You Only Live Twice の奇想曲   作:飛龍瑞鶴

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曲を奏でるには楽器のチューニングが必要である。
二度目の人生をする時にも状況確認(チューニング)が必要である。



演奏準備
状況整理―チューニング―


 .45ACP弾の雷鳴の様な銃声が東京武偵校2年A組に轟き、音源のコルトガバメントの名前で一般的には知られる拳銃二丁を抜き撃ちで(クイック・ドロウ)で発砲したピンクの髪の少女、神崎・H・アリアがその顔を真っ赤に染めて声高に宣言する。

 「れ、恋愛なんて……くだらない!」

 それと同時に、一人の男子生徒が首を押さえて立ち上がる。抑えた手の隙間から鮮血が噴き出している。

 本来、アリアの放った銃弾は壁に命中するはずだった。しかし、ある生徒が防弾下敷きで涼を取っていた。その下敷きが大きく反った瞬間、その位置が本来.45ACP弾が通過する射線であった。その弾は下敷きに命中するが下敷きの反った角度が跳弾に最適な角度であったのが、悲劇の原因だった。跳ねた弾は、偶然にも発砲の音源を確認しようとしていた男子生徒の首筋を掠め、皮膚を切り裂く事になった。

 「衛生科(メディカ)か、救護科(アンビュランス)は居ないか。応急処置!」

 生徒の一人が叫ぶ、それの声をかき消す轟音が、被弾した生徒から発生した。

 音源は、彼が脇に吊った銃身と銃床を短く切り詰めたブローニング・オート5。彼はアリアと同じように抜き撃ち(クイック・ドロウ)で4発のビーンバッグ弾―小さな玉で満たされたナイロンバッグを打ち出す。殺傷能力の低い弾―をアリアに向けて撃ち。それを撃ち終えると、オート5を投げ捨てバックアップとして吊るしていたS&Wショーティ.40を抜いて口に持って行き。

 「I'll teach you how to die like a man!(俺が貴様に男の死に様を教えてやる)」と叫び、口に咥えた。

拳銃自殺の場合、口に咥えて撃つ方が確実に死ねる可能性が高くなる。銃弾が脊柱を破壊する可能性が高いからである。さらに確実に死にたいなら口一杯に水を含むと良い。

 「やめろ。馬鹿」

 この瞬間になって、彼をよく知る遠山キンジと不知火亮が動き、男子生徒から銃を奪い取り、床に押し倒す。

 押し倒された男子生徒、名前を笠原信也と言うが。押し倒された時に気を失って、保健室へと強制搬送されていった。

 もう片方の撃たれた人物であるアリアは。

 「弱装ビーンバッグ……両肩に一発と、両膝に一発。狙いは正確ね」

 と冷静に自分の状況を分析した後、クラスに向かって宣言する様に言う。

 「いい。全員覚えておきなさい。今度こういう馬鹿な真似をしたり言ったりしたら。」

 クラス一同が困惑ぎみな所に一喝を入れるように

 「風穴あけるわよ」

 そのセリフは嫌な現実感を持ってクラスメイトの耳に届いた。

 

 ―厄介な事になるな―

 

 両者と関係があり。笠原信也とは中学以来の付き合いの遠山キンジは、不幸なのか幸運なのか判らない旧友が残した物の後始末をしながら。朝方の事を含めて頭痛がするのを感じた。

 

 一方、首を撃たれて失神している笠原信也は、応急処置をうけながら、おぼろげにこれまでの短いながらも数奇な人生を回想していた。

 

 実感としての記憶があるのは、中学時代からだった。

 その記憶の始まりは、中学入学の前日の朝からになる。

 目覚めた時に感じたのは、強烈な痛みと、違和感だった。脳に膨大な情報と記憶がなだれ込み、今の自分と何かが混じり合うのを感じた。その何かが別世界で一度人生を終えた自分だと気がついたのは、痛みを伴う頭痛が消失してからだった。

