ハイスクールD×D  一誠の魔神伝説    作:新太朗

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無限と無力

カテレア・レヴィアタンには絶対の自信があった。次の魔王―――レヴィアタンには自分が選ばれるだろう、と。

だが、現実は違った。彼女が選ばれる事は無く代わりにシトリー家のセラフォルーが選ばれた。その事にカテレアは納得していなかった。

どうしてレヴィアタンの血を引く自分では無くセラフォルーが選ばれたのか、と。そしてカテレアは居場所を失った。

 

カテレアは居場所を失った者達と共に冥界の隅に追いやられた。

そんな中、現魔王が堕天使の総督のアザゼルの呼びかけで天使、堕天使、悪魔、ユグドラシルの代表との会談に参加する事を知った。今更、冥界の覇を争っている相手と何を話すのだろうと考えていた。

そこで彼女はふと、最悪な結果を考えてしまった。

 

(魔王が天使と堕天使と手を組んだら?)

 

もしそうなれば、カテレアや彼女に付き従っている現魔王反対派として非常に厄介になってしまう。悪魔の弱点である『光』を使う天使と堕天使を相手にしないといけないからだ。そうした場合、自分達の敗北は確定してしまう。

そこでカテレアはある『ドラゴン』の力を利用しようと他の同胞と共に考えていた。その『ドラゴン』を後盾にすれば現魔王を倒せるのでは無いか?と考えたからだ。

 

そして彼女の行動は早かった。カテレアは部下を引き連れて会談に乗り込んだ。それぞれの組織のトップが一同に参加するこの会談はまさに千載一遇のチャンスだった。

これで会談を邪魔するだけではなく現魔王を殺せると思ったからだ。

だが、現実はまったく違っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテレアは会談を邪魔して現魔王を殺すはずだった。だが、それは一人の少年によって阻まれた。どこにでも居そうな少年だった。

少年の名前は真神一誠。ユグドラシルの代表として会談に参加していた。

 

(どうして!?どうして!?どうして!?)

 

カテレアは人間一人くらい瞬殺出来ると思っていた。しかしそれは違っていた。一誠は強かった。そのうえ、強さの次元がカテレアとはまったく違っていた。

一誠が出した魔法陣から出てきた火を纏った四本の腕を持つ巨人のような存在が出てきて、彼の『力』が更に増した。

最早、魔王級など足元にも及ばない程に。それにカテレアには一誠と同じくらいの『力』を持った存在を知っている。

 

(まさか……オーフィスと同格だと言うの!?)

 

自分達が利用しているある『ドラゴン』―――『無限の龍神』オーフィスと同じくらいだと嫌でも感じていた。

まさに目の前の存在は『バケモノ』と言わざるを得ないものだと。

 

「それじゃ行くぜ。カテレア・レヴィアタン!!」

 

「―――え?」

 

一瞬にして一誠はカテレアの目の前に移動してカテレアの顔面を殴った。たった一撃でカテレアは絶命した。

いや、あまりの威力にカテレアの身体は肉片一つ残さず吹き飛んだ。ただし殴った余波でカテレアの後ろの校舎と民家をまとめて吹き飛ばしたのだ。

 

「……あ、やってしまった」

 

一誠はカテレアを殴ってからその殴った跡の残骸を見た。殴った衝撃の余波は4~5キロほど見晴らしが良くなっていた。

もちろん、そこに住んでいた関係の無い人間を巻き込んでしまったのだ。死んだ人間は数百人は下らないだろう。

一誠はたった一撃でそれだけの命を奪ってしまったのだ。

 

「……不味いな。ついはしゃぎ過ぎた」

 

一誠は数百人を殺してしまったと言うのにまったく動揺してはいなかった。無関係の人間を巻き込んだと言うのにだ。

 

「流石に戻さないとな。時の魔神よ!魔神召喚(ディセント)!」

 

すると先程まで赤い色をしていた魔法陣が今度は白い魔法陣へと色を変えた。火を纏った巨人のような存在もその姿を変えた。

身体は白く顔には時計で使われている大きい針と小さい針の二本針を持つ巨人のような存在が現れたのだ。

先程まで一誠の赤い魔力だったのが白い魔力へと変わった。

 

「『世界の時よ』」

 

そう言って一誠は両手を合わせた。すると一瞬、周りの者の視界がホワイトアウトしたかと思うと全てが元に戻っていたのだ。

そこには先程、一誠が殺したはずのカテレアの姿があった。それだけでは無い、殴った余波で壊した建物までもが元に戻っていた。

 

(何が起こったの?)

