機動戦士ガンダムSEED 焔を刻む銀のロザリオ   作:ファルクラム

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PAHSE-15「血戦の刻」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘を開始する共和連合軍とエンドレス。

 

 ついに、最後の決戦の幕が切って落とされたのだ。

 

 虚空に隠れ、破滅の炎を齎そうとしていたオラクル。そのオラクルを捕捉する事に、ついに成功した共和連合軍の各艦隊からは、続々とモビルスーツ隊が発進。オラクルを目指して飛翔する。

 

 それに対して、エンドレス側の対応も素早かった。

 

 立ち上がりこそ共和連合軍に先制を許したものの、ただちに体勢を立て直すと、オラクルに搭載しているモビルスーツ隊に発進を命じる。

 

 地球連合軍からの脱走組が大半の構成員を占めるオラクルは、それだけに数も多く、それだけで一国家に匹敵するほどの軍勢を擁している。対して共和連合軍は、長引く戦乱による消耗や、欧州戦線の敗北などにより戦力の大半を失っている状態である。

 

 この戦場にあっては、両者の差は無きに等しい。事実上、どちらが勝利してもおかしくは無い状況であった。

 

 オラクルの上空では、すでに両軍の機体が入り混じり、砲火を閃かせている状態である。

 

 エンドレスに所属するモビルスーツ隊は、クロスファイアの攻撃によって損傷を負ったオラクルを守るように前面に展開、砲撃を集中させて共和連合軍の進撃を阻もうとしてる。

 

 更にオラクルの大型ハッチからは、巨大な人影が次々とせり上がってくるのが見える。

 

 ジェノサイドだ。

 

 恐らく宇宙戦闘用に改良を加えた機体であろうが、共和連合軍はあの悪魔の兵器まで戦線投入して共和連合軍を防ごうとしている。

 

 まさに総力戦だった。

 

 その中で、共和連合軍の露払いを務めるように、虚空を疾駆する機体がある。

 

 クロスファイアだ。

 

 オラクルに対する先制攻撃を見事に成功させたキラとリィスは、そのまま戦線に留まり、迎撃のために上がってくるエンドレス機目がけて24門の砲を駆使して砲撃を浴びせている。

 

 蒼い翼が虚空を斬り裂くたびに、エンドレスの隊列には確実に大穴があいていくのが分かる。

 

 エクシードシステムFモードを起動して砲撃戦能力を強化したクロスファイアは、蒼炎翼を羽ばたかせてエンドレス部隊の中へと踊り込むと、フィフスドラグーン機動兵装ウィング、ビームライフル、クスィフィアス・レールガンを放ちながら縦横無尽に駆け抜け、片っ端からエンドレス機を撃墜していく。

 

 その圧倒的な機動力と、常識の埒外にいる砲撃を前にして、エンドレス兵は近付く事すらできずに撃墜される機体が続出する。

 

 秒間200の目標をマルチロックオンできるFモードの砲撃は、まさに一軍すら凌駕する火力を実現していると言える。

 

 しかしエンドレスも、カーディナル自身が選抜してスカウトしただけの事はある。クロスファイアの攻撃によって生じた陣形の穴をすぐさま塞ぎ、部隊の再編を行う事で進行を阻んでくる。

 

 その中でも一部の機体は、1機だけ突出しているクロスファイアを討ち取ろうと、取り囲んで砲門を向けてくる。

 

 対してキラは、エンドレスの動きをリィスのオペレーションで察知し、次の手を打つべく行動に移した。

 

 ビームライフルをハードポイントに戻し、代わりにアクイラ・ビームサーベルを抜き放つクロスファイア。

 

 モードFとなって砲撃戦仕様になったクロスファイアだが、しかしイコールそれで、接近戦能力が低下する。と言う訳ではない。

 

 そもそも、片方を強化した結果、片方の能力が低下したのではただのコントだろう。それでは本末転倒も甚だしい。

 

