「……それでは神滅具は無かったのですね?」
「ああ。それに『ボーン・カード』は絶対に神滅具に反応するとは言えないからな。『ドラゴン・ボーン』は二天龍に反応してが、『ウロボロス・ボーン』はオーフィスに反応したからな」
「そうですか……」
グレイフィアは戻ってきた一誠の報告を聞いていて何か引っかかるものを感じていた。だが、それが何かを証明する方法はグレイフィアには無い。
一誠がどこで何をしているのかまったく分からないでいた。自分の主であるサーゼクスから監視は付けるなと念を押されていた。
一誠の機嫌を損ねれば、冥界が何も無い死の世界になってしまうからだ。冥界の全戦力で挑んでも一誠にどれだけダメージを与えられるか分かったもではない。
だから一誠が『無い』と言えば『無い』のだ。グレイフィアに追求は出来なかった。
「やあ、イッセー君」
「よお、シスコン魔王」
「……ふぅ……そう言われても仕方ないね。私は―――いや私達はリアスを甘やかし過ぎた。その事は反省しているよ」
「本人が反省していないと周りの頑張りなんて無に等しいだろ?」
一誠の言った通りに今現在リアスと一樹はまったく反省していなかった。冥界に里帰りしてからリアスの母から直々に再教育されている。
それでも一誠に対する感情はまったく収まる様子は見られなかった。
「まあ、そうだね。リアスは落ちた評価を戻そうと躍起になっているようだしカズキ君は君に対してどこか焦っている様に見える」
「あいつが俺に?何を焦っているんだか……」
「そうだね。それは彼の胸の内だと言う事だろう。君が冥界に居る間は出来る限りリアス達と接触させないようにしている」
「ああ、俺としてもそっちの方がありがたい。ここであの嫌な顔は見たくない」
一誠はこれでもかと言うくらいの嫌な顔を作った。それを見たサーゼクスは苦笑するしかなかった。一誠は続けた。
「それに俺が冥界に居るのは建前は魔王に招待されたからで本当の理由はオーディンの爺さんの護衛だ。爺さんが言っていたんだ、ここ最近ある神が妙な動きを見せているってな……」
「流石にユグドラシルといえ一枚岩ではないか……」
「どこも似たようなものだろ?ユグドラシルしかり冥界しかり禍の団しかりな」
「そうだね……」
サーゼクスはどこか寂しそうな顔をしていたが一誠には関係なかった。一誠はそのまま部屋から出て行こうとした。
「どこに行くんだい?泊まる部屋なら用意してあるが?」
「生憎とそっちが用意した部屋に泊まるつもりは無い。あのアホ共が嗅ぎ付けてきそうだから。それに面白い奴を見つけたからオーディンの爺さんが来るまでそいつで時間を潰すさ。じゃあな」
一誠は『ウロボロス・ボーン』で転移した。部屋に残されたサーゼクスはそっとため息を吐いた。そんなサーゼクスにグレイフィアは飲み物を差し出した。
「ありがとうグレイフィア」
「いえ。それでいいのですか?」
「それは監視の件……と言う意味でいいのかな?」
「はい……」
サーゼクスは一誠の監視をする事を辞めた。リアスと一樹からは絶対に付けるべきと言われたがそれを聞くつもりは無かった。
「彼の機嫌を損ねて、悪魔を滅ぼす訳にはいかないよ……一応、彼以外付けるつもりだ。恐らくバレるだろうけどね……それとリアスの事だ」
「はい。お嬢様には一誠様の居場所を知られないように眷属も含めてスケジュールの調整はすでに」
それから一誠にリアスを近づけない話をしてから二人はグレモリー邸に帰った。
「よお、サイラオーグ」
「真神一誠」
一誠はサーゼクスと別れた後、ヴァーリ達と共にサイラオーグの元を尋ねていた。彼が今住んでいるのは現当主が住んでいる館ではなく小さな別館だった。
「実の息子を別館とかお前はいいのか?」
「構わない。これでも昔よりいい暮らしをしている。贅沢は言えない」
「ふ~ん……あ、そうだ。こっちが俺の仲間だ」
一誠はサイラオーグにゼノヴィアやヴァーリ達を紹介した後、サイラオーグも眷属を一誠達に紹介した。
「お前が今代の白龍皇の……」
「ああ。ヴァーリ・ルシファーだ。次期大王」
ヴァーリはどこか獲物を狙う獣のような顔をしていた。まさに戦闘凶の顔になっていた。しかし一誠が待ったをかけた。
「ちょっと待てヴァーリ」
「待てないな!今の俺の実力がどの程度なのか測るにはいい相手だ!」
「聞いていた通りの戦闘凶だな。ヴァーリ・ルシファー!」
ヴァーリとサイラオーグが臨戦態勢に入っていた。一誠が止める前に。
(もしかしてサイラオーグも戦闘凶なのか?)
