元文科省職員が学園艦廃艦計画阻止のために奔走する話   作:単細胞

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第1話

2週間前・・・

 

大洗女子学園艦の廃艦が決定したという情報が入ってきた時、俺はすぐさま文部科学省の知り合いに電話した。

 

「そうか・・・あぁ、分かってるよ。お前から聞いたって事はここだけの秘密だ。じゃぁな」

 

知り合い曰く学園艦運営に関しては学園艦教育局に一任しているという、つまり事実上の決定権は辻さんにあるということだ。

 

俺にとっては有り難いことだった。内閣の決議を待つ手間を省く事ができる。

 

大洗女子学園の所有している戦車は文科省が預かるという取り決めになっていた。

 

「あのおっさんめ、戦車道の試合をさせないつもりだな・・・」

 

学園艦統廃合計画。学園艦運用に関する予算節約のために立案されたものだ。

 

1次案として出されたのは大洗女子学園を含む幾つかの高校、多くの高校は渋々ながらその勧告を受け入れた。

 

しかしそれに異議を唱えわざわざ文科省までやって来た生徒が居た。言うまでもない、角谷杏である。

 

彼女を適当にあしらおうとして口を滑らせてしまった辻さん。

 

「まさか全国大会の優勝校を廃校には出来ないでしょう?」

 

そんな事ができるはずがないと辻さんは彼女の要求を承諾してしまった。

 

それは安易な考えだった。彼女達は全国大会で優勝してしまったのだ。

 

このニュースは戦車道業界を震撼させた。発足して間もない、それにこれといって強い戦車を所有していない学校が名だたる強豪校を下して優勝した。これは廃校の危機に立たされていた高校に希望を与えた。

 

統廃合リストに上がっていた高校が次々と戦車道を発足、対応しきれなくなった文科省は学園艦教育局局長の辻さんに責任を求めた訳だ。

 

それが今回の大洗女子学園艦廃艦計画である。

 

俺はノートパソコンを起動して連盟のデータベースにアクセスした。その中の各校の装備品リストから「輸送機」というワードで検索を掛ける。

 

「サンダース付属のC5Mか・・・」

 

言わずと知れた世界最大級の輸送機だ。使うとしたらこれしかないだろう。

 

問題は最短離陸距離だ、スペース的には恐らく大丈夫だろうがあの重い戦車8両を載せて学園艦から離陸できるとは到底思えない。

 

俺はスマホを取り出した。

 

「・・・よぉ、元気してたか?早速で悪いんだけどさ、C5輸送機とCF6-80C2のアップグレードパッケージあるっしょ?それ売ってくんない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、俺は長崎県の佐世保に向かっていた。

 

入江の多い海岸に停泊する巨大な学園艦、サンダース大附属高校の学園艦である。

 

タラップから内部に入る。格納庫部にはM4シャーマンを始めとするアメリカ軍の傑作選車が保管されてあった。

 

甲板の一般居住区まで出ると道端には屋台が並んでいた。聞いた所によると祭りなどでは日常の風景なのだという。

 

校舎に到着した。併設されている滑走路には例のC5Mスーパーギャラクシーが駐機してある。

 

滑走路内に入ると同時にアクセルを床まで踏み込む。シルビアは一瞬タイヤをスピンさせたがすぐに地面を掴み加速していった。

 

C5Mがだんだん大きくなってくる。近くに3人の人影が見えた。恐らく隊長と2人の副隊長、ケイ、ナオミ、アリサだろう。

 

彼女達の表情が見える所で一気にブレーキ、サイドを引きつつ車体を滑らせて停止した。

 

「ワォ!アメイジング!」

 

「これがドリフト・・・」

 

「すっっごい怖かったんだけど!」

 

クルマを降りると3人が駆け寄ってきた。

 

「こんなワイルドな登場をする連盟の人は初めて見たわ!」

 

サンダース付属高校戦車道の隊長であるケイは興奮気味に叫んだ。

 

「C2改からヒトマルをLAPESで下ろしてフェラーリ潰した蝶野には及ばないさ。C5Mはちゃんと用意してくれたみたいだな」

 

「こいつをどうするんですか?」

 

アリサが尋ねる。

 

「詳細な話はまだ出来ないがC5Mのアップグレードパッケージパッケージがもうじき届く。それを早急にこいつに乗せて欲しいんだ」

 

「アップグレードって、具体的にどのようなものなのですか?」

 

今度はナオミが尋ねる。

 

「簡単に言え最大積載重量の増加、それと離陸距離、着陸距離の大幅な短縮だ。来たみたいだな・・・」

 

遠くから特徴的なローター音が聞こえてくる。

 

飛行機とヘリコプターの間を取ったようなフォルム、MV-22オスプレイだ。

 

8機のオスプレイの下にはコンテナが吊り下げてある。1つの巨大なコンテナを2機で吊り上げている機体もあった。

 

地上からは73式特大型セミトレーラーや特大型運搬車が次々と滑走路内へ雪崩れ込んでくる。

 

あまりの迫力に3人は空いた口が塞がらないでいた。

 

「こ、これをC5Mに・・・」

 

アリサがやっとの思いで声を絞り出す。

 

「エンジンや胴体、翼のアップグレードパーツ、それとメカニックだ。急な頼みで済まないがなるべく早く頼む」

 

貨物が到着すると早速パーツの装着作業が始まった。作業は主にメカニックが行うので俺の仕事は特に無いのだが。

 

「さて、大洗に戻りますかね・・・」

 

クルマに戻ろうとした時、

 

「ちょっといいかしら?」

 

「なんだ?」

 

「貴方、一体何者なの?」

 

ケイの質問に俺は若干ドヤ顔気味で答えた。

 

 

 

 

「ただの一般人さ、ただちょっとミリタリー系の知り合いが多いだけだ」

 

 

 

 

 

 




C5Mスーパーギャラクシーってスペック通りだと大洗の戦車全てをを乗せたら重量オーバーになってしまうみたいですね・・・

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