 エクシード・システムの本質とは、簡単に言ってしまえば「余剰ボーナスの配分」だ。

 

 普段は眠らせてあるストック分を、システムを起動させる事によって格闘優位に振り分けるか、それとも砲撃優位に振り分けるかと言う違いがあるだけの話である。

 

 故に、Fモードだから格闘戦が苦手、と言う事は全く無い訳である。ただ格闘戦を優位に戦う場合はDモードが、砲撃戦メインで戦う場合はFモードの方が、それぞれ効率が良いと言うだけの話である。

 

 クロスファイアが駆け抜けると同時にサーベルが振るわれ、2機のグロリアスが頭部と腕を斬り飛ばされて戦闘能力を奪われてしまった。

 

 キラの超絶とも言うべきサーベル捌きは、この最終決戦の場にあってもなお健在である。

 

 このまま敵陣の奥深くまで斬り込むか。

 

 そう思った瞬間だった。

 

 出し抜けに放たれた閃光が、クロスファイアの進路を塞ぐように放たれ、キラはとっさにブレーキを掛けるようにして機体を急停止させ後退を掛けると同時に視線を、ビームが飛来した方向へと振り向ける。。

 

「あれは!?」

 

 呻くように声を発するキラ。

 

 キラが向けた視線が振り仰ぐ先には、銃剣のような刃を持つライフルを掲げた漆黒の機体がクロスファイアめがけて突き進んできていたのだ。

 

 ダークナイトが駆るエクスプロージョンである。

 

《キラ・ヒビキ、お前は、今日、ここで!!》

 

 くぐもった声を発するダークナイト。

 

 全身から刃を乱立させて斬り込んでくるエクスプロージョン。

 

 視覚センサーの奥から狂気に染まった眼光を放ち、ダークナイトはクロスファイアを睨みつけている。

 

「やめるんだ、アーヴィング大尉!!」

 

 対してキラは後退し、あるいはシールドで斬撃を防ぐ事によってエクスプロージョンの攻撃を回避しながら、相手のパイロットに対して必死に呼びかける。

 

 既にキラは、あの機体のパイロットがクライアスであると、ほぼ確信している。しかしだからこそ、判らない事もあった。

 

 クライアス・アーヴィングは、騎士特有の傲慢さは多少あり、出会った当初はキラやエストを露骨に蔑む事はあった。しかし長く共に旅を続けるうちにそうした態度は討しれて行ったし、何よりスカンジナビアの人の幸せを第一に考えていた、誇り高い人物だった。

 

 そのクライアスが、なぜ地球連合軍に、そして今はエンドレスにいるのか。そしてなぜ西ユーラシアを滅ぼし、オーブまでも滅ぼそうとする行為に加担しているのか。

 

 考えれば考える程に、キラはダークナイトの心理が読めなくなるようだった。

 

 距離を置くと同時に、クロスファイアは全武装を展開、24連装フルバーストを叩き付ける。

 

 FモードのOSによってもたらされる嵐のような砲撃はしかし、巧みに回避しながら接近してくるエクスプロージョンを捉える事はない。

 

 ダークナイトはクロスファイアから放たれた全ての砲撃を回避すると、両翼、両手首、両膝、両脛、両爪先のビームソードを展開、更にビームサーベルを両手に構え、合計12本の刃を振り翳してクロスファイアへ斬り掛かっていく。

 

《キラ・ヒビキ、その、首、貰ったァァァ!!》

 

 叫びながら斬り掛かってくるダークナイト。

 

 対抗するように、キラもまたクロスファイアの両手にアクイラ・ビームサーベルを構えて向かっていく。

 

「させ、るかァ!!」

 

 クロスファイアとエクスプロージョン。

 

 両者は互いに刃を閃かせて、凄まじい斬り合いを演じている。

 

