗機と交戦して撃墜された旨は既に報告を受けていたが、どうやら無事に回収される事が出来たらしい。

 

 向こうは取りあえず問題なさそうだが、問題があるのは、むしろこちらである。

 

 次々ともたらされる被害報告を聞いていたユウキは、やがて意を決したように立ち上がってオペレーターに目をやった。

 

「艦内通信、まだ生きているか?」

「はい、辛うじて。ですが・・・・・・」

 

 ユウキの質問に対して、オペレーターは躊躇いがちに応える。

 

 既に回線は各所で寸断され、通話が届かない箇所も多数存在している。どこが無事で、どこがそうでないのか、オペレーターにも判らない有様である。

 

 だが、それでも良かった。

 

 ユウキは立ち上がると命じた。

 

「艦内全てに、私の名前で『総員上甲板』を発令しろ」

 

 その命令に、ブリッジにいた誰もが息を呑んだ。

 

 総員上甲板。

 

 その言葉の意味は、読んで字の如く「全乗組員は上甲板に上がれ」と言う、水上艦時代から通用している船舶の専門用語である。

 

 そして、その言葉が表す意味は、続くもう一つ別の言葉に全てが集約されている。

 

 すなわち、「総員上甲板、総員退艦せよ」と。

 

 大和が沈む。それは最早、避ける事の出来ない運命である。

 

 かつて、オーブ連合首長国がその威信を賭けて建造し、ヤキン・ドゥーエ戦役においてはL4 同盟軍の1隻として活躍。戦後も長く、オーブを守護し続けてきた世界最大最強の戦艦が沈もうとしていた。

 

 しかし、仮に沈むにしても、ユウキは艦長として最後の務めだけは果たさなくてはならない。すなわち、生きている乗組員を、少しでも多く助けるのだ。

 

 艦内通信が生きている範囲にいない人間には、声は届かないかもしれない。

 

 しかしそれでも、1人でも多くのクルーを助ける義務がユウキにはあった。

 

「総員上甲板!! 繰り返す、総員上甲板!! 総員退艦急げ!!」

 

 オペレーターが必死に呼びかける声を聞きながら、ユウキは立ち上がった。

 

「艦内のデータを全て消去したら君達も脱出しろ。味方艦への救難信号も忘れるな!!」

 

 そう言い置くと、ユウキは駆け足でブリッジを出て行く。

 

 艦長として可能な限りのクルーを助ける。ユウキが退艦するのはその後だった。その為に、通信が遮断されている区画には、自ら赴いて総員退艦の命令を伝えなくてはいけない。

 

 その最後の責任を果たすべく、ユウキは炎に席巻される大和の艦内をひた走った。

 

 

 

 

 

 戦艦大和が総員退艦作業を始めている頃、共和連合軍の猛攻を受けて陥落寸前の状態にあるオラクルでも、変化が起きようとしていた。

 

 その変化は全て艦内で行われている為、表面から確認する事はできない。

 

 だが、それがいかに恐ろしい事の前触れであるか、共和連合軍の中にその事を正しく認識している者は1人もいなかった。

 

「ジョイント、3番から58番まで解放確認」

「セパレート・シークエンス、82パーセント完了。なお継続中」

「メインジョイント5番、損傷により解除できません!!」

「構わん、工作班を派遣して爆破しろ!!」

 

 次々ともたらされる報告。

 

 それを聞きながら、指令室に立つイスカ・レア・セイランはほくそ笑んでいた。

 

 既に、共和連合軍の総攻撃を受けて、オラクルは破壊され尽くされている。傍から見れば、もはやまともに動く事すらできないとだれもが思う事だろう。

 

 だが、そうではない事は、目の前で進められている光景を見ると一目瞭然である。

 

 今もイスカの目の前では、オペレーター達がカーディナルの残した最後の作業を進めている所であった。

 

 共和連合の奴らは、さんざん叩いた事でオラクルの戦闘力は失われたと思っているだろう。

 

