武林の誉れに恋しなさい!   作:水華

29 / 30
妄想力に任せて思い思いに書いていたら気が付けば1万字オーバー!?
ただ原作コピも多いです。一応言い回しを変えたり勝手に解釈して補足していますが...


若獅子タッグマッチトーナメントF

一夜明けた翌日、若獅子タッグマッチトーナメントの準決勝が始まる!

 

①智性チーム

・松永燕

・パラス・アテナ

 

②デス・ミッショネルズチーム

・武蔵坊弁慶

・板垣辰子

 

③西遊記チーム

・孫悟空

・師岡卓也

 

聖絶(せいぜつ)の言霊チーム

・羅翠蓮

・京極彦一

 

□□□□□□□□□□□

□ ①┓    ● □

□  ┗┓ ┏┓  □

□ ● | |┗③ □

□   ┣☆┫   □

□ ● | | ● □

□  ┏┛ ┗┓  □

□ ②┛   ┗④ □

□□□□□□□□□□□

 

『さぁやって参りました、若獅子タッグマッチトーナメント、3日目の準決勝、これより開始です!』

 

『『『ワァーーー!!!』』』

 

司会の田尻耕(たじりやすし)が3日目の開始を宣言、観客の歓声が上がる。

 

『昨日はリングが砕けたり機器がオシャカになったりと色々有りました・・・ですが!今日はそんな激戦を勝ち上がった猛者達なのです!』

 

田尻が2日目をしみじみと振り返って言う、まぁ主にと言うか全てに神話殺し達が関わっている事からは目を反らしましょう。

 

『それでは紹介しましょう。先ずは第1試合を飾ります。智性チームの松永燕とパラス・アテナの入場です』

プシューっと煙幕が入場口の両脇で()かれると2人の人物が歩いて来た。

 

1人は黒髪に川神学園の制服だが、昨日迄とは異なり腰には一振りの黒漆拵(くろうるしこしら)えの直刀を()いでいた。

 

1人は銀髪に黒曜石の様な瞳、そして白い貫頭衣(かんとうい)を纏い頭にオリーブの(かんむり)と、ギリシャの女神らしい(よそお)いだ。

 

『どんどん行きましょう、デス・ミッショネルズチームの武蔵坊弁慶と板垣辰子!』

次に入って来た2人。

 

1人は癖の有る髪、川神学園の制服の上からでもハッキリ分かる豊満な胸、手にした錫杖(しゃくじょう)と瓢箪がトレードマーク。

 

1人は青い髪に眠たそうな表情、そしてラフなTシャツで分かりやすい豊満な胸が揺れる。

 

『続きまして西遊記チームの孫悟空と師岡卓也!』

プシューと煙幕が()かれるが。

『『『?』』』

入場口からは誰も現れ無かった。

 

「なんだ!」「鳥?」「飛行機?」「流れ星?」「九鬼の何か?」

七浜スタジアムの上空を黄色い光が尾を引いて煌めくと七浜湾に向かって飛ぶ。

 

―七浜湾side―

 

七浜スタジアムで発生した黄色い光が飛来して今度は七浜湾の特設ステージ上空を縦横無尽に駆け回り、満足したのかリング中央に降りて来てその全貌(ぜんぼう)が明らかになる。

 

「ヤーヤー、我こそは天に(ひと)しき存在なり、猿王にして神通無限、変化は千変にして万化なり。(たん)(ぬす)み、蟠桃(ばんとう)()らう。武を(もてあそ)び、凶を()し悪を(あらわ)す!」

 

「我が姓は孫、名は悟空。斉天大聖の号を得たり!」

「・・・・・・」

バーン!と効果音が付きそうな右手を突き出し半身で構えた名乗りを上げる、茶髪のショートカットに火眼金晴(かがんきんせい)の瞳、京劇(きょうげき)の衣装を纏った孫悟空、そして彼女の腰にしがみ着いて落ちないように頑張った師岡卓也だった。

 

「カッカ、掴みはお~け~じゃな♪」

「そう、だね...」

満足そうに頷く悟空に対してモロは、慣れない飛行でぐったりして居ていつも通りにツッコむ気力も無かった。

 

『は、派手な登場だな...』

『ハッハハハハ、いや~悟空ちゃんらしい気がする』

 

『ゴホン、え~気を取り直して、聖絶(せいぜつ)の言霊チームの羅翠蓮と京極彦一(きょうごくひこいち)!』

シーンと静まり帰るも、静寂はすぐに破られる。

 

