佑斗、イリナ、ゼノヴィア、バルパーの四人は一誠とフリードの戦いを見ていた。
そう、ただ見ているのだ。
「……凄いな真神君は……」
「ホント、イッセー君って何者?」
「ああ、本当にな。二本の聖剣を使っているフリードと互角……いやフリードより彼の方が上か」
「バカな……!あの状態のフリードを押しているだと……?!それにあの鎧は?」
佑斗、イリナ、ゼノヴィアは一誠の戦いに思わず見惚れてしまった。バルパーは一誠の実力に驚きを隠せ無かった。
始めは佑斗もイリナもゼノヴィアも戦おうとしたが、一誠がそれを止めた。それから一誠はフリードと一対一の戦いを始めた。
「なんだよ?!その鎧!!どうなってやがる?!」
「なに、俺の『力』だよ。世界で最強のな!」
一誠は『ソードフィシュ・ボーン』のカジキ村正を使ってフリードに応戦していた。
『ソードフィシュ・ボーン』
風属性のボーン。
徒手空拳が主体のマジンボーンでは珍しい手持ちの武器を装備したボーンである。その切れ味はエクスカリバーにすら負けてはいない。
「なんでだよ?!なんでだよ?!最強の聖剣なんだろ!!どうして?!どうして?!ぶっ殺せないんだよ!!」
「そんなの知るか!お前が満足に使えていないからだろ!それともそれは偽物か?」
「ふざけんな?!こちとら伝説の聖剣さまを使ってんだぞ!!」
フリードの怒りは頂点に達しようとしていた。二本の聖剣を使ってなお、一本の剣を使う一誠を未だに仕留められていないからだ。
かつて古の大戦で砕け、錬金術で七本に別れたエクスカリバーだが、別れてなおその力は健在だ。
だと言うのに倒せないでいた。目の前の人物―――一誠を。
「クソッ?!……クソッ?!……チョーシに乗ってんじゃねえぞ!!」
「乗ったつもりは無い。それよりもっと本気できたらどうなんだ?それとも今のがお前の本気なのか?」
「ざけんじゃ……ねえぞ!!」
一誠の挑発にフリードは今までの比ではないくらいの速度で斬りかかった。フリードが持つ二つの聖剣の内一本は『天閃の聖剣』だ。
人間では絶対に出せない速度で動いている。
その速度を持ったフリードに一誠は的確に対応していた。
「どうした?所詮、聖剣の能力を使ってもその程度なのか?だったらガッカリだな!」
「だったらこれならどうだ!」
フリードはもう一つの聖剣である、『透明の聖剣』の能力を使い姿を消した。
「ッ?!……消えた……」
「―――死ねぇぇぇ!!」
「……甘い!」
「グハッ?!」
姿を消して後ろから斬りかかったフリードの攻撃を避けた一誠はそのまま顔面に左ストレートを叩きこんだ。
「……何でだ?!俺様の姿は見えなかったはずだ!!なのにどうしてだ?!」
「簡単だ。俺が身の纏っているこの鎧―――『ソードフィシュ・ボーン』の能力だ。風属性の『ボーン』は周辺の空気の流れを読む事が出来るんだよ。お前は姿が消えただけで、存在が消えたわけではない。風の流れを読めばお前の位置くらい簡単に知る事が出来る」
「……けんな…………ふざけんじゃ、ねえぞ!!こんな事で勝った気になるんじゃねえよ!!!クソが!!!!」
一誠の説明にフリードは完全に怒りが限界を超えてしまった。先程と違ってがむしゃらに二本の聖剣を振りまして一誠に攻撃し始めた。
冷静さを失ったフリードの攻撃など当たるはずもなく一誠は簡単に避けてしまった。
「こんなものなのか?これじゃいつまで経っても俺を殺せないぞ?」
「ちょーしに乗ってんじゃねぇよ!!クソが!!!」
フリードは片方の聖剣を鞘にしまって、懐に手を入れてそのまま一誠に筒状の長い何かを投げた。一誠は反射的に投げてきた物を斬ってしまった。