 何とも、愛しいまでに間抜けな連中ではないか。連中はこちらの底力を全く知らないのだから。

 

 今も無邪気に砲撃を繰り返してくる共和連合軍を、イスカは腹の中で嘲笑う。

 

 せいぜい、派手に暴れていればいい。そうやっている内に、お前等の大切な物を全部吹き飛ばしてやる。

 

 そこまで思考した時、オペレーターの1人がイスカに振り返ってきた。

 

「セパレート・シークエンス、準備完了しました。いつでも切り離し可能です」

「やれ」

 

 何のためらいも覚える事無く、イスカは短く命じた。

 

 命令に従い、シークエンスを実行するオペレーター達。

 

 その様子を眺めながら、イスカはやがて現出するであろう地獄を想像し、この上ない愉悦が湧き上がるのを止められないでいた。

 

 

 

 

 

 撃っても撃っても数が減らない。

 

 まるで無限に湧き出してくるような感さえあるドラグーンの群れを前にして、シンの疲労は秒刻みで増えていく感があった。

 

 蒼炎翼を羽ばたかせて、必死に回避運動を行うエルウィング。

 

 それに対してカタストロフは、合計40基のドラグーンを駆使して包囲、360もの砲門を駆使して、四方八方からビーム攻撃を仕掛けている。

 

 視界全てが光に満たされた光景は、ある意味、幻想的ですらある。

 

 しかし、それに見とれる事は、一瞬たりともシンには許されない。僅かでも隙を見せれば、その瞬間にはシンの命は光の中に飲み込まれている事だろう。

 

 本来なら既に、エルウィングの機体はビームによってハチの巣にされていてもおかしくは無い。

 

 にも拘らず、ここに至るまで被弾ゼロに留めているのは、エルウィングの機動力と、後付けで搭載されたエクシードシステムの性能、そして何より、最強クラスの実力を誇るシン・アスカの存在があればこそである。

 

 それら3つの要素が相乗効果を生み、絶望的な戦力差の中にあって、辛うじて状況を拮抗させていた。

 

 のみならず、シンは隙を見て反撃に転じる。

 

 僅かな攻撃のひずみを見付けると、迷う事無くエルウィングをそこへ飛び込ませる。

 

 進路を阻もうと、複数のドラグーンがビームを射かけてくるが、エルウィングの高速機動に追随できず、閃光はむなしく虚空をえぐるに留まる。

 

 同時に放たれるビームライフルの一射が、カタストロフに襲い掛かる。

 

 エルウィングの鋭い攻撃は、しかしカタストロフが前面に張り巡らせた陽電子リフレクターに阻まれて用を成さない。

 

 いかにエルウィングが高い機動力を発揮し、シンが超絶的な技巧を見せつけたとしても、物理的な要素として、陽電子リフレクターが立ちはだかる。

 

 それ故に、シンは臍を噛みながらも、追撃を警戒して機体を後退させるしかないのだ。

 

 だが、その光景を見て、レニは湧き上がる苛立ちを隠せずに舌打ちする。その脳裏には、徐々に湧き立つ焦燥感が加速度的に募ろうとしていた。

 

 自分の相手はこんな奴じゃない。

 

 自分は、死の天使を倒す為にここにいる。

 

 だと言うのに、それを邪魔する奴が現れ、自分の前に立ちはだかる事が許せなかった。

 

 激情を宿したレニの双眸が、蒼炎翼を羽ばたかせるエルウィングを睨み据える。

 

「そこを、どけェェェェェェ!!」

 

 一斉に放たれるドラグーン。

 

 圧倒的な破壊力を誇る360連装フルバースト。

 

 縦横無尽のビーム攻撃は、しかし蒼炎翼を羽ばたかせるエルウィングを捉えるには至らない。シンは包囲網が完成する前に、いち早く安全圏まで離脱する事に成功していたのだ。

 

