トニー・スターク が あらわれた !   作:クレイジー松本キヨシ

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おっと……?



一秋による惚気話

なんだかんだ言って、トニーがIS学園に戻ったのはクラス代表対抗戦が行われる前日の夕方になってしまった。

 

「なんだか久しぶりに戻ってきた気がするな」

 

トニーは自分の部屋に向かっている途中、そう呟いた。

1週間程度の期間だったが、それでも長く離れていたような感覚がしたのだろう。

 

「ん……?」

 

すると、向こう側から生徒2人が歩いていた。

何やら熱心に話し合っていて、トニーには気付いていない。

知らない生徒達ならスルーするトニーだが、1人は知り合いの生徒――というよりルームメイトの一秋だったので、トニーは声をかけた。

 

「やぁ、何を熱心に話しているんだい?」

「あ、トニーさん。帰ってきてたんですね」

「ああ。今帰ってきたところだ」

「そうなんですか。えっと、こちらは1年4組の日本の代表候補生でクラス代表の更識簪さんです」

「特別教師のトニー・スタークだ」

 

一秋が隣にいた簪を紹介すると、トニーは手を差し出し自己紹介をした。

 

何故か簪は緊張した表情をし、慌てている。

 

「え、えっと、よ、よろしくお願いします!」

 

両手でトニーの手を覆うように握手に応じた。握手に応じたかと思ったら、彼女はすぐさま手を離し、一秋の方に向く。

 

「ご、ご、ごめん!一秋、ま、また後で!」

 

そう言って頭を下げると、簪はその場から逃げるように走り去っていった。

 

「?僕は彼女に何かした覚えはないんだが……」

「ははは……。彼女、僕と一緒でトニーさんのファンなんですよ」

「なるほど。そういうことか」

 

不思議そうに彼女の後ろ姿を追うように見ていたトニーがそう言うと、一秋は困ったように笑い、トニーにそう教えた。

 

「僕がいない間にあの子を部屋に連れこんだのか?」

「そ、そんなことしませんよ!」

「冗談だよ」

「まったく、勘弁してくださいよ……。確かに気が合いますけど、彼女は友人で、手伝いをしてるだけです」

「手伝い?」

 

トニーが訊き返すと、一秋は困ったような表情をした。

 

「あー……。ここじゃアレですし、部屋に行きませんか?」

「ちょうどいい。僕は部屋に向かってる途中だったしな」

 

トニーと一秋は自分達の部屋へと向かった。

 

○○○

 

「それで?何を手伝っているんだ?」

 

コーヒーが淹れられているマグカップを一秋から受け取ると、トニーはさっきの質問の続きを始めた。

 

「えっと、一応誰にも言わないでくださいね?……彼女の専用機を造る手伝いをしてるんです」

 

それを聴いたトニーは呑んでいたコーヒーを思わず噴き出しそうになるが、何とかそれを喉に流し込む。

 

それが原因か、少しむせた。

 

「ゴホッゴホッ……。専用機を造るだって?」

「と言っても、外装は9割完成してて、後はプログラムとかだけなんです」

「何だ、訳ありか?」

「そうなんです。えっと……」

 

そして一秋は簪が自らの手で専用機を造っている訳を説明した。

 

 

 

 

元々、簪の専用機は倉持技研という所で造られていた。

しかし、男なのにISを操縦できる兄弟が現れてからは事態は一変。

その兄弟の内の兄の方……、所謂一夏の専用機を倉持技研で造ることに。

政府の命令もあり、一夏の専用機を優先的に造らないといけないことになってしまい、簪の専用機は未完成のまま放置状態になってしまった。

 

簪は色々と思うことがあったらしく、自分の専用機を自らの手で完成させることに決め、未完成のまま受領した。

 

その後、倉持技研は一夏のISをどんな風に造るか話し合っている最中、結局は束が一夏の専用機を造ることになり、倉持技研は手持ち無沙汰の状態になった。そして、手持ち無沙汰だったので、簪の専用機を完成させると話を持ちかけた。

 

しかし、簪は既に倉持技研の事を信用していなかったらしく、その話を一蹴したらしい。

 

 

 

 

「なるほど。それは災難だったな」

 

トニーはそれを聴いて、この場にいない簪に同情した。

 

「どうやら簪、一夏の事を若干恨んでいるらしくて」

「君の兄のせいではないが、恨むなとも言い難いだろうな」

「そうですよね……」

 

一秋は思わず溜め息を吐いた。

 

「それで、君は兄の罪滅ぼしの為に彼女に協力しているのか?」

「いえ、そんな気持ちは……。いや、最初は多少なりともありました」

「正直だな。ところで、何で彼女と友人関係になったんだ?」

「えっと、じゃあそれも説明します」

 

そして、次に出会いと今に至るまでを語り始めた。

 

 

 

 

まず一秋と簪が出会うきっかけは、一秋と同じクラスであり、隣の席の布仏本音からのお願いによるものだった。

その願いというのが、簪に会ってほしいというものだった。

本音曰く、一秋なら簪と馬が合うと思ったからだそうだ。

 

最初は"一夏の双子の弟"ということもあって、簪は少し素っ気ない態度を取っていたが、一秋が自身の趣味である機械弄りについて語りだすと、そらに簪が食いついた。

そこから時間はかからず、すぐ仲良くなった。

 

そして、今では彼女の専用機を造る手伝いをする仲になった。

 

 

 

 

「さっきも言ったように、最初は多少なりとも兄の罪滅ぼしの為、と思って手伝っていました。でも、それはすぐに無くなったんです」

 

トニーは一秋の話を静かに聴き始めた。

 

「簪の為に。今はそれが1番の理由となって、僕は彼女の手伝いをしています。それに、簪と一緒に機械弄るの楽しいですし」

 

一秋は照れ臭そうに笑いながらそう言った。

 

「……まさか惚気話を聴かされるとはな」

 

何故か呑んでいたコーヒーが段々と甘い味になっていた感覚がしたトニーは小さくそう呟いた。

 

そして、疑問に思ったことを一秋に訊いた。

 

「何で彼女は1人ででもISを創ろうと思ったんだ?」

「……簪の姉が1人で自分のISを造ったらしくて。それに対抗してるんだと思います」

「1人で?」

「はい。簪は姉に対してコンプレックスを抱いてるみたいです」

「コンプレックスか……。しかし、彼女の姉が1人でISを造ったというのは本当なのか?」

「にわかに信じ難いですが、簪からそう聴いてます」

「……そうか」

 

()()1()()()()()()I()S()()()()()という点にどこか引っかかりを感じるトニーであったが、今はそれを考えないことにした。

 

「僕の手で完成させてあげようとも思ったが……。それは最後の手段にしておこう。何か確認してほしいところがあったり、手伝ってほしい時は言ってくれ。喜んで力を貸そう。彼女にもそう伝えといてくれ」

「本当ですか!?今すぐに伝えてきます!」

 

一秋は自分のことのように喜び、部屋から出ようとする。

 

その行動にトニーは少し呆れる。

 

「……後、連絡先くらい交換しておいた方が良いぞ」

 

どうやら図星だったらしく、一秋は苦笑しながら「わかりました」と言って、部屋を出た。

 

その後、トニーは少し思い出すようにして呟いた。

 

「更識……。ということは生徒会長と血縁者か……。明日にでも話を訊いてみるか」

 

少しお節介か、そう思ったトニーは小さく笑った。




メインヒロインの匂いがプンプンするぜぇ!()

いや、自分でそう書いたんですけどね?


2組の代表候補生は次回以降に持ち越しに。

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