元文科省職員が学園艦廃艦計画阻止のために奔走する話 作:単細胞
今後も亀更新になっていくと思いますが完結はさせる予定なので首を長くして待っていてくださいね(亀だけに)←審議拒否
「そうか・・・忙しい時に済まなかったな。あぁ、そうだな。もし分かったら知らせてくれ。じゃぁな・・・」
俺は船舶関係の知り合いに詫びを入れた後終話ボタンを押す。
「クソッ!」
デッキの手すりを思い切り蹴った。足に鈍い痛みが残ったがそんなことはどうだっていい。
大洗女子学園艦の解体が前倒しされたという知らせを聞いてありとあらゆる業者に聞いてみたが帰ってくる答えは同じだった。おそらく海外の業者に発注したのだろう。
タイムリミットは大幅に短縮されてしまった。こっちはまだ解決の糸口を探しあぐねているというのに・・・
「学園艦さえなくなってしまえば何をやっても手遅れになる・・・ってか?」
冗談キツイぜ・・・
自動車部のメンバー、レオポンさんチームの顔が頭に思い浮かんだ。
「必ずチャンスを取り付けてくるからそれまで大洗の戦車を整備していてほしい」
俺の言葉に彼女たちの表情が一気に明るいものへと変化した。そう、俺は彼女たち、いや、大洗女子学園の生徒全員の希望を背負っているのだ。
そんな彼女たちが今の俺を見たらどう思うだろうか。
「根拠の無い慰めはするべきではなかったか・・・」
夕焼けに染まる空を見上げた時、横からティーカップが差し出された。
視線を移すとそこには聖グロリア―ナ女学院戦車道チームの隊長、ダージリンが居た。
「こんな格言を知っますか?焦ることは何の役にも立たない。後悔はなおさら役に立たない。焦りは過ちを増し、後悔は新しい後悔をつくる。」
「ゲーテの言葉か・・・」
俺の答えにダージリンはゆっくりと頷いた。
「紅茶、冷めないうちにお飲みになってください」
「では、失礼して・・・」
ティーカップに口をあてる。やはりこの学校の、しかも彼女の淹れる紅茶はとても美味しい。
「ありがとう、とても落ち着いたよ・・・」
「それは良かったです」
暫くの沈黙が続く、彼女は高校3年、それなのに俺よりも長く生きてきた人と一緒に居るような感覚を覚える。まったくミステリアスな人だ・・・
そしてダージリンがゆっくりと口を開く。
「大洗女子学園の一件、私たちもかなり困惑しているんですのよ。まさか急に廃校が決定するなんて・・・」
聖グロリア―ナ女学院はこれまでに2度、大洗女子学園を制している。大洗女子最大のライバルと言っても過言ではないだろう。
近いうちにまたエキシビションを企画している最中で真っ先に聖グロリア―ナ女学院には声を掛けていた。そして大洗女子学園にも声を掛けようと思っていた矢先の事だったのだ。
「大洗女子に対する作戦を考えている真っ最中でしたの。あの学校に勝つのも大変ですのよ・・・」
「そうなのか?」
いつも澄ました顔でチャーチルに収まっている彼女、現在2連勝ではあるがそれでも大変なのだろう。
「西住隊長は1戦1戦経るごとに確実に進化している、それは大洗女子学園全体にも言えること。そんな彼女たちを離れ離れにしてはならない。これはかつて彼女たちと戦った高校すべてが思っていることですわ」
「すべての思い・・・」
西住みほ、彼女と一戦でも交えたチームは彼女を隊長として、いやそれ以上に認めている。それは彼女の人間性と何時、いかなる状況でも諦めない心から来ているのだろう。
「さて、私はそろそろ高校へと戻らなければいけません。良かったら送ってもらえるかしら?」
「え?」
突拍子の無い頼みに俺は一瞬ポカンとしてしまった。
「あんな車、私乗ったことがありませんの、とても興味がありますわ」
「そういう事だったら、別に構わんが・・・」
