バカとクウガと未確認   作:オファニム

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更新が遅くなって申し訳ありません。

1/25 警視庁長官としていた男の役職を警視総監に変更。


警察

 PM 4:00

 文月学園校門前

 

「さてと……学校も終わったし、警視庁に行こうかな」

 

 学園の校門前で、明久は独り呟く。

 昨日、帰る前に杉田から警視庁に来るようにと言われていたので、今から向かう所である。

 

 徒歩以外の交通手段を持たない明久にとって幸いなことに、警視庁は学園からそう遠くはない。

 その為、多少時間は掛かるが歩いて警視庁に向かうことにした。

 

 通学鞄を手に掛けて背負いながら、ブラブラと歩いてゆく。

 

 その道中、明久は昨日の戦闘に関することを考えていた。

 

(昨日僕と未確認生命体が戦ったこと、もう噂になってる……)

 

 今日1日学校にいて頻繁に彼の耳に聞こえて来たのは、炎上した教会での未確認生命体同士の戦闘だった。

 

 高く炎が立ち上っていたので、近隣住民には嫌でも目についただろう。

 誰かがクウガと未確認が戦っている所を見ていてもおかしくはないはずである。

 

 ただ、明久にとって良かったのは、クウガの正体が噂に上がっていないことだろう。

 偶然見られなかっただけなのかは明久には分からないが、とりあえずは一安心と言った所だろうか。

 

(でも、これからは変身するにも元の姿に戻るにも、人の目を気にしないといけないな……。次に変身する機会があるかは分からないけど)

 

 そう心の中で呟くと、それきり明久は考えることを止めて黙々と歩いた。

 

△▼△▼△▼△▼

 

 PM 4:34

 警視庁本部

 

 警視庁の入り口で、明久は軽く足首を回しながら溜め息を吐いていた。

 

「やっと着いた。地味に遠かったなあ……」

 

 普段は30分以上も歩くことはないので少々くたびれながら、それなりに背の高い警視庁の建物を見上げる。

 武骨で飾り気のない窓ガラス張りの建築物と、所々に配置されているパトカーが威圧的だ。

 

(うーん。いざここに来ると不安になるね……。未確認生命体第4号の正体が僕だって知った人は、一体どんな反応をするんだろう……)

 

 そう。

 第4号の正体は杉田に知られ、その杉田は警視庁上層部に第4号の正体をすでに報告しているのだ。

 

 したがって、警視庁上層部の人間は明久が何なのかを知っている。

 

 それは明久にとって、知らない誰かに心臓を掴まれていることと同じようなものであった。

 

「……さてと。このまま立ちぼうけていても仕方ないし、行くか」

 

 不安はあれど、しかし。

 この場から動かなければ一向に事態は進まないと理解はしているので、言うことを聞きたがらない両足を無理やり動かして警視庁の玄関をくぐった。

 

 そして入った中で受けた歓迎の挨拶は、複数の視線、視線、視線。

 

 高校生と言えども、しょせんは子供。

 一体子供が何の用だろうかと、警視庁で働く警官達は疑問と興味を視線に乗せて向けていた。

 

「う……」

 

 その向けられた視線に思わず明久は、一歩後ずさってしまう。

 

 しかし、それは仕方のないことである。

 複数の警察官に一斉に視線を向けられて怯まぬ子供が、一体どれほど居ようか。

 

 だがどれだけ怯もうと、ここまで来てしまったのだから引き返すことは出来ない。

 そう自分に言い聞かせ、明久は受付に行き用件を伝えに行く。

 

「あの、すみません。杉田さんという方は居ますか?」

 

「杉田……と言いますと、どちらの杉田でしょうか?」

 

 そこで明久は気づく。

 杉田のフルネームや所属を知らないことに。

 

 仕方がないので、一条ならフルネームを知っている為、彼を呼ぶことにした。

 

「えっと……すみません、杉田さんのフルネームを知らないので……。では、一条 薫警部補は居ますか?」

 

「一条 薫警部補ですね? 少々お待ち下さい」

 

 受付の警官が内線を使って一条を呼び出す。

 少しして、一条が杉田を連れて受付までやって来た。

 

「こんにちは吉井君。体調は変わりないか?」

 

「はい。一条さん達は怪我の方は……」

 

