機動戦士ガンダムSEED 焔を刻む銀のロザリオ   作:ファルクラム

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第1部
PHASE-01「戦場にありて」


 

 

 

 少年は、戦争を勝利に導き、守護者としての役割を全うした。

 

 

 

 

 

 少女は、翼を失う代わりに、愛を取り戻した。

 

 

 

 

 

 青年は、少女を守って生きて行く事を誓った。

 

 

 

 

 

 それぞれが熱い思いを掲げ、全ての力を振り絞って、それぞれの運命を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 そして今、

 

 

 

 

 

 時代は再び、この男を戦いの場に召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緩やかに落下する感覚の中、視界全てが赤く染め上げられる。

 

 機体外部の温度は、既に人体など一瞬で融解させるレベルにまで達している。

 

 不規則に揺れる振動の中で、操縦桿を握る手は、暴れそうになる機体を制御する事に集中している。

 

 一瞬でも機を逸らせば、その瞬間自分達の体は放り出され、バラバラに砕け散るだろう。

 

 固く握りしめられた掌。

 

 しかし、緊張しているわけで無い。むしろ、心は波の無い水面(みなも)のように、揺らぎなく穏やかな様相を現している。

 

 この手の作戦は既に何度もこなしている。もはや手慣れた物だ。もっとも、初めてやった時はその後で気を失い、しばらくひどい体調不良に悩まされる羽目に陥ったが。

 

 しかしあれから5年経ち、あのころに比べれば機体の性能も、そして自分自身の腕も上がっている。他の人間なら尻込みする程難易度の高い任務も、大した障害も無くこなす事ができる。

 

 計器に目を走らせる。

 

 目標高度に達するまで、もう間もなく。ここに至るまでは、特に妨害らしい妨害を受ける事も無く順調そのものだった。

 

 だが、急ぐ必要があった。

 

 元々、戦局的には有利とは言えない状況にある。ここで敗れるような事があれば、味方は体勢を立て直す事も出来ずに、そのままズルズルと押し切られる事にもなりかねない。

 

《目標高度到達まで、あと120秒です。戦闘開始の準備を》

 

 慎重に高度を下げていく中、コックピットのスピーカーから、聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

 まるで機械音声のように淡々とした声だが、自分にとっては何物にも勝る福音である。

 

「そっちの調子はどう?」

《問題ありません。機体に異常はありませんので》

 

 事務的に答える声に対し、思わず苦笑する。こういうところは子供の頃から変わっていないと、微笑むべきか呆れるべきか迷ってしまう。

 

「そうじゃなくて、君自身は何か異常は無いかって事」

 

 最近は昔ほど人形めいた言動は見られなくなってきているが、それでもまだまだ、こうした会話の機微には慣れていないようだ。

 

 質問に対して、やや考えるような間があった後、返事が返される。

 

《ラクスが作ってくれる、お菓子が食べたいです》

 

 その、間の抜けた返答に、思わず操縦をミスりそうになった。返事の内容があまりにも予想の斜め上を行きすぎていたのだ。

 

 もっとも、いい加減長い付き合いなので、今のは彼女なりの「おねだり」だと言う事は把握している。

 

 ようするに「今度暇になったら連れて行け」と、暗に言っているのだ。

 

「そうだね、仕事が片付いたら、久しぶりに行ってみようか」

 

 言っている内に、高度はどんどん下がっていく。

 

 間もなく、不規則な振動も収束し始めた。

 

「その為にも、早めに仕事を片付けよう」

《はい》

 

 やがて、景色が一変し、灼熱色の風景から、白色の靄がかかった大パノラマに変じる。

 

 自力で大気圏を突破した者だけが見る事ができる壮大な光景である。

 

 同時に、計器にセットしたアラームが鳴り響く。

 

 予定高度に到達。ここからは真面目なお仕事となる。

 

《大気圏突入成功。作戦開始600秒前》

「空力による姿勢制御。戦場上空までの突入コース確認!!」

 