『『『!』』』

リング上に膨大な気が収束し、1組の男女が現れた。

 

1人は黒髪に(はす)の花の髪飾りを付け、スリットの入った白いチャイナドレスを着た美貌の中華風美少女でその手には大きな扇子が握られている。

 

1人は黒髪の和服を着た川神学園が誇るイケメン四天王、エレガンテ・クアットロの1人だ。

 

『...!、え~以上が本日、頂点を競う若獅子達だ~!』

『『『ウォーーー!!!』』』

 

◆◆◆◆◆◆

 

そして舞台には2組のペアが残り対峙する。

 

「可愛い格好じゃないかアテナ?妹分でも手加減はしないよ」

 

「フン、(わらわ)に加減とな?()めるでない!」

 

「力を貸してね、ムーちゃん?」

『・・・』

 

「Zzz...」

 

『それでは準決勝、第1試合、智性対デス・ミッショネルズ、試合開始!』

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

開始の合図が掛かるも、両者共に動かず相手の出方を探る膠着(こうちゃく)状態になった。

 

(らち)があかぬな、妾がまとめて相手をしよう」

「あぁちょっと待って、これ以上おあずけするとムーちゃんが本格的に()()()()()()なんだよね~」

 

「ムッ・・・面倒よな、《鋼》の武具ごときが」

『フンッうるさいぞ半端な《蛇》ごとき』

「「!?」」「Zzz」

いきなり聞こえた第3者の声に驚く司会の田尻と弁慶、辰子は居眠りしていて気づいていないが。

 

「否定はせぬよ?、所詮は鉄屑(てつくず)()れ言(ゆえ)な?」

『ほ~何なら神話になぞらえてお前から()()()()そうか?』

1人と一振りの間に険悪な雰囲気が漂う。

 

「アテナちゃんもムーちゃんも落ち着いて!あと仲良くしようよ?」

燕が慌てて仲裁(ちゅうさい)に入る、このままでは流石に不味いと感じたのだ。

 

『...ふん、(おれ)とそこな《蛇》もどきには無理だな』

「フム、不本意ながら妾も同意見だ」

「・・・ハァ~」

盛大な溜め息を吐く燕、元来《鋼》と《蛇》の関係を考えると仕方のない事ではあるが・・・

 

『『『???』』』

 

「あ~ちょっと良い?声は聞こえるけど...もしかして松永先輩の腹話術?」

声は聞こえど姿は見えず、1年生の例もあるので腹話術を疑う弁慶、それに対する解答は。

 

「うん、まぁそんなとこかな?気にしないでね」

「・・・」

曖昧な返事で誤魔化すと燕は抜刀して正顔に構えた。刀身は両刃で漆黒に染まっているが、不思議と神々しく感じられた。

 

―燕side―

 

「ここは譲って貰うよん!」

「!速い」

ガッキーン!と剣と錫杖(しゃくじょう)がぶつかり金属音を奏で、暫し拮抗(きっこう)し。

 

「いっくぞ~」

乱入してきた辰子のストレートを身軽な動きで後方に跳ぶ事で(かわ)した。

 

「それじゃヤろっか、ムーちゃん?」

『おう!』

 

八雲(やくも)立つ、出雲(いずも)八重垣(やえがき)妻籠(つまご)みに。八重垣作る、その八重垣を。」

 

燕が聖句を唱えると刀身に風が渦巻き始めた。

 

「・・・先輩、それは?」

「う~ん、これ以上隠しても意味なさそうだから教えるよん、義経ちゃんや弁慶ちゃんて日本の英雄様のクローンだよね?」

 

「ん?」

何が言いたいのか分からない弁慶を放置して話を進める。

 

日本武尊(やまとたけるのみこと)建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)と言った日本の英雄神が武具にして三種の神器が1つ、それがこの剣の(めい)天叢雲劍(あまのむらくものつるぎ)だよ」

 

「なっ!?」「?」

『『『!?』』』

日本人なら一部例外を除いて誰でも知っている名前に驚愕する。しかしそれが大きな(すき)となった。

 

「隙ありだね♪」

「しまっ?!」

弁慶の目の前に接近した燕が袈裟懸けに切り上げたと同時に刀身に纏った風を解放する。それは暴風となって襲い掛かりガードの上から吹き飛ばした。

 

【よし!正体を明かしたかいは有ったかな?、それに神がかりは負担も大きいから多用出来ないしね】

 

『弁慶選手場外により、勝者智性チーム!』

オオオオオオ!!!

