You Only Live Twice の奇想曲   作:飛龍瑞鶴

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 通院後登校したクラスは最悪の空気だった。
 
 カメリアの瞳の少女問いに彼は素直に答える。

 彼はそれなりの実力者であるが。

 彼の先輩方は彼を越える実力者だった。



不機嫌な早朝と規格外な先駆者

 武偵病院での診察を済ませて、2-Aに向かって歩く。裂傷部に既に皮が張ってきており、あと数日で完治するとの事。

 

 クラスが違う美香とは、名残惜しいが自由履修の時間に指導すると約束したので。

 それまでの時間は真面目に授業を受けて、友人と馬鹿話をしたりして、学生生活を楽しもうと考えている。

 

 『向こう側』に比べて、『こちら側』の人間の方がスペック面で上であると思える。『向こう側』より、肉体的な上限が上であると言うのは、自分の能力がどれ程向上するのか?挑戦し甲斐がある。

 

 最も、一年の時に戦徒(アミカ )制度と言う指定制度で戦兄(アミコ)になった人物の規格外ぶりには、ついて行くのが非常に困難を伴うものだったが。その為に学科を複数掛け持ちする事になり、単位確保で必大変だったが。防衛省から外部団体を通じて下される指名クエストでなんとか補填ができているが。

 

 ―あの戦兄の同期の先輩も大概、規格外なんだよなぁ―

 

 今年の三年生は教務部(マスターズ)によれば『生きの良い連中が揃った』らしい。確かに、あの先輩方は行動的だ。それに何かしら強い信念を持っている。自分の信念が負けているとは思わないが。

 

 「おはようございます」

 何時もの様に挨拶をいれながら、教室に入る。親しい友人から、「おはよう」の返しが来る。

 

 「おい、笠原。傷は大丈夫か?それに、アレどう言う事だか知らないか?」

 「笠原くん。傷は大丈夫?それと、あそこの詳細知らない?」

 車輌科(ロジ)の武藤剛気と、強襲科(アサルト)の不知火亮が昨日の傷の事と、満身創痍で精根尽き果てた様に机で寝ている遠山キンジと、『私不機嫌です』と全身から剣呑な空気を放っている神崎・H・アリアの方を指して尋ねてくる。

 「あぁ、鏡高さんがカチコミ装備で朝、男子寮に向かっていたと美香に聞いたな。その途中で、何かあったんじゃないか?と言うか、お前らキンジの友人なら直接聞けば良いだろう?」

 と言いつつ。あの空間に突入するのは相当な胆力が必要だと思いながら、二人に対して、声を潜ませながら常時持ち歩いている十面体ダイス(賽子)を取り出し見せる。

 「一番小さな目を出した奴が聞きに行く。OK?」

 「あぁOKだ!」

 「それで問題ないよ」

 二人の了解を取り付け、ダイスを先に転がす。

 

 出目は1。

 

 「「「………」」」

 「行ってくる」

 キンジとアリアの席近く(死地)へと向かう私に武藤と不知火が敬礼を送るのが見えた。気がつけば、クラスメイトもこちらを窺っていた。

 

 ―やっぱり、お前は話題の中心に居る人物だよ―

 

 ネクラと言うか悲観主義的な性格のせいで、学生生活で損をしている中学時代からの友人(遠山キンジ)に心の中で告げると、彼の前の席に無断で座り耳元で囁くように彼に尋ねる。

 

 「お疲れさん。大体は予想がつくが。どうした?」

 キンジは、自己嫌悪が混じる精根尽き果てた声で俺に答えてきた。これは、アレか。しかし、この疲弊ぶりはなんだろうか?

 「お前の予想通りだよ。菊代が朝起こしに来た。そこで、アリアと衝突した」

 俺は、キンジの垂れ下がった腕に右手で、和文モールスを打ち込む。

 『それで、最終的にお前がヒスって止めたのか…ご愁傷さま…』

 「うん?」

 私は疑問を感じた。そのシチュエーションは予想できるが、それが発生するには『キンジの部屋にアリア嬢が最初から居る』と言う前提条件がある。

 

 「おまえさん。もしかして…」

 キンジは初めて顔をこちらに向け、なんとも言えぬ表情で此方を見た。

 「アイツ、昨日から居座ってるんだ。俺をパーティーに組み込みたいなんだの…」

 厭世感漂う声でキンジは答える。隣に耳を傾けてみると、神崎嬢が

 「何?あの極道女。諜報科(レザド)になのになんであんなに強いのよ」

 と、愚痴を言っているのが聞こえる。

 流石、恋する乙女は強いと言うべきだろうか?

