イリナとゼノヴィアの二人が風呂で今後の話をしている中、一誠は夕食の準備をしていた。
作っているのは北欧ではあまり作った事のないカレーだ。
元々は今日辺り来るであろう人物に食べさせるために作るつもりだったのだが、思わぬ来客が来ているので多く作ろうとしていた。
「……よし。美味くできたな。……それにしも二人とも遅いな?のぼせていないか?」
風呂が長い二人を気遣っているが、イリナとゼノヴィアは一般人だと思っている一誠に家に自分達の事情を話さずに泊めてもらえるように話し合っているため、入浴に時間が余計に掛かるのを一誠を知らない。
「……それにしても何か忘れているような…………あ、『ウロボロス・ボーン』」
一誠が忘れている事を思い出して、『ウロボロス・ボーン』で佑斗を異空間から外にだした。
出てきた佑斗の顔は先程とは違って落ち着いていた。
「……ようやく出してもらえたよ」
「悪い。すっかり忘れていた。それにしてもだいぶ落ち着いたようだな」
「ああ、君のおかげでね。それでここは?」
「俺の家だ。ちょっと待ってくれ。もう少しでカレーが出来るから、それと二人が風呂に入っているから出たらお前も入ってこいよ」
「……そうさしてもらうよ。それで君の言う二人って何者だい?」
「それは―――」
「イッセー君!お風呂ありがとうね!久し振りに湯船に入ったわ」
「日本の風呂と言うのも中々いいな。……ん?誰だ、その男は?」
一誠が佑斗に説明しようとしたらイリナとゼノヴィアの二人が出てきた。二人は一誠から借りたジャージを着ていた。
「こいつは木場佑斗だ。木場、こっちの二人が紫藤イリナとゼノヴィア……なんだっけ?」
「クァルタだ」
「……だそうだ。待ってくれ。カレーを持って来るから」
一誠はそう言って台所に向かった。そんな中三人はお互いに睨み合っていた。
先に切り出したのはゼノヴィアだった。
「……お前は悪魔だな?」
「え……?うそ!?」
「間違いない。この男は悪魔だ!」
ゼノヴィアは佑斗を悪魔だと断言した。イリナはゼノヴィアの発言に驚いてしまった。
ゼノヴィアはすぐに自分の得物である聖剣の『破壊の聖剣』を持ち構えた。
イリナもゼノヴィアに続き『擬態の聖剣』を佑斗に向けて構えた。
「それは、聖剣か……!!まさかここでも出会えるなんて……!!」
佑斗は聖剣を見ると殺気を聖剣に向けて魔剣創造で『光喰剣』を作り出した。
「魔剣を作り出しただと!?お前は何者だ!!」
「……なに、君達の先輩、とでも言えば分かるかな?」
「……なるほど、あの計画―――聖剣計画の生き残りか……」
ゼノヴィアとイリナの頭にはある計画の事を思い出していた。その名は「聖剣計画」だ。
聖剣計画。
人工的に聖剣に適合した人間を創ろうしたが失敗に終わってしい、被験者だった少年少女は一人を除いて全員処分されてしまった。この事から教会では忌むべき計画だ。
三人はお互いに剣を構えたまま動こうとしなかった。先に動いた方が後手に回ってしまうからだ。今まさに動こうとした瞬間、一誠が三人の間に現れた。
「―――何を物騒なものを出しているんだ。お前ら」
「「「!?」」」
「『ウロボロス・ボーン』転移」
現れた一誠は『ウロボロス・ボーン』の空間転移で三人の得物を異空間に飛ばした。
「まったく、人の家の中で刃物を振り回そうとするなよな。危ないだろ」
「い、イッセー君……何?その力は……?」
「う~ん……何と説明したらいいか……まあ、そうだな。『マジン』の力っと言ったところか」
「ま、魔人?!」
「ま、魔神だと?!」
イリナとゼノヴィアは一誠の言葉が信じられずに大声で驚いてしまった。特にイリナの心境は荒れていた。
(う、嘘よ!私がいない間にイッセー君が『魔人』になっているなんて……これは私が浄化してあげないと!!)