「心配ないよ。私も杉田さんも軽い怪我だ」

 

「そうですか……安心しました」

 

 一条と杉田は、昨日の第3号との戦闘で怪我をしていた。

 本人達は軽い怪我だと言っているが、実はあばら骨が折れていたりと結構な怪我である。

 

 それを隠すのは、つまりは大人の意地と言うやつだ。

 得てして大人は、子供に情けない姿を見せたくないものなのである。

 

 そんな意地をチラリとも見せることなく、杉田は明久に声を掛ける。

 

「さて、吉井君。早速だが付いてきてくれ。上の人間が君を連れて来るように言っているんだ」

 

「分かりました。ちなみにどんなことをするか聞いても良いですか?」

 

「それは俺にも分からない。上には連れて来いとだけ言われてるからな。まあ問答無用で攻撃とかはないと思うから、大丈夫だ」

 

 明久は杉田の物騒な物言いに、思わずギョッとする。

 

「問答無用はないってことは……状況によっては攻撃される可能性もあるってことじゃ……?」

 

「その時は俺と一条が守るさ」

 

「は、はぁ……。ありがとうございます」

 

 杉田は明久の疑問を否定はしなかった。

 そのことから明久は、猛烈に嫌な予感を感じ始める。

 

(大丈夫かなぁ……)

 

 決して小さくない不安を抱えながら、明久は杉田と一条の後を付いて行った。

 

△▼△▼△▼△▼

 

「さあ、着いたぞ」

 

 警視庁内を歩くこと数分。

 杉田一行は、今回の話し合いの場として使う会議室の前で立ち止まった。

 

「…………」

 

 明久はと言えば、流石に緊張しているのか生唾を飲むばかりで口を開かない。

 

 それもそうだろう。

 正に今回の話し合いは、彼の今後を決める重要な出来事なのだから。

 

 そんな明久を尻目に、杉田はドアをノックする。

 すぐに中から入室の許可が聞こえ、ドアノブに手を掛けた。

 

「失礼します」

 

「失礼します」

 

「し、失礼します……」

 

 明久達は、警視庁の建物と同様に飾り気のない武骨なドアをくぐる。

 すると中には壮年の男性が1人と、20代ほどの若い男性が5人いた。

 

 壮年の男性は座椅子に腰掛けており、若い男性達はその彼を守るかのように背後に仁王立ちしている。

 

 いや、彼ら若い男性達は実際に壮年の男性を守る為にこの場にいるのだ。

 吉井 明久と言う名の未確認生命体第4号が、殺戮を始めた時の為に。

 

 やけにピリピリとした緊張感の中、おもむろに壮年の男性が口を開く。

 

「初めまして、だね。私はこの警視庁の警視総監だ。よろしく、吉井 明久君」

 

「は、はいっ! よろしくお願いします!」

 

 まるで面接を受ける受験生かのように、背筋をピンと伸ばす明久。

 そんな様子の彼を見て、総監は目を細めた。

 

「良い返事だね。──さて、早速だが質問をさせてもらうよ」

 

「は、はい」

 

 急に見定めるような鋭い目に変わった総監に、明久は思わず気圧される。

 

 総監は鋭い視線のままで、核心を突く質問を投げ掛けた。

 

「君は──未確認生命体第4号と、そう呼ばれているかい?」

 

「──っ。……はい」

 

 肯定。

 それをした瞬間、警護をしている男性達が、総監を鍛え上げられたその肉体で隠すように立ち塞がった。

 

 明らかに化け物扱いされていることに、明久は胸がチクチクと痛むのを自覚する。

 化け物扱いされることは予想し理解もしていたのだが、いざそう扱われると心に刺さるものがあった。

 

 そんな明久に助け船を出したのは、意外にも総監である。

 

「君達、まあ落ち着きなさい。吉井君が我々に危害を加えるつもりがないのは明らかじゃないか。ならば、そう威圧的になる必要はあるまい」

 

「はっ。失礼しました」

 

 そう言って警護の男性達は1歩下がった。

 がしかし、挙動の一つも見逃すまいと言わんばかりに、ジッと明久を見続けるのは止めなかった。

 

 その男性達の様子を横目に、総監は一つ明久に謝罪をする。

 

「すまないね。彼らも仕事なんだ、分かって欲しい」

 