 

カテレア自身も何が起こったのか分からないでいた。身体を触って無事なのを確認していた。意識を失う前に起こった事を思い出そうとした。

 

(確か私は殴られた……そこからの記憶が……無い?死んだの?でも生きている)

 

疑問が尽きなかった。自分は死んだのか?死んだとしたらここはあの世なのか?だとしたらあの世は死んだ直後と同じ風景を見せるのか?

カテレアは必死に考えたが答えを見つける事が出来なかった。

 

「どうしたカテレア・レヴィアタン。まるであの世に行ってきたみたいな顔をしているぞ」

 

「に、人間!!わ、私に何をしたぁぁぁ!?」

 

「何をって……俺は『時間を戻したんだよ』。お前が死ぬ前までな」

 

「じ、時間を戻した……?バカな!?人間にそんな事が出来るはずが無い!!?」

 

「だから言っただろ?魔神だって。神以外にこんな芸当が出来る訳無いだろ?」

 

「な……!?」

 

カテレアは一誠が言った事を理解する事が出来ないでいた。そもそも時間を停めるならまだしも時間を戻すなど本来は神にすら出来る事では無い。

その事はカテレアと言えど、分かっている。それは何故かと言うと時間を戻すためのエネルギー―――魔力が圧倒的に足りないからだ。

世界全体に術を掛ける事など魔王や神ですら無理だ。それは力が有限だから。無限でない限り行使する事すら出来ない。

 

「安心しろ。次は上手くやる」

 

「―――な!?」

 

一誠はカテレアの胸に手刀を突き立てた。手刀はカテレアの胸を簡単に貫通した。またしてもカテレアは絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リアスと一樹は無事に小猫とハーフ吸血鬼の眷属のギャスパー・ヴラディを救出する事が出来た。

四人は先程まで居た会議室に無事に戻ってこられた。部屋に入るとそこでは部屋の中に居る全員が校庭を見下ろしていた。

何かと思いリアスは兄であるサーゼクスに近付いた。

 

「お兄様。一体、何があったのですか?先程の大きな音やギャスパーの神器に似た感覚は……?」

 

「………………」

 

「お兄様?」

 

「無駄だ、リアス・グレモリー。何を話し掛けてもな」

 

「ヴァーリ?」

 

リアスに話しかけてきたのはヴァーリだった。サーゼクスは未だに校舎を他の者と一緒になって見下ろしていた。

 

「……それはどういう事かしら?」

 

「あれだ」

 

「あれ?」

 

リアスが目にしたのは奇妙な鎧をした人物が褐色の女悪魔の胸に手刀を突き立てた所だった。リアスにはその二人が誰なのかすぐに分かった。

 

「……真神一誠とカテレア・レヴィアタン……?」

 

「ああ、そうだ」

 

一誠は手刀を胸から抜くと両手を合わせた。すると先程と同じように視界がホワイトアウトした。そしてリアスが目にしたのは手刀で貫かれて死んだはずのカテレアが生きている姿だった。

 

「あれは……一体?」

 

「真神一誠が時間を巻き戻したんだよ」

 

「巻き戻す……そんな事が個人で……いえ!例え大人数だとしても出来るはずが無いわ!!」

 

ヴァーリに対して思わず大声で言い返してしまったリアスは一度落ち着いて校庭を見た。そこでは逃げるカテレアを一誠が背後から手刀で左胸を貫通させた。

そしてまた手を合わせたら視界がホワイトアウトした。するとカテレアは殺される前に戻って生きていた。

そこからは先程の繰り返しだった。一誠はカテレアを殺しては時間を戻しては殺し、殺しては時間を戻す、一誠はただそれを続けた。

 

