バカとクウガと未確認   作:オファニム

14 / 20
約2週間ぶりの更新です。
他の小説を書いていたら遅くなりました。
では、本編をどうぞ。


女豹

『ゲゲル・ゾ・ザジレス!』

 

 その女──ズ・メビオ・ダは、声高に宣言した。

 

 鋭い爪、発達した脚部、黒い皮膚に覆われたヒョウを思わせる顔面。

 そしてギラリと光る、真っ赤な眼球。

 

 誰が見ても化け物と言う風貌のズ・メビオ・ダは、高速道路の真ん中で佇んでいる。

 ズ・メビオ・ダの正面から走行してくる車に乗った人間が、彼女を見てギョッとした。

 

 ニヤリと口元を歪めると、その人間をターゲットに定め──フロントガラスすら貫いて、のどを綺麗に切り裂いた。

 運転手が動かなくなった車は制御を失い、隣の路線を走っていた車を巻き込んで横転した。

 何転もした上で更に後続の車に突っ込まれた者は、恐らく生きては居まい。

 

 悲惨な事故現場と化したこの場を楽しそうに眺めると、ズ・メビオ・ダは次のターゲットを探しに駆け出した。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 

 

 ズ・メビオ・ダが事件を起こしてから少しして、警察車両が現場に駆けつけた。

 車両から出て来たのは一条と杉田だ。

 

「こりゃ酷いな。一体何台横転してるんだ?」

 

「分かりませんが、まずは救助に回りましょう。救急車はすでに手配しているので、我々でも助け出せる人を先に救助しておきましょう」

 

「そうだな」

 

 2人は横転した車に残された人々の救助に入った。

 少しして救急隊が到着してからは、救助が一気に進んだ。

 

 

 

 救助を進めて行くと、不自然な遺体を見つけた。

 

「一条、この遺体の傷を見てみろ。のどがパックリ切り裂かれてやがる」

 

「ガラスで切った……訳ではなさそうですね。それにしては傷が深い」

 

 その遺体は、もう少しで首が離れるほどにのどを切り裂かれていた。

 ガラスで切ったならば、もっと傷は浅いはずである。

 

「何か気になるな。まさか未確認の仕業か?」

 

「とりあえずは生存者に事情を聞いてみましょう。何か有力な情報を聞けるかも知れません」

 

 そして話を聞いて回った所、核心的な情報を聞くことに成功した。

 車よりも早く走る化け物が、攻撃を仕掛けて来たと言うのだ。

 

「おい、一条」

 

「ええ、恐らく未確認の犯行ですね」

 

「だったらこうしちゃ居られねぇ、未確認を探すぞ。次の犯行が行われてるかも知れん」

 

「はい。本部には連絡しておきます」

 

 後は救急隊と応援の警官達に任せて、一条と杉田は未確認の捜査に踏み出した。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 

 

 AM11:26

 文月学園Fクラス

 

「──ここはこう解くのだが、実は応用が使える。詳しく解説すると──」

 

 明久は今、平和な日常を過ごしている。

 ただの授業で、しかも本来勉強は嫌いであるのだが、未確認との出会いからはそれすらも愛しい。

 

 だがその平和な時間も、携帯電話が電波を受信したことで終わりを告げた。

 

「電話……一条さんから?」

 

 マナーモードにしているので音が出ておらず、西村教諭には気づかれていない。

 だが、流石に教室で電話に出ることは出来ないので、トイレと偽って出ることにした。

 

「先生、お腹が痛いのでトイレに行っても良いですか?」

 

「む? 吉井が体調を崩すのは珍しいな。出来るだけ早く戻るんだぞ」

 

「はい」

 

 さっと教室を出てトイレの個室に入ってから、電話に応じた。

 すると、幾分か焦ったような声で一条が話し出した。

 

『吉井君、大変だ!』

 

「どうしたんですか?」

 

『未確認生命体第5号が現れた!』

 

「──!」

 

 やはり未確認はまだいたか、と苦い顔をする。

 

 しかしそれも一瞬のこと。

 次の瞬間にはもう、戦意に満ちた顔になっていた。

 

「それで、5号はどこに?」

 

『都内の高速道路だが、君は移動手段がないだろう。今から迎えに行く。学校には捜査協力を求めると連絡しておくから、勝手に抜け出すことにはならないはずだ』

 

「分かりました」

 

 伝えることは伝えたのか、それから一条は電話を切った。

 明久も通話が終了したことを確認した後、ポケットに携帯を仕舞って教室に戻った。

 