シルビアの助手席に収まった彼女はまるで子供の様に車内を見回していた。
「この椅子、固いですがとても安心できますわね。それに運転席も飛行機のコックピットみたい、この骨組みは何ですか!?すごい、まるで戦車みたいですわ!」
ダージリンは目の色を変えて矢継ぎ早に質問してくる。まるでさっきの人物とは別人のようだ。
「おっと・・・失礼しましたわ」
ハッと我に返り頬を朱に染めながら俯く彼女、とても面白い人だ。
「さて、出発するぞ。舌噛むなよ?」
「えっ・・・ちょっと待って!まだ心の準備が―――」
俺はアクセルを踏み込んだ。
「本当に感謝するよ。ヘリまで用意してくれて・・・」
ヘリポートに駐機してあるマーリンHC.3Aの格納スペースに俺のシルビアがゆっくりと搬入されている。まさか陸への輸送にヘリコプターを持ってくるとは思ってもいなかった。さすがはお嬢様学校である。
「構いませんことよ。これくらいしか私達に出来ることはありませんの」
「いや、とても助かった。色々と・・・」
「準備が出来ました。此方にお願いします」
パイロットと思しき女子生徒に案内されてヘリへ乗り込む、エンジンが甲高い音を上げてローターの回転が速くなった。
扉を閉めようとする乗員をダージリンが手で制す。
「貴方にこの言葉を贈ります。戦術とは一点に全ての力をふるうことである」
「ナポレオンだな。でもどうして?」
俺はどういった意図でこの言葉を言ったのか分からなかった。
「すぐに解りますわ。西住隊長なら必ずやってくれます。では、ごきげんよう」
扉が閉められてヘリはゆっくりと上昇していく。
ヘリの中で揺られる事数十分後、俺は九州の地に降り立った。
出口で待っていると助手席のサイドウィンドーをノックする人物が居た。車高が低いせいで顔までは見えない。
助手席に乗り込んできた人物に俺は驚愕した。
「お久しぶりね、章浩君」
乗り込んできたのは西住流戦車道の家元、西住しほだったのである。
「しほさん!?どうしてこんなところに?」
「ここは九州よ?私がいてはおかしいかしら?」
「いえ・・・その・・・」
動揺する俺を見てしほは面白そうに笑う。
「そんな事で連盟の役員が務まるの?推薦した私の身にもなってほしいわ」
「そんな、急だったもので・・・」
しほと俺の姉貴は同級生で親友だったらしい。その事もあってよく家に遊びに来ていたのだ。彼女は俺の事を気に入ったのかよく弄っては遊んでいた。俺の苦手な人物の一人である。
文部科学省を飛び出して路頭に迷っていた俺に連盟への道を用意したのも彼女だ。
「お姉さんとはしばらく会っていないのだけれど、元気かしら?」
「えぇ、社会人チームのコーチとしてビシバシ選手をシゴいていますよ」
「それは何よりだわ。貴方は今とても忙しいらしいわね」
「まぁ、そうですね・・・ただ色々と行き詰っている状態でして・・・」
「学園艦解体が前倒しされたことかしら?」
いきなりの核心を突く発言に俺は驚きを隠せなかった。
「どうしてそれを?」
「蝶野から事情を聴いたのよ。西住流の家元として、私も協力することにしたの」
「そんな!?大丈夫なんですか?」
今回の活動に西住流の後ろ盾が付くことはとてもありがたい、しかし今回の一件、文科省と真っ向から対立するもの。そんなことに戦車道の有名な流派を巻き込んでもいいのかと不安にもなるのだ。
「大洗女子が廃校になれば黒森峰が雪辱を果たすことができなくなるわ。それは困るもの。それに行政がこれ以上戦車道に深入りさせるわけにもいかない」
そういってしほは俺に封筒を手渡した。
「これは?」
「貴方が今抱えている問題を解決する糸口になるモノよ」
紐を解いて中を確認する。
「マジかよ・・・」
封筒の中に入っていたのは大洗女子学園学園艦解体の依頼に関する書類一式のコピーであった。