 カタストロフの追撃を足元に見つつ距離を置きながら、背部の狙撃砲を跳ね上げるシン。

 

 砲門から放たれた閃光は、まっすぐにカタストロフに伸びていく。

 

 しかし、その前面に布陣したドラグーンがリフレクターを展開、エルウィングの攻撃を弾いてしまった。

 

「厄介だな!!」

 

 お返しにと差し向けられるドラグーンの追撃を逃れながら、シンは露骨に舌を打つ。

 

 バックヤードで戦った時と比べて装備が新調され、より防御力が強化されたカタストロフ。

 

 そのカタストロフは、エルウィングの攻撃を悉くリフレクターで弾いていく。

 

 対してシンも、カタストロフの攻撃は全て回避している為、今のところはまだ、両者とも無傷を保っている状態である。

 

 攻撃を全て回避するシンと、攻撃を喰らってもダメージが無いレニ。

 

 一見すると互角のようにも見えるが、そうではない事は一目瞭然である。

 

 いずれ疲労が蓄積すれば、シンは操縦に精彩を欠き被弾する事になりかねない。この戦い、時間は完全にレニの味方であった。

 

「どうにか、近付く事ができれば・・・・・・」

 

 全方位、隙間無く放たれた砲撃に対して、エルウィングを錐揉みさせて攻撃を回避するシン。同時に手にしたビームライフルを3連射するが、全てドラグーンのリフレクターに阻まれてカタストロフの本体まで届かない。

 

 そもそも、遠距離からの砲撃戦はシンの本領ではない。このように遠距離から攻撃するよりも、接近して斬り掛かった方が、まだ勝率は上がるだろう。

 

 だが現実問題として、カタストロフの火力とドラグーンにまで搭載された陽電子リフレクターの存在によって、接近できるルートは完璧に塞がれている状態だった。

 

 そこへ、ドラグーンが1基、エルウィングに不用意に近付いて来るのが見えた。

 

 その僅かな隙を、見逃すシンではない。

 

 エルウィングは右肩からヒエン・ビームブーメランを抜き放つと、サーベルモードで一閃、ドラグーンを斬り飛ばした。

 

 1基撃墜。ドラグーンの異常なまでの多さからすれば焼け石に水でしかないが、僅かずつでも数を減らして行かない事には、逆転の目も浮かばない。

 

 案の定と言うべきか、1基のドラグーンを撃ち落とした程度ではレニが怯む事も無い。むしろ怒りを増したように、さらに勢いを増してエルウィングを攻め立ててくる。

 

 その状況に、堪らずシンは機体を後退させながらも、思考はフル回転しながら、打つべき次の一手を模索する。

 

 どうする? 機動力ではエルウィングの方が勝っている。そのアドバンテージを活かしていったん振り切り、その上で仕切り直しを図るか?

 

 自身の中に浮かんだ考えを、しかしシンは即座に破棄する。

 

 ここでシンが後退したら、カタストロフは嬉々として共和連合艦隊に突入を図るだろう。そうなった時の大惨事は想像すらしたくなかった。

 

 エンドレスとカタストロフの猛攻の前に、エース級を含む多数の共和連合機が撃墜されている。ここでシンが後退してしまったら、最悪、それを奇禍として巻き返される可能性すらあった。

 

 こいつは、何としてもここで止める必要がある。

 

 決意を新たにして、カタストロフと対峙するシン。

 

 だが、そんなシンに向けて、レニは残っているドラグーンの砲門を向けて砲撃体勢を整えた。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちするシン。

 

 まるで、チェックメイトとでも言わんばかりの状況に、湧き上がる焦燥感がとめどなく溢れてくる。

 

 どうにか逆転して、次の一手を考えなければ。

 

 回避行動に移ろうとするシン。

 

 そのシンを追って、ドラグーンが砲門を向けてくる。

 

