元文科省職員が学園艦廃艦計画阻止のために奔走する話   作:単細胞

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第6話

「こんな物をどうして貴女が?」

 

俺は書類を片手にしほに尋ねた。

 

「船舶科のOGで今は造船会社に勤めている同級生がいるの。学園艦は大きいからその作った会社でまずはブロックに分けてから解体業者へ依頼するらしいわ」

 

そういう事だったのか・・・

 

これで解体業者に聞いても分からなかったという謎が解けた。

 

「これは?」

 

さらに資料を読み進めていくと別の学園艦の設計図が入っていたのだ。

 

「1996年まで学園艦として使われてきた物よ。老朽化して引退、ここの高校は新造した学園艦に引っ越したの」

 

「老朽化して引退した学園艦・・・まさか!?」

 

俺の声にしほは頷いた。

 

「思っている通りよ、そこは今この学園艦を解体している。その間大洗女子の学園艦は近くの港に係留してある。時間稼ぎにはなるわ」

 

「別の会社に変えられる可能性は?」

 

「もう依頼しているのよ?違約金が発生するわ。これ以上余分な経費は掛けたくない筈よ」

 

老朽化した学園艦の解体を依頼した団体、「財団法人 日本学園艦運用進言団体」、出資しているのは戦車同連盟をはじめとする部活動の連盟、西住流や島田流といった戦車道やその他武道の流派、それに各高校まで・・・

 

「こんな団体まで・・・」

 

全く、この隣に座っている女性が恐ろしく思えてきた。

 

「手助けになったかしら?」

 

「手助けもなにも・・・十分すぎますよ」

 

これで学園艦解体の問題は解決に向かうわけだが根本的な問題はまだ山積みだ。

 

「さて、これからどうするのかしら?」

 

「えっ、どうって?」

 

「解体ドックを見るために鹿児島まで行く予定だったんでしょ?その必要はなくなったんじゃなくて?」

 

「確かに・・・」

 

わざわざ九州まで来たのに無駄足になった訳だ。いや、この資料が手に入っただけでもここまで来た甲斐があったと思うことにするか。

 

「そろそろ具体的な解決策を考えないといけませんね。辻さんが次に何かやらかす前に・・・」

 

此方の手札は大洗女子学園戦車道チームと戦車、連盟に西住家・・・答えは決まっているようなものだ。

 

「しほさん、家元を襲名していろいろ忙しいとは思いますがしばらく付き合ってください」

 

「構わないわ、どこへ行くの?」

 

俺はとりあえず熊本の西住流の総本家へと向かう、何人かに連絡を取る必要があるのだ。

 

「一旦熊本へ向かいます。明日には迎えが来ると思いますので」

 

「迎え?」

 

しほは訳が分からないと言った様子で聞き返してくる。

 

「どこに連れて行くつもり?」

 

俺はしほの目を真っ直ぐ見て言った。

 

「文部科学省です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は陸上自衛隊、土浦武器学校に降り立った。最近はヘリやら車やらであちこちを行き来しまくっている気がする。

 

ヘリの横には黒の高級車、レクサスGS-450hが停車していた。ナンバープレートは自衛隊のナンバーではなく一般の物、連盟の公用車だ。

 

「蝶野、悪かったな。急な頼みで・・・」

 

「全くよ!急に九州から東京に戻るからヘリをよこしてくれって、しかも車まで」

 

「大洗女子学園のためだよ、それに西住家の家元も・・・」

 

ヘリから降りたしほさんを見て蝶野は驚きの表情をみせる。

 

「家元!?貴方ねぇ・・・」

 

行動の早さに呆れる蝶野であったがそそくさとレクサスの後部座席に入る。

 

「ほら、行くんでしょう。文科省に?」

 

「そうだな。だがその前に行くところがある」

 

レクサスの運転席に乗り込むと俺は太平洋方面に向けて車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都千代田区霞が関、日本の省庁が集中するこの地区はまさに日本の中心地と言えるだろう。

 

その中を俺の運転するレクサスは文部科学省の省舎へ向かっていた。

 

入り口前に車を停めると角谷杏と蝶野亜美に西住しほ、児玉七郎、俺は建物の中へと入っていった。目指すは学園艦教育局、辻さんのいる場所だ。

 

中へ入るとあまりの顔ぶれに辻さんは驚いている様子だった。

 

無理もない、俺や角谷杏だけならともかく自衛隊の指導教官に連盟の理事長、さらには西住流家元まで連れてきたのだから・・・

 

西住しほの存在はかなりの影響があるだろう、なんせプロリーグ設置委員会の委員長の椅子を文科省が用意していた。文科省からしたら彼女はこちら側と思い込んでいたに違いない。

 

「敷島君、これは一体どういう事かね?」

 

「どういうも何も大洗女子学園生徒会長の角谷杏さんを見ればわかるでしょう?そういった話です。ちゃんと話は通している筈ですが?」

 

俺の言葉に辻さんは「ぐっ・・・」と歯噛みする。そう、俺は大洗女子学園廃校に関する話し合いをするために角谷杏と共にもう一度そちらへ向かうとだけ伝えておいた。

 

どうせまた適当にあしらって追い払うつもりだったのだろう、俺は辻さんの下で働いていたのだ。アンタのやろうとしていたことはお見通しなんだよ。

 

しかし今回は違う、角谷杏と一緒に座っている理事長と蝶野亜美、西住しほ達にもしっかりと納得のいく回答をする必要がある。言わなくても分かるがしほは手ごわいと思う。

 

「さて、廃校撤回に関する話ですが・・・」

 

角谷杏が口を開いた。

 

「それは前にもお話した通りです。善処はしたんです。ですが我が国の国家予算も厳しいものがあります。莫大な経済効果が見込める世界大会を実施するためにもご理解ください」

 

すかさず俺が口を挟む。

 

「いくら私立の高校とはいえそこを削る前にまだやることがあるんじゃないですか?大洗女子学園にはまだ約1000人もの生徒が在籍しています。それに戦車道チームを発足してから入学希望者は増えています。そんな学校を廃校にするのはどうかと思いますが?」

 

辻さんは黙ってしまう。今回の廃校計画、建前はつらつらと並べているが俺からしたらかなり私情が入っているように思える。

 

学園艦統廃合計画をめちゃくちゃにされた大洗女子学園への恨み、かつて俺が文科省に在籍していた頃、それを指摘した時、辻さんはこう言い放った。

 

「何を言う、これはきちんとランダムに選んだ結果だ」

 

絶対嘘だ。

 

「しかし、これはもうすでに決定したことで・・・財務省への申請も既に終えていますし・・・」

 

決定事項だから変えられないってか?だが甘いぞ辻さん。

 

「実はその案件、近々見直しが入りますよ」

 

「なんだと!?」

 

「辻さんもご存じでしょう?俺は文科省に入る前には財務省に居たんです。言ってる意味、解りますよね?」

 

辻さんは俺を睨んだ。

 

「君はまた・・・小癪な真似を・・・」

 

「お互い様でしょう?」

 

鋭い視線を受け流しながら俺はソファへ座る4人の後ろへと下がる。

 

 

 

 

「さて、これであとは辻さんが首を縦に振ればいい訳ですが。交渉に入りましょうか?」




劇場版の半分まで来ましたね、このペースで行くと意外と早く終わりそうですね・・・

後日談やら主人公過去編やらも書く予定ですのお楽しみに待っていただけると光栄です。

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