ハイスクールD×D  一誠の魔神伝説    作:新太朗

35 / 37
護衛と誤算

7~8月は日本の学生にとって夏休みなので殆んどの学生が夏を満喫する事だろう。そんな日に冥界に北欧ユグドラシルの主神オーディンが降り立った。

服装は茶色スーツを着て、まるで893のご隠居のような風貌を出していた。

 

「ようやく到着かのぉ?老体にはちと堪えるわい」

 

「そうですね。私も腰が……」

 

「なんじゃ?ロスヴァイセ、もう歳か?」

 

「オーディン様?」

 

ロスヴァイセの顔は笑っていない笑顔を浮かべており、それを見た者は恐ろしさのあまり腰を抜かすだろう。それだけの破壊力を持っていた。

 

「い、イッセーはどこかのぉ?」

 

「帰ったら覚悟してくださいね♪」

 

「…………」

 

その時、オーディンは夏だと言うのに小刻みに震えていた。するといきなり一誠が二人の前に現れた。『ウロボロス・ボーン』を使い転移してきたのだ。

 

「お待たせオーディンの爺さん。……どうしたんだ?震えて」

 

「な、何でもないわい!!」

 

オーディンがそれ以上何も話さなかったので一誠は聞かない事にした。オーディンが何をしたのかは大体の予想はついてる。北欧に居た時に似たような事はそれなりにあったのでオチも分かっているで一誠は軽く流した。

 

「それにしても護衛が俺とロスヴァイセさんだけって……大丈夫なのかよ?」

 

「ほっほっほっ……むしろその方が仕掛けてくるじゃろ?」

 

そのためにオーディンの護衛は戦乙女のロスヴァイセと一誠だけにした。その上、ユグドラシルや他の神話勢力にはロスヴァイセ以外の護衛はいないと公表していた。

今回、オーディンが一誠の冥界行きをすんなり許可したのはこれが目的だったのだ。誰とは言わないが、一誠の事を未だ危険視している誰かを炙り出そうとしているだ。

それで掛かればよし、掛からなくても近い内にチャンスがあると勘違いしてくれる。

 

「一応、ゼノヴィアやヴァーリ達も呼べばすぐに来てくれるようにしている」

 

「それはなんとも心強いのぉ」

 

「あの連中は俺抜きでも十分強いからな」

 

聖剣デュランダルの使い手にして一誠の眷属神のゼノヴィア。

 

歴代最強の白龍皇にして先代魔王ルシファーの血族のヴァーリ。

 

元SS級はぐれ悪魔で一誠の二人目の眷属神で猫魈の黒歌。

 

初代孫悟空の末裔の美猴。

 

聖剣コールブランドの使い手でアーサー王の末裔のアーサー・ペンドラゴン。

 

その妹で魔女のルフェイ・ペンドラゴン。

 

贔屓目で見なくても十分、強いメンバーになっていた。並みの上級悪魔では太刀打ち出来ずに最上級でも相手よっては勝てる。

それだけのメンバーが今や一誠の下に付いていた。するとオーディンの顔がニヤけていた。

 

「爺さん。悪い顔になっているぞ」

 

「構わん構わん。それよりどうじゃ?こっちは」

 

「昨日、行ったパーティがあるんだけど、そこに居た上層部の悪魔?ってのが性格が最悪であれじゃ未来は無いな」

 

一誠は昨日、魔王に招待された六大名家次期当主お披露目会のパーティに参加していた。と言っても魔王に頼まれて嫌々参加してのだ。

そこでは次期当主が自身の夢を発表してが、上層部の悪魔の何人かが、ソーナ・シトリーの夢を馬鹿にする発言をした。

それに対して彼女の眷属の匙元十郎が反論しようとしたがソーナに止められた。彼は悔しいのか下唇を噛み締めていた。

 