 1基に付き9門の砲が光りを帯び、一斉攻撃を開始する。

 

 そう思った瞬間、

 

 出し抜けに、複数のドラグーンが一斉に爆発を起こして消滅した。

 

「何ッ!?」

 

 驚いて目を剥くレニ。そして、それはシンも同様である。

 

 今にも攻撃を開始しようとしていたドラグーンが突如、横合いから攻撃を受けて吹き飛ばされたのだから、驚くのも無理はない話である。

 

 そんな2人が視線を向ける中、7連装フルバーストを構えたシロガネが、エルウィングを掩護するように飛翔してくるのが見えた。

 

「ラキヤか!?」

 

 シンが歓喜の声を上げる中、ラキヤはドラグーンの真っただ中にシロガネを飛び込ませると、両手にグリップしたライフルを駆使して、群がってくるドラグーンを片っ端から撃ち落していく。

 

《思った通りだ!!》

 

 抜刀したビームサーベルでドラグーンを斬り飛ばしながら、ラキヤは確信の籠った声で告げる。

 

《シン、ドラグーンは正面方向にしかリフレクターを展開できないッ 後方や側面から攻撃してやれば簡単に撃ち落せる!!》

 

 言いながらラキヤは、腰のレールガンでドラグーンを吹き飛ばしている。

 

 確かに、よく観察していればわかる。

 

 シロガネが放つ攻撃に対し、ドラグーンは正面から受けた物はリフレクターで弾いているが、側面から攻撃を受けた場合、ひとたまりも無く吹き飛ばされているのだ。

 

 小型でしかも9門もの砲を備えたドラグーンに、更にリフレクター機能まで追加したのだ。技術的な問題で、それほど凝った仕掛けにはできなかったのだろう。ただし、それでも高機動のドラグーンをもってすれば、小さな問題と考えられ実戦に投入したのだろう。

 

 エンドレス側に誤算があったとすれば、シンとラキヤと言う最強クラスのパイロット相手に、下手な小細工は通用しなかったと言う事だった。

 

 ラキヤはエルウィングとカタストロフの戦闘を観察していて、その事実に気付いたのだ。

 

「よし、俺が囮になる。ラキヤはその間にドラグーンを落としてくれ!!」

《了解、任せて!!》

 

 言い放つと同時に、シンはエルウィングの蒼炎翼を羽ばたかせてカタストロフへ向かう。

 

 向かってくるエルウィング。

 

 それに対してレニは、残っているドラグーンを引き戻して迎え撃とうとする。

 

「舐めるなァァァァァァ!!」

 

 一斉に放たれる攻撃。

 

 数を減らして尚、脅威的な閃光の嵐。

 

 しかし、シンもまた並みのパイロットではない。

 

 蒼炎翼が飛沫を散らして羽ばたくたび、ドラグーンの放つ攻撃は悉く空を切っていく。

 

 そしてエルウィングを追撃しようと、複数のドラグーンが攻撃態勢に入った瞬間、

 

 今度は横合いから攻撃を受けて、吹き飛ばされるドラグーンが続出する。

 

 シロガネを駆るラキヤは、その全火力を開放してドラグーンを捕捉、今にもエルウィングを攻撃しようとしている物から撃墜していく。

 

 これには、さしものレニも思わず臍を噛む。

 

 急速に数を減らしていくドラグーン。

 

 しかし、それでも尚、レニは執拗にドラグーンを集中させて、エルウィングを攻撃し続ける。どうやら、どちらか片方を先に潰した方が得策と考えているようだ。

 

 攻撃配置についたドラグーンから、一斉に放たれる砲撃。

 

 しかし、当たらない。

 

 もともと高い操縦技術を備えている事に加えて、回避に専念しているシンを、砲撃のみで捉えるのは至難を通り越して不可能に近い。

 

 加えてシンは、隙を見付けてはビームライフルや狙撃砲で反撃してくる。これはレニを挑発し、攻撃をあくまで自分に向けさせるための措置である。

 

