武林の誉れに恋しなさい!   作:水華

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語呂合せは3時35分、ミサゴです。

それと元男でも体は女性、精神は肉体に引張られるとも言うし念の為、タグを追加します。


閑話、それぞれの日常

ここは西の山中に建てられた古めかしい武家屋敷、そこには二人の男が共に囲炉裏(いろり)を囲んで座って居た。

「ガハハハ、そうか燕は東へ行ったか」

「はい、お義父(おとう)さん、でも(つばめ)ちゃん大丈夫かな?」

「燕なら何処(どこ)でもやっていけるだろ、案外武神と闘ってたりしてな。」

「それって大丈夫じゃないですよね?あぁ怪我とかしてないかな?」

「なんだ~心配性だな、そんなに気になるなら電話でもすれば良いだろ?」

「!?確かにそうですね、お義父さん」

そういって携帯を取出す男の名は松永久信(まつながひさのぶ)松永燕(まつながつばめ)の父親である。

 

「たく、もう少しどっしり構えられんのか」

そういって溜め息をつく男の名は清秋院(せいしゅういん)スサノオ、燕の祖父にあたり名前から分る通り速須佐之男命(ハヤスサノオノミコト)に関連した権能を保有している。

 

「あっもしもし、燕ちゃん?」

『あれ、どうしたの何か有った?』

「いや~、今日が初日でしょ?」『うん』

「大丈夫かなってもう心配で心配で」

『うん、大丈夫 問題ないよお(とん)、クラスの人も親切で馴染めそうだしね』

「本当に大丈夫だったの?」

『ハハハ心配性だな~』

「なんだお義父さんの言った通りだったのかな」

久信は安堵の溜め息をはいた。

 

『ん?え?おじいちゃまも居るの?』

「うんいるよ、今替わるね?」

『うん分った』

そう言って久信はスサノオに携帯を渡した。

 

「おう、燕ぇ元気にやっとるか?」

『あっおじいちゃま!』

「たく、まだおじいちゃまと呼んどるのか、まぁ良い武神はどうだった?」

『えっ武神?』

「おう、闘ったんだろ?」

ニヤリと口の端が釣り上がるスサノオ。

 

『ハハハ流石(さすが)おじいちゃまお見通しか~うん、戦ったよ、いや~強かった。』

「そうか強かったか、良い経験になったんじゃねぇか?」

『...大丈夫、おじいちゃまの力もむーちゃんも使って無いよ』

「なに!?、ガハハハ別に使っちまっても構わないのにな~」

『そうなの?でもおじいちゃまの力は私の切札の一つだからね隠せるならそれに越した事はないよ』

 

「ちげぇねぇ、力隠すのも兵法の一つだしな」

「でも今回は布石として切っとくんだったな、来週そっちに翠蓮の嬢ちゃんも行くそうだぜ」

『えっ!?羅濠ちゃんもこっちに来るの?』

「あぁなんでも九鬼に頼まれたとかでな、さっき挨拶に来たぜ」

 

清秋院(せいしゅういん)スサノオ、現在は引退して隠居の身だが、昔はその強さで(おそれ)れられていた。

現在でも西の地ではその影響力は健在で()()()とも呼ばれている。

 

『そっか、確かに隠したのは失敗だったかな、うんちょっとアプローチを変える必要があるね、教えてくれてありがとう、おじいちゃま♪』

「そうか、まぁがんばんな」

『じゃあそろそろ切るね、あっそれとお(とん)にこっち来る時に納豆の試食品持ってくるように言っといてね』

「おいおい、東でも納豆小町続けるのかよ」

『ハハハ、おじいちゃまも体には気を付けてね』

そう言って電話が切れて、ツーツーと音が響く。

 

「まったく、おい久信!燕からの伝言だ、来る時に納豆持って来いだとさ」

「そうなんですか?分りました。」

「まだミサゴのバカは帰ってないのか?」

その一言で久信は膝を抱えて雰囲気が暗くなる。

「僕だって帰って来て欲しくて色々頑張ってるんですが中々うまくいかなくてそもそも・・・」

ブツブツと呟き始めた久信、それを見たスサノオはばつが悪そうに頭を()く。

 

「まぁあれだそのうちひょっこり帰ってくるだろ」

「そ、そうですよねお義父さん!!」

「アイツも誰に似たんだか頑固だしな、キッカケさえ何とかすればな」

「はい!頑張ります。」

立ち上がり両手の拳を握り鼻息荒く宣言する久信だった。

 

―翠蓮side―

 

山道を一人の美女が歩いていたが、その姿は異常だった。

絶世の佳人(かじん)で漢服を着ているのだが、明らかに登山に(のぞ)む装備ではない。

【ふぅ~緊張しました、あれが御老公...強いですね。そしてまんま速須佐之男命(ハヤスサノオノミコト)神ですねあれ】

 