ここで一誠がその上層部の悪魔に「他人の夢を馬鹿に出来るって事はそれは立派な夢を持っているんだろうな?」と聞いた途端、彼らは黙ってしまった。

彼らに他人に自慢出来るだけの夢など無い。まして他人の夢を馬鹿に出来るほど立派な夢など持っている訳が無い。

 

一誠が言った事が気に入らないかったのか上層部は一誠を会場から強制退去させるように魔王に進言したが、サーゼクスは逆にその上層部達を睨み付けて黙らせた。

それにパーティに参加していた全員が驚いた。一誠の事をあまり詳しくない者からしたら一誠はオーディンの代理の人間の子供、と言うのが認識になっている。

 

それだと言うのに自分達の上に立つ魔王が頭を下げた。それによって力関係は魔王より一誠が上だと嫌でも分かってしまった。

それからは気まずいパーティになってしまった。その後、ソーナは一誠にお礼を言ったが、一誠は「イラっとしから」と笑顔で言った。

ソーナと眷属達はその笑顔にドン引きしてしまった。

 

「……なるほどのぉ」

 

「本当に同盟とか組むのか?」

 

「いや、同盟ではなくただの協力じゃよ。オーフィスに対してだけじゃが」

 

「なるほど……」

 

オーディンは最初から決めていた。今回、どのような好条件だろうと三大勢力と同盟等などの手を組むような事はしないと。

それどころか他神話勢力と裏でテロリストに対しての協力関係を構築していた。もちろん、三大勢力はまったく知らない。

 

「三大勢力はまったく知らないんだよな……」

 

「ほぉほぉほぉ……同盟を結ぶだけの価値が無かった連中が悪いのじゃよ」

 

「……爺さん」

 

これには一誠はドン引きしてしまったが、一樹の事を考えた瞬間、どうでもよくなってしまった。

 

(まあ、一樹がいるからどうでもいいか……)

 

今や興味すら無い双子の元兄の事を一瞬考えてすぐに頭から消した。両親から捨てられてから一日も忘れずに憎しみだけを募らせてきたのに今はその影すら無い。

業火のように燃え一日も消えた事がなかったのにだ。それなのにどんな感情も一樹には無い。

まるでそこに誰も居なかったように。

 

(どうしてなんだろうな……)

 

一誠はあの日、一樹達をボコボコにした日からずっと考えていたが、今はオーディンの護衛の事が最優先だと気持ちを切り替えた。

その後の魔王との会食や総督、天使長などの話し合いはスムーズに進み。これと言って問題は起こらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレモリー邸の一樹に当てられた部屋は荒らされた後のように荷物などがゴチャゴチャしていた。その部屋に居る一樹は頭を抱えていた。

 

(どうしてだ!?どうしてだ!?どうしてなんだ!!?)

 

こうして彼が頭を抱えているのは先日行われた六大名家のレイティングゲームの結果になる。彼のグレモリー眷属は初戦の相手のシトリー眷属に大敗を帰した。

次期当主同士がぶつかる事でいい刺激になるだろうと企画されたものだった。そこでリアスは落ちた評価を取り戻そうと躍起になっていた。

そんな中、一樹は余裕を取り戻していた。何故なら彼は相手チームがどのように動くのか『知っている』のだから。

 

しかし彼はまだ気がついてはいなかった。相手チームの動きが分かったとしてそれに対応出来るかは別問題だ。

そもそも彼の知る物語は大きくズレている事にまったく気がついていない。そうなったのは小猫が自分の力を早くに受け入れて一樹の知る『原作』より強くなっていたからだ。

これなら不参加のギャスパーの分も補えると考えたからだ。

 

ソーナ戦でギャスパー・ヴラディは不参加だった。その理由は屋敷に引き篭もっていたからだ。会談前に封印状態を解除された彼だったが、引き篭もりがちな彼の性格をたった数日で変えられるはずもなく、ズルズルと先送りにしていたのだ。

そして会談の時にテロリストに『神器』を利用された事が彼の更なるトラウマを作るきっかけになってしまったのだ。

 