「ええ……その、仕方ないですよ。僕は第4号なんですから……」

 

「そう言ってもらえると助かるよ。……さてと、ここからが本題なんだがね」

 

 総監は一拍置いてから、再び口を開く。

 

「──未確認生命体第1号、第3号への暴行、殺害の罪及び、未確認生命体第4号である疑いの為、身柄を拘束させてもらう」

 

「なっ──!?」

 

 優しげな微笑みを顔に貼り付けながら、総監はそう明久に告げた。

 明久は逮捕と来たかと心の中で悪態を吐きつつ、咄嗟に身構える。

 

 一条と杉田も驚きを隠せていない様子な為、何も聞かされていなかったのだろう。

 2人は総監に抗議の意思を訴えた。

 

 総監はと言うと──ニヤリと口を歪めてから、ゆっくりと唇を動かした。

 

「──なんて、冗談だよ。逮捕なんてしないから安心しなさい」

 

「え……冗談だったんですか!?」

 

「ユーモアは必要だろう? なに、緊張をほぐしたいだけさ」

 

「ええ……」

 

 むしろ緊張しました、とは流石に言わない明久。

 警視庁の一番偉い人間に向かって軽々しくツッコミなど入れれるはずもない。

 

 しかし表情に気持ちが良く出ており、苦虫を噛み潰したかのように眉根を寄せている。

 そんな明久を、総監は笑い飛ばした。

 

「ハッハッハ。すまない、機嫌を悪くしたかな? まぁ、オジサンの戯れ言だと許してくれ」

 

「いえ……大丈夫です。──所で、本当の本題ってなんですか?」

 

「本当の本題かい? そうだね、その前にいくつか質問させてもらうよ」

 

 総監は机に肘を乗せ、口元で指を組む。

 そしてそのまま明久に質問を投げ掛けた。

 

「君は未確認生命体第4号の力を、どう使うかな?」

 

「どう使う……ですか」

 

 明久は彼の質問を受け、ほんの少しの間だけ目を閉じる。

 その間、まぶたの裏に浮かび上がったのは──父親を殺されて泣き叫んでいた少女と、顔に大怪我を負って瞳から光を失った島田 美波だった。

 

 自然、両手に力が籠る。

 

 もう誰かが悲しむ所を見たくないと改めて思いながら、明久はゆっくりと瞳を開けた。

 

「──僕は……もう、未確認生命体なんかの為に誰かが悲しむのを見たくありません。あいつらから皆を守る為に、僕は戦うことを決めたんです。だから……第4号の力は、未確認生命体と戦う為に使います」

 

「戦うたびに、キラーマシーンに近付く可能性があるとしてもかい? 話しは聞いているよ」

 

「……それでも、です」

 

「そうか。なるほど、決意は固いと見た」

 

 総監は口元から手を離し、机に腕を乗せた。

 

「では、もう1つ質問だ。──もし我々警察が君に未確認生命体と戦って欲しいと言ったら、君は戦ってくれるかな?」

 

 総監がそう言うと、この会議室にいる全員が息を呑んだ。

 まさか、第4号になったとは言え、元は一般市民で学生だった明久に戦わせようとするとは誰も思わなかったからだ。

 

 そして彼の言葉にいち早く反応したのは、一条。

 

「待って下さい長官! 吉井君はまだ学生なんですよ!? それに一度力を暴走させていますし、私は彼に戦ってもらうのは反対です!」

 

「そうは言うがね一条君。事実として銃弾が効かないそうじゃないか。我々が未確認生命体に有効な武器を持たない現状で、彼を頼る以外にどんな選択肢があると言うのだね?」

 

「ぐっ、それは……しかし!」

 

 苦々しい顔をする一条。

 明久に戦って欲しくないという気持ちの下、なお反論を続けようと声をあげる。

 

 しかしそれは、他ならぬ明久によって遮られた。

 

「戦います、僕」

 

「吉井君!?」

 

「僕は、力を手に入れた以上……皆を守らないといけないと思うんです」

 

「それは君の思い上がりだ! 君が危険を冒す必要はどこにもないんだ!」

 

 一条が明久の肩を強く掴み、揺さぶりながら説得する。

 明久は揺さぶられながらうつむき、しかしそれでも戦うことを訂正しない。

 