 体のコンディションが普通に戻った時には、この世界で生まれ育った自分と、別世界で生まれ育ち、そして死んだ自分が混じり合った。新しい笠原信也が存在していた。

 『向こう側』の経験に従い現状を把握すると、家族は『向こう側』が知っているのと変わらず。そして、一般常識も変わらず。社会の事と自分の進路の事で頭を抱えた。

 「武偵制度」「社会情勢」「超能力の存在」「神奈川武偵付属中学に明日入学」「専門科目は諜報科(レザド)

 社会情勢や超能力の存在については受け入れるしかなかった。そして、別世界でも諜報と言う世界を目指す自分に笑うしかなかった。

 二度目の人生と言うべき状況だが、笠原信也の行動方針は変わらなかった。彼の根源的な部分はどの世界でも同じらしい。

 

 「自分の愛する人の周りの安寧を守る」

 

 伴侶たる女性が「こちら側」に来ているかは不明であるが。愛すべき存在は居る。それは家族であり、年が一つしか離れていない妹である。『向こう側』の経験と知識を最大限に活用して、この世界で生きていくことを決意する。

 そして、神奈川武偵付属中学でアイツに出合った。

 

 目覚めの感覚は、普通だった。首を動かすと痛みが走り、生を感じる事が出来る。

 「起きたか」

 中学以来、聞きなれた友人の声が聞こえる。

 「こう言う時には美女が居るってのが、セオリーじゃないか?キンジさんや」

 「そんな期待するだけ無駄だ」

 中学以来の友人である遠山キンジが、俺を見下ろしていた。

 状況を確認するために質問を飛ばそうとしたが、友人はそれより先に説明してくれた。

 「ここは保健室。なんで運ばれたかは覚えてるか?」

 「あぁ」

 「首の傷は、浅いとの事だ。皮が割けただけで、筋肉、神経その他諸々は大丈夫との事、運が良かったな。数日で治るそうだ。跡が残るかもしれないとも言っていた」

 「凄味が出るな」

 俺の軽口に中学時代の相棒は呆れたように会話を続ける。

 「モテなくなるぞ」

 「一人で十分だ。そこはもう埋まっている」

 「ハイハイ、ご馳走様」

 そう、私の人生のパートナーはもう決まっている。『向こう側』でも伴侶になった最愛の女性、蒔田美香と『こちら側』でも巡り合えた。

 

 彼女とある意味で『再会』したのは、東京武偵高校の入学試験の時だった。

 受験の為に生徒でごった返した電車の中で綺麗なソプラノが私に囁いた。

 「クーデグラ」

 「チャイ」

 私はそのソプラノの言葉に確信を持って返す。それは、『向こう側』の大学時代に同じサークルだった彼女と共に何度も遊んだTRPGのとあるゲームで使われるやり取りだった。

 そして、『向こう側』で最後に彼女と遊んだゲームのやり取りでもあった。

 振り向く、『向こう側』で出会った時より若いが確信できた。私の最愛の女性である蒔田美香だと。

 「おはようございます。信也さん」

 「あぁ、おはよう」

 何気ない朝の挨拶。しかし、『向こう側』の記憶と経験を持つ私達には万感の思いがこもった挨拶だった。

 

 「おい。大丈夫か?」

 甘い回想から、キンジの声で現実に引き戻される。

 「大丈夫だ。血が少ないのかな?少し、ボーっとしてた」

 「そうか。改めて聞くぞ。なんで、あんな事をした?」

 神崎・H・アリアの弾に当たって、報復に12番ゲージのビーンバッグ弾を4発、その後、自殺未遂。確かに理由を聞きたくなる事だ。

 実際の所、なんで自殺しようとしたのは、自分でも判らない。

 喋りながら原因を考える事にした。

 「深夜に召集され小学生と中学生の武装強盗を制圧して、そのまま登校だ。正直、眠いのと気が立っていた。そこに、小学生ぐらいの娘さんが撃った弾で、首を撃たれたんだ。眠気で判断力が落ちてた。だから死ぬと思って、死ぬなら印象に残る死で死にたかったのかもしれない」

