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明久──いや、クウガは拳を握り、未確認生命体第3号の顔面に強烈な殴打を見舞った。
「はああぁぁぁぁ!!」
『ギデゲ!』
綺麗にキマり、数メートルも吹き飛ぶ第3号。
教会の内部がロウソクの火で燃え広がってゆく中で、筋肉質な肉体を思わせる赤い装甲を纏ったクウガが、油断なく構える。
第3号は、並列に並べられた長椅子を破壊しながら倒れ付し、痛そうにうめいていた。
第3号が倒れている隙に、明久はチラリと赤い複眼を一条たちに向ける。
もはや火の海になろうとしている教会の中で座り込む一条と、気絶している杉田。
彼らを救出することが先だと判断すると、一条を立たせて杉田を担ぎ、火に包まれた教会から脱出した。
「大丈夫ですか、一条さん」
「あ、ああ。杉田さん──君が担いでいる男性は無事か?」
「……大丈夫です。息はあります」
「そうか……良かった」
ひとまず生きているだけでも良しと、胸を撫で下ろす一条。
だが第3号は、そう長くは安堵する時間を与えてくれなかった。
立ち上る火の中から、皮膜を広げた第3号が飛び出して来た。
第3号は真っ直ぐクウガに向かって飛ぶと、がっしりと組み付いた。
『ジョブロ・ジャデデ・ブセダバ!』
「うわっ!?」
『ザザザ! ゴサ・ン・ダジザ!』
そして脚で器用にクウガを掴まえ、そのままクウガごと炎で照らされた夜空へと飛び立ってしまった。
「この、放せ!」
このまま高度が上がってゆけば、落とされた時にただでは済まないと察した明久。
そうなっては堪らないと無茶苦茶に拳を振り回すと、ラッキーパンチが顔面に直撃した。
『ギデ──ギラダダ!?』
「うわああぁぁぁぁ!?」
パンチの直撃を顔面で受けた第3号は空中でバランスを崩し、失速してクウガと共に地上へと真っ逆さまに転落する。
あわや転落死か……と落下するクウガを慌てて目で追った一条であったが、偶然落ちた場所に木があった為、運良く生き延びた。
今度は怪我はないだろうかと心配し始めた一条であったが、彼の心配を一笑に付すかのように、クウガはムクリと起き上がった。
……それと、第3号も同様に起き上がる。
軽く20メートルはある位置から落ちたはずだが、2人……いや、2体はほぼ無傷であった。
そのまま何事もなかったかのように殴り合いを再開するクウガと第3号。
そこで、気絶していた杉田が目覚めた。
杉田は戦い合うクウガと第3号を視認すると──特にクウガを見て、目を見開いて驚きをあらわにした。
「うおっ!? 新たな未確認生命体!? 第4号かよ!」
「杉田さん、目が覚めたんですね! 無事ですか!?」
「あ……ああ。身体中が痛いが、何とか動ける。それより、どういう状況だこりゃ」
「これは、ですね……」
まさか、高校生が未確認生命体に変身して自分たちの代わりに戦っている……とは言えず、クウガの正体を隠して状況を説明した。
「第4号が俺たちを助けた……ねぇ。正直信じられんが」
「しかし事実です。その証拠に4号は気絶している杉田さんを担ぎ上げて、燃えている教会からこの場所まで運んでくれました」
「おいおい、俺は未確認生命体に担がれたのか。……しかし、一条がそう言うんなら本当なんだろうな。分かった、とりあえず信じる」
そう一条たちが会話している間にも、クウガと第3号の戦闘は熾烈を極めていった。
何十と殴り殴られ、蹴り蹴られを繰り返し、互いにある程度体力を消耗した頃、事態は急に動いた。
『ゴセ・ロ・ジャス!』
「ぐあっ! 第1号!?」
『グムン! ギジョジョギ・ジャスバ!?』
『ギギゾ!』
行方をくらましていた、クモの化け物である第1号が、ここに来て姿を現したのだ。
第1号(クモ)と第3号(コウモリ)は頷き合い共闘する姿勢を見せると、2体揃ってクウガに襲い掛かった。
「くそ、このままじゃ……!」
2体同じの猛攻に、防御に徹しざるを得ないクウガ。
数の差による苦戦を強いられている。
このままでは殺られると焦りだしたクウガを助けたのは──一条の拳銃による射撃だった。
見事第1号の頭部へと命中した弾丸により、第1号と第3号の意識がわずかに一条へと逸れた。
一条の作り出したわずかな隙を、クウガは逃さない。
「今だぁ!!」
『ギラダダ!?』
『グムン!』
全速力と全体重を乗せて、第1号に肩タックルを食らわせる。
まともに食らった為受け身を取ることすら敵わず、第1号はトラックに轢かれたかのように跳ね飛んでゆく。
吹き飛ぶ仲間を見て、第3号は慌ててクウガに攻撃しようとした。
『ジャダダバ!』
「だぁぁ!!」
『グゲゲ!?』
しかし、クウガは渾身の回し蹴りで第1号も蹴り飛ばした。
「良し……まずは第1号から!」