翠蓮は先程の邂逅(かいこう)を思い出して溜め息を()くのだった。

そして暫く歩いていると何かを通過した感覚を覚える。

「ふむ、結界を抜けましたか、では・・・縮地神功(しゅくちしんこう)!」

縮地神功(しゅくちしんこう)を発動して一気に転移するのだった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

そして場所は移って天神館がある地域から少し外れた霊山、英彦山(ひこさん)の中腹に建てられた(いおり)にやって来た翠蓮、そして門で掃除をしていた一人の女性が翠蓮に気付いて挨拶をする。

「あっお帰りなさい!」

「ただいま、天衣(たかえ)、私の留守中に何か在りましたか?」

いや正確には帰って来たとなる。

翠蓮は自身の修行と権能の強化も兼ねて霊山の力を利用しようと考え、英彦山神宮(ひこさんじんぐう)の神主と取引しこの庵を手に入れたのだった。

 

「はい、飛鳳門(フェイフォンイェン)の者が書類を届けに来ました、書斎に置いてあります。」

「そうですか、分りました。」

そして翠蓮と話す女性は橘 天衣(たちばなたかえ)、元武道四天王で現在は翠蓮と共にこの庵に住んで侍従(じじゅう)の様な事をしている。

 

「それと天衣(たかえ)、後で私の部屋へ来なさい、話しておくことがあります。」

「はい、承知しました。」

 

◆◆◆◆◆◆

 

そして時は過ぎ、夜、翠蓮の部屋。

「橘、参りました。」

「入りなさい」

天衣が(ふすま)を開けて入室し翠蓮と向かい合う。

 

「それでお話と言うのは?」

「うむ、天衣にも関係すること(ゆえ)に伝えます。来週より川神に行く事にになりました」

「翠蓮ソレは!?」

師父(しふ)を通して正式に依頼が有りました、九鬼の護衛です。」

驚愕する天衣だったが翠蓮は続けて依頼の詳細を語り聞かせるのだった。

 

「そうですか・・・」

全てを聞き終えた天衣は何かを思案し始める。

「一緒に来い!とは申しません。あなたは川神に因縁が有りましたね、如何(どう)するかは自分で決めなさい。」

翠蓮としては天衣には過去を乗越えて一緒に来て欲しかったが、もし残ると言ってもそれを尊重するつもりだった。

そして天衣の出した結論は...

「私は…私も一緒に行きます!、元より翠蓮、貴女に救って頂いた身です。常にお側に...」

「そうですか、分りました。」

こうして翠蓮と天衣の二人は川神へ行く事になったのだが。

「そういえば本日の分がまだでしたね」

「!?す、翠蓮、それはその・・・」

何かを思い出した天衣は(うつむ)き人差し指をツンツンと突き合わせる、その表情には羞恥の色が浮んでいた。

「ふふふ、何度もしているのに未だにその反応、初心(うぶ)ですね」

そう言って翠蓮は右の人差し指で天衣の顎を上げ親指で(くちびる)をなぞる。

「うぅ~」

天衣は(うる)んだ(ひとみ)で翠蓮を見詰る。

【大丈夫、力を抜いて】

「あぁなんて可愛らしいのかしら天衣ったら」

 

「...翠蓮、思ってることと言ってることが逆じゃないのか?」

「ん?おっと、でも今の天衣が可愛いのは事実です。」

「んっ!?」

そう言って自身の唇で天衣の口を(ふさ)ぐ、驚いてビクッと体が震えるも徐々に力を抜いて翠蓮に(すべ)てを(ゆだ)ねる天衣、二人は(ついば)むようなソフトなキスを繰り返し、やがて(した)(から)める様なディープなものへと移行していく。

そして一通り堪能(たんのう)した後、一旦(いったん)離れる。

「あっ...!?」

天衣から物足りない、()瀬無(せな)い気持ちを表すかの様な吐息が漏れる。

「ふふ、そんなに欲しかったの?」

そんな天衣を見て翠蓮は上気した頬がほんのり(あか)()まり色香を纏うのだった。

 

【挿絵表示】

 

 

「ねぇ天衣ぇどうして欲しいか言って見て?」

「うぅ翠蓮の意地悪(いじわる)ぅ」

天衣は恨めしいされど愛おしい様な視線を向ける。

「ふふふ」

それを(いつく)しむように(なが)める翠蓮。

「ほ、欲しいです、翠蓮が欲しい!」

「ふふ、良く出来ました。」

そう言って翠蓮は気を高め始める、そして充分(じゅうぶん)に高まった所で。

「いくよ天衣、 黄粱一炊夢(こうりょういっすいむ)、んっ! 」

権能を発動させながら再び口づけを交わし、気を流し込み始める。

「ん、んっあっ」

天衣は体内に流れ込む気に(もだえ)えるのだった。

 

