ハイスクールD×D  一誠の魔神伝説    作:新太朗

31 / 37
大王と獅子

「ここが冥界か……」

 

何事も無く一誠達は冥界に到着する事が出来た。見上げた空の色は紫色でどこか毒を思わせた。一誠もだがゼノヴィアやヴァーリ、黒歌、美猴、アーサー、ルフェイは身体を動かし固まった筋肉を解していた。

 

「イッセー。ちょっといいか?」

 

「どうした?ゼノヴィア」

 

身体を解しているとゼノヴィアが近づいてきた。その手には『レオ・ボーン』が握られていた。しかも『レオ・ボーン』が光を出して脈打っているようだった。

この現象は以前、一誠は見た事がある。

 

(これはオーフィスや一樹、ヴァーリと初めて会った時と同じだ。なら冥界に『神滅具』か世界的に伝説級の『獅子』を代表する何かがあるのか?)

 

一誠の考えは概ね正解に近い。無限の龍神に反応した『ウロボロス・ボーン』、赤龍帝と白龍皇に反応した『ドラゴン・ボーン』

『ボーン・カード』は世界に存在する伝説級のものに反応するようになっている。しかし一誠はそんな事は知らない。

『ボーン・カード』を使う一誠でもこの力の事を全てを知っているわけではない。

 

(これが何に反応しているのか確かめる必要があるな)

 

一誠はゼノヴィアから『レオ・ボーン』を渡してもらいぐるりと身体を回転させた。そしてもっとも強く光る方向を確認した。

 

(向こうが一番強く光るな)

 

一誠は次にヴァーリの方を向いた。

 

「ヴァーリ。俺はこれから単独行動をする。後で合流しよう」

 

「それは構わないが、いったいどうしたんだ?」

 

「なに、ちょっと気になるからな。もしかしたら『神滅具』が見つかるかもしれないな」

 

「なら後で教えてくれ。相手次第で戦ってみたいからな」

 

「相変わらずの戦闘凶だな。いいぜ」

 

「お待ちください一誠様、どちらに?」

 

一誠がヴァーリと話しているとグレイフィアが間に入ってきた。流石に聞き捨てならない事を一誠が言っているのだ。それに気にはなる単語をグレイフィアが聞き逃すはずがない。

 

「俺がどこに行こうと関係無いだろ?それとも止めるか?アンタにそれが出来るか?」

 

「それは……」

 

まず無理だ。魔王以上の力を持つ魔神を相手にして無事なわけがない。間違いなく死ぬか身体の一部は確実に破壊される。

だが、彼女もただでは下がらない。

 

「……ならせめてどこに向かうか何をするのかだけでもお教え願いませんか?」

 

「向こうに『レオ・ボーン』が反応する『何か』があるんですよ。それを確かめに。それにもし『神滅具』だった場合、魔王も把握していないって事ですよね?」

 

「確かにそれは……」

 

現在冥界が保有している『神滅具』は『赤龍帝の篭手』だけだ。それだと言うのに未確認の『神滅具』があるとすれば、それを確認しなくてはならない。

だが、悪魔ではそれは分からない、それが分かるのは一誠だけだ。

ならここは彼に確認してもらった方が確実だ。だからグレイフィアは頷くしかなかった。

 

「……分かりました。それについてはお願いいたします。ですが、もし『神滅具』だった場合は……」

 

「はいはい。分かっていますよ。『ウロボロス・ボーン』」

 

一誠はグレイフィアとの会話を終わらせて『ウロボロス・ボーン』を装着した。そして転移でどこかに向かった。

残されたゼノヴィアとヴァーリ達はグレイフィアの案内で一度、魔王の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィア達が魔王の元に案内されている時、一誠は『ウロボロス・ボーン』の連続転移で移動していた。

一秒間に100m間隔での転移をしていた。一誠以外にこんなマネは出来ない。まず魔力がすぐに枯渇する。次に転移には高度な計算が必要とされている。転移してすぐに転移は出来ない。