 風を受けて、大きく減速する機体。

 

 同時にメインノズルを噴射して、下方に落下していた機体は、前方に向けて推進を開始する。

 

「突入用装備、解除!!」

 

 操作を行うと同時に、機体を覆っていた大気圏突入用の追加装備がばらけるように解除、その下から戦闘機形態の機体が姿を現す。

 

 その背中に掴まるようにして、パートナーの機体が鎮座している。

 

 目指す眼下。

 

 そこでは、瞬く閃光と巨大な爆炎が踊っているのが見える。

 

「突入ポイントを確認!!」

《味方は既に、戦力の4割を喪失、壊滅状態です》

 

 パートナーからの報告に舌打ちを漏らす。

 

 だから、もっと早く自分達を呼んでおけば良かったのだ。負け戦が確定してから自分達を呼ばれたのでは、流石に逆転は無理だ。

 

 だが、それも無理の無い話である。

 

 向こうは正規軍、こっちは傭兵。正規軍の兵士達からすれば、傭兵ごときに頼りたくないと言うプライドもあるだろうし、何より彼等からすれば、傭兵など報酬次第で明日は敵にまわっているかもしれない野良犬だ。だから、負けが確定しているような過酷な戦場に投入される事になる。

 

 もっとも、それで戦局が押されていたのでは、笑い話にもならないが。

 

 センサーが、こちらに向かってくる機影を捉えた。どうやら、接近に気付かれたらしい。

 

 眦を上げる。

 

 望むところだ。

 

 こちらに向かってくるなら、その全てを相手にしてやるまでだった。

 

「行くよ、エスト!!」

《はい、キラ》

 

 鋭いキラの叫びに、唱和するエスト。

 

 2人は頷き合うと、速度を上げて戦場上空へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユニウス戦役の終結から始まった反地球連合運動はやがて大きなうねりとなり、中小国家群は、こぞって地球連合脱退を宣言、次々と独立運動を開始した。

 

 中で最も過激な運動を行ったのは、ユーラシア連邦西側の勢力であろう。

 

 この地域はユニウス戦役中期には、既に地球連合からの脱退を表明していたが、それに対し地球連合軍は、巨大機動兵器デストロイを用いた大量虐殺を敢行、ベルリン、アムステルダム等4つの都市が壊滅。多くの死傷者を出し、それに数倍する難民が発生した。

 

 この事が、戦後になって西ユーラシア独立運動を、更に加速させる結果となった。

 

 壊滅した4都市の住人は元より、西ユーラシア一帯に住む多くの人々の間で、反地球連合感情は一気に高まった。

 

 これに伴いコズミック・イラ75年1月2日。西ユーラシア独立解放軍と名乗る武装勢力が武力蜂起を行い、駐留する地球連合軍部隊に対して攻撃を開始した。

 

 後の世に「欧州戦役」の名称で呼ばれる事になる戦いは、当初、地球連合軍上層部は西ユーラシア独立の動きを軽視し、現地部隊に迎撃を命じる以外の行動は行わなかった。

 

 西ユーラシア「軍」と言っても、実質はレジスタンスに毛が生えた程度の戦力でしかなく、大半はモビルスーツすら保有していない部隊ばかりである。その為、現地部隊だけで対処は可能と判断したのだ。

 

 だが、実際には彼等の思惑は外れた。

 

 西ユーラシア軍は潤沢な資金でもって傭兵を雇い入れ、地球連合に対抗、瞬く間にその勢力圏を広げていた。

 

 更に、この欧州地区における独立運動に呼応して、北の大国スカンジナビア王国が支援と武力介入を行うに至り、欧州地区における戦力比は、一気に西ユーラシア軍側に傾いた。

 

 そして同年11月8日、スカンジナビア・西ユーラシア連合軍はユーラシア連邦首都ブリュッセルまで陥落させるに至り、ついに地球連合は重い腰を上げて、本格的な武力鎮圧を開始した。