 

『燕の奴が隠してたのはこれか~良いね楽しみだ♪』

『しかし天叢雲剣って国宝じゃ無かったか?』

『何!?てことは、つまり...なんだ?』

 

ザワザワとざわめき始めた頃、田尻からマイクを借りた燕が語る。

 

『皆さ~ん、色々疑問に思ってるかも知れませんが、まず熱田神宮に(まつ)られている国宝とコレは別物です。概念的には叢雲剣ですが、まぁレプリカみたいな物ですね』

 

燕の説明が終わり、周囲が納得したところで次の試合の準備が始まった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

リングの中央で2組のペアが対峙する。

 

「さぁ翠・・・何回目じゃったか?まぁいい決闘じゃ♪」

「空...(まった)く貴女は、109回目です」

 

「おぉそうじゃった!まぁ我の勝ち越しじゃが『いいえ、30勝30敗48引き分けです』ムムム、ならこたびの決闘で!」

「ええ、決着を着けましょう!」

 

『それでは準決勝、第2試合、西遊記対聖絶(せいぜつ)の言霊、試合開始!』

 

「先ずは小手調かのぉ、行くのじゃ!」

悟空は棍を振り回して舞花棍を行う。

 

「良いでしょう!」

悟空が一足跳びで接近し棍を振り下ろす、それを翠蓮が扇子で受けると棍を反転して討ちに行くがもう1つの扇子で弾く。

 

キンキキキーン!!!

 

「そりゃそりゃそりゃ」

(ふん)っ!」

 

ガギーン!扇子で大きく棍を弾くと同時に後方へ跳んだ。

 

「ハハハ、相変わらず器用じゃのぉ功夫扇子か」

「ええ、試したい事がありまして」

 

「我との戦いで試すとはのぉ」

「ふふふ、いつもの事でしょう?」

「カッカッ違いない、ならば手伝うのじゃ」

 

ウッキキキー!

悟空の合図で無数の猿が出現し翠蓮達に襲い掛かる。

 

「覇ぁぁぁ!」

キャン!!ウキュ、キィー!

 

「うむ、『動くな!』」

ウキャ?

 

翠蓮は2つの扇子で猿を吹き飛ばし、京極は言霊で動きを縛る。

 

バサッ!翠蓮が扇子を広げて構え。

 

「扇風!」ウキィィィ?

扇子を振って起こした風が突風となって猿を吹き飛ばすと。

 

「刃風・乱舞」

ズババ、ウギィ、キャァ!?

無数の風の刃が飛び交い切り刻む、耐え切れずに(ひも)()ける様に気力へと返って行く。

 

「成る程のぉ、扇子と権能じゃな」

「ええ、その通りです、玉風!」

翠蓮は風を玉状に圧縮して飛ばしたが、悟空の棍を正面に構えて高速で回転させる倫棍(りんこん)で弾かれるのだった。

 

「じゃあ次は我の番じゃな」ニヤリ

「!?」

悟空がニヤリと笑うと同時に気力が倍以上に(ふく)れ上がった。

 

「空...それは?」

「盟約の大法、まぁ条件がこの場に権能持ちが4人以上居る事じゃがな」

孫悟空、羅翠蓮、そして審判の川神鉄心と控え室のパラス・アテナ、発動条件である自身を含めた権能持ち(神話伝承者(しんわでんしょうしゃ)、神話殺し)が4人以上を充たしていた。

 

「北海より出でよ、我が賢弟(けんてい)猪剛鬣(ちょごうりょう)西域(せいいき)より出でよ、我が賢弟・深沙神(しんじゃしん)!」

 

悟空の聖句にて2つの膨大な気が渦巻きやがて形を成した。まず顕現したのは猪頭で黒衣に同色の甲冑を着た三面六臂(さんめんろっぴ)の巨漢。次いで顕現したのは蒼黒い肌と逆立つ紅い頭髪、小さな髑髏(どくろ)を九つ繋いだ首飾りに簡素な僧衣(そうえ)を纏った鬼神。悟空の権能三兄弟の(きずな)で呼び出した猪八戒(ちょはっかい)沙悟浄(さごじょう)である。

 