「確かに僕が戦う必要はないのかも知れません。でも……それでも未確認生命体を殺せる力があるから、守れるだけの力があるから……だから戦おうって思ったんです。──僕自身が、もう二度と後悔しないように」

 

「吉井君……」

 

 彼の心中を察してしまった一条は、彼に掛ける言葉を見失ってしまった。

 明久は、独白に近い状態で続きを話す。

 

「戦うことが怖くないと言えば、それは嘘になるかも知れません。この手で何かを傷付けること、この手で命を奪うことの気持ちの悪さを、味わってしまいましたから」

 

 なおも、彼の独白は続く。

 

「……でも、それでも僕は戦います。僕が戦うことを怖がらなければ、迷わなければ、助けれる命があることも思い知りましたから」

 

 そこまで言い切って、ようやく明久は顔を上げた。

 その顔つきは、睨み付けるほど真剣なものであった。

 

 一条はその表情に一瞬呑まれ、思わず言葉を失った。

 

 明久の思いを聞いた総監は、満足いく回答だとばかりに頷いている。

 

「素晴らしい。君のその正義感は尊敬に値するよ。うちの警官達にも見習わせたいくらいだ」

 

 パチパチと拍手も交えながら、彼は明久を称賛する。

 そして、一番の目的であろうことを伝える。

 

「では、明久君……ひいては、未確認生命体第4号は、第4号以外の未確認生命体の討伐を我々警察と共同で行う……ということで良いかな?」

 

「──はい。ぜひ戦わせて下さい」

 

「分かった。──これより我々警視庁は、未確認生命体第4号及び吉井 明久を同志とし、全面協力を行うものとする。これは決定事項とする」

 

 急に話が進み、誰も異を唱えることが出来ない内に方針が決まってしまう。

 トップが第4号と協力して戦うことを決めてしまった為、一職員でしかない一条はこれ以上何も言うことが出来なくなってしまった。

 

 つまりは、上には従うのみということだ。

 

 一条は再び明久を戦わせてしまうことに不甲斐なさと悔しさを感じて、奥歯が裂けそうなほどに歯を食い縛る。

 しかし目上の立場の人間が出した決定に、あからさまに不満を顔に出す訳にも行かず、本心と社会人としての立場のせめぎあいの末に仕方なく従うことにした。

 

 それはどうやら、杉田にも同じことが言えるようだ。

 彼も同様に歯を食い縛り、スーツのズボンを握り締めていた。

 

 そんな様子の一条と杉田に、総監は命令を下す。

 

「一条君と杉田君には、吉井君の担当者になってもらうよ。多少はお互いを知っている君達が適任だろう。これからは吉井君の心と身体を鍛えてあげて欲しい。良いね?」

 

「は……い」

 

「分かり、ました……」

 

 当然、断れるはずもない。

 絞り出すように返事を返した2人に対し、総監は1つ頷く。

 

 そして明久に顔を向けると、握手を求めた。

 

「これから大変になるだろうけど、よろしく頼むよ」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 

「良い返事だね」

 

 握手を求められた明久は、総監の分厚い手を力強く握り返した。

 

 そして手を離してから、総監はこの場にいる全員へと話し掛ける。

 

「さて、話し合いはこれで終わりだ。各自解散して本来の持ち場に戻るように。吉井君も今日は帰って大丈夫だよ」

 

「はい。じゃあ、僕はこれで失礼しますね。一条さんも杉田さんも、お疲れ様でした。これからよろしくお願いしますね」

 

 明久は総監と一条と杉田に一礼して会議室を後にする。

 一条と杉田は、当たり障りのない言葉で明久に返事をし、総監に一礼をしてから持ち場へと戻った。

 

 後に残ったのは警護に当たっていた男性警察官5人だ。

 

「君達ももう持ち場に戻ってくれ。忙しいのにすまなかったね、ご苦労様」

 

 その警察官達も帰し、会議室には総監唯一人だけが残った。

 

 会議室の中央でポツンと座る彼は──1つ、呟く。

 

「──よろしく、未確認生命体第4号君。君のことは最大限に利用させてもらうよ」

 

 ──その顔からは先ほどまでの微笑みが消えており、鉄で出来た仮面でも被っているかのように……無表情であった。

 




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