 しばらくして、教室に男性教諭が訪問した。

 その教諭は西村教諭と2、3ほど言葉を交わすと、明久を呼んだ。

 

「吉井君、お客さんだよ。君を呼んでいるんだ」

 

「分かりました。……西村先生」

 

「ああ、行ってこい」

 

 西村教諭とクラスメイト達に見送られ、男性教諭に連れられて行く。

 連れられた先で待っていたのは、当然一条だった。

 

 一条が教諭といくらか話してから、覆面パトカーに乗り込んだ。

 

 移動中、明久は第5号の情報を聞いた。

 

「第5号って、どんな奴なんですか?」

 

「奴はとにかく速い。目撃証言によれば、車をも追い抜くそうだ」

 

「他には?」

 

「そうだな……それほどの速度で走るなら、強力な脚力を持っていると考えられる。奴の蹴りには注意だ」

 

「分かりました」

 

 それからは被害者数や目撃場所等の情報を聞いていく。

 

 そのまましばらく走っていると、車両に警察無線が入った。

 一条は即座に反応する。

 

『こちら警視庁本部。未確認生命体第5号の所在を特定しました。付近の警察車両は現場に急行して下さい。場所は都内高速道路の──』

 

 第5号の居場所が判明したとたん、一条はサイレンを鳴らして文字通り現場に急行した。

 

 もうすぐ始まる戦闘を前に、明久は汗に湿った手をグッと握りしめた。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 

 

『パダギ・パ・ザジャギ!』

 

 都内のある高速道路で、ヒョウを思わせる化け物──ズ・メビオ・ダが佇んでいた。

 

 彼女は前方から自分を追い抜いた車を猛然と追い掛ける。

 あっという間に追い付くと、ナイフのように鋭い爪の生えた手を振り上げ──

 

 ザシュッ。

 

 運転席に座る女性ののどを深く切り裂いてしまった。

 噴水のように吹き出る血と制御を失った車から、女性の命がないことはよく分かった。

 

 やはり横転した車を眺めながら、ズ・メビオ・ダは爪に付着した血液を楽しそうに舐め取った。

 

 次のターゲットを探す為にこの場を後にしようと身を翻した所で、やかましい電子音が近づいて来ることに気がつく。

 それはすぐにやって来た。

 

 黒塗りの車──覆面パトカーがズ・メビオ・ダのすぐ前方で停車する。

 その車のドアが開き出て来たのは、明久と一条。

 

 2人は多量の血溜まりの上で大破し横転した車を横目で見ると、険しい表情でズ・メビオ・ダを睨み付けた。

 

「お前が第5号……!」

 

「吉井君、油断するなよ。私も全力で援護する」

 

「はい!」

 

 ズ・メビオ・ダは彼らを怪訝そうに見ると、日本語ではない言語で話し掛ける。

 

『バンザ・ゴラゲサ?』

 

「何だ? 何て言ってる?」

 

「……分かりません」

 

 当然明久達には通じないのだが、お構いなしに彼女は話し掛け続ける。

 獰猛な笑みを携えながら。

 

『ン・ゲゲル・ジョグデビ・ビ・ギデジャス!』

 

 そしてナイフのような爪を構え、2人に襲い掛かった。

 

「くっ!? はあ!」

 

 明久は一条を後ろに押し退け、ズ・メビオ・ダの迫る勢いを利用して蹴り飛ばした。

 ズ・メビオ・ダはそのままバランスを崩し、転倒する。

 

 転がっている間に、明久は腹部に手を添え、ベルトを出現させる。

 中央の宝玉は燃え上がる炎のような赤。

 

 そして左手を腰に、右手を左から右へと水平に切ってから、左腰のスイッチを押し込んだ。

 

「変身!」

 

 今度は明久が攻める番だ。

 

「はっ! やぁ!」

 

 右の拳で殴り、左の脚で蹴る。

 その度に身体は戦闘用のそれに作り替えられてゆく。

 

「だぁっ!」

 

 最後に頭部が作り替えられる。

 昆虫の複眼と同じ且つ真っ赤な眼が、しっかりとズ・メビオ・ダを捉えていた。

 

 変身した明久──クウガの姿を見て、ズ・メビオ・ダは驚愕をあらわにする。

 

『クウガ……!?』

 

 何故ここに、とでも言いたげな雰囲気だが、それは隙にしかならない。

 先手必勝、クウガは思いきり腹部に拳を打ち込んだ。

 