 その壮絶な戦闘は、他者が迂闊に介入する事ができない程に、激しさは尚も増加する傾向にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和から全機発艦を終えたフリューゲル・ヴィント各機は、アスランとラキヤの指揮の元、そのまま大和直掩とした周囲に配置して進軍している。

 

 その間、無理な力攻めは避け、全機、大和の周囲に張り付く形で護衛にあたっている。戦闘としては、時折近付いて来るエンドレス機は、砲撃を集中させて撃墜するくらいである。

 

 最強の精鋭特殊部隊としては聊か地味な戦闘であるが、これにはれっきとした理由があった。

 

 度を越えて巨大なオラクルを撃沈するには、モビルスーツが装備する程度の火力をチマチマと叩き付けたのでは埒が明かない。

 

 そこでユウキは大胆な計画を立てた。

 

 火力が足りないのなら、必要充分な火力を近くまで持っていって叩き付ければば良い。と言う訳である。

 

 大和の艦首に搭載されているバスターローエングリンなら、有効射程距離まで入り込めば、確実にオラクルの装甲を貫通して内部に大ダメージを与える事ができるはず。

 

 そこでユウキは、フリューゲル・ヴィント各機に大和の直掩を依頼し、その上で艦ごと最前線まで進んでオラクルへ艦砲射撃を浴びせる作戦を採用した。

 

 敵陣深く斬り込んで行くのだから、少数精鋭の方が何かと都合がいい。小回りが利くし、それに万が一敵に囲まれた場合でも、少数の方が却って動きやすい物だ。そう言う意味でフリューゲル・ヴィント程、この作戦の適任はいないだろう。

 

 奇しくもこれは、かつてユウキの師でもある故ジュウロウ・トウゴウ名誉元帥が提唱した「艦機一体」をユウキなりに体現した物である。

 

 「艦機一体」とは即ち、戦艦とモビルスーツを独立して運用させるのではなく、それぞれをひとまとめにした一個の戦闘単位として活用、運用する事を旨とした戦術、兵器システムの事を差す。

 

 大和の巨大な火力を大いに活用する為に、フリューゲル・ヴィントが鉄壁の護衛を行い、的中を一気に突破する、という作戦は、正に「艦機一体」の最たる具現であると言える。

 

 現在、大和の右舷側をアスラン率いる第1中隊が、左舷側をラキヤが率いる第4中隊がガードし、向かってくるエンドレス機に砲撃を浴びせている。

 

 キラの第2中隊とシンの第3中隊は事実上欠番扱いだが、2人にはそれぞれ、遊軍としてと立ち位置を保持してもらい、自由に動いて貰っている。

 

 キラのクロスファイアは敵陣深くで尚も暴れまわっており、シンのエルウィングは、大和の直上に占位しながらビームライフルや狙撃砲を構えて大和の進軍を掩護していた。

 

 このまま進軍を続け、大和による艦砲射撃を行う。同時に、後続してきた共和連合軍本隊も攻撃に加わり、オラクルを撃沈に追い込む。

 

 それがユウキの立てた作戦の全容だった。

 

 うまく行けば、オラクルのような巨大艦を短時間に撃沈する事も不可能ではないと考えている。

 

 しかし、エンドレス側も、その可能性を予期していなかった訳ではない。

 

「本艦直上、天頂方向より接近する艦影あり!! エンドレス艦隊と思われます!!」

「何ッ!?」

 

 オペレーターからの報告に、ユウキはとっさにメインモニターを振り仰ぐ。

 

 そこには、砲撃を行いながら大和めがけて接近してくる一群の艦隊が映し出されている。どうやらエンドレスは、潜航するオラクルの護衛として、艦隊を付かず離れずの位置に並走させていたらしい。

 

 ユウキは帽子の壽で目元を隠しながら、僅かに舌打ちを漏らす。

 

 やはり、油断ならない相手と言うべきか、こちらが襲撃を掛ける可能性も考慮していたと言う事だろう。

 

 だが、ユウキの対応も素早かった。

 