「くそォォォォォォ!!」

 

 強烈なジレンマがレニを襲う。

 

 エルウィングを攻撃しようとすると、横合いからシロガネが砲撃してくる。さりとてシロガネの方に攻撃を向けようとすれば、今度はその隙を突いてエルウィングが反撃に転じてくる。

 

 2機の機動兵器は、まるでレニをからかうように交互に動き、カタストロフをけん制しようとしてくる。その光景に、苛立ちを隠せないのだ。

 

 その間にも急速に数を減らしていくドラグーン。40基あったドラグーンも、もはや、数えるほどしか残っていない。

 

「このォ!!」

 

 叫びながら、カタストロフに搭載されているアウフプラール・ドライツェーン、ツォーン、スーパースキュラ三連装複列位相砲、ミサイルランチャーを開放する。もはや、ドラグーンだけでは火力不足を補う事は不可能なレベルにまで陥っていた。

 

 照準はエルウィングと、そしてシロガネ。この段に至り、レニは1機ずつ潰すよりも、2機同時に相手にした方が得策であると切り替えたのだ。

 

 吹き上げる強烈な砲撃。

 

 直撃すれば、戦艦すら一撃のもとに撃沈できる砲撃が、シロガネとエルウィングを目指して吹き荒れる。

 

 それらをシンとラキヤは巧みな機動で回避、あるいはシールドや装甲で防御していく。

 

「落ちろ!! 落ちろ!! 落ちろォォォォォォ!!」

 

 狂ったように叫びながら砲撃を繰り返すレニ。

 

 その様子を、ラキヤは冷静に見据え、反撃に転じる好機と判断する。今なら、陽電子リフレクターに邪魔される事なく、攻撃する事が可能だと判断したのだ。

 

 展開される、シロガネの持つ7連装フルバースト。

 

 照準と同時に、ラキヤはトリガーを引き絞る。

 

「行け!!」

 

 放たれる7門の砲。

 

 一斉に迸る閃光。

 

 カタストロフの攻撃に比べたらはるかにか細いと言わざるを得ない攻撃だが、しかし、その攻撃はカタストロフの機体各所を次々と直撃、その身に装備している火器を次々と直撃、破壊していく。

 

 ビームライフルの攻撃がアウフプラール・ドライツェーンを中途から叩き折る。

 

 レールガンの弾丸が直撃し、胸部のスーパースキュラの砲門に亀裂が入る。

 

 ビームキャノンが命中し、後部ランチャー内に収められていたミサイルが一斉に誘爆、ユニットごと機体から引き剥がす。

 

 ヤタガラス複列位相砲の直撃を受けた頭部が、一撃の元に吹き飛ばされる。

 

 まるで解体業のように、瞬く間に破壊されていくカタストロフ。

 

 コックピットに座するレニは、どうにか体勢を立て直そうと躍起になる。

 

 しかし、遅い。

 

 殆どの武装を破壊され、沈黙状態にあるカタストロフ。

 

 そこへ、蒼炎翼を羽ばたかせたエルウィングが、ドウジギリ対艦刀を振り翳しながら急接近してくる。

 

「これでェ!!」

「させるかァ!!」

 

 叫ぶ、シンとレニ。

 

 レニはエルウィングの接近を阻むべく、残った3基のドラグーンを引き寄せて弾幕を形成しようとする。

 

 しかし、数刻前までの濃密な砲撃など望むべくもない。

 

 ドラグーンの攻撃をあっさりと回避するシン。

 

 そのままカタストロフの巨体へ急速に接近、ドウジギリを大上段に振り上げる。

 

 エルウィングが振り下ろす刃。

 

 それは、真っ向からカタストロフを斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーディナルが感じた物は、果たして「プレッシャー」とでも評すべき物だっただろうか?

