You Only Live Twice の奇想曲   作:飛龍瑞鶴

10 / 14
無事に武偵校に負傷者を送り届ける事に成功した信也達。

アリアの負傷の報を聞いて浮足立つが、事後処理や事情聴取が待っている。

そんな中で、信也は、「市ヶ谷」の俗称を持つ防衛省情報本部(DIHQ)に呼ばれる事になった。

その組織は成立される前から、東京の小さなお家(トウキョウ・フーチ)と呼ばれていた日本の黒い霧であった。



日本の黒い霧―トウキョウ・フーチ―

武偵病院に到着し、負傷者を引き渡した後。私はTac-50(マクミラン)を分解して銃口の片方を塞ぎ、その中に硫酸を注ぎ込んで、もう片方にも栓をする。

 

Tac-50(マクミラン)は諸般の問題で、今の状態で警察に提出する訳にはいかなかった。

武偵校に帰還中にスポンサー(市ヶ谷)に連絡を入れておいた。

銃身を交換して現場に残っているかもしれない、ライフルマーク―所謂、旋条痕―を残さない様に今の銃身を溶かす。そして、新しい銃身を支給してもらい3発撃って適度に内部を汚す。それで警察には用意したカバーストーリーを話せる。銃検を通してない銃を使用するには色々と後始末が必要になる。

銃自体を海に捨てるのが手っ取り早いだろうが、今回は目撃者多数なので後始末とカバーストーリーが必要になってしまった。

 

『笠原信也さま、笠原信也さま。至急正面玄関までお越しください』

 

院内放送で呼び出される。

―相変わらずの手早い―

 

内心でそう思いながら、私物一式を持つ。

「西城先輩、後頼みます」

「できる事しかしないぞ」

先輩にこの後の事情聴取を押し付ける。

「美香、行ってくる。夜までには帰って来ると思う」

「じゃぁ、夕飯用意して待っていますね」

「あぁ、楽しみにしている」

 美香の好意に笑顔で応じる。後ろで男子武偵衆が「リア充爆発しろ!」と叫ぶのを聞いたが、無視して、正面玄関へと急いで向かった。

 

「よぉ。派手にやったじゃないか」

 正面玄関で私を待っていたのは、左頬に大きな縫い傷があり、小太りの体躯を高価なスーツで包んだ。悪魔の様な風貌の男だった。

 「佐藤二佐、なにせ相手が武装した無人車両だったもので」

 私は市ヶ谷絡みで仕事をする時の、現場担当官の一人である佐藤大輔二佐に言い訳がましく言いながら。正面玄関前に停まっているトヨタセンチュリーのトランクを開けてもらうように、運転席の中村三曹に合図を送り手を合わせて頭を軽く下げる。

 「中村ァ!早く開けて差し上げろ。お前、誰のおかげで三等陸曹になれたと思ってるんだ!」

 佐藤二佐の結構理不尽な一喝。ルームミラー越しに見る中村三曹の眼は『畜生、いつか殺してやる』と雄弁に語っていたが、トランクは開いた。

 私物を詰め込み、佐藤二佐の隣に座る。

 「お前はどう思う?」

 佐藤二佐は主語抜きで聞いてくる。試されているのは確実、しかし、候補が少なく易しい問題と思える。

 「『武偵殺し』でしょう。本物の…足取りを追える様な物証は出ないと思いますが」

 「お前もそう思うか。まぁ、捜査は桜田門のお仕事だ。向こうに着いたら、鹿内さんと話してくれ」

 「了解しました」

 

 

 防衛省に入ったセンチュリーは本棟の正面玄関前で止まり、私は佐藤二佐の後ろを歩いて伏魔殿の奥へと進んでいく。

 Tac-50(マクミラン)は、中村三曹が銃身の処分と交換をする為に敷地内の地下にある。秘匿射撃場へと運んでいった。

 

 「佐藤です。連れて来ました。」

 迷路を歩く様に右に左と角を曲がり、方向感覚が判らなくなった頃に目的の場所に到着した。

 その部屋の入り口には、どういう部屋なのかを示す表示やプレートは無かった。

 「入ってくれ」

 「入ります」

 佐藤二佐に続いて入室する。

 部屋の中は質素なもので、キャビネットは空、使い古しの応接セット。

 一般的な執務机の上には中古品業者も受け取らないようなパソコンの周辺機器、しかし本体は国産の最新の最高級品だった。そこに私を管理する早瀬一佐が居た。応接机には鹿内二佐が座っている。

 「笠原信也、出頭いたしました」

 「忙しい所、ご苦労」

 早瀬一佐は柔らかい声で私に言う。

 「それでは、私は次の仕事がありますので」

 「あぁ、佐藤二佐。下がってよろしい」

 佐藤二佐は意外にも早い足取りで部屋から出て行った。

    

   ―現役の現場要員だから、そりゃ鍛えているよな―

 

 「それでは、本題に入りる。笠原君も座り給え」

 早瀬一佐が厳かに言う。

 

 

 「今回のバスジャック事件、笠原君。君はどう思う?」

 早瀬一佐が私に尋ねてくる。

 「先ほど、佐藤二佐に同様の質問をされましたが。私は本当の『武偵殺し』の犯行だと思っております。ご存知かと思いますが。自転車にC4を仕掛け、その搭乗者を武装を施し無人機に改造したセグウェイで追い立てると言う事件が発生しています」

 「そうだとしたら、一度規模がリセットされ、だんだんと大きくなっていますね。我々は浦賀沖の水難事故も『武偵殺し』の犯行ではないかと思っていますので」

 鹿内二佐はそう言うと、事件の概要と被害者が書かれたカードを取り出して並べる。

 「海難事故で一区切りですかね?法則性があるのならば…次は空?あるいはまた海難事故?」

 「いや、複数の個人を狙った事件かもしれない」

 早瀬一佐が、被害者の名前を確認した後に言う。私にも何となく予想はついた。

 「遠山一族の武偵ですか…」

 私はそう口にすると、早瀬一佐は頷き口を開いた。

 「武装検事だった「彼」の血を引いているんだ。恨みの矛先になっても変ではあるまい。兄の方は現役武偵だった」

 「で、次は弟と」

 鹿内が言う。

 例の海難事故で遠山兄は死んでいる。チャリジャックは確実に遠山キンジ狙いだった。そして今回のバスジャックも遠山キンジを狙った可能性が高い。

 「そうだ。笠原くん。遠山キンジの監視と護衛をお願いする。なお、当人に気がつかれない様に」

 「了解しました。全力を尽くします」

 私は親友を守るために、武偵の笠原信也と、フーチのエージェントの両方を使い分ける存在に、この瞬間からなった。

 なお、フーチと言う組織も、そこに所属するエージェントと言う存在も、公式には存在しない。

 




今回は小林源文要素の佐藤と中村が登場
そして、手持ちのカードからの状況分析で偶然が起こした誤判断より、間違った分析により投入される主人公。


この作品の当校以降、長期入院に入ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。