「主砲、1番、2番、3番、全砲塔、目標、上空の敵艦隊!! 前部、および後部副砲塔も全て狙うんだ!!」

 

 鋭い命令を下すユウキ。

 

 全火力を持って迎え撃ち、その間も進撃を続行するのだ。

 

 ここまで来て大和が攻撃を受け、撃沈とまで行かずとも大損害を被ったりしたら、オラクルへの攻撃が不可能となってしまう。それだけは、何としても避けたいところだった。

 

《俺が行く、掩護を!!》

 

 その時、鋭い声と共に蒼炎の翼が羽ばたき、エンドレス艦隊に向かって飛翔してくのが見えた。

 

 シンのエルウィングである。

 

 シンもまた、敵艦隊が大和を目指して進軍したのを見て、この状況を打破すべく動いたのだ。

 

 確かに、シンならフリーハンドで動く事ができる為、身軽に動ける分、こうした事態にはうってつけの人材である。

 

 飛翔するエルウィング。

 

 それに対してエンドレスもまた、迎え討つように迎撃機を繰り出してくるのが見える。

 

「どけェ!!」

 

 叫ぶと同時に、シンはエルウィングをさらに加速させる。

 

 同時に、手にしたドウジギリ対艦刀を振り翳す。

 

 たちまちの内に、3機のグロリアスを斬り捨てられるのが、大和の艦橋からも見えた。

 

 その様子を見て、ユウキは帽子を目深に被りながら頷きを見せる。

 

 現在、フリューゲル・ヴィントには避けるだけの戦力的余裕はない。敵艦隊への押さえはシンに期待するしかないのだ。

 

「砲撃、エルウィングを掩護。ただし、機関出力は落とすな。目標はあくまでオラクルだと言う事を忘れるな!!」

 

 自身の頭上へ向けて、全砲門を振り上げて砲撃を開始する大和。その砲撃は、エルウィングに向かって砲撃を行おうとしていた機体を次々と捕捉、撃墜する事でシンの進撃を助けている。

 

 更に、大和が放った主砲の一斉発射は、先頭を進むエンドレスの戦艦1隻を一撃の元に火球へと変じる。竣工から6年経って尚、世界最強戦艦としての威容を見せ付けた形である。

 

 しかし、その間にもユウキの目は、鋭くオラクルの巨体を睨み据えている。

 

 自分達の目標はあくまでもオラクルのみ。それ以外に目を向けている暇は無かった。

 

 

 

 

 

 共和連合軍の先頭を、黄金の翼をはためかせた機体が飛翔していく。

 

 オオトリパックを装備したアカツキは、全軍の先頭に立ちながらドラグーンやビームキャノン、ビームライフルを放って、迫り来るエンドレスに砲撃を浴びせている。

 

 数において、共和連合軍とエンドレスの間にはそれほどの差がある訳ではない。まともなぶつかり合いでも、双方充分な戦闘が可能である。だからこそ、双方ともに兵力を運用する指揮官の質が問われるわけである。

 

 ムウは全軍の先頭に立って、指揮をすると同時に自身も最前線を突き進んで行く。

 

 これはムウがこれまで貫いてきた指揮官先頭のスタイルは、今この場にあっても有効に機能している。

 

 指揮官が自ら危険な場所へ率先して赴き、そして兵士達と一緒になって砲火に身を晒す。その姿を見せるだけでも、軍隊と言うものは大いに士気が上がるものなのである。

 

 ましてかムウも、ただのパイロットではなく、自身が歴戦のパイロットである。その戦闘力においても疑念が上がる余地は無い。

 

 アカツキが黄金の輝きを放つたび、共和連合軍の士気は大いに高まっていった。

 

 しかし勿論、エンドレス側もそれを黙って見過ごしていると言うような事は無い。アカツキが共和連合軍の要となっているのなら、ようはそのアカツキを排除してしまえば良いと言う訳である。

 