 

 ハイネのゲルググ、大和、レイとルナマリアのギャン、そしてムウのアカツキまで排除し、更なる進撃を続行しようとしていたカーディナル。

 

 そのカーディナルが、とっさに振り仰いだ先から、それは姿を現した。

 

「・・・・・・・・・・・・来たかね」

 

 低い声が、エンドレスのコックピットに響く。

 

 その声にこたえるように、蒼炎翼を羽ばたかせた白い機体が、エンドレス目指してまっすぐに向かってくるのが見えた。

 

 とっさに回避行動を取るカーディナル。

 

 キラの駆るクロスファイアが砲撃を開始したのは、それとほぼ同時だった。

 

「行け!!」

 

 ビームライフル、レールガン、フィフスドラグーン。

 

 Fモードのクロスファイアから、襲い掛かる24連装フルバースト。

 

 その圧倒的ともいえる火力を前にして、カーディナルは余裕すら感じさせる動きで回避行動を取る。

 

「やはり、君が立ちはだかるか、キラ・ヒビキ!!」

 

 言い放つと同時に、背部に背負ったキュクロプスを砲撃モードに展開、クロスファイアめがけて砲撃を敢行する。

 

 巨大な指から放たれる20門の砲撃。

 

 それをキラは、リィスにオペレートさせながら、最適なコースを選択、蒼炎翼を羽ばたかせて回避する。

 

 同時にドラグーン無しの状態から、手持ち火器4門による砲撃を敢行、エンドレスの動きを牽制しに掛かる。

 

「あなたはここで止めるッ 絶対に!!」

 

 連続して放たれる砲撃だが、キュクロプスをスラスターモードに戻し、高速を発揮するエンドレスは、クロスファイアの攻撃をあざ笑うかのように自身を安全圏まで逃がしてしまった。

 

 キラの攻撃はそこで止まらない。

 

 更にフィフスドラグーンも呼び寄せて自機の周囲に配置すると、再び24連装フルバーストを仕掛けた。

 

 放たれる24門の砲撃。

 

 更にFモードの高速ロックオンを利用して、逃れようとするエンドレスに対して、間断無い攻撃を仕掛けていく。

 

 嵐のような攻撃を行うクロスファイアと、それを高速で回避していくエンドレス。

 

 どちらも、神業と評して良い戦闘状況である。

 

「流石だな、キラ・ヒビキ!!」

 

 言い放ちながらカーディナルは、クロスファイアからの砲撃を捻り込むようにして回避、同時にキュクロプスを1基だけ展開し、クロスファイアに対して牽制の攻撃を放つ。

 

「攻撃正面、来る!!」

 

 リィスの言葉に、とっさの反応を示すキラ。

 

 クロスファイア左手のビームシールドを展開し、エンドレスの攻撃を防ぐ。

 

 しかし、クロスファイアが防御に回った一瞬の隙に、ファーブニル・ビームサイズを抜き放ったカーディナルは、ターンして距離を詰めに掛かってくる。

 

 負けじとキラも、両手にブリューナク対艦刀を抜き放って構える。

 

 旋回して斬り込んでくる大鎌。

 

 対してキラは沈み込むようにして回避、同時に右の大剣を鋭く斬り上げる。

 

 下方から高速で迫るブリューナクの斬撃。

 

 それをカーディナルは後退しながら回避、同時に4基のキュクロプスを全力展開。尚も接近して斬りかかろうとしているクロスファイアに、正面から容赦なく20門の砲撃を浴びせる。

 

 これにはキラもたまらず、シールドを掲げながら後退するしかない。

 

《こうは考えられないかね!?》

「ッ!?」

 

 突然、オープン回線で響いてきた声に、キラが、そしてリィスも驚き、一瞬目を見開く。

 

 エンドレスの手にあるファーブニルが旋回し、キラはとっさに上昇して回避。同時にレールガンを展開して牽制の砲撃を浴びせる。

 

 対してカーディナルは、至近距離から放たれた砲撃を、シールドを展開して防御した。

 