 

 しかし、この地球連合の動きをけん制する勢力があった。

 

 先のユニウス戦役において大西洋連邦と争った、オーブ連合首長国とプラントである。

 

 オーブ、プラント、スカンジナビア、そして、それら3国の友好国から成る「共和連合」を樹立。西ユーラシア軍に対して独立支援を行ったのである。

 

 こうして欧州一帯は、地球連合軍と共和連合軍が争う戦場となった。

 

 だが、戦況は共和連合にとって、決して楽な物ではなかった。

 

 欧州の戦場では主に、西ユーラシア軍とスカンジナビア軍の部隊が主力となっているが、その中で、ユニウス戦役や、その2年前のヤキン・ドゥーエ戦役における実戦経験がある者は僅かである。

 

 対する地球連合軍の将兵には、実戦経験者が多数を占めている。

 

 その差が、戦局に大きな影響をもたらしていた。

 

 今回の戦闘においても、主力を成すスカンジナビア軍が無理な進軍を強行した結果、地球連合軍の縦深陣に引き込まれて大打撃を受ける結果となっていた。

 

 キラとエストがスカンジナビア王国からの要請に応じて出動した時には、既に戦局は共和連合軍にとって覆しがたいレベルにまで達していた。

 

 

 

 

 

 

 

 エスト・リーランドは、長く愛機にしているウィンダムを飛び立たせると同時に、背中に装備したジェットストライカーを展開、戦場上空へと踊り込んだ。

 

 広い戦場を駆ける上で、最も重要な要素となるのは機動力である。それを考えると、ジェットストライカーは最適な装備と言える。

 

 視界の彼方には、こちらに向かって飛んでくる地球軍の機体が見える。機種は、同じウィンダムだ。

 

「ターゲットを捕捉。数は4、これより攻撃を開始します」

 

 淡々とした口調で言い放つと同時に、ウィンダムの右手に装備したライフルを撃ち放つ。

 

 対抗するように、エスト機に対して攻撃を仕掛けてくる地球軍側のウィンダム隊。

 

 両者の間で交わされる、閃光の応酬。

 

 自身に向かって飛んでくる閃光。

 

 それらをエスト機は高機動で回避、あるいはシールドを掲げて防御しながら突撃する。

 

 至近に迫る、互いのウィンダム。

 

 距離が詰まると、それだけ砲撃の精度も上昇する。

 

 エスト機から放たれる攻撃。

 

 その一撃が、ウィンダム1機の頭部を破壊する。

 

 1機撃墜。しかし、残りのウィンダムは、怯んだ様子も無く向かってくる。

 

 至近距離まで間合いに入った瞬間、3機のウィンダムはサーベルを引き抜いて向かってくる。距離が近すぎる場合、砲撃では同士討ちの危険性もある。その可能性を考慮して、接近戦に切り替えたのだ。

 

 だが、

 

「無駄です」

 

 低い呟きと共に、エストのウィンダムが大地を蹴って駆ける。

 

 抜刀される光刃。

 

 すれ違いざまに、エスト機から閃光が空を斬る

 

 その瞬間には、ウィンダムは背中のジェットストライカーを斬り裂かれて落下していく。

 

「残り、2機」

 

 着地しながら振り返るエストの可憐な眼差しが、地球軍機を鋭く睨む。

 

 地球軍のウィンダムは、もう一度ライフルを抜こうとしているのが見える。どうやら、再び距離を置いての砲撃戦に移行する気らしい。

 

「遅いです」

 

 しかし、エストはそれを許さない。

 

 スラスターを全開にして距離を詰めると、サーベルを振るい、1機のウィンダムの右腕を斬り飛ばす。

 

 最後の1機は、味方の全滅を見ても尚、エストに向かって立ち向かってくる。

 

 まだ戦意を失っていないらしい。敵ながら、見上げた戦闘意欲である。

 

 だが、

 

