You Only Live Twice の奇想曲 作:飛龍瑞鶴
この物語はフィクションであり。
現実の人物組織とは一切の関係はありません。
色々あり、睡眠時間が確保できなかった。教室に顔を出す前に、キンジと出会った。
「よぉ。お疲れ様」
声をかける。キンジも寝不足気味らしい、ついでに凄まじい自己嫌悪をまき散らしている。
「あぁ、復習は出来たよ。誰かさんのおかげで」
「あっ……つまり、ヒスって一晩中、鏡高に甘い言葉責めしながらその記憶力で総復習したと」
瞬く間に距離を詰められ、至近距離で肝臓に打撃。痛い、痛い、痛い。
「ひ、と、ぎ、き、の悪い事を言うな」
コイツ、自己嫌悪を俺で発散する気か?まぁ、焚きつけたのは俺なので甘んじて受けよう。
「悪い、悪い」
と、キンジに謝りながら。恐らく、一晩中の言葉責めで疲れ切っている筈の鏡高嬢に内心詫びる。
「俺は、午後には
キンジが肝臓打撃から首絞めに移行しながら言う。資料を渡す相手は予測がつく、それに、相手のその後の行動をキンジが尾行する事も。
俺はタップをしながらこちらの予定を伝える。
「依頼者に呼ばれちまった。状況が変化したのかもしれないから、お前も気をつけろ」
キンジにそう告げると彼の拘束から逃れる。視線の端には
それは、
今持っている新聞は、産業で経済的な新聞だから……緊急呼び出し、「最寄りの集合地点に急行せよ」とのメッセージだった。
「悪い。非常呼集だ。じゃぁな」
キンジの返答を待たずに通勤通学の人間の波の中に紛れて、最寄りの集結地点に向かった。
集合地点には一台の黒塗りの公用車。
二度のパッシングの後に左の方向指示器が一度点滅する。
―後部座席の左側に座れ―
その指示通りに、公用車の左後部ドアに手をかける。ガキはかかっておらずそのまま引き明け乗り込もうと姿勢を低くした瞬間に、私は硬直した。
「信也。座りなさい」
私の祖父、笠原信勝がいつも私に何時もの、優しいが厳しさを感じさせる声で言う。祖父はイタリア仕立てのスーツを着て、公用車の右側に座っていた。
「なんてお呼びすればよろしいですか」
座り心地の良い座席に座りながら祖父に尋ねる。ドアを閉めると同時に、公用車は走り出した。
「笠原機関長と呼びなさい。笠原武偵」
「承知しました。笠原機関長」
祖父の空気が大きく変化したのを感じた。少なくとも、孫を前にした好々爺ではない。私が知らない何をか背負った組織の長に相応しい貫禄と存在感を出している。
「
車が十分な速度を出し、首都高湾岸線辺りに差し掛かったところで祖父は尋ねてきた。
この速度で走る社内なら外部からの盗聴の可能性は低いと考えたのだろう。
「いえ、知りません。しかし、存在は仄めかされています」
フーチの仕事で何度か存在は仄めかされたが、説明は無かった。恐らく私の機密レベルでは知る事を許されない情報だと判断して納得していた。
「鼻と判断の良さが無ければ生き残れん世界だ。血かな……我々の家には相州乱波の血が流れている。そう言えば、お前の後輩に本家の娘が居たな」
「良い子ですが。少し難がありますね」
色々と時代錯誤な
「話が逸れたな。お前の機密資格は?」
「丙種です」
「では、現刻より甲種だ。許可は出ている。後で書面に捺印しろ」
なんとも異例な出世だ。
祖父にそれが行える権限があるのか、それともただのメッセンジャーなのかは予測がつかない。
ただ、予測がつくことは私の機密資格を上昇させねばならないほどの緊急事態が私の身近に迫っていると言う可能性が高いと言う事である。
「了解しました」
祖父は私の答えを聞いたときに。一瞬、顔を歪めたが。私にはその理由が理解できなかった。
「では、説明しておこう。
「現在までよく存続できましたね。契約の民の短剣と外套が始末しそうですが」
「そのつもりだったよ。故に私の機関は欧州に残った。初代機関長は契約の民に貸しがあった。それ故に協力して叩く算段だった。しかし、それができる状況ではなくなったのだよ。
「なんともまぁ、まるで犯罪コンサルタント企業のようだ。スペクターの後継組織と言われても驚きませんよ。冷戦崩壊後はソ連の連中まで加わって居そうですな。手に出しにくい深海にでも隠れているのでしょうか?そうであれば、行方不明の旧ソ連の