『マジン』違いなのだがイリナはそれに気付いていない。一方、ゼノヴィアは冷静に一誠の事を考え始めた。
(『魔神』か……だが、人が神―――魔神になるのか?そんなのは聞いた事がない!これは天界に報告した方がいいな)
イリナと違いゼノヴィアは『マジン』違いをしなかった。そしてこれを天界に報告する事を決めた。
「そう言えば、まだ二人には名乗ってなかったな。俺は北欧―――ユグドラシルの主神、オーディンの私兵、真神一誠だ。よろしく!」
「…………オーディン様の」
「…………私兵、だと」
イリナとゼノヴィアは一誠がまさかオーディンの私兵だと言う事に言葉を失ってしまった。
日本に着いてから色々な事があったが、二人にとって一誠の正体や所属している神話勢力に驚きを隠せ無かった。
「とりあえず、カレー食べるか」
「そうだね。頂くよ」
「……そうね。まずは食べましょ、ゼノヴィア」
「……そうだな。腹が減っては戦えないからな、イリナ」
四人はカレーが並べられているテーブルに向かった。そこでイリナは一つ可笑しな事に気が付いた。
「……あれ?イッセー君。カレーが一皿多くない?四人しかいないのに五皿もあるわよ?」
「別に間違っていないぞ。五人目はお前の後ろに居るぞ」
「……え!?」
イリナは一誠に言われるまま後ろを見た。そこには黒いゴスロリ幼女が立っていた。
「「「!?」」」
佑斗、イリナ、ゼノヴィアは幼女から距離を取った。彼らの行動は無理もない。いきなり気配も感じさせずに現れれば警戒してしまうのは当然だ。
「……久しい、イッセー」
「よお、来ると思ったぜ。オーフィス」
「い、イッセー君。その、オーフィスって……『ウロボロス・ドラゴン』の?」
「ああ、そうだ。こいつは『無限の龍神』ウロボロス・ドラゴンのオーフィスだ」
無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。
『不動』の存在であり『無限』を冠する龍。世界最強でもある龍族だ。
各勢力のブラックリストの一番上におり、行動一つで各勢力が警戒する程の存在。
イリナは一誠に目の前の幼女の事を恐る恐る聞い驚愕で呆気に取られてしまった。そして返ってきた答えはイリナ達の予想通りになった。
「「「えええぇぇぇ!?」」」
「ああぁぁ!!もう五月蝿い!静かにしろ!!」
「だ、だって!『無限の龍神』だよ!世界最強の龍なんだよ。驚くなって方が無理だよ!!」
「まあ、今はカレーを食べるぞ。冷める」
オーフィスの事など関係ないようなに振舞っている一誠の態度に三人はどこか気が緩んでしまった三人はテーブルに置かれたカレーを食べ始めた。
そして誰一人として喋る者は居なかった。
「「「「「……………」」」」」
一誠は基本一人で食べたりたまにオーディンやオーフィスと食べるが特に喋る事はない。
佑斗は敵と言ってもいい一誠と教会の使徒二人と何かを話す気にはなれなかった。
イリナとゼノヴィアは教会の教えで食事中に私語をしないように教育されていた。
オーフィスは複数での食事などしたことがなかったために黙って食べ続けた。
「……ねぇイッセー君。聞いてもいい?今まで何があったのか……」
食事を終えて一番に口を開いたのはイリナだった。イリナは知りたかった。
自分が知らない一誠の過去をどうしても知りたかった。
「……そうだな。どこから話したらいいのか。迷うな……」
一誠は自分の過去を話していいものか、悩んでいた。内容は信じられないものもそうだが、教会の使徒であるイリナとゼノヴィアと悪魔側である佑斗がどこまで話していいのか慎重に考えていた。
(まあ、オーフィスとの出会いくらいだったら構わないか)
一誠は三人の顔を見て話を始めた。
「分かった、話す。俺とオーフィスの出会いは―――」
一誠はオーフィスとの出会いの事だけ話す事にした。
一誠がオーフィスと出会ったのは約1年ほど前だ。その日、一誠は日課にしている『ボーン』の力の使い方を研究していた。
使えると言っても全てを把握してわけではない一誠はユグドラシルの近くの人がいない森で力を使っていた。
「ハッ!セイッ!オラッ!!」
拳を突き出す。足で蹴る。一誠は格闘技の基礎を身体に覚えさせていた。
基礎が出来てこそ、応用が出来るものと一誠は考えている。一誠が基礎をしていると一枚の『ボーン・カード』が現れた。
(『ウロボロス・ボーン』?どうしていきなり現れた?俺、何かしたか?)
