亡霊&坊ちゃん 『悪霧』   作:マチカネ

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 ずっと、銭形警部は妻帯者と思っていました。『ルパンVS複製人間』ではとしこという娘がいると言っていましたので。
 調べてみると、TVシリーズでは独身、劇場版では妻帯者として描かれているとありました。


第3章 参上

 疲れていたのか、未明を迎えるころには誰も彼もが眠りに落ちていた。

 

 そんな夜の闇の中に動くものあり。

 眠っている進やみのるを起こさないように、注意ながら、来人はロッドケースから棍を取り出す。この棍は、ただの棍ではない。名工によって鍛えられし天牙棍。

 ポケットから青いイヤリングを出すと左耳に着ける。オデッサから託された形見。

 目立つので外しておいたものを決意を示すために着けたのだ。

 1人、ロビーに向かう。

 そんな来人の後姿をみのるは、静かに見ていた。

 

 

 

「どこへ行くんだい」

 ロビーにはライが立っていた。

「行かせてください、僕は救えるかもしれない命を見捨てておけない」

 強引に通ろうとしても、すんなり道を譲ってくれる相手でないことは来人は解っている、十分に。

「1人で行くとは無謀だ」

 ロビーにいたのはライだけではなかった。柱の陰からジャスティンがて出てくる。

「全くです、向こう見ずなところは、お嬢様にそっくりですね」

 ロブソンも出てくる。

 3対1。

「1人で行くなら、お前の生存確率は20%だ、1人でならな」

 1人でならな。少し笑っているように見える表情。

「ライさん、何か用意するものはあるでしょうか」

 ロブソンはライの前へ。

「日本刀があればいいんだけど」

 刀を振るジェスチャー。

「すいません、すぐには日本刀の用意はできません。銃ならば、すぐにでも何丁か用意できますが」

「それじゃ、それで」

 護身用に持ち込んだ。その方法は秘密。

 来人1人では行かせない。ライもジャスティンも一緒に行くつもり。

「俺とライが加われば生存確率は、100%だ」

 

 言葉通り、すぐにロブソンはベレッタM92Fを用意してきた。

 受け取ったライは、早速、具合を確かめる。その手際は素人ではない。

「私も行きたいのですが、皆さんのことがありますので」

 頭を下げる。

「ロブソンさんはみんなのことを守ってください」

 ここにいる人たちの護衛を頼む来人。

 

 今にもライ、来人、ジャスティンの3人がホテルを出て行こうとしたとき、突然、ホテルの玄関がノックされた。

 何だ? ライたちが玄関のほうを向く。このぐらいでビビるようなタマではない。

 ぐったりしているアーネストが背負われている。背負っている男はライとは初対面だが、他の3人は知っていた。

「次元さん」

「次元大介」

「次元様」

 次元大介だけではなかった。その傍らには石川五右エ門と銭形警部。そして、多くの島民も。

 

 

 

 アーネストのケガは軽いものではないが、命には別状はない。

 幸い応急処置の心得は、ライも来人もジャスティンもロブソンもある。撮影中の負傷も考慮して、救急セットは用意してあった。

 治療はジャスティンが請け負う。

 

 騒ぎを聞きつけ、レベッカやクリスティーンを始め、何人かが起きてきた。

 

 落ち着かせるため、避難してきた島民にはロブソンがカモミールティーを入れて配る。

 次元大介と銭形警部はブラックコーヒー、石川五右エ門は日本茶。

 

「何があったか、話してくれるわよね」

 皆を代表して、レベッカが切り出す。

 ブラックコーヒーを飲み終えた次元大介。一息ついた後、

「解ってるよ」

 煙草を銜え、ジッポーで火を着けようとした。

 間合いに入っていたライが火を吹き消す。

「ここは禁煙だよ。それに女性も子供いる」

 いつの間に? 驚きはしたが、ライの言う通り、起きてきた人たちの中には女性もいるし、避難してきた島民の中にも女性や子供もいる。

 次元大介はタバコとジッポーをしまうと、話しを始める。

 