 小学生と中学生が銃器で武装して、コンビニ強盗をする治安とモラルの低下を始めとする様々な事が嫌になってきていた。

 さらに、『向こう側』で経験した世界の多数派が居る地域での語るのも嫌になるよな汚れ仕事、その過程で見た悲惨を通り越したこの世の地獄。

 その記憶が、関連付けられるような状況では脳裏に大写しになる事もある。

 それらで打ちのめされた精神が、寝不足と緊張の糸が切れかかった瞬間に、負傷すると言う異常事態でマトモな判断能力を失って全部投げ出したくなったのかもしれない。

 だが、まさか自殺しようとしてたとは思わなかった。

 『向こう側』と混じり合っているが、精神力等は『こちら側』だけよりは強化されているとは言え。基本的には高二になったばかりの精神力しかない。

 『向こう側』の記憶と経験と知識は役に立つが、それを完璧に活かすには、自分自身を鍛えるしかない。それが今後の課題になるだろう。

 

 「もう、下校時間だ。荷物は持ってきてやった。動けるか?」

 ベットから起き上がり、靴を履き立ち上がる。立ちくらみも無かった。

 「大丈夫だ。問題ない」

 保険医を見つけて、詳しい傷の具合や、帰ってからの対処法を聞いて。キンジと寮へと帰る。

 

 帰り道、暇なので歩きながら会話で潰すことにする。

 「そう言えばキンジお前、朝大変な目にあっただろ。詳細を教えてくれ」

 被弾した前後の記憶が曖昧なのと、眠気と闘っていたので。HR中の事はただ騒がしかったとしか、記憶していない。

 キンジは思い出したくないような表情になる。あぁ、これはアレだな。

 「チャリジャックにあって死にかけた」

 「ついでにヒスったか…ご愁傷さま」

 友人で中学生の相棒を労う様に肩に手を置く。

 

 この遠山キンジは特異体質であり、ヒステリアモード(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)と言う話しによれば遺伝的な特殊能力を持っている。

簡単に説明すれば、性的興奮をした時に自分のあらゆる能力が向上して「女性の為に強くなる」と説明すれば楽だろうか?

 この力の為に、中学の時は女子に利用されていたが。俺と殴り合いの喧嘩を含む、話し合いの末「それがその女性にとって、正当な利用であったらOK。我欲の為なら制裁を加える」と言う感じで、折り合いをつける事になった。もっとも、当人はヒルテリアモード時のキザッタらしい自分にモード終了後に激しく自己嫌悪に陥るのだが。私としては、望んでも得れない才能に多少の嫉妬心を未だに持っている。

 「そう言えば、やっぱ辞めるのか?」

 私は急に話題を変える。重い話題になるのをキンジの空気から感じ、もう一手を打つ。

 「すまん。やっぱ、体力を持ってかれた。お前の部屋で少し休ませてくれ」

 「大丈夫か」

 キンジが心配そうに声をかけてくる。私は、いままで耐えていたのが耐えるこが限界になった風を装う。呼吸を荒くし、足運びを少し乱す。

 「変に意地張るのは、ダメだな。少し座って、栄養ドリンクでブーストして、帰るから」

 「あぁ、構わないぞ」

 友人を騙すのには心が痛むが、必要と思える事なら、それには耐えられる。

 しかし、そうするたびに自分が薄汚れている人間であると実感してしまい。世界が変わろうと、本質は変わらないのではないかと言う答えのない疑問を繰り返すことになる。

 




 冒頭をすっ飛ばしてHRから。
 そして、いきなり被弾して保健室送りの主人公…
 
 キンジの中学時代が少し変わっています。
 主人公の介入によって、どう変わったのかはお楽しみにと言う事で…
 次話もベストを尽くしてがんばります。

 自殺未遂の動機の描写不足を書きたしました。

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