「大兄?...いや姉上!お久しゅうございます」

「なんと、兄者!此度は随分と可愛らしゅうなり申したなぁ、白玉(はくぎょく)のごとき容貌(かんばせ)、まことに美愛にござる。くくく、膨よかな胸に唇のぷっくりしたるは桜桃(さくらんぼ)

 

()ァ!」

悟空は棍の一突きで猪八戒(ちょはっかい)(ひたい)を打ち抜いた。

 

「あ痛ッ!?、ひどいでござるよ~兄者」

「なに、ちぃと悪寒がしたのじゃ、気にするな」

「気にしますわい!」

 

「え、えっ?、あの悟空さんこれは一体?」

状況について行けないモロに悟空は笑顔で答える。

 

「我の義弟(おとうと)達じゃな」

「姉上、此方(こちら)御人(ごじん)は?」

「こやつはモロ、今回の我のぱ~とな~でのぉ、沙悟浄(さごじょう)は護衛を頼む」

 

「左様で?それならば身共(みども)が引き受けましょう。初めましてモロ様、身共は深沙神、沙悟浄(さごじょう)と申す」

「えっと、初めまして師岡卓也です」

「それがしは猪八戒(ちょはっかい)よろしく頼むわい」

沙悟浄と猪八戒はモロと挨拶を交わす、一応試合中だが、翠蓮達は仕掛けずに観察に徹していた。

 

「「・・・・・・」」

 

「さて、翠を待たせとるしのぉ、猪八戒は我に続け!」

「分かり申した、兄者」

「・・・我も一応は女子(おなご)、兄者はやめい!」

「おぉ、そうでごじゃった!なら姉者と」

「うむ、まぁ良い」

 

「して姉者、あの者共がそれがし等の相手ですかの?」

猪八戒は好色そうに翠蓮の姿をじろじろと見詰め、視線に気付いた翠蓮が眉をひそめた。

 

「そうじゃ」

「ならばあの別嬪(べっぴん)の相手はそれがしが務めましょう!」

言うや否や猪八戒は気を高め、次の瞬間には身体が膨れ上り全長15メートルの巨漢へと転じた。

 

「あの乳・尻・太もも、三宝がそれがしを待っておる♪」

 

―翠蓮side―

 

【確か原作でもこんなシーンが有った様な・・・】

翠蓮は悟空が権能三兄弟の(きずな)を発動した付近から薄れたカンピオーネの原作知識を思い返していたが、成果は(かんば)しく無かった。

 

【まぁ思い出せない物は仕方有りません、おそらく教主様ならば・・・】

 

「なんと(なげ)かわしい、ここまで浅ましき身に成り果てるとは、私が成敗致しましょう!」

翠蓮の両肩から陽炎の様に黄金の粒子が立ち上ぼり仁王尊が顕れる。

 

【やはりまだ...】

しかし顕現した仁王尊は左腕の無い不完全な状態だった。

 

「まぁまぁ、そう言わずに聞きなされ悪い話ではござらん、まずそれがしが勝ったらそなたを嫁に(もら)う。それがしが負けたなら仕方がない、婿(むこ)になってしんぜよう」

 

「・・・・・・」

翠蓮は目を細めるとゆらりと姿がぶれ、次の瞬間には猪八戒の目の前に居た。

 

黒虎推掌(こっこすいしょう)!」

「ぬ、ぬおおおおっ!?」

武術をトレースした仁王尊が吽形(うんぎょう)軽功(けいこう)にて接近し掌低にて猪八戒の胸を打って数メートル(ほど)吹き飛ばした。

 

「仮にも北天の守護星神がふざけた事を恥を知りなさい!!」

ここで捕捉をば、猪八戒こと猪悟能は天蓬元帥(てんほうげんすい)として北極紫微大帝(ほっきょくしびたいてい)(北極星を神格化した神)に仕えていた武神で最も信仰が隆盛したのは(ずい)から(そう)の時代。そんな神がこんな助平(すけべい)に...教主様ならぶちギレするはずである。

 

「...は~なら我の相手は、ん?」

呆れつつも悟空が京極の方へ行こうとすると足が動かない事に気付き下を見た。

 

「これは!」

そこには何かの植物の(つた)が悟空の足に絡み付いており、気付いた悟空がすぐさま切断しようと棍を振るうも一足遅く、追加で伸びてきた蔦に全身を(つつ)まれ簀巻(すま)きにされ、さらに蔦やリングの至る所に花が咲き乱れた。

 