現れた『ボーン・カード』に驚きつつもその原因を一誠が探そうとしたが分からなかった。
「……?」
後ろから気配を感じた一誠は振り返って見るとそこには黒いゴスロリ風の服を着た幼女がいた。
(いつからあそこにいた?それにこんな所にあんな小さな子が来れる訳ない)
ユグドラシル近くの森と言っても魔獣などが出る場所でとてもではないが、幼女一人がここまで来るのは不可能だ。
「……お前は誰だ?」
一誠は警戒レベルを上げた。目の相手は一誠にとってギリギリ倒せるか倒せないかとくらいの力を感じ取った。
「……我、オーフィス」
一誠に幼女はそう一言だけ言った。
(オーフィス?それって確かオーディンの爺さんが教えてくれたっけ。この世界で一番強い龍族だったような?何でここにいるんだ?)
一誠はオーディンから教えてもらった事を思いだし、これからどうするか迷っていた。ここで戦い倒すのか。それともオーディンに報告するためにユグドラシルに戻るのか。
その二択で迷っていた。
「お前は何のためにここに居るんだ?」
「……力を借りたい」
「それは……俺のか?」
「……そう」
一誠の質問にオーフィスはただ一回頷くだけだった。一誠にとって疑問があった。
どうして世界最強のドラゴンが自分の力を借りたいのか?その事が一誠の頭の中にあった。
「俺はオーディンの爺さんの私兵だ。従わせたいなら力尽くでやってみろ、オーフィス」
「……そう。分かった」
オーフィスはおもむろに手を一誠に向けた。
(何をするつもりだ?)
一誠が首を傾げているとオーフィスは魔力の塊を一誠にぶつけた。とっさに一誠はガードしたが、あまりの威力に数百mも吹き飛ばされた。
「―――危ないな!?俺じゃなきゃ死んでいたぞ!?」
「……力尽くと言ったから示した」
「それだけで?」
「……そう」
オーフィスは一誠の「力尽く」を実践したのだ。思わず一誠は頭を抑えた。
「……そうか。なるほどな……いいだろ。『ドラゴン・ボーン』!」
一誠は『ドラゴン・ボーン』を纏ってオーフィスを攻撃した。世界最強のドラゴンに、だ。
「炎龍覇王拳!」
右腕に炎を纏わせオーフィスを殴りつけた。オーフィスはガードしたが、今度はオーフィスが吹っ飛ばされた。
転がり木を数本なぎ倒してようやく止まった。
「……?」
「おいおい……マジかよ」
一誠の攻撃をもってもオーフィスの腕に与えられたダメージは軽い火傷だけだった。
「もう一発!極・炎帝爆砕拳!」
一方、一誠はオーフィスと距離を詰めて二撃目を喰らわした。一撃目よりも多くの魔力を右腕に込めて、オーフィスを殴り飛ばした。
「…………」
だが、先程よりも強力な一誠の二撃目は神ですら消し飛んでも可笑しくはないはずなのに、オーフィスにはあまりダメージを与えられ無かった。
「まったくどんだけだよ?オーフィス。まだやるか?」
「……まだやる」
「上等だ!!とっとくたばれ!!」
一誠とオーフィスの戦闘はそれから一時間近く続いたが結局、決着は付かなかった。そしてユグドラシル周辺の森は甚大な被害を被った。いくつものクレーター出来て修復に長い時間が掛かってしまった。
さらにユグドラシル自体も危うく半壊しかけた。
ユグドラシルの神々はこの件を「ユグドラシル半壊事件」と命名した。そして神々は改めて知ってしまった。
一誠の強さが「無限の龍神」と対等に戦えるのを。
オーディンを始めユグドラシルの神々は一誠の今後の扱いについて話し合いが行われ、とりあえずは現状維持という事で落ち着いた。
次回更新は10月4日予定です。