 

 

 次元大介と石川五右エ門と銭形警部が籠っていた旅館には、逃げ遅れた島民たちが逃げ込んできていた。

 霧が入ってこれないように戸や窓は締め切っている。ライフラインが生きていたことは幸い。

 いくつもの修羅場を潜り抜けてきた次元大介たちとは違い、得体のしれない不気味な霧に囲まれ、避難してきた島民たちは不安に怯えていた。特に子供たちは泣きそう。

 胡坐で座っていた銭形警部が立ち上がり、子供たちの前に行く。

「こら、男の子が何を情けない顔をしておるのだ。こんな時にこそ、しっかりしなければ大事な人も守れない軟弱者になってしまうぞ。そんな軟弱者に君たちはなりたいのかね」

 男の子たちは首を左右に振り、涙を拭く。

「そうだ、それでいい」

 今度は女の子たちのほうを向き、

「こんなに立派なヒーローが、すぐ傍にいるのに、君たちは怖いかな?」

 笑顔。

 女の子たちも首を左右に振り、涙を拭く。

 

「いやはや、子供のことには慣れているねぇ」

 子供たちに慕われている銭形警部を愉快そうに見ている次元大介。

「むっ!」

 一番、最初に異変に気が付いたのは石川五右エ門であった。

 続いて次元大介も気が付く。窓の下、怪物に霧の中に引きずり込まれる集団がいる。

 一番、最初に飛び出したのは銭形警部。コルト・ガバメント1911A1を抜き。怪物に発砲。

 次元大介と石川五右エ門も飛び出す。

 S&W M19 コンバットマグナムを撃つ次元大介。斬鉄剣を抜く、石川五右エ門。

 

 怪物たちは暴れたものの、次元大介、石川五右エ門、銭形警部が戦い続ていると霧の中に引き返していく。

 それでも怪物たちは捕まえた人は返さなかった。残念なことに助けることがができたのはアーネスト1人だけ。

 さらに怪物たちとの戦いで、旅館の玄関が壊れてしまい、霧を防ぐことが出来なくなってしまった。

 ここは危険、そこで、一番近くて安全だと判断した廃ホテルに向かうことに。

 ホテルへ向かう途中にも、何度か怪物は襲ってきたが、次元大介たちが撃退。

 

 

 

 説明を終えてた頃、ロブソンが夕食の残り物のシチューを温めて、皆に配った。これは避難してきた人たちにとって、何よりものありがたいこと。

 

 

 

「うめえじゃないか。ロブソン、これ、お前が作ったのか?」

 次元大介が聞くと、ロブソンは首を横に振る。

「いいえ、私は手伝っただけです。作ったのは彼らですよ」

 指し示したのはライと来人。

「へー、お前たちがか。来人と―」

「ライ、桜間ライです」

 初対面なので、ライは名乗る。

「お世辞じゃなく、本当にうめぇぞ、このシチュー」

 ライと来人の合作のシチューを褒める。

「でも、グレミオのシチューには……」

 思い出のグレミオのシチューには及ばない。どんなに記憶を頼りに再現を試みても、あの味にはたどり着けない。

 来人は寂しそうな顔をする。

 

「?」

 石川五右エ門がシチューの中から、スプーンで掬いだした無様としか表現できない姿に造形されたニンジン。これを切ったのは、もちろん、レベッカ。

 

 

 

 辺りに誰もいないのを見計らって、次元大介はタバコに火を着けた。「ここは禁煙だと、注意されたのでは」

 背後から聞こえてくる声。

「泥棒が、いちいち、ルールを守ると思うのか、ニクス」

 振り返る。そこにいたのはジャスティン。MI6にいたころのコードネームはニクス。

「ここで、あんたと再会できるなんてな。てっきり、マイホームパパをしていると思ったんだがな」

「護衛と演技指導を頼まれてな、これも仕事だ」

 イタリアでは戦ったこともある、また共闘したこともある。

 この異常な状況から、抜け出すためには共闘。どちらもまだ、人生をリタイアするつもりなし。

 