「ムム、これは千花繚乱(せんかりょうらん)か、油断したわい」

悟空は溜め息を吐いて翠蓮の方を見た。

 

「ええ、その通りです。相変わらず聴勁(ちょうけい)が甘いですね」

「うぐっ!?ち、ちと気が抜けただけじゃ!」

悟空が焦った様に言い訳をした、今悟空を縛るのは翠蓮の権能百草芳菲、千花繚乱(ひゃくそうほうひ・せんかりょうらん)、花を咲かせる権能だが、毒草から食人植物までのありとあらゆる花を無作為に咲かせて土地の栄養を枯渇(こかつ)させる副作用が有り、コンクリートでも(たくま)しく根をはる迷惑な力なのだ。

 

「さて、()()()()前に出るかの、ズンズンズンズン大きくなぁれ!ズンズンズンズン!!」

悟空の身体が膨れ上がり蔦をブチブチと引きちぎって15メートル程の巨体に化身する。権能巨身の法(きょしんのほう)、気の具現化で自身を巨体に化身させたのだ。

 

◆◆◆◆◆◆

 

『『『・・・・・・』』』

司会を含め観客はポカーンとしていた、武術大会とは思えない程の内容に言葉を失っている。

 

『は、ハハハ、良いね、良いなおい、くそ!私も交ざりたいな~♪』

『もう何でも有りだな...』

嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべる百代と対照的に諦め疲れた表情の石田が(つぶや)いた。尚、マジ恋の世界...いや、時を止めたりブラックホールを創れる百代には大した事は無いかもしれないが、その他大勢(おおぜい)には本来異常な光景なのだ。

・・・まぁそれでも川神だからで納得する者が大半ではあるが......

 

◆◆◆◆◆◆

 

「ぬぅおおお!!!」

「「「「「!?」」」」」

雄叫びと共に先程吹き飛ばされた猪八戒が気力を練り上げながら立ち上がる。

 

「それがしを嘗めるなでござるよ!...まぁその舌で直接なら大歓迎でござるが

後半のボソッと呟いた台詞が周り聞こえる事は無かったが、猪八戒は練り上げた気力で武具を顕現させる。一段目の両腕には剣と(げき)、二段目の両腕には斧と棍棒、三段目の両腕には弓と矢。

 

「カッカ2対1じゃな、どうする翠?何なら我は下がっても良いぞ?」

ニヤニヤしながら問う。戦いたくてウズウズしている悟空は分かりきった問を投げ掛けた。

 

「空、その様な気づかいは無用です・・・京極使いなさい!」

「「?」」

翠蓮の宣言に悟空と猪八戒が首を傾げ、京極に視線を移す。一方の京極は溜め息と共に(ふところ)に手を入れた。

 

「やれやれ、羅濠も人使いが荒い」

そして知識を思い浮かべつつ聖句を唱えた。

 

「我は言霊の技を(もっ)て、世に義を(あらわ)す。これらの呪言(じゅごん)は強力にして雄弁(ゆうべん)なり。強力にして勝利をもたらし、強力にして癒しをもたらす、我は勝利の聖句を謡う!」

 

『『『?!』』』

聖句の後、膨大な気力と共に黄金に輝く剣が顕現した。

 

『あ、あれは化身メダル!まさかあれがそうなのか?』

『おい、石田!何か知っているのか?』

『・・・俺が昔持っていた戦士のメダル、それ以外は分らん』

今大会前、石田は翠蓮に戦士のメダルを渡していた。欲しがる理由は不明だったが、使えずガラクタ同然だったのですんなり渡していた。そして今その理由が判明したのだ。

 

「斉天大聖・孫悟空と言えば三蔵法師のお供。道教、仏教、中国シャーマニズム、さまざまな宗教・民間信仰の神霊が混淆(こんこう)して生まれた神だ」

京極の周囲に黄金の剣が満ちて行く、10、20、30と加速度的に数を増やして行く剣、これらは言霊で出来た文字通り言霊の剣だった。

 

「そして、貴女は《鋼》の軍神でもある。猿猴(えんこう)の神でありながら、鉄にまつわる戦闘神、そのカラクリを解く鍵は『西遊記』の成立過程にある!」

 

「むう、これは一体?だが何かヤバそうな気配じゃのぉ」

悟空は初めて見る事象に戸惑いつつも直感で危険性を理解していた。

 

そんな彼女に京極は『剣』の一部を加速させて投射した。

 