 最前線で奮戦を続けるアカツキ。

 

 そのコックピットに座するムウは、自身に向かってくる機影がある事に気付いた。

 

「3機、例の奴等か!?」

 

 相手の正体を即座に看破し、ムウはアカツキを振り返らせる。

 

 地球連合軍にトライ・トリッカーズと言う、三位一体の連携攻撃を得意としたチームがると言う事は、既に情報部の報告で知っていた。

 

 そして、オーブ沖で対峙した事もある3機編成のストライク級機動兵器で編成された部隊。あの連中が見せた高度な連繋プレイから察するに、あれこそが噂のトライ・トリッカーズなのでは、とムウは推察している。

 

 そのトライ・トリッカーズが、再びムウの前に姿を現して襲い掛かってきていた。

 

「アカツキ、奴さえ倒せば、オーブ軍は烏合の衆になる筈。今度こそ倒すよ!!」

 

 ブリジットとシノブに言い放ちながら、ルーミアは速度を上げてアカツキへと襲いかかっていく。

 

 その様子を、ムウはドラグーンを引き戻しながら見据える。

 

「こいつら、この前とは装備が違うだと!?」

 

 トライ・トリッカーズの3機、イントルーダー、イラストリアス、インヴィジブルの3機は、トライアングルストライカーと言う、新装備を使っている。これは昔、ムウが乗機にしていた初代ストライクの実験的装備だったIWSPに似ている。どうやら、その後継武装であるらしかった。

 

 フォーメーションを組んで、一斉攻撃を開始するトライ・トリッカーズの3人。ライフルのビームとレールガンの弾丸が、アカツキに向かって飛翔していく。

 

 対してムウは、後退しながらドラグーンを放ち、トライ・トリッカーズの動きをけん制しにかかる。

 

 火力と機動力では決して劣っているとは言い難いムウ、加えて彼女達1人1人と比較した場合、技量的にはムウの方が格段に上である。だが、しかしそれでも、三位一体の完璧な連繋を見せるトライ・トリッカーズを相手にしては、ムウと言えど危険は免れない。

 

 加えて、さらに重大な危機が迫っている。

 

 指揮官であるムウが個人の戦闘に専念してしまうと、部隊の指揮が取れなくなってしまうのだ。これが重大な危険に直結する可能性がある事を考えると、ムウはトライ・トリッカーズとの戦闘を早期に切り上げて、指揮に戻るべきところなのだが。

 

 しかし、ルーミア達は巧みな連繋でアカツキの攻撃を逸らし、鋭く反撃してくるため、ムウとしてはなかなか離脱の隙を見出す事ができなかった。

 

「このッ しつこいっての!!」

 

 直撃コースにあったビームをヤタノカガミ装甲で強引に弾き、ムウは一気に勝負を掛けるべく、双刃型のビームサーベルを抜いて斬り込んで行く。

 

 狙ったのはイントルーダー。

 

 自分にしつこく食い下がってくる高機動型の機体を、まず初めに排除しようと考えたのだ。

 

 しかし、振るわれる斬撃は、狙ったイントルーダーがとっさに後退を掛けた為、目標を斬り裂く事無く駆け抜ける。

 

「そんなもんに、当たるか!!」

 

 嘲笑うように言い放ちながら、アカツキと距離を置くルーミア。同時にビームライフルで牽制の射撃を浴びせながらアカツキから距離を置いていく。

 

 その間に、ブリジットのインヴィジブルが、アカツキに対して照準を付ける。

 

「貰った!!」

 

 アグニ改の砲門をアカツキへと向けるブリジット。

 

 その砲門が放たれようとした瞬間、

 

 突如、四方から別の攻撃が一斉に降り注ぎ、インヴィジブルの進路を阻んできた。

 

「なッ!?」

 

 驚くブリジット。

 

 その間にも攻撃は続き、四方から放たれる攻撃を前に、ブリジットはアカツキ攻撃を断念して後退するしかなかった。

 

