ハイスクールD×D  一誠の魔神伝説    作:新太朗

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天龍と激戦

ヴァーリ・ルシファーは興奮に震えていた。それは一誠が見せた『魔神の力』にだ。世界の時間を戻すなどそう簡単に出来る訳が無い。

それだと言うのに一誠はまるで出来て当然のように言った。

 

(ああ……真神一誠。君はやはり最高だ!!)

 

ヴァーリは嬉しさの余り笑みを浮かべていた。ただし残酷な笑みをだ。それだけヴァーリを一誠は楽しませたのだ。

ヴァーリは強さを求めていた。誰にも負けない『最強の力』を。

だからこそ『聖書に記されし神』と戦ってみたかった。しかしその神はすでに先の三大勢力の覇を争う戦いで二天龍を封印すると同時に四大魔王と共に死んだ。

 

それを知ったヴァーリは落胆した。どうして自分はこの時代に生まれてきたのか。かの神や先代魔王達が生きている時代ならどれだけ楽しめたのか容易に想像出来る。

しかしそんな時、ヴァーリはユグドラシルのある噂を聞いた。

 

『ユグドラシルにて最凶の魔神が誕生した。』

 

それを聞いた時、ヴァーリは半信半疑だった。『神の子を見張る者』の殆んどの者が嘘だと、オーディンの妄言だと吐き捨てた。

だが、総督のアザゼルや数人の堕天使はそうは考えなかった。

 

(確かめてみたい)

 

ヴァーリはそう思い始めた。自分の目で、耳で、直接確かめれば済む事だと考えた。そしてその時は訪れた。

『神の子を見張る者』の幹部コカビエルが教会から聖剣を奪取して魔王の妹の暮らす街で面倒事を起こそうとしているとアザゼルから聞かされた。

そこでヴァーリはコカビエルを連れ戻すように頼まれた。そしてついに疑惑の対象―――真神一誠を見る事が出来た。

 

(あれが……真神一誠か)

 

コカビエルが面倒事を起こしている場所、駒王学園にヴァーリが到着してみるとそこには羽を全て引き千切られて満身創痍のコカビエルが居た。

周りには無数のケロベロスの死体が転がっており、コカビエルに協力していたフリードは気絶して近くにはバルパーが斬られ死んでいた。

ヴァーリはコカビエルを連れ帰ろうとした時、一誠に殺気を向けられた。その時、ヴァーリは確信した。

以前聞いた噂は本物だと。

 

(これほどなのか!真神一誠!!)

 

興奮に全身の血が沸騰しそうになったのを感じた。それと同時にヴァーリは理解した。どうして自分がこの時代に生まれたのか。

 

彼―――真神一誠と戦うためだと。

 

弱い赤龍帝などもうどうでもいいと思えるほど、ヴァーリは嬉しかった。倒すべき最凶の魔神が居る。越えねばならない壁がある。

ヴァーリは生き甲斐を見つけた事を喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一樹はリアスと共にオカ研に居る小猫とハーフ吸血鬼のギャスパーを助け、サーゼクス達が居る会議室に戻ってきた。

帰る際は『キャスリング』は出来ないので校舎を通ってきた。そこにも敵は居たが何とか倒す事が出来た。

そして会議室に着いてみると部屋に居る全員が校舎を見下ろしていた。

 

(どうしてヴァーリが居るんだよ!?)

 

『原作』を知っている一樹はヴァーリがどうしてまだそこに居るのかが分からなかったが、それはすぐに分かった。

 

(『また』一誠の奴が余計な事をしているんだな!?)

 

一樹は校舎を見下ろした。そこでは一誠がカテレアを殴って殺した所だった。そして一誠が両手を合わせたら視界がホワイトアウトした。

先程も似たような事になったのを一樹は感じた。

 

「……っ!?」

 

そして校舎を見て驚愕した。先程、殺されたはずのカテレアが生きていたのだ。

それを見た一樹は一体何が起こったのかすぐに分かった。

 

(時間を戻した……そんな事が出来るのか?)

 

そして次の瞬間、一樹の心の奥底から怒りが湧いてきた。それは今にも一誠を殺しそうだった。自分の知らない事を次々とやっている一誠に一樹は殺意を持つようになっていた。

 

(お前はもう要らないんだよ!もうこれは俺の物語なんだよ。リアスも朱乃もアーシアも誰も彼もが俺のハーレム要員なんだよ!!)