 エストは一旦機体を上昇するような機動を取らせる。

 

 それだけで、敵機の光刃は空振りして地面を抉る。

 

 眼下に見える地球軍機。

 

 降下と同時にサーベルを一閃するエストのウィンダム。

 

 降下によって威力を底上げした一撃は、地球軍のウィンダムの右肩を根元から切断した。

 

 地球軍のパイロットからすれば、あっという間の出来事を前に唖然としている事だろう。

 

 戦闘力を奪われ、後退していくウィンダム。

 

 戦闘に対する意欲は認めるが、エストの相手をするには役者不足だった。

 

「次の相手は・・・・・・」

 

 呟きながら、センサーを巡らせるエスト。

 

 その視界の彼方では、戦線を大きく崩しながら後退していく味方部隊の姿が見える。彼等が安全に撤退を完了するまでには、まだしばらく時間がかかりそうだった。

 

 だが、問題は無い。

 

 絶望は、するだけ時間の無駄と言う物だろう。

 

 なぜなら向こうには、最強の男が行っているのだから。

 

 

 

 

 

 キラ・ヒビキは戦闘機形態のライキリを駆って飛翔すると、迷う事無く激戦区に飛び込んだ。

 

 地上にいる機体は、ライキリの接近に気付いて砲火を吹き上げてくる。

 

 しかし、

 

「そんな物、当たらない!!」

 

 速度を上げて、上空から機首を下げて一気に突撃するライキリ。

 

 他人なら躊躇うような急降下突撃を、キラは迷う事無く実行する。

 

 そして、地上に激突する寸前、

 

 キラはライキリを人型に変形させると、両手にビームライフルを構えて、腕を水平に伸ばす。

 

 地上で風車のように、回転するような機動を描くライキリ。

 

 同時に連射される、両手のビームライフル。

 

 光の車輪が回転するような光景は、駆け抜ける度に地球軍機を巻き込んで行く。

 

 狙いは正確にして激烈。

 

 攻撃は苛烈にして精密。

 

 ライキリを囲んでいた地球軍機は、吹き抜けるビームを前に次々と戦闘力を奪われていく。

 

 たちまちの内に、腕が、足が、頭が、武装が吹き飛ばされ、地面に転がる機体が続出する。

 

 大破した機体は無い。

 

 立ち上る砂埃。

 

 中央に動きを止めて立つライキリ。

 

 その周囲では、10機以上のウィンダムが戦闘力を喪失した状態で転がっていた。

 

 次の瞬間、凍りついた時間が動き出す。

 

 ライキリが動きを止めたと見るや、周りの地球軍機は、一斉に襲い掛かってくる。

 

 突然現れた敵の圧倒的な攻撃を前に、呆然としていた地球軍だが、相手が1機と見るや、すぐに体勢を立て直して討ち取ろうと迫ってきたのだ。

 

 だが、

 

 それをキラは素早い眼差しで見据えると、ビームサーベルを抜いて一気に斬り掛かっていく。

 

 ライキリは、両手にビームサーベルを構える。

 

 地を蹴って、跳躍するように突撃するライキリ。

 

 その加速力を前に、地球軍側は対応できない。

 

 斬線が数度、瞬くように走る。

 

 次の瞬間、ウィンダムは手や足を次々と斬り飛ばされた。

 

 ライキリは開発から3年が経過し、決して新しい機体と言う訳ではない。既にマイナーチェンジも限界を迎えつつあり、列強各国は新型機の実戦投入を急いでいる。

 

 にも拘らず、他者を圧倒するほどの戦闘力を発揮している。地球軍は焦ったように攻撃を仕掛けてくるが、キラの操縦能力に追いつく事ができない。

 

 四方八方から奔る火線は、ただの1発もライキリを捉える事はない。

 

 業を煮やした地球軍兵士は、ウィンダムのビームサーベルを構えて斬り掛かる。

 

 キラの死角となる、背後から斬り掛かろうとするウィンダム。

 