「な、何よこれ!?」

 

 驚愕しながら、体勢を立て直そうとするブリジット。

 

 そこへ、アカツキを掩護するように、3機の機体が飛翔してくるのが見えた。

 

《掩護するぜオッサン!!》

《ここはあたし達がやります!!》

《攻撃開始。これより、アカツキを掩護する》

 

 オレンジのゲルググ・ヴェステージと、赤と白のギャン・エクウェス。

 

 ハイネ、ルナマリア、レイの機体である。

 

 3人は指揮官であるムウが、トライ・トリッカーズの巧みな連繋戦術に拘束されているのを見て援護に駆け付けたのだ。

 

 3人はそれぞれ速度を上げると、それぞれの目標に向かって飛びかかっていく。

 

 それらを見ながら、ムウもまた遅れまいとしてアカツキを前へと出す。

 

「援護に感謝する。だが、俺はオッサンじゃない!! まだ!!」

 

 微妙にずれたツッコミを言い放つと同時にドラグーンを射出、トライ・トリッカーズを包囲するように展開するムウ。

 

 援軍を得た事で、ようやくアカツキは本領を発揮しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和から離れ、シンはエルウィングを駆ってエンドレス艦隊へと飛翔してる。

 

 その間に立ちふさがるグロリアスを片っ端から大剣で斬り捨て、蒼炎翼を羽ばたかせるエルウィング。

 

 当然、エンドレス側も1機だけ突出してくるエルウィングに対して、これ幸いにと砲撃を集中させてくる。

 

 しかし、当たらない。

 

 残像を引きながら飛翔するエルウィングは、攻撃全てを悉く回避してのける。

 

 そして接近。

 

 真っ向から振り下ろされるドウジギリが、グロリアスを容赦なく切り捨て、尚もその足を止める事は無い。

 

 シンの進撃を前にしては、歴戦のエンドレス兵と言えど烏合の衆でしかないと言う事だ。

 

 ただ1機から成る進撃。

 

 しかし、誰もがエルウィングを、シンを止める事ができないでいた。

 

 このまま一気に艦隊に取り付けるか。

 

 シンがそう思った瞬間、

 

 出し抜けに起こった強烈な砲撃によって、思わずシンは進撃を中断し回避行動を余儀なくされた。

 

「何だ!?」

 

 突然の奇襲攻撃を受け、シンは苛立ったように急かびながら、カメラをビームが飛来した方向へと向ける。

 

 振り仰いだ視界の先。

 

 そこには見覚えのある機体が、手にした長大なライフルを振り翳して向かってくる光景が見て取れた。

 

「来たな、『オーブの守護者』ッ 貴様が来るのを待っていたぞ」

 

 ヴァニシングを駆る謹厳な声で言い放ちながらウォルフは、長大なペネトレイトライフルを放ち、急速にエルウィングへ突撃していく。

 

 迫り来るヴァニシング。

 

 それに対して、シンもまたその姿を確認して機体の体勢を立て直しながらドウジギリを構える。

 

「またお前かよ!?」

 

 ヴァニシングからの攻撃を回避しながら、シンは苛立ちを込めて叫ぶ。

 

 恐らくファントムペインの隊長機と思われる機体。これまで何度も対峙しながら、結局決着には至っていない相手だ。

 

 正直、互いに手を知り尽くしてしまっているが故に、戦いにくい相手である。

 

 狙撃砲を展開して、ヴァニシングの動きを牽制するエルウィング。

 

 しかし、砲撃速度、威力はヴァニシングのペネトレイトライフルの方が速い為、シンはなかなか有効な射撃体勢を確保できないでいる。

 

 エルウィングが放った砲撃を、ウォルフは難なく回避してしまうと、更なる砲撃を浴びせてシンを追い込もうとしてくる。

 

 そのまま、ズルズルと押し切られそうになるシン。

 

「何なんだよ、お前等は!?」

 