おそらく一誠がカテレアを殺した回数が三十回を越えた辺りからカテレアの様子が可笑しくなっていた。

逃げる訳でもなく攻撃を防ぐわけでもなくただ泣きながらカテレアは一誠に何かを言っているようだった。

 

「……彼女は一体どうしたと言うの?」

 

「おそらく……限界が来たんだろうよ」

 

「限界?何の?」

 

「魂のだよ」

 

リアスの疑問に答えたのはアザゼルだった。その顔はカテレアを哀れんでいる様にも見た。実際、アザゼルはカテレアを哀れんでいた。

 

「真神一誠はカテレアを殺して時間を戻している。だが、そうすると起こった出来事を俺達が覚えているのは可笑しい。確かに真神一誠は時間を戻しているが、記憶もしくは精神までは戻せ無いのだろう」

 

「……………」

 

アザゼルの説明にリアスはどこか納得が出来なかった。一度、一誠と戦った事のあるリアスだからこそなのかもしれない。

 

(あの力がカズキにあれば……)

 

リアスは一誠と戦ってから何度もその事を考えていた。そうすれば、ライザーとのレイティングゲームもコカビエルとの戦いも余裕で勝てたのだから。

いいえ、とリアスは首を横に振りその考えを飛ばした。『赤龍帝の篭手』を持っているだけもいいのだからと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテレアはすでに限界に達していた。一誠に殺されては時間を戻されてまた殺される。その繰り返しを気が遠くなるほどやられた。

その度に記憶に魂に刻まれた殺された瞬間の痛みが徐々にカテレアの『心』が壊われかけていた。

攻撃は通じず、防御も出来ず、逃走すらままならない。そんな状況に追い込まれたが、カテレア信念は死んではいなかった。

 

「わ、私は!し、新世界の神に……!!」

 

「新世界?神?お前は相当バカな様だな。悪魔が神になれるわけないだろ。今度こそ殺してやるよ」

 

一誠は手刀を構えるとカテレアは懐から小瓶を取り出した。中にはオーフィスの『蛇』が入っていた。

カテレアは念のためにもう一つ『蛇』を用意していたのだ。

 

(これを飲むと……)

 

カテレアは躊躇した。すでに一匹、腹の中にいるのに更にもう一匹飲もうとしているのだ。戦闘後の反動がどのような事になるか想像すら出来ない。

だが、飲まなければ現状を打開出来ないかもしれない。そしてカテレアは『蛇』を飲んだ。

すると先程とは比べられないほど魔力が上昇した。

 

「こ、これでお前を殺してやるぅぅぅ!!!」

 

「……御託はいい。来るならさっさと来い!」

 

「その減らず口を閉じてくれるぅぅぅ!!」

 

カテレアの魔力は先程よりも黒く不気味な雰囲気を発していた。カテレアは無数の魔法陣を展開して一誠に魔弾の雨を浴びせた。

その魔力弾は最上級悪魔でも致命傷になってしまうほどの威力を持っていた。一誠が立って居た場所には盛大に土煙が立ちこめていた。

 

(こ、これでやったはずだ……!!)

 

カテレアは今度こそ仕留めたと確信した。過去最大の攻撃をしたからだ。

 

「……がはっ!?」

 

急にカテレアは吐血した。本来、一匹で十分に力を与えるオーフィスの『蛇』を二匹も飲んだのだ。その反動が来たのだ。

二匹分の反動がカテレアの身体を蝕んでいた。これ以上の戦闘は行う事が出来ない。

 

「―――これで終われ」

 

(ああ……私は魔王に―――)

 

一誠はカテレアに止めの一撃を与えた。それがカテレアの聞いた最後の言葉になった。一誠は動かなくなったカテレアを見下ろしていた。

その時だった。一誠の視界に『赤い』何かが近付いて来た。

 

「一誠ぃぃぃ!!!」

 


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