権能、黄粱一炊夢(こうりょういっすいむ)

翠蓮が無意識に放出している気により現住所に一定数以上の人口がいれば微々たる物だが連鎖して運気や経済などが向上する。

任意で濃度を操作可能だが、その場合は口から体内に直接送り込む必要がある為、天衣以外に使われることは無い。

尚、副作用が消えて強度の下がった権能だが、それでも本来は1ヶ月は効果が続く所を橘 天衣(たちばなたかえ)の不運相手には一般人程度の運にしても4、5日しか持たないのだった。

 

そしてディープな口づけで気を流し込み終ると。

「ぷはっ、は~は~」

「ふ~、ふふ気分はどう、天衣?」

「は~は~、す、翠蓮~」

キスの余韻(よいん)で上気しているのか色気を纏い翠蓮を求める。

「そう、じゃあもう少しだけですよ」

そして二人の影は三度(みたび)(かさ)なるのだった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

そして時は少し進み川神院では修行僧達が鍛錬に励んでおり、その一角では組み手が行われていた。

「はあああっ」

「おっと!」

大振りの右正拳突きを横に避けて足払いを掛けるも後に跳んで避けられる。

組み手をしているのは川神百代と松永燕の二人だった。

 

「ハハハ、楽しいな燕ぇ!」

「そうだね百代ちゃん!」

二人の攻防は暫く続き、それを見学してるのはワン子こと川神一子と尚江大和の二人だった。

「お姉様と互角に遣り合えるなんて流石だわ、いつか私も・・・」

「松永先輩か...」

 

そうこうしている間に百代の放った左のボディーブローを避け切れないと直感した燕は両手をクロスして受けたのだが、耐え切れずに後に下がる。

「いったぁーい、百代ちゃんもっとやさしく!」

「ほら、どうした燕、もっと来い!」

燕はバク転を繰返して一旦距離をとると

「ふっふっふ、なら百代ちゃんにとっておきを見せてしんぜよう!」

「おぉ、それは(たの)しみだ♪」

「いくよ百代ちゃん、八雲(やくも)立つ、出雲(いずも)八重垣(やえがき)妻籠(つまご)みに。八重垣作る、その八重垣を。」

高らかに(うた)い始める燕、その様子に百代は以前挑んで来た十勇士を思い出し自然と口角(こうかく)が上がった。

そして謡が完成すると十勇士と同じく気が高まり周囲の大気が(うごめ)き始めた。

「待たせちゃったかな?」

「ああ、待ったさ、さぁ存分に愉しもう♪」

どちらからともなく相手に向って駆け出そうとした瞬間。

「やめんかー!」

川神院総代、川神鉄心の顕現(けんげん)の参・毘沙門天(びしゃもんてん)によって踏み潰されるのだった。

「おい!ジジィ何すんだ!」

「たわけ!今のおぬし達に暴れられては建物がもたんわい」

「なら結界でも張れば良いだろ!」

「張る前に始めようとしたのは誰じゃ!」

百代と鉄心が言い争っている中、燕はと言うと

【邪魔されちゃった、でも私に注意を向けるって目的は達成出来たし、能力も殆ど見せずに済んだから結果オーライかな?】

「はは、残念だったね、また今度にしよっか、百代ちゃん?」

「む!むぅ~」

燕に(さと)されて、不満です!と顔に書かれながらも渋々引下ったのだった。

そこにワン子と大和が駆け寄ってくる。

「お姉様~大丈夫ですか?」「燕先輩今のは!?」

「おぉ妹よ、大丈夫だぞ、それと大和!第一声がそれか?私も気になるぞ!!」

百代はワン子に返事をした後に大和と一緒になって燕に質問する。

 

燕は頬に指を当てて暫し逡巡(しゅんじゅん)した後に答えた。

「ん~ないしょ♪」

三人はずっこけるのだった。

「え~おしえろよな~」

唇を尖らせて駄々(だだ)をこね始める百代に対して燕は

「今聞いちゃうと次の愉しみが無くなるよ?、それでも知りたい?」

「むむ...よし、良いだろう今は聞かない!」

腕を組んで宣言する姉を眺めながら大和は燕に見事に誘導され、はぐらかされたこと気付いており何ともいえない表情をしていた。

 




ヒロインとして橘天衣がログインしました!

うん、カンピの少年の化身が混ざってますが、元男の転生者ってことでご勘弁を・・・

次話より新章です。

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