クウガは狙いを第1号に絞ると……右足を引き、右手を突き出して左手を腹部のベルトにかざした。
すると──クウガは自身の右足が、燃えるかのように熱くなるのを感じた。
ベルトの宝玉が、赤く……強く輝きを放ち始める。
第1号がフラつき頭を振りながら起き上がる頃には、宝玉の輝きは最高潮に達していた。
「──行くぞ!」
意を決し、クウガは第1号に向かって走り出した。
右足を踏みしめる度に、右の足底に火がついたかのような錯覚を感じる。
第1号がクウガの接近に気づいた時には、もう遅い。
クウガの持てる全てが注ぎ込まれたキックが、第1号の腹部に鋭く突き込まれた。
「おりゃああぁぁぁぁ!!」
『グガ──!?』
先ほどのタックルよりも激しく吹き飛び、もがき苦しみ始めた第1号。
その腹部には──明久や一条が見たことのない、不思議な文字が浮かび上がっていた。
ひとしきり苦しむと謎の文字から亀裂のようなものが伸び、第1号と第3号に共通して下腹部にある、バックルのようなものに到達した。
するとそのバックルが音を立てて割れ──第1号の全身が、爆発した。
「っ!」
『グ……グムン……!?』
飛び散る第1号の肉片から顔を守るクウガ。
第3号は仲間の死に、動揺を隠せないでいた。
「ついに……殺した」
クウガは勝利を確めるように手のひらをきつく握り、煙を上げる己の足にチラリと目を向けた。
そして──ゆっくりと、第3号の方に振り向いた。
「次は──お前だ」
『ジギ!?』
クウガから発せられる得体の知れない恐怖を感じ取った第3号が、思わず後退りした。
第3号の身体が恐怖からか小刻みに揺れている。
しかしよく見ると、クウガの身体も小刻みに揺れていた。
クウガはまるで石のように固く握られた拳を震わせ、小さく……しかし妙に響く声で呟く。
「美波の痛みを──思い知れ……っ!」
クウガは──怒りに震えていた。
未確認生命体の1体を殺したことで精神的に余裕が生まれ、第3号が島田 美波にしたことを思い出してしまったのだ。
さらに、未確認生命体とは言え生物を殺したことにより、精神が昂っていた。
そのため、複眼に似た瞳には、先ほどまでは見られなかった復讐心と殺意が見て取れた。
「──死ね」
『ギ──!?』
クウガは先ほどまでとは比較にならないほどの速度で第3号に詰め寄り、喉仏をひっ掴んだ。
万力のような力で首を絞め……そのまま、第3号の頬に拳をぶち込んだ。
鋭く尖った歯が数本宙を舞い、噴水のような勢いで真っ赤な鮮血が飛び散る。
普通の人間なら顔を青ざめさせる光景だが、クウガは殴ることを止めない。
むしろ、殴る度により激しさが増していった。
1発──
2発──
3発──
4発──
──5発!
こんなものでは済まされず、散々殴られた第3号の大きく裂けた口にはもう、折れる歯が残っていなかった。
もはや虫の息と化した第3号が、自慢の歯が全て折られた口で弱々しく喋る。
『ロ……ログ・ジャレデブセ……』
「死ね」
恐らく命乞いを口にしたであろう第3号だったが、クウガは容赦なく同じ箇所を殴った。
鮮血と悲鳴が飛び出る。
「死ね……」
クウガは、狂ったように同じ箇所を殴る。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ねぇ!」
いつしか真っ赤に染まったその手が、怨嗟の呪文が吐かれる中で、今までで最も強く握られた。
そして──何かが折れる鈍い音が、教会の燃える音に混じって、静かに鳴り響いた。
──ドサリ、とコウモリの特徴を持った肉体が、崩れ落ちる。
『ヒュ……ヒュ……──』
ビクリ、ビクリと痙攣を起こしながらも、かろうじて生きている第3号。
しかし、放って置けばすぐに力尽きるだろう。
クウガは、そんな状態の第3号を見下ろすと──馬乗りになり、更に殴り始めた。
尋常ではない様子のクウガに、一条と杉田は言い知れぬ恐怖を抱いていた。
「……酷すぎる。やはり未確認生命体は未確認生命体だったか」
「こ……これは……」
クウガの正体──吉井 明久を知っている一条は、ただひたすら困惑していた。
あの正義感が強く優しい少年の面影が、一切感じれなかった。
(吉井君、一体どうしてしまったんだ!?)
そんな一条の困惑になど気づかず、クウガ──明久は、ひたすら第3号だった肉の塊を殴り続けていた。
「ああぁぁぁぁ!!」
彼の赤い身体とベルトには、時折不気味な電流が走り。
……その複眼に似た瞳は──
──黒に、染まっていた。
高校生とは言え、明久はまだ子供です。
感情をコントロール出来ないことだってあります。
今回は、その最たる例です。
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