元文科省職員が学園艦廃艦計画阻止のために奔走する話   作:単細胞

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第2話

「うぉ~、きたきた!」

 

大洗女子学園艦の展望スペース、双眼鏡を片手に俺は大洗女子学園のグラウンドを見下ろしていた。

 

艦橋を掠めるようにして飛んできてのは例の改造を施したサンダース付属のC5Mスーパーギャラクシーだ。

 

C5Mは少し揺れながらくろがね四起を総動員して作った滑走路に着陸した。

 

すぐさま機首のハッチが開いて戦車の積み込みに掛かる。

 

積み込みを終えていざ離陸、俺にとって緊張の一瞬だった。

 

理論上は飛べる筈。しかし8両の戦車を格納庫いっぱいに詰め込んでこのグラウンドから離陸させるのはどうしても不安になってしまう。

 

ジェットエンジンの回転数がどんどん上がって甲高い音が此方にも聞こえてきた。そしてゆっくりとC5Mが動き出す。

 

4発あるエンジンの背後から光が吹き出した。アフターバーナーが焚かれた証拠だ。

 

生徒が祈る中C5Mはグラウンドの端から端を使って何とか離陸することが出来た。

 

「何とか離陸できたようだな・・・」

 

思わず安堵のため息が漏れる。

 

戦車は何とか保護することが出来た。

 

 

 

これで何とかすることが出来る筈だ。彼女達なら・・・

 

 

 

 

 

 

 

「あの時出くわしたシルビアを見た!?」

 

「そう、C-WESTのエアロパーツ付けた白のS15がすぐ近くのサンクスに停まってたんだよ!」

 

自動車部唯一の2年生、ツチヤは興奮気味に話した。

 

「ツチヤ、ホントに間違い無いのか?」

 

「あんなエアロガチガチのシルビアを間違えるなんてありえないよ!」

 

ホシノの問にツチヤは自信満々に答える。

 

ソアラで大洗女子学園艦の道を走っていた時、背後にピタリとついて来た白のS15、かなり角度を付けてコーナに侵入すると驚いたことにその角度に合わせて追走してきたのだ。

 

そのS15は県外ナンバーだった。あの道を何度も走りこんでいるツチヤに合わせられる人は他に居ないと思っていた。

 

「それでですね、そのS15に乗ってた人がですね――――」

 

「あの~ちょっといいですか?」

 

「こんなカンジでスーツを着た男の人で・・・え?」

 

男性を見てツチヤは驚愕した。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

真後ろに立っていた彼こそがコンビニの駐車場で見たS15シルビアのドライバーだったのである。

 

「そんな驚きますかねぇ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「依頼リスト、確かに受け取りました。近日中に届けさせますのでよろしくお願いしますね」

 

俺は大洗女子学園生徒会広報の河嶋桃から不足品補填依頼リストを受け取った。学園艦から追い出しておきながら雑務はほったらかしとは文科省も困ったものである。

 

とはいうものの敷地内でテントを張ってキャンプ・・・というかサバイバルをしたりと何かと楽しんでいるところもある様だ。

 

「あの・・・ちょっといいですか?」

 

ツナギを着た女子生徒に声を掛けられた。

 

胸元には「OARAI」の文字、彼女達が噂の自動車部か・・・

 

大洗女子学園の戦車は全て彼女達が整備しているらしい。駆動に難のあるポルシェティーガーをスムーズに乗りこなす運転技術や並外れた修理の腕、大洗女子の戦車道に無くてはならない存在だ。

 

まぁこんなのに乗ってたら声を掛けられて当然だよな。

 

「大洗でドリフトしてたの貴方ですよね?」

 

「そうだけど・・・もしかしてあの時のソアラって君たち?」

 

学園艦は大洗町の飛び地扱いっているが学園の私有地が多い。つまりそこはいくら飛ばしたって咎められないのだ。

 

東京へ戻る前に少しドライブしていたのだ。その時前を走っていた1台のソアラ、彼女達が運転していたとはな・・・

 

「あの道、よくレストアしたクルマのテストやチューニングのセッティングを出すのに使っている場所なんです。あの道で私たちに付いて来れる人が居るとは思いませんでした」

 

確かにあの道はコーナーと直線がいいバランスで配置されている。クルマの性能を確かめるにはぴったりかもしれない。

 

「あのもし良かったら今度一緒にツーリングに行きませんか?このシルビアがどんなセッティングか気になるんです」

 

予想外の展開だった。まさか女子高生からツーリングに誘われるとは。

 

「構わないよ、思う存分乗り回しちゃって」

 

一斉に笑みを浮かべる自動車部の生徒たち。

 

「パワーのチェックはしたいね。もしかしたら500は出てるかもしれないな」

 

「これ、TEINの車高調にブレーキはENDLESSだ。詳しい数値も知りたいよ」

 

「エアロはどれくらい効果あるのかな?」

 

なんだかチューニング屋のおじさんと話してるみたいだな・・・彼女達は本当に女子高生なのかと疑いたくなった。

 

「総合的に見たいからやっぱテストコースで・・・」

 

スズキの言葉に皆の表情が曇る。そう、学園艦はもう無いのだ。

 

「自分達の居場所は自分達で取り戻す。前だってそうだったじゃないか」

 

ガックリと肩を落とす彼女達に俺は優しく語りかけた。

 

「でも、今回ばかりは・・・」

 

ナカジマが苦い表情で呟く。たしかに3年生の生徒達にとって急な転校は辛いだろうな・・・

 

「必ず学園復活のチャンスを取り付けてくる。それまで君たちは大洗の戦車を大事に整備していて欲しい」

 

「分かりました!」

 

彼女達は力強く頷いた。

 

俺はシルビアに乗り込みエンジンを掛ける。

 

アクセルを踏み込むとシルビアは校庭の砂を巻き上げながら急加速した。

 

「何としてでも廃艦を阻止してやる!」

 

RB26の爆音が校庭に響き渡る。これが俺からの彼女達へのエールだった。


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