私の推論に祖父は僅かに頷いた。どうやら、推論は正解らしい。
伊とUは日独双方で潜水艦を指した名称だ。現状、存在が明るみにならないのは世間と言う存在から目の届かない海底を移動していると予想。
主要国が手を出さないのは、「
「前世紀で終わらせたかったのだがな。交渉ができる相手であった為に利用価値がある。少なくとも交渉の余地のない狂信的な聖典の
祖父の声色には皮肉以上のモノが込められていた。
恐らく祖父自身も言語化できない、不快で深い半世紀分の溜まりに貯まった澱みなのだろう。
「そこまでの情報を開示して、私に何をさせたいんですか?」
「その前に紹介したいお方が居る。さて、移動だ」
車両は一般道に入り、地下鉄駅大井町駅の入り口近くに停まっていた。私は祖父に続いて、駅の階段を下りていく。
大井町駅はとても広い、東京駅まで繋がっている。そして、入り組んでも居る。祖父は駅に続く通路の一つの職員専用ドアをごく自然に開け中に入った。私も続く、駅員の更衣用のロッカーや、その他いろいろな物が置かれている雑然とした通路を抜けると。
今まで、見たことも立ったこともない地下鉄のプラットフォームに立っていた。
「聞いたことはあるだろう。東京の地下には現存の路線以外にも、地下鉄が引かれていると。これがその一つだ」
やがて車両が音も無く滑り込んでくる。窓はブラインドで塞がれ内部はうかがえない。唯一開いた扉に祖父が足を運ぶので、私は急いで後を追った。
車内は電車の中と言うより、移動指揮所を連想させた。複数のモニターは日本列島を中心に表示したものを始めとして様々な個所で発生している『何か』を表示している。その様な場所を抜けて、応接室らしき場所に入ると、一人の精悍な老人が我々を待っていた。
私はその老人を知っていた。
佐々淳行。
戦後、我が国における警備・公安事件において常に最前線に立っていた歴戦の強者。警備警察での活躍の方が目立つため、警備のプロとして一般社会は認識しているが、その警察官としてのキャリアは圧倒的に公安警察の方が長い。NATO諸国、北米の情報機関との太いパイプを持っていると囁かれる。歴戦の
「淳行くん。久しぶりだね。後藤田さんの葬儀以来かな?」
「そうですね。笠原さん。其方が例のお孫さんですね」
祖父が佐々氏に気楽にあいさつした瞬間に凍り付いた私だが、祖父が紹介するように背中を軽く押され慌てて頭を下げる。
「笠原信也です。色々とお世話になりました」
私の緊張でカチカチの自己紹介とお礼に佐々氏は苦笑を漏らした。
「君の活躍は早瀬くんたちかよく聞いている。ご苦労様です。これからもこの国の為に働いてください」
「はい!より一層努力していきます」
私は珍しく緊張を続けていたが、同時に嫌な予感が広がるのを感じていた。
座り心地の良いソファーに祖父と並んで座り。紅茶が出されたが、私は手を付ける気力が湧かなかった。
「さて、本題だが」
正面に座った佐々氏が切り出した。その瞬間から彼の纏う空気が変化する。それはとても重い物であった。その空気に影響され、思わず姿勢を正す。
「
「なぜです」
私は半ば答えを理解していながらも声を荒げて、佐々氏に問う。
「犯人は
「我々はこの国を亡国にはしたくない」
祖父が佐々氏の言葉を継いだ。
「承知いたしました。しかし、私以外、それもイギリスから来た武偵が犯人を逮捕するのは問題がありませんね。その武偵は我々の事情は知らないのですから」
私の発言に佐々氏は暗い笑みを浮かべる。
「無論だ。我々と
佐々氏は最後に巨大な爆弾を発言した。
それは、蒼天の霹靂であり。
私の人生の予定表を強引に進ませる高速ルートへに入り口だった。
今年最後の投降になります。
イ・ウーに関しては少し設定を盛っているのと、潰されないわかりやすい理由を追加しました。
さて、この物語はこの辺りから原作からずれ始めます。
はて、さて、何処にたどり着くのでしょうか?
次回もベストを尽くして書きますのでよろしくお願いします。
あと、感想など等を頂けると製作速度が向上するかと思われます。