鬱展開がある為、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
あれから逃げるように帰った後、僕はすぐに泥のように眠った。
自分の今後に絶望して泣き散らして、全力疾走で走り帰って、おまけに前日はあまり眠っていなかったからだろう。
様々な疲労が溜まっていたはずだ。
寝入ったのは午後4時半頃だったはずだが、もう朝の6時だ。
普段ならこんな早朝に起きることは滅多にないのだが、14時間近くも眠れば起きるのも当たり前だろう。
今日は学校に行くつもりだが、こんな時間に行った所でやることなんて特にない。
暇を潰すにしても、ゲームをするような気分ではない。
何かやることはないかと考えると、宿題があったことを思い出した。
宿題は嫌いだが、これ以外にやることもなく、何より気が紛れるので、することにした。
いざ宿題に取り掛かると、気分もあってか、思いの外集中することが出来た。
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AM 7:30
「ふう……終わった。──って、もうこんな時間か」
集中し過ぎた為、気が付けばいつも起きる時間だ。
いつも遅刻ギリギリなことを考えれば、この時間がマズいことはすぐに分かる。
急いで仕度をして、いつものようにドタバタしながら家を出た。
そして、いつものように遅刻ギリギリで登校し、雄二にそのことをからかわれる。
昨日、色々あったけど、今日はいつも通りの日常だ。
変わらぬ日常に、少しだけほっと安心する。
「……今日も姫路さんと美波は来てない、か」
いや、やっぱり訂正する。
彼女たちがいないこの状況は、いつも通りの日常ではない。
その事実は僕に、否応なしに未確認生命体の事件を思い出させた。
途端に気が滅入り、顔を伏せがちになってしまう。
──それから今日1日、落ち込んだままで授業を受けた。
上の空になってしまうことも多く、度々先生に注意を受けた。
このままは良くないと、何とか気分を上げようとするのだが、やはり落ち込んだ気分は晴れなかった。
その状態の僕を見かねたのか、雄二や秀吉、ムッツリーニといった友人たちが話し掛けて来る。
「おい、明久。どうしたんだ一体」
「一昨日から様子がおかしいのじゃ。昨日も病院に行ったと聞くし……いい加減、辛いことがあるなら相談して欲しいのじゃ」
「……やはり、未確認生命体関係か?」
やっぱり、友人たちに心配を掛けてしまっていた。
ちなみに、僕と姫路さんと美波が未確認生命体に襲われたことは、既に鉄人から皆に話しがあった。
正確にはこの学園の生徒が襲われた、とだけ話があり、襲われた生徒の名前は出していないのだが……姫路さんと美波が連日学校を休み、僕がこんな様子なので周りはとっくに察しているだろう。
さて、雄二たちに心配されている訳だが……彼らには悪いけど、詳しいことは話す気になれない。
ましてや、僕が未確認生命体第2号であることなんて。
──もし、このことがバレたら……。
きっと、皆は僕を拒絶するだろう。
気味悪がるだろう。
恐怖されるだろう。
この、特に親しい友人たち……親友と言っても良いこの3人に拒絶されたら──きっと、僕は堪えられない。
だから……僕は黙っていることを選択した。
「……ごめん、何でもないから」
ようやく絞り出したその言葉に、雄二たちは怒りをあらわにする。
「何でもないって……明らかに落ち込んでんのに、そんな訳ねぇだろ! なんで何も言わねぇんだ!」
「なぜ頼ってくれないのじゃ! そんなにワシらは頼りにならんか!? こんな時に助けを求めるのが友達というものじゃろう!?」
「……言ってくれなくては、何も分からない。どうして良いかも。だから教えてくれないか、明久」
僕の為を想って、本気で怒ってくれていることに、思わず心が暖かくなった。
……でも。
それでも、これだけは話せない。
この繋がりを保っていたいから。
「心配してくれてありがとう……でも、どうしても話せないよ。大丈夫、時間さえあれば気持ちの整理が付くはずだから」
「明久……」
雄二たちが、少し悲しげな顔になった。
雄二が言葉を紡ごうと口を開くが、それはクラスメイトの焦った大声によって上書きされた。
『おいっ、未確認生命体の速報だ! 未確認生命体第3号が新たに出現、うちの女子生徒を襲って逃走したってよ!』
「っ!?」
その言葉に、思わず驚きを隠せなかった。
そう──クラスメイトの彼はこう言ったのだ。
……未確認生命体、《第3号》と。
「第……3号? まだ、あんなのがいるって言うのか……!」
しかも聞き流せないのが、うちの女子生徒が襲われたということだ。