『カハッ──』

 

 一条達からの格闘技の教えが活きているようで、ズ・メビオ・ダは痛そうにうずくまる。

 

 クウガはこのまま畳み掛けようとするが、流石にそう上手くは行かない。

 ズ・メビオ・ダは持ち前の脚で機敏に動き、攻撃のことごとくを避ける。

 

「クソッ、当たらない……!」

 

『ゴゴギ!』

 

 攻撃が当たらないことに焦りが募ってゆく。

 やがてそれは大きな隙を生み出し、ズ・メビオ・ダに反撃の機会を与える結果となった。

 

 クウガの腹部に彼女の痛烈な蹴りが突き刺さる。

 

「ゴフッ!?」

 

 あまりの痛みに、今度はクウガが地に膝をついた。

 

 ズ・メビオ・ダはうずくまるクウガの顔面を、音速に近いと感じる速度で蹴り飛ばす。

 為す術もなく吹き飛ばされたクウガに、更に追い討ちの蹴りを放った。

 

「ぐあぁぁ!!」

 

 空恐ろしい暴力に晒されているクウガ。

 そんな彼を援護するべく、一条は支給された拳銃でズ・メビオ・ダの顔面に鉛玉をぶち込みに出る。

 

「今助ける!」

 

 パァン、パァン、パァン!

 

 硝煙とともに打ち出された弾丸は、見事ズ・メビオ・ダの顔面に吸い込まれていった。

 すると偶然にも、撃った玉の内一つが、彼女の右目を貫いた。

 

『ガアァァァァァァァ!?』

 

 流石の彼女もこれにはたまらず、目を押さえてのけ反る。

 その隙にクウガは痛みを無視して気合いで起き上がり、トドメの蹴りを打った。

 

 だが、ズ・メビオ・ダは紙一重でそれを避けると、一気に後方へと下がった。

 そして忌々しそうに一条を睨み付ける。

 

『リント・レ……ジュスガンゾ!!』

 

 今にも一条に飛び掛かりそうな雰囲気だが、クウガが間に割って入ったことでその気配も薄まった。

 

『クウガ……!』

 

 流石に手負いの状態でクウガに勝てるとは思わなかったようで、ズ・メビオ・ダは非常に悔しそうに身を翻した。

 

 どうやら、逃げるつもりらしい。

 彼女はそのまま圧倒的な速度で走り去って行った。

 

「待て!」

 

 クウガは逃がしてなるものかと全力で追うが、彼我の距離は縮まることはなかった。

 

 結局、クウガ達はズ・メビオ・ダ──第5号を逃がしてしまった。

 

 完全に逃げられたことを理解して、クウガは変身を解き明久の姿へと戻った。

 そして悔しそうに拳を握りしめる。

 

「逃がした……っ。僕がもっと強けれ……ば──」

 

 ばたり。

 

「お、おい吉井君!? しっかりしろ!」

 

 明久は地面にうつ伏せに倒れてしまった。

 一条が怪我を確かめる為に服をめくると、身体のあちらこちら……特に腹部に酷いアザが出来ていた。

 

「これは酷い……すぐに救急車を呼ばなくては!」

 

 一条は携帯を取り出し、救急車を呼ぶ。

 すぐに救急車が来て明久を最寄りの病院へと運んで行った。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 

 

「う……っ」

 

 第5号との戦闘から3時間後、明久は目を覚ました。

 

 むくりと上体を起こすと、彼の視界に映るのは清潔なベッドとバイタルを測定する機械。

 

 明久は、自分が今どこにいるのかを理解した。

 

「病院……そうか、僕は気絶しちゃったのか」

 

 そして第5号にやられた腹部を擦る。

 すると違和感を感じた。

 

「痛く……ない?」

 

 うずくまるほど痛かった腹部は、何故か擦っても全くと言って良いほど痛みを感じなかった。

 

 不思議に思い病着の前を開いて自分の身体を見てみると──

 

「嘘でしょ……? 何ともないなんて……」

 

 アザだらけだったはずの身体は、傷一つない綺麗な状態に元通り戻っていた。

 そこから考えられることは──

 

「まさか、治ったの? たった数時間で!?」

 

 明久は時計と今日の日付を見て、戦闘からどれほど時間が経っているのかを理解し、驚いた。

 いや、気味の悪さを感じた、と言った方が正しいか。

 