「『西遊記』は孫悟空を主役とする戯曲(ぎきょく)、小説本、民間伝承を繋ぎ合わせて誕生した、いわば孫悟空伝説の集大成。素材となった伝承には神話・民話であった物語も数多い、ここで重要なのは、中国の漢民族の文化は常に外なる世界からの影響を受けていたことだ!」

 

幾筋(いくすじ)もの黄金の光が悟空を襲う。このままでは良い(まと)にしかならない為、権能巨身の法(きょしんのほう)を解こうとしたが。

 

「なっ!?」

数本の『剣』が身体に刺さった。悟空は避け切れない事は認識していたが予想外の事態に戸惑い更に数本の『剣』の直撃を許してしまった。

 

混乱しつつも元のサイズに戻り追撃を(かわ)す。

 

【なんじゃこれは、神格が斬られた?この感じは・・・権能封じか!厄介じゃな】

その後も飛来する黄金の剣を避けつつ考察する、悟空は権能巨身の法(きょしんのほう)を自身で解いたのでは無く解除させられたのだ。しかも解除と同時に使えなくなっている事も悟り且つ他の権能にも弱体化を感じた、言霊の剣に権能巨身の法(きょしんのほう)を切り裂かれ、他にも切り傷を入れられていた。

 

「来い、金の雲(きんとうん)!」

権能金の雲(きんとうん)を呼び出して乗ると加速してゆきやがて神速に入って黄金の剣を振り切った。幸いにもメインで使う権能までは切られておらず弱体化も無かった。

 

「姉者ぁ『余所見ですか?』なっ!?」

黒虎出洞(こっこしゅつどう)!」

仁王尊が吽形(うんぎょう)の縦拳を斧と棍棒を盾にして防ぐが斧に(ひび)を入れつつ数メートル程後ろに(すべ)る。

 

「えぇい、それがしに構って欲しいのは分かるが今は姉者の加勢をせねば、後で()でてしんぜる(ゆえ)(しば)し待たれよ」キリッ

猪八戒が決め顔でそう言った。それに翠蓮はゾワッと悪寒を感じてサブイボが立ったが頭を振って気を取り直し告げる。

 

「甚だ大いに不本意ですが...貴方の相手は私です。そして不快ですので即刻蹂躙(じゅうりん)します」

 

「なんと、そういったプレイがお好みとな!ぐっふふふ、そこまでそれがしを求めるのならば致し方あるまい!まぁ姉者ならば大丈夫でござろう、うん。さぁさぁそれがし等も存分に(むつ)み合おうぞ!!」

「・・・・・・」

興奮して鼻息の荒い猪八戒、もはや翠蓮の目はゴミや黒いGを見る様に侮蔑(ぶべつ)の感情しか無かった。

 

「まったく二兄の女好きには一周回って敬意すら感じますな」

「えっと、深沙神(しんじゃしん)様?」

「ん?何ですかなモロ様?それと身共の事は沙悟浄で構いませぬ」

「あ、はい、えっと沙悟浄さんはアレ、止めなくて良いんですか?」

「構いませぬ、身共の役目はモロ様の護衛、それ意外に手を出して本来の役目を(おろそか)かにしては本末転倒と言うものです。それに姉上があの程度で倒れる筈が在りませぬ!」

少々陰険な雰囲気は有るものの悟空を信じている事を感じてモロは納得する。

 

「そうですか、それと僕の事はモロで良いですよ?」

「左様で?ですが身共のこれは癖の様なもの、どうか気にしないで頂きたく」

(うやうや)しく一礼する沙悟浄にモロは『そうなんですか、あっ大丈夫です』と慌てながら諒解した。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「中国の歴史には、常に遊牧の民、騎馬民族の影が付きまとってきた!」

京極は神速から戻った悟空を捉えるとすぐさま黄金の剣を投射した。

 

「カァ~鬱陶(うっとう)しいのぉ」

しかし、ただただ当る筈も無く再度神速に入って避けたが、それも織り込み済みなので聖句を重ね始めた。

 

春秋(しゅんじゅう)時代の北荻(ほくてき)西戎(せいじゅう)。戦国時代から長きにわたって中国を脅かした匈奴(きょうど)。中国北方を制した北魏(ほくぎ)、その後裔(こうえい)である(ずい)(とう)は漢文化を取り込んだ鮮卑(せんぴ)の血族である。契丹人(きつたんじん)(りょう)、さらには(げん)、モンゴルにまで広がった。支配層だけではなく民間レベルでも人種と民族の混淆(こんこう)は起こる。漢人と遊牧民の文化は複雑に入り交じっていく。当然、神々にもその影響は(およ)んでいく」