昨日の被害者の遺族である女の子が、頭の中をよぎった。
気付けば僕は、速報を伝えたクラスメイトに掴み掛かる勢いで迫っていた。
「その女子生徒は無事なの!? その生徒の名前は!?」
『お、おい落ち着けって! 女子生徒は……命は助かったみたいだが、顔を何針も縫うような大怪我を負ったらしい……』
「生きてはいる……けど、女の子なのに顔を……」
その女子生徒は、女の命でもある顔を失ったも同然じゃないか……。
きっと酷い傷跡が残るだろう……。
「その、女子生徒の名前は……?」
『…………』
名前を問うと、なぜかクラスメイトは黙り込んでしまった。
視線を反らし、とても言いにくそうにしている。
その様子に、嫌な予感をひしひしと感じた。
「ね、ねえ──」
『……島田』
「……え?」
『……島田 美波。うちのクラスの、島田 美波が被害者だ』
瞬間、クラス内からは音が消えた。
僕は──気付けば、走り出していた。
「お、おい明久!」
雄二の制止も聞かず、教室から飛び出した。
途中、先生らしき人影とぶつかったが、そんなこと気にしている余裕はなかった。
ポケットから携帯電話を取り出し、一条さんの電話にコールを掛ける。
一条さんはすぐに出てくれた。
「一条さん!? 未確認生命体第3号に襲われた女子生徒──島田 美波がどこの病院にいるか教えて下さい!!」
あまりの剣幕に驚いていたようだが、クラスメイトだと説明すると、一条さんは美波の救急搬送された病院を教えてくれた。
「美波、美波──美波!」
全力を超えた凄まじい勢いで走り、学校を抜け出した。
教えて貰った病院を一直線に目指して。
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PM 2:41
病院内・病室前
「ゼェ……ゼェ……げほっ……み、美波……!」
ようやく美波の病室にまでたどり着いた。
ひたすら走り続けて汗だくになっており、シャツはびしょ濡れだ。
だけど、そんなことには構わず病室のドアに手を掛ける。
ノックすらも忘れ、僕はドアを開け放った。
そこには──
「あ……アキ……」
「み──な、み……」
顔半分をガーゼで覆い、瞳から光が失われてしまった美波がいた。
いつものような明るさなど、どこにも……欠片すらなく。
彼女は、ただひたすら無機質な瞳のまま、力なく顔を隠した。
「いや……見ないで……。こんな顔なんて……ウチ、アキに見せたくない……」
「あ、あぁ……美波……そんな……」
なんて、残酷なんだろうか。
彼女は……島田 美波は、女としての命である顔を、奪われてしまった。
……唐突に。
未確認生命体によって。
「お願い、アキ……。ウチを……見ないで……! ひっ……うっ……」
「…………」
感情の抜け落ちた美波の表情だったが、やっと1つだけ感情が戻った。
──それは、悲しみという感情だ。
今の彼女の表情は、悲しみの結晶である涙で1色に塗り潰されていた。
それは──数日前に見た、被害者の遺族である女の子が流したものと、同じだった。
「……美波、またお見舞いに来るから……」
「うっ……ひぐっ……」
これ以上ここに居ても美波を傷付けるだけだと思い、病室を後にする。
そのまま病院の建物から出て、玄関先で崩れ落ちてしまった。
「ちくしょう……ちくしょう!」
あまりの悔しさに、大粒の涙を流しながら、人目もはばからず、アスファルトの地面を殴りつけて八つ当たる。
「僕が戦わなかったから……力があるのに、戦うことを恐がったから! その間に何人も死んで、美波が傷付いた!」
力一杯殴りつけて、拳の皮膚が破れ、血が流れる。
「僕のせいじゃないか! 僕が戦ってさえいれば、美波は傷付かずに済んだかも知れなかったじゃないか! バカ野郎! このバカ野郎!!」
自分の顔を思いっきり殴る。
口が切れて血の味がした。
「迷わない! もう恐がらない! もう、未確認生命体なんかの為に誰かが傷付くのを見たくない! 誰かの涙を見たくない!! 僕の身体がどうなろうと、もう知ったことか!!」
血まみれの手で、拳を握り込む。
「僕は──戦う!!」
涙と鼻水で濡れた顔を上げ、青空を睨んだ。
それは──僕が、戦いという名の地獄に立ち向かう決意をした、瞬間だった。
美波ファンの皆様、申し訳ありません。
作者は別に美波アンチという訳ではないのですが、未確認生命体の無差別殺人による悲惨さ、というものを表現したかったのです。
その為、誠に美波ファンの方には申し訳ないのですが、今回こういう結果にさせて頂きました。
書いてて改めて思います、未確認の事件はむごいなって。
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