 鏡高嬢、確かAランク諜報科(レザド)だったな。剣術の方は星伽嬢と何度も切り結んで鍛えられた極道剣術。突きが主体で、首を掻き切る様に振るわれる。さらに、足首、膝の裏、手首、肘等を切り付けるカウンター技まで持っている。

 それでも、Sランクの強襲科(アサルト)が不機嫌になるくらい戦えたことは驚きに値する。

 

 ―いや、今の神崎嬢が焦っているのが原因かもしれない―

 

 昨晩の内にコネクションを活用し、神崎・H・アリアについては調べ終わっている。また、関連情報を洗えば彼女の目的が判明するまでそんなに時間を必要としなかった。

 

 ―この話はキンジには後で話そう―

 

 思考がマイナス方面で回ってる時に、重い他人の境遇を聞かせるのは、肉親を失ったばかりの人物には負荷がかかりすぎる。

 

 ―結局はキンジ自身が克服するべき問題か―

 

 私は何度も繰り返している思考になった。

 心が折れて弱っている者は、時には自分でそれを克服しなければならない。

 「お疲れ、昼くらいは奢るよ」

 「食べる気力が残ってたらな」

 まぁ、奢れるだろう。そう思いながら武藤と不知火に結果を必要な部分だけ伝える為に、歩き出すと。

 

 「あんた。笠原信也で間違いない」

 神崎嬢に声をかけられた。声色から、不機嫌なのは明らかなのだが無視する訳にもいかない。

 「間違いない。あぁ、昨日、自己紹介してなかったか。申し訳ない」

 神崎嬢はその事は関係ないと言う風に首を振った。

 「貴方、諜報科(レザド)がAランクで、他にも尋問科(ダギュラ)情報科(インフォルマ)強襲科(アサルト)狙撃科(スナイプ)を掛け持ちしているそうね」

 彼女の言っている事は本当だった。『向こう側』の自分に並ぶ実力を得ようとした結果であり。また、戦兄と共にクエストをこなした結果とも言える。

 

 去年までの戦兄の名は、鈴木・B(ボンド)・三郎。あの英国秘密情報部MI6の00課(ダブルオーディビジョン)エースであった人物が日本に覆面捜査で来日した際に、偽装結婚した女性との間に生まれた子の息子である。日本人と英国人、そしてアメリカ人の血を引いている人物で、諜報科(レザド)強襲科(アサルト)狙撃科(スナイプ)情報科(インフォルマ)車輌科(ロジ)全てSランクと言う化け物である。

 

 「戦兄下で勉強したら。いつの間にかそんな数を掛け持ちする事になりましたよ。尋問科(ダギュラ)狙撃科(スナイプ)情報科(インフォルマ)教務部(マスターズ)が掛け持ちしろと言われて増えました。おかげで、単位確保の為に毎日走り回ってますよ」

 少し、自嘲ぎみに補足を付ける。『向こう側』で身に付けて居たスキルを再度習得しようと努力した結果なのだが。単位管理とクエスト、様々な予定をジグソーパズルの様に予定を組み立てる事になるとは思わなかった。

 「では、授業がはじまりますので。また今度」

 神崎嬢は何かを聞きたがっていたが。担任である高天原先生が来たので話はそれまでになった。

 

 私は武藤と不知火にメールを送りながら、昼以降が大変になるなと言う。

 経験から来る直感で、そうなると感じていた。




主人公の多数の掛け持ちは、特殊部隊系の技能を揃えようとした結果だったりします。

戦兄の鈴木先輩の祖父ですが、先代00課のナンバー7、つまりジェイムズ・ボンド氏ですが日本人と偽装結婚したのは、007シリーズ「You Only Live Twice」映画007シリーズのでは「007は二度死ぬ」の設定です。
そこで生まれた「ジェームズ・タロウ・スズキ」と言うキャラクターも一応、公式設定とされるキャラクターです。

次回ぐらいのアクションシーンを書けると良いなぁと思いっています。

次回もベストを尽くして書きますので、よろしくお願いいたします。

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