斬った瞬間、その筒状の物は強い光を放った。一誠が斬ってしまった物は「スタン・グレネード」だった。
「―――があああぁぁぁ?!?!」
一誠は光った瞬間に手で目を守ったが、すでに遅く強い光をかなり近くで浴びてしまった。本来なら失明しても可笑しくはなかったが、『ボーン』のおかげでそれだけは免れたのは不幸中の幸いだった。
「フリード!一度、撤退だ!」
「はぁ?!ふざけんな!!俺様はまだ、こいつをぶっ殺していないんだよ!!」
「今のお前では勝てない。撤退だ!」
「……チィ……!!」
バルパーは今のフリードでは勝てないと判断して共に撤退を始めた。
「待て!バルパー!フリード!」
「逃がすか!追うぞ、イリナ!」
「ええ。任務を遂行するわ!」
佑斗、ゼノヴィア、イリナは逃げるバルパーとフリードを追いかけて行ってしまった。一誠は未だに「スタン・グレネード」にやられた目が回復していなかった。
(あのバカ共?!フリードの奴に勝てると思っているのか?)
フリードと直接戦った一誠だから理解していた。佑斗、ゼノヴィア、イリナの3人ではフリードに勝つ事は出来ない事を。
視力が戻っていないので3人の後を追う事が出来ずに一誠はその場に立ったまま回復に務めた。
「……漸く、目が回復したか……あいつらを追わないとな!」
「―――なんでお前がここに居るんだよ!?」
「……ん?なんだ、一樹」
一誠が佑斗達を追いかけようとした所、後ろから一樹に呼び止められた。他に小猫と名前を知らない男子生徒が一人いた。
彼の名前は匙元士郎。シトリー眷属で「兵士」の駒で転生した少年だ。
「質問に答えろ!!どうしてお前がここにいるんだよ!!」
一樹は大声で一誠に迫った。彼―――一樹は『原作』を知っているからだ。
(一誠の所為で俺のハーレム計画が台無しじゃないか!『原作』にない事ばかりしやがって!!)
一樹は自分の思い通りにならない事に苛立っていた。それを全て一誠の所為にしていた。どこまでも傲慢で、自己中心的な一樹に一誠は視線すら合わせようとはしなかった。
それが一樹を更に苛立てさせた。
「……あ!待って!!」
一誠は一樹達の気にしないまま、佑斗達を追いかけて行ってしまった。
「クソが……!!」
「……カズキ先輩。私達はこれからは?」
一誠が立ち去った後、小猫が一樹に不安げな顔で訪ねてきた。
「……一度戻って部長達に報告しよう。あいつがどこに向かったのかが分からないからな。匙もそれでいいだろ?」
「ああ、分かったぜ」
一樹、小猫、匙の三人は一誠を追わずにリアス達に報告に戻るためにその場を去った。
一樹達がリアスに報告に戻っている時、一誠は佑斗達の気配を追って廃工場に来ていた。そこには人避けの結界が張ってあった。
(ここに人避けか……一般人は近付く事も出来ないな。それに廃工場にわざわざ近付こうとは思わないか)
一誠はゆくっりと廃工場の中に足を踏み得れた。そこで見た状況に一誠は思わず固まってしまった。
「……え?」
そこで見たのは血だらけで意識を失っているイリナと自身の得物を地面に刺してかろうじて立っている佑斗とゼノヴィアの二人だった。
今にも倒れそうな二人の目の前に一人の堕天使―――コカビエルがいた。その翼は五対十羽をしており嫌でも上位に位置していると思わせる。
「イリナ!?大丈夫か?」
「……真神一誠か。……すまないがイリナの事を頼む」
ゼノヴィアは一誠にイリナの事を頼むと「破壊の聖剣」をコカビエルに向けた。佑斗も力を絞って立ち上がり構えた。
