亡霊&坊ちゃん 『悪霧』   作:マチカネ

5 / 6
 【外】の怪物たちとの決戦の話になります。


第5章 『鬼火』

 廃ホテルの外、初夏にもかかわらず、辺りを霧に覆われているためか、肌寒い。

 両目を閉じたジャスティンは靴の踵でコンクリートの路上を蹴る。エコーロケーションで周囲の状況を確認。

「間違いない、安内家のある方向から、この霧は来ている」

 エコーロケーションは地図に書き記されていた安内家の場所から、霧が出ていることを示していた。

「それと、霧の中には化け物がいるぞ、それも大勢」

 ジャスティンの警告か忠告か、しかし、ライも来人もルパン三世も次元大介も石川五右エ門も銭形警部も、そんなことは先刻承知でホテルから出たのだ。

「それじゃ、みんなで出発」

 この現状には相応しくない、ルパン三世の明るい掛け声で、全員、出発。

 

 

 

 霧の中を進む、小一時間ほど経過したころ、霧の中から怪物が襲い掛かってきた。だが、これは予想されていてたこと。

 一番、最初に動いたのはライ。全身が鱗だらけの怪物が霧の中から、飛び出した時には、すでに間合いに入っていた。顔の半分が人間なのが不気味。

 持っていた扇子で、振り下ろされた腕の一撃の攻撃を反らすと同時に、怪物の体制を崩させ、投げ飛ばす。

 アスファルトの道路に叩きつけられる。扇子を仰ぎ、霧を飛ばす。おまけに叩き付けられたのが、人間の顔の部分だったので、そのダメージで干からびる。

 そこが弱点だという推理は当たっていた。

 それを合図に、怪物たちが霧の中から飛び出してくる。だが、ここにいる猛者たちにとっては、敵ではない。

 中には人間の体が付いている怪物もいたが、そこが弱点なのは承知。

 扇子で霧を払って、弱点を攻撃して、僅かな時間で怪物を撃退。

 

 しばらくは警戒して、様子を見ていたが、怪物の襲撃はない。

「よし、行こう、日が暮れる前に着きたいからな」

 銭形警部の言うことは、最も、いくら霧で視界手が悪いいえ、夜の闇よりは幾分かまし。

 ライを除く、皆はある思いがあった。人間を取り込んだ怪物を攻撃する際、ライは的確に霧を払い飛ばしていた。その手際の良さ、見た目は少年だが、やはり、只者ではない。こちら側の人間。

 

 

 

 懲りたのだろうか、以降、怪物の襲撃はなく、スムーズに進めた。

 

 

 

 霧の中に神社のシルエットが見えてくる。あそこが鬼火神社。

「ごめん、ちょっと、ここに寄らせてもらうよ」

 断ってから、ライは神社へ。

「ここに、何の用があるんだ?」

 続いて、ルパン三世が鳥居を潜った時、

「ルパーン、助けに来てくれたのね」

 社から飛び出してくる峰不二子。ルパン三世に抱き着く。

「不二子ちゃん」

 鼻の下伸ばして、スケベ顔丸出し。どさくさに紛れてお尻を触ろうとしたが。手の甲をつねられてしまう。

 そんなルパン三世と峰不二子を相変わらずだなと見ている来人と銭形警部とジャスティン。

 次元大介と石川五右エ門は、いつものことなので2人を無視、社へ行く。

 そこには一振りの太刀が奉納されていた。見るからに値打ちもの。

「なるほどね、こいつを盗みに来て、霧に撒かれて、社から出れなまなったんだな」

 次元大介、ご名答。

「その刀、見掛け倒しよ。重いし、鞘から抜けないし」

 お宝が手に入ると思っていたのに、それがダメになってむくれる。

 どれどれと、次元大介も持ち上げようとしたが、重くて持ち上がらないし、鞘も硬くて抜けない。

「流石はご神体ということか……」

 社から出ていこうとした次元大介の横で、ひょいとライは太刀を持ち上げる。

 おおっと驚く次元大介。さらに簡単に鞘から太刀を抜く。さらなる驚き。

 抜き放つ刀身は青白く、まるで鬼火のよう。

「これがご神体、妖刀『鬼火』か」

 軽々と一振りして、ちぃん、収鞘。

 声も出せない峰不二子。

「名のある刀は己で持ち主を選ぶという。どうやら、ライ殿は選ばれたようでござる」

 石川五右エ門は事態を読み解く。自身も持ってみたいという思いがあるが、ライが選ばれた以上、引き下がる。

 ロブソンが教えてくれた鬼火神社の伝承も、ほぼ同じ。

 

 

 

 保内家の前に来たとき、全員の動きが止まる。

「来る」

 と言ったのは誰なのか、家を破壊し、巨大な怪物が出現。

 獣、爬虫類、魚類、甲殻類、昆虫、植物、いろんな生き物をミックスした様なグロテスクでラスボスに相応しい姿の怪物。お腹のあたりから延びる爬虫類の下半身に重太郎の上半身が付いている。