それでギャスパーは他人を避けるようになり、同じ学年で仲が良かった小猫ですら避けるようになり、以前にも増して引き篭もるようになった。それでもリアスは強引に連れて行こうとした所、自分で瞳を傷つけるような行動に走り入院する事になった。

これがギャスパー・ヴラディがソーナ戦で不参加だった理由になる。

 

これが一樹の計画を大いに狂わせる事となる。そもそも眷属の質では勝っていても数や連携の部分で負けていた。

ソーナは自分の眷属の能力をしっかりと把握していたが、リアスは自分と朱乃と一樹しか把握していかった。一樹もまさかリアスが自分達しか把握していなくて、アーシアと木場、小猫の事を把握していないとは思ってもみなかった。

 

だからリアスが立てた作戦はガタガタだった。一樹から相手の行動を聞かされていたのにだ。リアスはどうして一樹がソーナ達の行動が分かったのは聞かなかった。

それで嫌われたくなかったからだ。

しかしリアスが一樹に相手の行動を知っていたのかを聞いていれば少しはマシな未来があったのかもしれない。

 

だが、リアスは聞かなかった。またしても彼女はターニングポイントを間違ってしまった。負の連鎖が続き落ち続けた。

本来なら彼女は眷属と共に栄光を手にしたいたのに、だ。変えれる場面は今までいくつもあった。しかしリアスはそれをものに出来なかった。だが、全てリアスが悪いとは一概には言えない。

 

何故ならリアスの今の性格を構築した過程には両親の影響を強く受けているからだ。それでもこれまでの悪行はリアスが全て悪いと言えるだろう。

両親や隠居した者もリアスの性格を知ってどうしてこうなるのか疑問が尽きなかった。

だからこそなのかグレモリー家では誰もがリアスと距離を置いていた。

 

「私は!悪くないのに!!全て真神一誠が悪いのに!どうして誰も!分かってくれないの!!ああああぁぁぁぁ!!!」

 

これまでの評価が下がった事を全て一誠の所為にして部屋で思いっきりリアスは暴れまわっていた。以前の部屋の面影など殆ど残っていなかった。

残っているのはベッドくらいで他は全て廃品回収するほどのガラクタに成り果てていた。

 

「ねぇ……カズキ。私は間違っているの?」

 

「何言っているんだよ。リアスが今まで間違えた事があったか!?な!朱乃」

 

「ええ、カズキ君の言うとおりですよ。リアスは間違っていませんわ。また違っているのは周りですわ」

 

「そうよね……二人がそう言うのだからそうよね……」

 

これまでした事を完全に忘れて一樹と朱乃は精神状態が不安定になっているリアスを励ましていた。二人に励ましてもらわないと一日寝込むほどになっていた。

 

「カズキ、もう一回いい?」

 

「ああ、もちろんだ!朱乃もこい!」

 

「はい!では……」

 

三人は部屋の中で有一原型を留めている天蓋付のベッドで服を脱いだ。そこからは部屋から卑猥な声が漏れ出したが、屋敷の誰もが聞いても何もしないようになった。

これは最早グレモリー邸では日常茶飯事になっているからだ。そもそもグレモリー家でリアスに関わろうとしているのは誰一人といない。

 

もしもリアスがサーゼクスやアザゼルの忠告を聞いていればこんな事態にはならなかっただろう。それこそリアスの誤算だったに違いない。

たった一人のために本来とは違う道筋を通ったがために起こった。しかしもう後戻りは出来ない所まで来ている。

過去は無かった事には出来ない。

 

それは例え神でもだ。

 

今日もリアスの部屋では三人の篭った卑猥の声が響く。これは一人の男に固執した結果に全てを失う女の話だ。

ただ全てを失うのはまだ先になるが、彼女は嫌な事を忘れるために男に抱かれる。

 

誰かが言った。リアス・グレモリーはもう終わった、と。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。