 その光刃が迫った瞬間、

 

 キラは鋭く、ライキリを振り返らせると同時に腕を振るう。

 

 一閃される刃。

 

 それだけで、ウィンダムはサーベルを持った右腕を斬り飛ばされた。

 

 更にキラはライキリの左腕に装備したシールドを投げ捨てると、もう一本のサーベルを抜き様に一閃、ウィンダムの左腕も斬り飛ばす。

 

 戦闘力を失ったウィンダムは、這う這うの体で後退していく。

 

 まさに、圧倒的と言うべきだった。

 

 キラとエストの傭兵ペアを前にして、如何に地球軍が大軍とは言え、烏合の衆に過ぎない。

 

 それまでは調子に乗って進撃していた部隊も、2人の戦闘力を前にして動きを止めざるを得ない。

 

 キラとエストはまさに、たった2人から成る最強の防衛ラインである。

 

 もっとも、これだけの活躍をしても戦況が覆る事は無い。劣勢の味方に比べて、敵があまりにも多すぎた。

 

 倒しても倒しても、敵はその次の瞬間には倒した数の倍以上湧いてくるのだから、たまった物ではない。

 

《キラ!!》

 

 エストのウィンダムが、ビームライフルを放ちながらキラのライキリの横に並んだ。

 

 並んでライフルを放つ、ライキリとウィンダム。

 

 その間にも、次々と敵部隊が迫ってくる。

 

 この戦線も、いつまでも維持できるわけではない。2人の機体にも、やがて限界が来る。味方の援護を継続できる時間も限られていた。

 

「・・・・・・仕方がないね」

 

 キラは決断する。

 

 引き際を見極めるのも、傭兵としての必須技能の一つである。負ける戦場に拘泥するのは愚かな行為でしかない。

 

 だが、それをするにしても、この敵に囲まれた状況を打破しない事には、どうしようもなかった。

 

「エスト、敵中央に斬り込みをかけよう」

 

 キラは周囲の状況を確認してからエストに告げる。

 

 この状況だ。下手に後退しようとすれば、却って背中から集中砲火を食らいかねない。

 

 それよりも、あえて戦線の中枢に飛び込む事で敵の動揺を誘い隙を作り、それに乗じて脱出するのだ。可能性としては低いが、敵の指揮系統を破壊して混乱させる事も期待できる。

 

《掩護します》

 

 全て心得ている。と言外に言いながら、エストはウィンダムのビームライフルを構え直す。

 

 キラとは既にいくつもの戦闘を共に戦ってきた。キラの戦い方を、エスト程熟知している者はいないだろう。

 

 キラがフォワードでエストがバックス。このフォーメーションもまた、2人にとって必勝の布陣である。

 

 ライフルを放つウィンダム。

 

 同時にライキリは、戦闘機形態に変形して突撃する。

 

 一気に敵陣を突破して、敵中枢へ一撃、その後反転してエスト機を拾い、後は一目散に離脱する。

 

 それが、キラの組み立てた作戦だった。

 

 高速で飛翔するライキリ。

 

 対して地球軍部隊が攻撃を仕掛けてくるが、その全てが空を切る。あまりに高速で飛翔している為、地球軍機の照準が追いつかないのだ。

 

 どうにかライキリを捉えそうになっているウィンダムに対しては、後方から援護するエストが的確に狙撃して戦闘力を奪っていく。

 

 駆け抜けるキラ。

 

 その視線が、後方で指揮を行っている指揮車両を捉えた。

 

「あれさえ潰せば!!」

 

 変形と同時に、ビームライフルを構えるウィンダム。

 

 これで終わり。

 

 そう思った瞬間、

 

 飛来したビームによって、ライフルが吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 至近距離で起こった爆炎が、一瞬カメラを白色に染め上げる。

 

 爆発でバランスを崩しかけるライキリ。

 

 破壊されたライフルを、とっさにパージするキラ。

 

「クッ!?」

 