「オレハ正シかっタゾ、異世界がアることをオレは証明シタ」

 ハッハハハッと笑い出す。

「こやつ、自我を保っているな」

 コルト・ガバメント1911A1を構える銭形警部。警官として説得を試みたいが、それは不可能だというのは聞くまでもなく、誰にでも解る。

「オレハ天才ダァァァァァァァァァァ」

 襲い掛かってくる。

 真っ先に攻撃を仕掛けたのはライと来人。抜刀で風を起こして、霧を払い、返す『鬼火』と天牙棍の連撃。

 怯んだ隙に次元大介、銭形警部、ジャスティンの銃撃。重太郎の上半身、そこが弱点だ。

 止めにルパン三世と峰不二子が額に弾丸を捻じ込む。

 これで終わり、今までは。

 重太郎は干からびなかった。それどころか傷口が塞がり、反撃してくる。

 慌てて攻撃を躱す一同。

 落ちそうになった帽子を押さえながら、

「あそこが弱点じゃないのかよ」

 ぼやく。

 歪な腕が振り下ろされる。全員、飛びのいて躱す。砕かれるアスファルト。

 さらに尻尾の攻撃。これも躱す。

 重太郎の体の下から、鈍色の大きな棘のようなものが伸びる。その棘に火花が飛び散り始める。ニタ~不気味に微笑む重太郎。

「やべ」

 ルパン三世の声を合図に全員、逃げ出す。

 鈍色の大きな棘から、強力な電撃が放たれる。予め逃げていたので、誰も巻き込まれなかったのは幸い。

「あれを」

 電撃で消し飛ばされた霧の向こうを、ライは指さす。破壊された家の奥に奇妙な機械があり、小刻みに震えながら作動している。そのすぐ後ろには、歪んだ空間の穴があり、そこから霧が出てきていた。

 あれが【外】の通路を開けた装置に違いない。そして重太郎の上半身を付けた怪物の体は【外】の通路から出てきている。

「そうか、奴の半身は【外】にあるんだ。だから霧を払っても平気なのか」

 あまり嬉しくないジャスティンの指摘。

「それに【外】と繋がったままじゃ、不死身みたいね」

 もっと嬉しくない峰不二子の指摘。だから、すぐに再生してしまう。

 嬉しくない2人の発言は的中しているだろう。

 次元大介とジャスティンが弾丸を撃ち込むも、たちまち、再生。

 ルパン三世たちが、どんなに攻撃してもすぐに再生してしまい、きりが無い。

 ジリ貧状態、このままなら、ルパン三世たちに勝ち目なし。なら、どうするか……。

 自分の右手を見る来人。『これ』を使えば倒せるかもしれない。

 来人の右手を抑えるライ。首を左右に振ってから、にっこりと微笑む。

 『鬼火』を鞘に収めて、何をするのかと思った途端、むんずとルパン三世を掴むと、

「ごめん」

 一言謝り、投げ飛ばす。

「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 投げ飛ばされたルパン三世は尻餅をつく。

 ルパン三世のすぐ傍には装置が。

「ライちゃん、もっと、優しくしてよ」

 ルパン三世も投げ飛ばされた時から、ライの意図は察していた。

 懐から手製の爆弾を取り出し、装置に付け、痛む尻を摩りながらも、物陰に飛び込む。

 爆弾が爆発、装置を木っ端微塵に吹っ飛ばす。

 装置が壊れたことで【外】との通路が維持できなくなり、閉じる。

 怪物の体の半身は向こうにあったため、ねじ切れてしまい、瞬く間に霧も消えてしまう。

 それでも怪物は生きていた。

「オレは天才天才天才天才天才だ天才だ天才ダ天才ダ天才ダァァァァァァ」

 半身だけで、襲い掛かって来る。

 輝きを放ちながら放たれる斬鉄剣の一閃。

「せめてもの情けでござる」

 人間の上半身と怪物の下半身を切り離す。怪物としてではなく、人間としての生の終わらせてやる。

 ちぃん、斬鉄剣を鞘に収めた時、怪物は倒れ、干からびる。

 

 

 

 戸巣見島を覆っていた霧は晴れたが。

「やれやれ、これは骨が折れるね」

 次元大介は帽子のずれを直す。

 人間と融合していない怪物は干からびたが、融合した怪物は、まだ、動いている。それも少なくない。

 まだ最後の仕事が残っている。

「早く、終わらせてお風呂に入りたいわ」

 かれこれ、丸一日もお風呂に入っていない。

「不二子ちゃん、なら、一緒に入ろう」

 と言って、ルパン三世は平手打ちを食らう。

「これが終わったら、逮捕だからな」

 今はまだ、協力関係は維持。

「家族に土産を買いたい。何がいいかアドバイスを頼む」

「心得た」

 ジャスティンは、日本のお土産に一番、詳しそうな石川五右エ門に頼み、本人も承諾。

「今回は大変なアルバイトになったな」

 右手を使わずに済んだ来人は天牙棍を構える。

「じゃ、後始末に行こうか」

 ライは『鬼火』を抜く。

 

 

 




 ラストまで、後、1話で、やっと、不二子ちゃんを出せました。出すタイミングが掴めず、結局、この段階で出すことに。
 傑作『さらば愛しきルパンよ』の名台詞をライに言わせてみました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。