だが、一誠には出来る。『ウロボロス・ボーン』に転移制限など無い。だから一誠にしか出来ない芸当だ。

 

そして一誠は『レオ・ボーン』が強く反応する場所に到着した。目の前には巨大で立派な門が立ちはだかっていた。

どこか純潔の名家だろとすぐに分かった。

すると門番をしていた悪魔が一誠に近づいてきた。

 

「おい!そこのお前、何をしている?」

 

「……ここで間違いないな。もうゼノヴィアの元に戻れ」

 

一誠は門番の悪魔を無視して『レオ・ボーン』にゼノヴィアの元に戻るように言った。『レオ・ボーン』は霧散して消えた。

 

「おい!聞いているのか!?」

 

「……少し黙っていろ!!!」

 

「っ!?」

 

門番悪魔が一誠の肩を掴み振り向かせると一誠は脅しの意味で魔力を解放した。いきなりの魔王級の魔力に門番は腰を抜かして尻もちをついてしまった。

すると門が開き悪魔の一団が出てきた。先頭に居るのは黒髪のガタイのいい男性悪魔だ。

 

「いったい、何事だ!?」

 

「さ、サイラオーグ様!し、侵入者です!!」

 

「なに?……一体お前は何者だ?」

 

「俺は北欧の主神オーディンの私兵の真神一誠だ。お前は?」

 

「俺はバアル家次期当主サイラオーグ・バアルだ」

 

「お前が次期当主?」

 

一誠は首を傾げた。目の前の悪魔は大王の一族の次期当主だと言った。だが、一誠は彼から悪魔なら在るはずのものを感じれなかった。

 

(どうしてこいつからは『魔力』を感じないんだ?)

 

そう悪魔なら持っていて当然の魔力を彼は持っていなかったのだ。一誠は疑問に思った。悪魔にとって魔力とは象徴のようなものだ。

特に貴族その中でも特別な魔力はより重視される。『バアルの滅び』もその一つだ。だと言うのに彼には魔力が無い。

それで本当に次期当主になれるのだろうか?一誠の疑問は尽きない。

 

「魔力をまったく感じないをお前がよく次期当主になれたな?」

 

「……どうして俺に魔力が無いと?」

 

「俺は魔力感知関しては敏感なんだよ。それと聞きたいんだが……」

 

「何だ?」

 

「『獅子』の名を冠する神滅具がここにあるんだが、お前知らないか?」

 

「……なんの事だ?」

 

「お前、嘘が下手だな」

 

一誠はサイラオーグの僅かな間を見逃すほど甘くは無い。サイラオーグが嘘をついているとすぐに見抜いた。

それでもサイラオーグは口を開こうとしなかった。何か事情があるようだが、一誠には関係ない事だ。

 

「喋る気は無いか……なら力尽くで探すか」

 

「ま、待ってくれ!?」

 

「―――これは何事だ!!」

 

サイラオーグが一誠を止める前に大きな声がその場に静寂をもたらした。その人物はどこかサイラオーグに似ていた。

 

「……父上」

 

「おい。これは一体何事だ!説明しろ!!」

 

現れた悪魔はサイラオーグの父親であるバアルの現当主に当たる人物だ。だが、彼はサイラオーグの事をまるで親子ではないように振舞っているのだ。

一誠は知っている。サイラオーグの父親の目を。見下し存在自体を否定するようになめを。

一樹と同じ目だ。

 

「おい!!」

 

「なん―――がはっ!?」

 

「父上!!?」

 

一誠はある程度加減してサイラオーグの父親の顔面を殴った。飛ばされ地面を数回バウンドしてようやく止まった時に腕や足が明後日の方向に曲がっていた。

 

「父上!?よくも……!!」

 

「お前の事を身内とすら認めていないような奴の事を気にかけるのか?正直分からないなその気持ち……」

 

「確かにお前の言う通りかもしれないが……それでも父親なのだ!」

 

物心ついた時に一樹によってバケモノとして生きてきた。

 

親の子への愛情を知らない。

 

親の子への厳しさを知らない。

 