 ライフルの爆炎から逃れるように、シールドを翳して後退するライキリ。

 

 振り替える先。

 

 そこには、見た事も無いような機体が、ライキリに向けて銃口を向けていた。

 

「あれは!?」

 

 データライブラリに無い機体。恐らく、地球連合軍の新型機だ。

 

 GAT-X119「サイクロン」

 

 共和連合軍の抵抗に業を煮やした地球連合軍が、戦線に投入した新型機動兵器である。

 

 かつて地球軍が世に送り出したシルフィード、トルネード、ストームと同じ流れをくむ機体である。

 

 主武装である複合銃剣ダインスレイブを主力装備とし、接近戦と砲撃戦、双方に対応可能となっている。

 

 そのサイクロンの中で、

 

「ターゲット確認。目標殲滅を目指し、攻撃を開始します」

 

 地球連合軍中尉レニ・ス・アクシアは低い声で呟き、ライフルモードのダインスレイブを放つ。

 

 少女は、その鋭い双眸に、キラのライキリを捉えている。

 

 銃口を向けられると同時に、キラはとっさに回避行動を選択する。

 

 飛来するビーム。

 

 その攻撃を、

 

「クッ!?」

 

 キラはとっさに機体を翻して回避する事に成功する。

 

 同時に、残ったライフルを掲げて、反撃に転じるキラ。

 

 火を噴く、ライキリのビームライフル。

 

 放たれる砲火はしかし、高機動を発揮するサイクロンを捉えるには至らない。

 

 逆にサイクロンは、背部から有線式のガンバレルを一斉に射出する。

 

 先の大戦の時点で、既に地上用のオールレンジ攻撃の先鞭をつけていた地球軍。その後、3年で技術的な進歩も進み、充分な性能強化もなされていた。

 

 4基のガンバレルが、次々とライキリに襲い掛かってくる。

 

 縦横に迫りくるビーム。

 

 一切の死角を排した攻撃は、圧倒的なまでの制圧力でもって、間合いの中へと攻め込んでくる。

 

 キラは巧みにライキリを操り、紙一重で攻撃を回避していく。

 

 オールレンジ攻撃を行う敵とは、あのラウ・ル・クルーゼはじめ何度も対峙し、その全てを相手に互角以上に戦い続けてきている。

 

 故に、その攻撃パターンを読む事も難しくない。地上でも使えると言っても、基本的にドラグーンもガンバレルも宇宙でこそ最大限の性能を発揮する武器だ。地上での使用は、どうしても、制御から攻撃開始までに若干のタイムラグが生じる。そこを突けば勝利するのも難しい話ではない。

 

 しかしガンバレルは、執拗とも言える的確さでライキリを追いかけてくる。

 

「クッ これ程とは!?」

 

 死角を極力減らすような攻撃は、キラになかなかな反撃の隙を与えない。

 

 地球軍のガンバレル技術が、これほどまでに上がっているとは思わなかった。そして、それを操る敵パイロットの技量にも舌を巻かざるを得ない。

 

 ガンバレルの攻撃を、辛うじて回避するライキリ。

 

 そこへ、ダインスレイブを掲げたサイクロンが斬り込んでくる。

 

《クッ キラ!!》

 

 キラの危機に気付き、掩護射撃を行うエスト。

 

 ウィンダムから放たれるライフルの閃光が、真っ直ぐにサイクロンへと向かう。

 

 しかし、

 

「遅い」

 

 レニの低い呟き。

 

 同時にサイクロンは、ウィンダムの攻撃をビームシールドを展開して防ぐ。

 

 反撃に放たれる、ダインスレイブによる砲撃。

 

「クッ!?」

 

 対してエストも、攻撃を諦めて回避に専念せざるを得ない。

 

 エスト機を攻撃する為に、動きを止めたサイクロン。

 

 そこへ、

 

「貰った!!」

 

 キラのライキリがビームサーベルを翳して斬り掛かる。

 

 光刃の一閃。

 

 しかし、その攻撃は一瞬早くサイクロンが上昇を掛けたため、捉えるには至らなかった。

 

 飛び上がったサイクロン。

 

 それを見上げるキラ。

 

 レニは無言。

 

 ただ、ダインスレイブの銃口がライキリに向けられる。

 

「クッ!?」

 

 回避できないか!?

