「ルァァァァァァァァァパン、どこへ行った!」
明け方に鳴り響く、銭形警部の怒鳴り声。あっちこっちをきょろきょろ。
残っている怪物退治は、朝までかかったが、誰もケガなく終了した。
ルパン三世と銭形警部の共闘関係は、怪物退治が終わるまで。
「ルパン三世たちなら、とっくに逃げたよ。捕まると解っていて、おとなしくしている泥棒はいないと思うけど」
的確すぎるライの正論。
「むむ、おのれ、ルパン。逃がしはせぬぞ」
まだ遠くへ入っていないはず、すぐに後を追おうとしたが、一旦、振り返る。
「その刀剣、事態が事態だけに大目に見ていたが、ちゃんと社に返しておくように」
それだけを言い残し、逮捕だルァァァァァァァァァパンと叫びながら、ここは孤島、港へ走っていく。
「あらら、そっちには逃げてないんだけど」
そんな銭形警部の後ろ姿を見ながら、つい口ずさむ。
「Little Robin Redbreast sat upon a tree,
Up went pussy cat, and down went he;
Down came pussy, and away Robin ran;
Says little Robin Redbreast, Catch me if you can.
Little Robin Redbreast jumped upon a wall,
Pussy cat jumped after him, and almost got a fall;
Little Robin chirped and sang, and what did pussy say ?
Pussy cat said, Mew, and Robin jumped away.」
廃ホテルに報告に戻ってきたのはジャスティン、1人。
全てが片付いたことは霧が晴れたことが証明していた。時間が時間だけに、レベッカとロブソン以外は就寝中。
「後のことは、俺の古巣に任せればいい」
今回の出来事の事後処理はMI6が行うになるだろう。この事件、音手沙汰に出来るような事件ではない。
「この島の住人は大丈夫なのでしようか。それに例の装置がMI6に渡る危険性も」
ロブソンの懸念は最も。イタリアではルパン三世たちだけではなく、お嬢様もMI6の陰謀に巻き込まれてしまった。
「そのことは心配ない、信頼できる奴に頼む。何もパーシバルみたいな奴ばかりではない、MI6は。それに装置はルパン三世が、バラバラに吹っ飛ばした。あれでは再現は不可能だろう」
イタリアでの陰謀の首謀者はパーシバル。すでに彼は故人、自滅である。
ルパン三世の名前が出た。でも当の本人の姿は見えず。寂しそうなレベッカ。
「お嬢様、また会えますよ」
「……」
「お嬢様?」
「そうね、また会えるわ。だって、ルパン夫人の椅子に座るのは私なんだもの」
たちまち、元気を取り戻す。
今回の映画製作は失敗、損失は少なくはない。
しかし、レベッカは、こんなことでへこたれるようなやわな人物ではない、この度の損失を幾らでも取り戻せる力がある。
戸巣見島を覆っていた霧は全て消え去った。目を覚ました島の者たちは、最初はびくびくしながら、外の様子を確かめ、怪物の気配がないと解ると、喜びながら廃ホテルの外へと飛び出してきた。
悲しいことや辛いこともあったが、まずは生きていることほ喜ぶ。
「これから、どうするの」
数少ない観光資源の一つである戸巣見島の奥にある自然公園のベンチに座っている来人。後ろに立っているのはルパン三世、次元大介、石川五右エ門、峰不二子、ルパン一家。
「ほとぼりが冷めてから、島から脱出するさ。港はとっちゃんが見張っているだろうからね」
盗みに来たわけでないので、損失はなしのルパン三世。骨折り損の草臥れ儲けは峰不二子だけ。
だからなのか、峰不二子のテンションは高くない。
「あ、銭形警部だ」
お約束の冗談ではない。本当に土煙を巻き上げんばかりの勢いで銭形警部が走ってくる。
「そこにいたかルパン三世! 逮捕だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
港に向かおうとしたが、あのルパン三世がありきたりな逃走ルートは使わないだろうと、正反対の場所を探していたのだ。
「やべ」
次元大介の声を合図にルパン一家は逃げ出す。
「逃がさんぞぉぉぉぉぉぉ!」
それを全力で追いかける銭形警部。それを見ている来人。
「なんだか、双方とも楽しそう」
ラストはお約束の追いかけっこにしました。
ライが歌っているのはマザーグースの『ロビンと猫』という歌です。