そんな二人をコカビエルは鼻で笑い飛ばした。
「ふん!たかだか教会の使徒と転生悪魔で何が出来る?リアス・グレモリーへの宣戦布告にはなるか。死なない程度に痛めるけるか」
カビエルは手に光を集めて槍の形へ変えてゼノヴィヤと佑斗に向けて投擲した。そこに一誠が割り込んで「カジキ村正」で受けつつ別方向に弾き飛ばした。
「何?!」
コカビエルはまさか自分の攻撃が弾かれるとは思ってもいなかったようで、あまりの出来事に数秒の間、呆けていた。
「『ウロボロス・ボーン』。木場!触れろ!!」
「?!」
コカビエルの攻撃を弾いた一誠は『ウロボロス・ボーン』に換装して佑斗に叫んだ。佑斗はすぐに一誠に触れた。一誠はすでに負傷して動けないイリナとボロボロのゼノヴィアに触れていた。
佑斗が触れてすぐに一誠は『転移』して廃工場から逃げ出した。
一誠ならコカビエル程度、瞬殺すら出来るが、イリナの治療を優先して逃げ出す事を選んだ。コカビエルは消えた一誠達が居た場所をじっと見ていたがバルパーの方に顔を向けた。
「バルパー。準備はどこまで進んだ?」
「地脈の操作は問題ない。いつでも始める事は出来る」
「そうか。……なら今夜、始めるぞ!地獄から連れてきた『あいつら』が腹を空かしているからな」
コカビエルは残酷な笑みを浮かべながら廃工場を後にした。
廃工場から逃げ出した一誠達は一誠の家にいた。ボロボロにやられているイリナ、ゼノヴィア、佑斗を一誠は『クジャク・ボーン』で治療していた。
しばらくして落ち着いたと思い、一誠は何があったのかを佑斗とゼノヴィアから聞こうとした。
「それで、何があった?」
「……バルパーとフリードを追って廃工場に入ったまでは良かったんだけど、そこにコカビエルが待ち構えていたんだ。なんとか応戦しようとしたんだけど、コカビエルの攻撃が強力すぎてその余波に怯んでいる所に紫藤さんの聖剣をフリードが奪ったんだ」
「そうか。これで向こうには聖剣が四本か……」
一誠はイリナの治療をしながら考えていた。何故?コカビエルは聖剣を集めているのかを一誠なりに。
(戦力増強?いや、聖剣は確か適性がないと扱えないはずだ。向こうの聖剣使いはフリード、ただ一人だったはずだ)
聖剣使いは教会でもそう多くは居ない。だからこそ貴重な存在になっている。
だと言うのにコカビエル一派はイリナから「擬態の聖剣」を奪った。そこに一誠は注目した。必死に頭を働かして答えを見つけようとした。
そこで一誠はふと思い出した事があった。
(そう言えば、ここ数日の内にこの街の地脈の流れが変わったな。向こうのやろうとしている事に関係しているのか?)
街の下を地脈が流れが変わった事に一誠は気が付いていた。そこの事も含めて考え出した。
(地脈には膨大のエネルギーがある。相手がそれを利用としているのは流れを変えた事から明白だ。ならそのエネルギーをどう使うかだな。あ、一応オーディンの爺さんに報告しておかないとな)
一誠は『クジャク・ボーン』でイリナの治療をしながらオーディンにこれまでの経緯をメールにして送った。これからの指示を仰ぐためでもある。
(これ以上は流石に不味いよな……)
いくら佑斗の復讐の手伝いをすると言っても一誠はユグドラシル所属のオーディンの私兵だ。これ以上、三大勢力の問題に関われば、他の神話勢力にいい様に言われてしまう。
一誠とてそのくらいの弁えている。
イリナの治療が終わったと同時にオーディンから返信があった。
「…………え?」
その内容に一誠は驚きが隠せ無かった。決戦の時は静かに近付いていた。
次回更新は12月6日です。