 

一樹は周りの女性達を自分の欲望を満たすだけの存在だと思っている。リアスと朱乃は例え一樹の本性を知ったとしても受け入れるだろう。

それだけ二人は兵藤一樹に『依存』している。だが、それも仕方ないと言えるだろう。二人はやっと自分の事をしっかりと見てくれる異性を見つけたのだ。

 

 

グレモリー家の娘ではなく一人のリアスと見てくれる一樹。

 

ハーフ堕天使だと知っても優しく受け入れてくれる一樹。

 

 

そんな一樹だからこそ心を開き甘え、時にはからかい、癒された。それはもちろん一樹にとっては計算された事だった。

『原作』を知る彼にとって彼女達を自分へ『依存』されるなど朝飯前の事だ。だからこそ一樹は一誠の存在が許せなかった。

自分の女になるはずだったゼノヴィアを取り『原作』の流れを事如く邪魔する一誠が憎くて憎くてしょうがなかった。

 

(あいつはここで殺すべきだ!!!)

 

そういった結論に一樹は至った。常に『主人公』たる自分こそが正義であり絶対であると一樹は考えている。

物語に関わる女性は自分の欲求を満たすだけの存在だと認識している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠ぃぃぃ!!!」

 

『赤龍帝の篭手、禁手化!!!』

 

『BoostBoostBoost!!!』

 

一樹は赤い鎧『赤龍帝の鎧』を纏い叫びながら一誠に向かって殴りかかった。だが、一誠は避ける事も防ぐ事もなくただ黙って一樹の拳を受けた。

強化された一樹の拳は上級悪魔であってもただでは済まないレベルの攻撃だ。だが、魔神を召喚して力を増した一誠にとってはまったくダメージになっていなかった。

 

「……なんのつもりだ?一樹」

 

「黙れ!!お前さえ!お前さえ、居なければ!全て上手く行っていたんだよ!!これはもう俺の物語なんだよ!!俺が主人公なんだよ!!お前は必要無いんだよ!!!」

 

(こいつは何を言っているんだ?)

 

一誠は一樹の言っている事が分からなかった。そもそも一誠は一樹が『ハイスクールD×D』と言うラノベを読んだ事がある別世界の人間だとは知らない。

だからこそ、一誠は言葉の意味を理解出来なかった。

 

「お前はあの時、死んでいれば……!!」

 

「だから今度は確実にするために自分の手で俺を殺そうと?舐められたものだな。以前、束になっても俺にダメージを与えられなかったくせに」

 

「黙れ!!あの時とは違うんだよ!!……なっ!?」

 

その時だった、一誠と一樹の周りに大量の魔力弾が降り注いだ。その魔力弾を放ったのは一誠と一樹の頭上に『白龍皇の鎧』を纏ったヴァーリだった。

一誠は疑問を持った。ヴァーリは確かに一誠の仲間になったはずなのにだ。

 

(もう裏切ったのか?)

 

一誠はそう思うのも無理はない。仲間になってすぐに攻撃されれば、誰だってそう思うのは当たり前だろう。

 

「……どういうつもりだ?ヴァーリ。裏切った……と言う事なのか?」

 

「いいや違う。君の仲間になるにあたって自分自身で確かめてみたくなっただけだ。君の実力を!!」

 

「なるほど……まさにドラゴンだな。いいだろう!二天龍を相手にするなど滅多にないからな。掛かってこい!!『ドラゴン・ボーン』!!」

 

一誠は三体のボーンを解除して『ドラゴン・ボーン』だけを纏った。すると召喚されていた魔神が霧散して消えた。

先に仕掛けてきたのはヴァーリだった。

 

「まずは挨拶代わりだ!!」

 

「こい!!」

 

一誠はヴァーリに手招きをした。ヴァーリは無数の魔法陣を展開して魔弾の雨を一誠に浴びせた。だが、一誠は動かずに拳を固めて腕を後ろに引き前に突き出した。

 

「覇っ!!!」

 

「っ!?……ハハッ……まさか拳圧だけで俺の魔弾を吹き飛ばすとはな!!」

 

「どうした?それで終わりではないだろ?ヴァーリ」

 

「もちろんだ!!」

 

ヴァーリは一誠の挑発に乗り先程の倍近い魔弾を浴びせた。一誠は拳で吹き飛ばすでもなくただ避けた。

 