 

 キラがそう思った瞬間。

 

 突如、飛来した閃光が、ダインスレイブの銃身を撃ち抜き吹き飛ばした。

 

「ッ!?」

 

 思わず、目を見開くレニ。

 

 吊られるように、キラもまた視線をビームが飛来した方向へ視線を向けた。

 

 そこには、

 

「そんな・・・・・・あれは!?」

 

 思わず絶句し、目を見開くキラ。

 

 砂埃舞う戦場。

 

 この世に現出した地獄の中を、亡者が這い回る中にあって、

 

 神々しいまでに輝く、12枚の蒼翼を広げた熾天使の姿がそこにあった。

 

「・・・・・・・・・・・・フリーダム!?」

 

 かつての愛機である機体の名を、キラは呆然と呟く。

 

 白、青、黒のトリコロール色の機体。更に、その象徴とも言うべき12枚の翼。

 

 降臨した機体は間違いなく、フリーダム級機動兵器だった。

 

 フリーダムは装備する全砲門を展開すると、その代名詞とも言うべきフルバースト射撃を敢行する。

 

 嵐の如く迸る、強烈な砲撃。

 

 圧巻とも言える閃光の奔流は、居並ぶ地球軍の機体を片っ端から撃ち抜き、吹き飛ばし、容赦なく撃墜していく。

 

 地球軍側の方でも、フリーダムが強敵であると認識したのだろう。一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 

 しかし、フリーダムは華麗に空を舞いながら全ての攻撃を回避、お返しに自身の砲撃を浴びせかけ、着実に地球軍の機体を撃墜していく。

 

 その様子を、キラはライキリのコックピットで呆然と眺めていた。

 

「これほどとは・・・・・・」

 

 以前は自分で操っていた機体である為、その圧倒的な火力を自ら目の当たりにする事は殆ど無かったが、こうして性能の遥かに劣る機体に乗っていると、フリーダムの圧倒的な火力が良く判る。

 

 地球連合軍の機体は、成す術も無く次々と破壊されていく。

 

 レニもまた、フリーダムの圧倒的な火力の前に成す術も無い状態である。

 

 フリーダムの攻撃をシールドで防ぎつつ、少しずつ後退していく。

 

 その様子を見て、キラは動く。

 

「エスト、今の内に撤退するよ!!」

 

 これ以上の撤退支援は、流石に限界である。大気圏降下から即時に戦闘加入と、ハードな作戦展開であった為、ライキリもウィンダムも消耗が激しかった。

 

 飛び上がると同時に、キラはライキリを戦闘機形態に変形させ、急激にターンして加速する。

 

 飛行しながら、ウィンダムの頭上をフライパスするライキリ。

 

 そのタイミングを見計らい、エストは機体を上昇させ、ライキリの上部に飛び乗る。

 

「行くよ、しっかり掴まって!!」

《はい!!》

 

 速度を上げて、戦線を離脱するキラとエスト。

 

 最後にキラは、もう一度だけ戦場の方を振り返る。

 

 そこでは、尚も猛威を振るい続けるフリーダムの姿があった。

 

 

 

 

 

PHASE-01「戦場にありて」      終わり

 




ある意味、これこそが、私が一番やりたかった事かも知れません。
ただ、アフター物と言うのは、設定だけ借りた一次創作に近いと考えています。それだけに前2作に比べ、より一層、慎重な執筆、考察、校閲が必要になるでしょう。
正直、終わらせる事ができるかどうか、自信はありません。
それでも、蛇足にならないように頑張っていきます。

何卒、宜しくお願い致します。

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