 叫ぶシン。

 

 それは何も、相手からの答えを期待しての問いかけではない。ただ、自分の中に生じている疑念とわだかまりを解消したいがために放った言葉だった。

 

「何で、こんな事をしようとするんだよ!?」

 

 敵国とは言え地球に核を打ち込み、多くの民を死に追いやろうとするエンドレス。それだけでなく、自国の民まで核の炎で焼き尽くした彼等の真意が一体どこにあるのか、シンには全く見えてこなかった。

 

 その声に対して、

 

 意外にも返事が帰って来た。

 

《愚かな事を聞く物だな、「オーブの守護者」よ》

 

 ペネトレイトライフルを放ちながら、ウォルフはシンの問いかけに対して低い声で言葉を返す。

 

《貴様等が戦争を終わらせる事を望むのなら、我らは戦争が継続する事を望む。ただ、それだけの話だ》

「何だと!?」

《誰もが、平和を望んでいると思うのは、貴様等の傲慢に過ぎない。中には戦争を継続する事で充足を得ようとする者も少なくは無い。だからこそ、と言うべきだろう。戦争を必要としている者は少なくは無いと言う事さ!!》

 

 飛来する閃光の砲撃を、シールドで防ぎながら、シンは舌打ちする。

 

 戦争を欲し、戦いに身を置くことを喜びとする人間。そんな物が存在していると言う事すら、シンにとっては想像の埒外の事である。

 

 そんな事をして、いったい、誰が、どんな得をすると言うのか?

 

 しかし、これだけははっきりしている。

 

 目の前の男と、自分は決して相容れないのだと言う事が。

 

 自分は戦争を終わらせる為に戦っている。勿論、その想いに矛盾がある事は自覚しているが、その想いを忘れた事など一度も無い。

 

 だからこそ、目の前にあって戦争を肯定する発言を発した男とは相容れないと感じたのだ。

 

「ふざ、けるなァ!!」

 

 放たれた砲撃をドウジギリで斬り飛ばしながら、シンは絶叫に近い声を発する。

 

 あいつを相手に砲撃戦では埒が明かない。戦うなら接近戦にするべきである。

 

 判断を下すと同時に蒼炎翼を展開、エルウィングは残像を引きながら突撃していく。

 

 振りかざされるドウジギリ対艦刀。

 

 その姿を見据え、

 

 ウォルフはニヤリとほくそ笑んだ。

 

 同時にヴァニシングの両肩の装甲が開き、内部に格納されていたミサイルが一斉に放たれてエルウィングへと向かう。

 

「そんな物が、どうしたってんだ!?」

 

 VPS装甲を装備したエルウィング相手に、今さら実体弾のミサイルを放ってどうしようと言うのか?

 

 そう思った瞬間、

 

 シンの目の前で、飛来したミサイルが一斉に起爆、炸裂した。

 

「何ッ!?」

 

 目を剥くシン。

 

 恐らく近接信管を仕込んでおり、目標に接近すると起爆するようにしていたのだろう。全てのミサイルが、エルウィングの直前で爆発してしまう。

 

 しかし、命中前にミサイルを炸裂させて、いったいどうしようと言うのか?

 

 そう思った瞬間、シンは愕然とする。

 

 コックピット内のモニターやセンサーの大半が、作動不能になってノイズを映している。

 

 恐らく、ミサイルの中にはジャミング素材が詰められていたのだろう。それらが一斉に炸裂した事で、エルウィングの周囲一帯、センサーの作動効率が低下してしまったのだ。

 

《貴様を仕留めようと言うのだ。これくらいの仕込みはしてくるさ!!》

 

 言い放つと同時に、ペネトレイトライフルを構えるウォルフ。

 

 その視界の先には、死角を奪われて立ち尽くす事しかできないエルウィングの姿が映り込んでいた。

 

 

 

 

 

PAHSE-15「血戦の刻」      終わり

 


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