 

聖句を重ねるにつれ、黄金に輝く言霊の剣の数が増し、研ぎ澄まされて行く。

 

「そうして複雑に混淆(ハイブリット)した神の典型(てんけい)いや、最高峰がすなわち斉天大聖・孫悟空である!」

 

ガッキーン!京極が周囲に漂っていた黄金の剣の1本を掴んで頭上に掲げると金属がぶつかり合う音が響いた。

 

「なんと!今のを防ぐか!!」

悟空の声が響く、どうやら防がれるとは思っておらず驚いている様だ。普段の京極ならば確かに防ぐ事も避ける事も不可能だっただろう、しかし今の戦士の化身を発動中は戦士の直感も得ているので可能な芸当だった。

 

「道教、仏教、密教など中国由来の文化とは異なる要素が、斉天大聖の神話には多い。その代表が『石より産まれ』『()()かれ』『鋼の肉体を持つ』という一連の逸話なのだ。これらの神話は本来、《鋼》の英雄達が有するモチーフだ。石から産まれ、炉で灼かれた結果、不死性鋼鉄の肉体を獲得する。これはつまり『剣』の鍛錬(たんれん)過程である。鉄鉱石を炉で溶かして鋼と成し、鋼を鍛えて剣とする。鋼の英雄とはすなわち剣。その存在自体が『剣』である、生ける剣神の事に他ならない!」

京極は黄金の剣を自身の周囲に配置してドームを形成する、相手が神速で姿が見えないのなら360度全方位を守れば悟空は近付けないはずだ。

 

「剣を神と見なす風習は、原初の遊牧騎馬民族が発明し、継承し、広めてきた文化だ。その民族の名はスキタイ。遊牧と騎馬の文化を生み出した勇猛無比(ゆうもうむひ)なる民族だ」

 

離れた位置に悟空が神速から帰って来てリング上に佇み京極を見据(みす)える。

 

「其方が物量で来るなら此方も物量じゃ!」

悟空の周りに猿や小猿が出現して京極へと殺到する。権能猿山の王(えんざんおう)で呼出した神使、神獣達だ。

 

ウッキャキャァァ!!!

 

「スキタイが生み出したのはそれだけではない、彼等は製鉄にも長けた民族だった。鉄に精通した彼等だからこそ、鋼の剣神達をも産み出せたんだ」

しかし、猿達は京極に到達する前に黄金の剣で次々に(ほふ)られて行く、悟空の権能によって生み出された猿に黄金の剣に宿る言霊は相性が悪かった。

 

【大猿は的にしかならぬな、ならば】

「猴炎、猴玉、そして白猿よ主らも頼む!」

「ウッキー!」「ウキュ」「・・・」コクリ

悟空の要請に3匹の猿が他の猿に紛れて出陣した。

 

「スキタイの名を初めて歴史に残したヘロドトスは、スキタイの軍神アーレスを示すシンボルこそが剣。大地に突き立てた剣こそが、戦いの神の(しるし)なのだと書き残している!」

 

京極は目を見開いた、視線の先には飛交う黄金の剣を避け、時に弾き(かわ)す他の猿とは一線を画す服を着た猿が居た。

【あれは1回戦での、確か白猿、猴炎、猴玉だったか、羅濠の情報ではかなりの強者(つわもの)・・・】

 

「不動明王の利剣(りけん)もそのひとつだ!『地に突き立つ剣神』のモチーフは洋の東西に散っていった。さらに、剣神の表象にはさまざまなバリエーションが生まれる!」

 

黄金の剣を操り、別格の彼等を取囲む様に動かした。そして上から数本の剣を落す。

「「ウキャァァ!!」」

(さば)き切れなくなった猴炎と猴玉は断末魔を上げて消えたが、白猿は達人としての意地か尻尾も使い且つその場から飛退く事で何とか(しの)ぐ。

 

「例えば炉で鍛えた剣を水で冷やす作業にちなんで、出生時に水につかる英雄が現れた」

「ウキャ!」

しかし、背後から迫る剣の壁に空中で身動きがとれないながら猴形拳で捌くも壁の影に潜んでいた黄金の剣を避けられずに串刺しにされて消えた。

 