そう思わずにはいれなかった。一誠はレグルスの前に立つと手を向けた。すると二種類の魔方陣が現れた。
一つは『聖書に記されし神』ものともう一つが転生悪魔としての魔方陣だ。一誠はその二つに手を向けているだけで、何かをしているように見えなかった。
「イッセー!何しているのかにゃ?」
「黒歌……調整だ。レグルスは本来、保有者の人間が死んだ時に消えるはずだった。でも自立型になって残ったのは神のシステムのバグが溜まった結果だ。しかもそこに悪魔の駒を入れた所為で余計にバグが強くなった。だから調子が良くない。だから今の状態で力が安定するように調整しているんだ」
「……にゃ~難しすぎだにゃ……」
一誠の背中にくっ付き話を聞いていた黒歌は説明されて頭が痛くなるのを感じていた。黒歌にとってちんぷんかんぷんな事だからだ。
そしていつの間にか寝落ちしていた。それから少しして一誠はレグルスから離れた。
「お~い、サイラオーグ。調整終わったぜ」
「そうか。レグルス、どうだ?調子は……」
「はい、サイラオーグ様。先程までとは違い、違和感がありません」
「そうか……」
レグルスは自身の調子の良さに満足していた。
「ふぁ~……調整でちょっと疲れたから少し寝る」
一誠はそれで言ってクロに寄り掛かり黒歌と一緒に寝始めた。サイラオーグ達はそれを黙って見るしかなかった。
そしてサイラオーグはヴァーリと再び向かい合った。
「……ヴァーリ・ルシファー。聞きたい事がある」
「何だ?サイラオーグ・バアル」
「どうしてお前は真神一誠の仲間になった?」
サイラオーグはヴァーリのこれまでの経緯は知っている。最初は『神の子を見張る者』で次が『禍の団』で今は一誠の下に居る。
その怒涛な人生には共感できるとサイラオーグは思っていた。自分は魔力が無いと理由だけで母までも辛い経験をさせてしまったと思っている。
だからこそ魔力が無い事を糧に身体を鍛えて今は次期当主までに昇り詰めた。自分を産んで育ててくれた母に恩返しをするために。
「挑戦だ」
「挑戦?何に挑むのだ……」
「もちろん真神一誠だ。彼は自ら倒れる事を―――殺される事を望んでいる。強者ゆえの想い。考えで俺を仲間にした。俺を鍛えて自分を殺させるために」
「…………」
サイラオーグはヴァーリの言葉が理解出来なかった。いや正確には一誠の事が。サイラオーグの印象としては一誠は暴君に見えた。
自分の欲望をただひたすら満たすだけで周りの事など考えない『人間』と。
しかし違った。違い過ぎた。彼は『人間』ではなく『魔神』なのだから人のそれとは考えが根本的に違う。
「別に彼も自分の考えを理解しろとは言わないだろ。だが、俺は彼の気持ちが少し分かる。俺は強くなった……だが、それが本当に強者になったのかと言われると疑問に思う。だからこそ俺は挑戦するんだ。最凶の存在に自分の全てを賭けて!」
「……なるほどな。大体、お前達の事が分かった……」
サイラオーグは一誠を見た。大きな狼を枕に黒歌と一緒になって寝ていた。見た目は『人間』だ。起きて食べて寝て、それを繰り返し生きている『人間』だ。
それを言うなら悪魔に天使に堕天使、吸血鬼、神すらも人の姿をしている。しかしそれは些細な問題だ。
要は中身だ。内に秘めたる『力』。それがもっとも重大だ。
「真神一誠は生きたいのだな……」
「それがお前が見い出した結論か?サイラオーグ・バアル」
「ああ、そうだ。生を実感出来ないからこそ死を求める。死ぬ事で生きていると証明しようとしている。俺には真神一誠が悲しい男に見えるよ」
「ならお前が与えてみせろ。彼に死を―――生を実感させてやれ。恐らくお前は候補の一人なのだから」
「候補だと?一体、何のだ……」
サイラオーグは首を傾げた。ヴァーリの言っている候補とは?何を示しているのか。
「なに、考えれば自然と思いつく。自分より強い者がいないなら自分で作ればいい、と」
「まさか……候補と言うのは」
「そう。真神一誠を殺す候補と言う事だ。俺の見立てでは俺を含めて三人と言った所だ。三人の内、一人はお前だ。サイラオーグ・バアル」
「……では、最後の一人は一体誰だ?」
「『禍の団』の英雄派のリーダーをしている男で『聖槍』の保持者だ」
「何!?『黄昏の聖槍』だと……」
近くで二人の会話を聞いていたサイラオーグの眷属達も驚きを隠せ無かった。様々な逸話がある『神滅具』だ。それが今やテロリストが持っているのだから無理もない。
サイラオーグも『神滅具』を持っているからこそ分かるものがある。『神器』とは一線をかく存在だ。注意は必要だ。
「サイラオーグ・バアル。お前にその気があるならイッセーの下で強くなる気はないか?」
「何?お前はなにを言っている……」
「これは強制ではない。むしろこれはお前にとってより高みに昇るチャンスだと思うが?」
「…………」
サイラオーグは迷っていた。幼い昔と比べたら格段に強くはなったが、これ以上の実力を伸ばそうとすれば、時間が掛かる。
近々行われる六代名家のレイティングゲームで活躍すれば上層部に一目置かれるチャンスだ。これを逃す者などいない。
ならばサイラオーグの答えは決まっている。
(ちくしょう!?ちくしょう!?どうして俺の物語なのに!思い通りにならない!?)
一方冥界に着いた一樹達を待ち構えていたのは元龍王の『魔龍聖タンニーン』の手荒な歓迎だった。その際に一樹達はタンニーンと戦ったがまったく歯が立たなかった。
これにはタンニーンも付き添いのアザゼルも呆れて何も言えなかった。その後、グレモリー邸にて反省会が行われた。
その時にアザゼルに散々言われて一樹はこれまでに無いくらいに凹んでしまった。
そして夕食を食べた後に一樹はリアスと共にリアスの母に数時間におよぶ説教を正座で聞かされる事になった。
それゆえに一樹はストレスが溜まっていた。一樹の心はまた黒く黒く濁ってきていた。
破滅の魔龍へとまた一歩近付いて来た。