「やはり君は最高だ!真神一誠!!」

 

「それはなりよりだ、ヴァーリ・ルシファー!だから俺を失望させてくれるなよ!」

 

「元よりそのつもりだ!!」

 

一誠はヴァーリに少しだけ期待していた。『歴代最強の白龍皇』と言わしめる彼に。自分の『力』を見せても恐れるどころか嬉々として向かってくるのだ。

これまでの人生でこれほど心踊った事はないと言っても良いくらいだ。だからこそ、一誠はヴァーリに期待しているのだ。

一方、一樹は一誠とヴァーリの戦闘をただ見ていた。二人が放つ圧倒的なオーラに足が竦んでしまったのだ。

 

(なんなんだ?あの二人は!?)

 

足が震えて動けない。本能が逃げろと叫んでいる。あの『バケモノ』達の戦いに参加するなど冗談ではない。

 

(どうして!?どうして!?どうして!?俺は『主人公』なんだぞ!ヴァーリと戦って勝たなきゃいけないのに!どうして『力』が出て来ないんだよ!?)

 

『それは単純にお前が俺の「力」を出し切れていないからだろ?相棒』

 

一樹が動けないでいると赤い龍・ドライグが話かけてきた。

 

(だったら!俺に『力』を寄越せよ!?)

 

『無茶を言ってくれる。今のお前では俺の「力」に身体が持たない。それに相棒がもっと感情的に戦える奴だったら俺の「力」を十分とは言わないが、それなりに引き出せたはずだ』

 

(ふざけるなよ!!!)

 

一樹はドライグに怒りを向けた。だが、実際に一樹が『力』を出せないのはドライグが指摘したところだ。

ドラゴンの『力』を引き出すのは『感情』だ。

 

怒り、憎しみ、嫉妬

 

これらの『感情』は『力』を引き出す重要な要因だ。だが、一樹にとってここは自分が『主人公』の世界。

全てが自分を輝かせるための『駒』に過ぎないと考えている。だからここでヴァーリが「両親を殺そう」と言っても『原作』の一誠のように怒る事はない。

それ故に一樹はドライグの―――ドラゴンの『力』を引き出す事はできない。

 

「くくっ……今の状態は最上級悪魔と同等だと言うのに……お前は俺を大いに楽しませてくれるな!ヴァーリ!!」

 

「そうか!それは何よりだ、真神一誠!!」

 

「もっとだ!もっと!!俺を楽しませてみせろ!ヴァーリ・ルシファー!!」

 

「これならどうだ!!!」

 

一誠とヴァーリの戦いは更に激しさを増していった。学園に張られた結界は限界ギリギリだった。もし二人の攻撃が外に出れば大ごとになってしまう。

それだけの戦いを一誠とヴァーリはやっていた。まさに強者の戦いだ。

 

(何なんだよ!?何なんだよ!?俺と一誠の何が違うって言うんだ!?俺が赤龍帝なんだよ!俺こそが主人公なんだよ!俺のハーレムなんだよ!!!)

 

自分が世界の―――物語の主人公であると考えている一樹は全てが否定されたようだった。それは十年前の一誠のようだった。

自身の『力』を周りに見せたが受け入れてもらえず、否定されたあの頃の一誠と自分が被って見えてしまった。

 

(違う!違う!違う!俺は一樹だ!兵藤一樹なんだ!俺こそが主人公なんだよ)

 

一度、頭を過ぎった事を必死に否定したが、一樹の心には大きな歪みが出来上がっていた。それはもう誰の手に負えるものではなくなっていた。

それから一誠とヴァーリの戦いは数十分間続き、学園はほぼさら地になっていた。もちろん一誠が『時間』を戻して破壊される前の学園に戻した。

一誠と戦ったヴァーリはボロボロになってもご機嫌だった。それはヴァーリと戦った一誠もだ。

そして一誠はヴァーリを担ぎゼノヴィアと共に学園を後にした。

 

こうして天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの勢力の会談はなんとも言えない終わりを迎えた。

後日、天使、堕天使、悪魔の三大勢力で改めて会談が開かれてそこで協定が結ばれた。その名も「駒王協定」だ。

この協定が三大勢力の未来を大きく変える事になった。

 




これでこの章は終わりです。

次から新しい章に入ります。

冥界に行く前の話にしようと思っています。

では、次回に。

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