《君は人類の先を行く最高のコーディネイターだ。君は望めば、誰もが欲して止まないであろう物を全て手に入れる事ができる!!》

「何をッ!?」

 

 突然の物言いに、キラは回避行動を取りながら言葉を返す。

 

 いったい、目の前の人物が何を言おうとしているのか、それを聞き逃すまいとしているかのようだ。

 

《そこにこそ、戦いの火種はあると言う事さ!!》

 

 力強く言い放ちながら、背部のバルムンクを取り出して構えるカーディナル。

 

 対してキラは、回避行動中で体勢が崩れた状態にある。

 

 発射される巨大な閃光。

 

 巨大戦艦すら一撃で撃沈するような強烈な攻撃が迫り来る。

 

 それに対して、

 

 キラはとっさにOSをDモードに変更する。

 

 装甲は漆黒に、翼は深紅に染まるクロスファイア。

 

 顕現する、魔王の如きシルエット。

 

 次の瞬間、クロスファイア残像を残しながら、その場から飛び退いて攻撃を回避してしまう。

 

 間一髪、バルムンクの砲門から放たれた砲撃は、残像を引き裂きながらクロスファイアの足下を掛け抜けて行った。

 

 旋回しながら体制の立て直しを図るキラ。対艦刀を構えて、斬り込む姿勢を見せる。

 

 それを追って、カーディナルもファーブニル・ビームサイズを振り上げる。

 

《人は誰しも、自分に無い物に憧れる。自分より高い力、自分より多い財力、自分より良い容姿にね。その全てを兼ね備えた存在、キラ・ヒビキ!!》

 

 振り下ろされる大鎌の一撃を、キラは上昇して回避。同時にブリューナクを並走連結させてツーハンデットモードにすると、大上段に振りかぶった。

 

「何が言いたい!!」

 

 20メートル以上に及び刃を、軽々と振り回すクロスファイア。

 

 しかし、その攻撃も、カーディナルが機体を後退させた為、空振りに終わる。

 

《人は誰かに憧れる物なのだよ。故に、君のような存在があるからこそ、人は君に憧れ、君のようにありたいと足掻く。戦争とは、そうした過程の上で起こる物なのだ!!》

 

 エンドレスの背部で緊急展開されたキュクロプス。そこから放たれた20門の砲撃を、上昇を掛ける事で回避するキラ。

 

 同時にビームライフルを取り出し、レールガンと合わせて4門による砲撃を行う。

 

 その攻撃を回避するカーディナル。同時にキュクロプスをスラスターモードに戻して噴射、クロスファイアから距離を置きにかかる。

 

 対してキラも紅炎翼を羽ばたかせると、逃げるエンドレスを追って双剣モードのブリューナク対艦刀を振り翳す。

 

《つまり、突き詰めれば、君と言う存在が戦争の温床となっているのだよ!!》

「ふざけるな!!」

 

 叫ぶと同時にスラスターを全開、更に加速するキラ。

 

 これ以上、この男の言葉は聞くに堪えない。一気に距離を詰めて葬る。

 

 そう決めてブリューナクを振り上げた。

 

 次の瞬間、

 

 出し抜けに、クロスファイアの進路を阻むように、複数の閃光が撃ちかけられる。

 

「なにッ!?」

「敵機複数、上方、急速接近!!」

 

 リィスのオペレートを受け、振り仰ぐキラ。

 

 果たしてそこには、複数のグロリアスが向かってくる光景が映し出されている。

 

 その全てがドラグーンストライカーを装備している親衛隊機だ。

 

《君ほどの存在と戦おうと言うのだ。これくらいの仕込みは、してくるのが当然だろう?》

 

 そう嘯くカーディナル。

 

 その口元には、勝利を確信した者のみが刻む、笑みが見て取れた。

 

 

 

 

 

PHASE-20「戦の担い手」      終わり

 


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