「アキレスは冥府(めいふ)の水につかり、不死となった英雄だ。竜の血を浴びることで不死となる英雄ジークフリートもいる。貴女も、斉天大聖・孫悟空もそうだ!」

 

「うむ!我にとっては蟠桃(ばんとう)と八卦炉、仙丹(せんたん)がそれに当るのか?神話を紐解(ひもと)いて神格を斬る言霊の剣か、厄介じゃなぁ、ならば!」

剣印を組んでムン!ムムムと唸っり、ハッ!っと気合を入れると悟空が3人に分身した。

 

「ヌゥ、やはり弱体化しておる、か」

権能多重身の法(たじゅうしんのほう)は無数の分身を作れるが、黄金に輝く言霊の剣で斬られた時にこの権能も切られて弱体化していた。

 

「じゃが、問題あるまい!」

悟空達は舞花棍(ぶかこん)で飛来する黄金の剣を弾くと散会。

 

「「「如意金箍棒(にょいきんこぼう)!!!」」」

左右の悟空が伸ばした棍で挟む様に、中央の悟空が大きくした棍を振り落した。

 

「くっ!?」

ガーーーン!黄金の剣を左右に密集させて盾とし、数十本の剣を束ねて巨大な剣を作り地面に立てる事で棍を防いだ。

 

「そうら、道が出来たのぉ♪」

ニヤリと笑うと左右の悟空が棍を手放(てばな)して走る。

 

「なっ!?」

京極は驚きつつも即座に数本の『剣』を投射して迎撃するが、2人の悟空は猿の様な動き、猴形拳で弾き距離を詰める。

 

「スキタイに由来する剣神創造の物語をそのまま残していることこそ、孫悟空が鋼の軍神である(あかし)!」

盾にした黄金の剣を戻して迎撃に投射しようとするも。

 

「「来い!如意金箍棒(にょいきんこぼう)」」

即座に棍を手元に戻した2人の悟空は。

 

「「戳棍(たくこん)!!」」

「ぐっ!」ガキン!!

棍を真直ぐ突き出し且つ棍を伸ばして打つも京極は直感で手にしていた黄金の剣を両手で胸の前に掲げ、『剣』の腹で棍の2撃を防いだ。

 

「ど、道教や仏教だけでなく遊牧民族の剣神すら取り込んで誕生した、最強の混淆種(ハイブリット)!それが貴女の力の正体だ!」

体勢崩しながら防ぎつつも投射していた黄金の剣が悟空の分身を切裂き消滅させる。

 

「何と!?、我の分身体にも有効じゃと!!」

分身が斬られると同時に神格も切られたらしく権能多重身の法(たじゅうしんのほう)と弱体化していた神仙術(しんせんじゅつ)が使えなくなっていた。

 

「スキタイの故地(こち)のひとつであるコーカサスには、英雄バトラズの伝承が残っている。若き日の彼は、己を鍛える為に進んで炉に入る。竜の群れを虐殺し、その(むくろ)を燃やして熱した炉の中にだ。そうして灼かれた体をバトラズは海に入って冷やし、鍛錬は終る。この結果、彼は鋼の肉体を得て不死身となる」

 

全ての『剣』を1つに束ね、巨大な1本の黄金に輝く言霊の剣を作り出して天空を突上げる様な構え、所謂(いわゆる)火の構えをとった。

 

「これは斉天大聖・孫悟空の前半と酷似した伝承だ。スキタイの流を汲む英雄と、ほぼ同系統の伝説を持つ猿。孫悟空にスキタイの剣神としての(そう)をあたえたのは」

 

「それは確かに強力じゃが、当らなければ問題在るまい!」

悟空は金の雲(きんとうん)に乗って回避しようとしたが。

 

「グフッ!?な、なんじゃ?」

飛んで来た物体に()ねられてしまう。見れば飛んで来た物体は猪八戒で飛んで来た方向には阿形(あぎょう)吽形(うんぎょう)の金剛力士、仁王尊を従えた翠蓮が此方を見てニヤリと笑った。

 

「間違いなく漢人に同化していった騎馬の民達である!」

 

京極が振り下ろした言霊の剣を悟空は避ける事が出来ずに一刀両断されたのだった。




準決勝を終らせたかったのですが、長くなり過ぎたので一旦切ります!

書いていて思ったのですが、私の文才では西遊記メンバーのコントはこれが限界でした・・・李さん程じゃない...と思いますが笑いの才能ないですね(苦笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。