親の子への優しさを知らない。

 

一誠は知らない事が多すぎた。例えオーディンが親代わりだとしても一誠はどこか心の中で孤独を感じていた。

だから一人暮らしをしていたのだ。

 

「なんじゃ?騒々しいのぉ」

 

「しょ、初代様!?」

 

「初代?」

 

周りの悪魔達も新たに現れた見た目初老の男性悪魔に驚いていた。それは一誠もだった。もっとも一誠が驚いていたのは魔力についてだった。

 

(魔力の色がここまで濃いのは初めてだな……)

 

一誠は人外が放つ魔力やオーラを視覚として捉える事が出来る。その人物の魔力の大きさや色の濃度などが分かる。

これまで出会った悪魔の中で目の前の老人はダントツで一番濃い魔力の色をしていた。

 

「何者だ?爺さん」

 

「ゼクラム・バアル。バアルの隠居者よぉ。あまり派手に暴れるのはよして貰えないか?」

 

「へぇ……初代か。それならその色も納得だな。なら爺さんの方でいいか。それで、獅子の神滅具を俺に見せる気があるのか無いのか、どっちか決めてくれ。ちなみに俺はそう気が長いそうではないから」

 

「…………」

 

ゼクラムは思わず黙り込んでしまった。自分はすでに家督を譲り隠居した身だ。現当主のやり方に口出すほど野暮ではない。

しかし今の状況ではどうしょうもない事くらい分かる。ゼクラムは決めるしかなかった。

 

「……サイラオーグ。お前が決めよ」

 

「よ、よろしいのでしょうか?」

 

「この状況なら誰も文句は言わんじゃろ……」

 

ゼクラムは気づいていた。一誠の実力が魔王すら超えている事に。ここで戦う事になれば、周りは更地になる事を。

それくらいなら一誠の望んでいる事を叶えた方が賢明というものだ。

 

「……分かりました。真神一誠だったか。少し待てすぐに連れてくる」

 

「ああ、分かった。なら俺はそこで死にそうな男でも治療しておくか。『クジャク・ボーン』」

 

サイラオーグが神滅具を取りに行っている間に一誠は瀕死になっている現当主を治療した。治療が終わったと当時にサイラオーグが戻ってきた。

傍らには体長5メートルほど大きなライオンがいた。あれが『獅子王の戦斧』なのだろう。

 

(あれ?確か獅子王の戦斧は斧だったはずだが……?)

 

一誠は北欧にあった資料と違う事に疑問を持った。神滅具が勝手に形を変えるとは考えにくい。あれは『聖書に記されし神』によって作られた。

だから誰にもそれこそ神器を研究しているアザゼルにすら無理なことだ。

 

「形、違わないか?四足で歩いているし、斧じゃないのか?そもそも転生悪魔になっているって……何があった?」

 

「俺が人間界で見つけた時にはすでにこの状態だった。元々の所有者は何者かに殺されて後でその殺したもの達をレグルスが殺していたのだ……」

 

「自立型じゃない神滅具が自立に……神のシステムのバグか?だとしてもこれは……実に面白いな!」

 

一誠はサイラオーグからレグルスのこれまでの経緯を聞いて興味が湧いてきた。それと同時にどうしてレグルスが自立型になったのかある程度予想を考えていた。

神のシステム。聖と魔のバランスは先代魔王と神の死によって崩れた。今は辛うじて天使がシステムを回しているが以前とは比べ物にならない。

 

バランスが崩れてからシステムのバグが溜まりに溜まり神滅具など神が創ったものに影響を及ぼしている。

だから一誠の考えは概ね当たっていると言えるだろう。しかし本当の事をすべを一誠は持ち合わせていない。

 

「それでお前は使えこなしているのか?」

 

「それが……転生させてからどうも調子が良くない。父上の命令で隠しているので……」

 

「ふん~……それなら俺に出来るかもしれないぞ」

 

「……はぁ?」

 

サイラオーグは一誠に言葉に間抜けな声を上げてしまった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。