 確実に人間から離れて行っていることを自覚し、明久は何とも言えない複雑な気分になった。

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしている所で、病室のドアが開けられ人が入って来た。

 

 その人物とは、明久の担当医──椿 秀一である。

 遅れて一条も入って来た。

 

 そう、ここは椿の勤める病院である。

 近くの病院が偶然ここだったのである。

 

 椿は目覚めている明久を見て、もう起きたのかと驚いていた。

 そして明久に話し掛ける。

 

「よう、どうだ気分は? 吐き気とかおかしな所はないか?」

 

「椿さん。はい、何ともないです。……何ともなさ過ぎますけど」

 

「ん? どういうことだ?」

 

「これを見て下さい」

 

 そう言って明久は病着の前を開く。

 椿と一条はその傷一つない身体を見て、心底驚いた。

 

「おいおい嘘だろ? どんな再生力してんだ」

 

「椿、やはり例の神経組織が関係しているんじゃ……」

 

「多分そうだろうな。やれやれ、こいつは検査し直さなくちゃな」

 

 椿は明久のバイタルを確認し、身体に異常がないか簡単に触診等をしてから病室を出て行った。

 

 後には明久と一条だけが残る。

 

 一条は明久に向き直ると、頭を下げた。

 

「すまなかった、吉井君」

 

「え!? ちょ、ちょっと一条さん、顔を上げて下さい!」

 

「いや、もう治ったとは言え、君が怪我をしたのは私が満足に援護出来なかったからだ。本当にすまない」

 

「そんな! 一条さんが5号の目を撃ってくれなかったら、もっと酷い怪我をしてたに違いありません。一条さんは悪くありませんよ! 僕が弱かっただけなんです!」

 

「しかし──」

 

 と、何度かこのやり取りを繰り返す。

 数回繰り返した所で、話が終わらないと切り上げることにした。

 

 そして、一条は本題を切り出す。

 

「吉井君、第5号への対抗手段を用意したんだ」

 

「対抗手段……ですか?」

 

「ああ。奴は恐ろしく脚が速い。次にまた追い詰めても、何も対策を打たなければ先ほどのように逃げられてしまうだろう。だからだ」

 

「なるほど……それで、その対抗手段と言うのは?」

 

 そう問われ、一条はバッグから1枚の資料を取り出した。

 明久はそれを受け取り目を通すと、その資料には1台のバイクの写真とスペック情報が記されていた。

 正直な所、明久はスペック情報は難しい言葉ばかりで全く理解出来ていない。

 

 明久はバイクの写真を指さし、一条に訊ねる。

 

「これが対抗手段、ですか?」

 

「そうだ。これに乗って奴を追い詰めるんだ」

 

「でも僕、バイクの免許を持ってないですよ?」

 

「それに関しては問題ない。上層部からの伝達でな。未確認との戦闘に限り、運転を許可する方針だそうだ」

 

「はあ……」

 

 まさか無免許運転を許可されるとは、と明久は呆け気味に返す。

 その様子を流して、一条は言葉を続ける。

 

「もちろん、近い内に免許は取って貰うさ。費用に関しては警察側で出すことで許可が降りている。……ちゃんと勉強するんだぞ?」

 

「うへえ、勉強ですかぁ……。でも、人の命が掛かってるんだから、嫌だなんて言ってられないな」

 

「その意気だ」

 

 意気込む明久だが、そこで素朴な疑問を抱いた。

 

「所で、このバイクは本当に第5号に追い付けるんですか?」

 

「何だ、それなら安心すると良い──」

 

 一条は至極真面目な顔でバイクの写真を軽く叩き、根拠を言う。

 

「──このバイクは、最高時速が300㎞だ」

 

「3びゃ……!?」

 

 明久は想像を超える速度に、思わず仰天する。

 確かに、その速度ならば追い付く所か追い越すことが可能であろう。

 

 見えてきた勝機に、自然と布団を握る手に力がこもった。

 

 その様子を見て、一条は一瞬、少し悲しいような情けないような、そんな複雑な表情を浮かべた。

 だがそれもすぐに収めると、再度写真を軽く叩き、この対第5号への切り札となるバイクの名を口にする。

 

「こいつの名前は《トライチェイサー》。正真正銘の、モンスターマシンだ」

 




やっとこさ次話でトライチェイサーを出せそうです。

少し文章の書き方を変えてテンポを早めたんですけど、どうでしょうか?
もし読みづらいようなら感想で報告下さい。
どうにかします。

感想、誤字脱字報告受け付けております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。