 

 

 ベットの上でアーネストは目を覚ます。

「あら、起きたの。ケガ、大丈夫」

 傍にいたレベッカが具合を尋ねる。後ろにはロブソン。

「他のみんなは、ジェイコブは!」

 起き上がろうとしたら、傷が痛む。

「まだ、寝ていたほうがいいですよ」

 ロブソンが寝るように促した。応急処置をしているのが、注意するには越したことはない。

「助かったのはあなただけよ。次元たちが言ってたわ」

 速攻で状況を教えるレベッカ。隠していても、いずれは知ること。

 聞くまでもない、アーネスト自身、ジェイコブや他の人たちが霧に引きずり込まれるのを見た。自分自身の目の前で。

 ベットの中で頭を抱える。

「あいつ、ジェイコブは俺の幼馴染なんだ。確かに性格には問題があったが、それでも、あいつは幼馴染なんだ」

 レベッカとロブソンは、今はそっとしておくほうがいいと、部屋を出ていく。

 

 

 

 翌朝。

 

「お父さん―」

 子供がエキストラとして雇われていた父親に抱き着く。

「無事だったんだな、本当に本当に、よかった」

 息子を抱きしめる父親、涙を流す。それをほんのり、涙を流しながら見ている母親。

 この光景を自身も妻帯者であるジャスティンも微笑ましく見ている。エージェント時代、危険な任務から帰ってきた後の一家団欒は、とても言葉では表せない喜びに満ち溢れたもの。

 

 

 廃ホテルに籠っていた人たちと旅館に籠っていた人たちの中には家族や知人もいて、再会を大いに喜んでいた。

 

 クリスティーンや進、みのるたち島の外から来た人たちも、再会を微笑ましく見ていた。

 この恐ろしい状況を忘れさせてくれるやさしい光景。

 

 そんな嬉しそうな面々をアーネストは、何気なく見ていた。傷ついた心に幾ばくかの安らぎを与えてくれる。

 ふと、名前を呼ばれた気がして、玄関の方を向く。

 霧の中から、ジェイコブが顔だけを出して、こっちを見ていた。

「ジェイコブ、お前、無事だったのか」

 急いで玄関に向かう。

 

 最初に気が付いたのは来人。急いだ、でも、間に合わない。

 

 アーネストは鍵を開け、玄関を開けて、幼馴染を迎え入れようとした瞬間、腹が串刺しになる。

 

 たちまち、さっきの再会の喜びは消し飛び、パニックになりかける。「慌てるな! 落ち着いて、2階に避難しろ!」

 とても大きなライの声で、みんな冷静さを取り戻す。

「解ったスっ」

 2階の階段を駆け上がる進、続くクリスティーン。残りの人たちも2階へ避難。

 

 霧の中から、ジェイコブが出てくる、否、ジェイコブの頭部の胸のあたりに付けた昆虫を思わせる怪物が廃ホテルの中に入ってきた。

 続くように、入ってくる怪物と霧。怪物は、みな、体のどこかに顔や手足などの人間の体の一部を付けている。

 何体かの怪物はホテルに入ってしまったが、残りは狭い入口に詰まってしまう。

 このチャンスを石川五右エ門は見逃さない。

 気合い一閃、斬鉄剣を放ち、詰まった部分を斬る。

「また、つまらぬものを斬ってしまった」

 同時に次元大介はドアを閉じて、鍵を掛ける。息の合った連携プレイ。

 

 避難誘導しているライ。

 怪物の攻撃を躱し、ジャスティンはロブソンから渡されたベレッタM92Fを発砲。天牙棍を振り、怪物を倒していく来人。

 銭形警部も負けじとコルト・ガバメント1911A1で応戦。

 

 レベッカを守るため、怪物と戦うロブソン。

 死角から、ジェイコブの顔を付けた怪物が襲い掛かってくる。誰も間に合う位置にいない、一番、近いロブソンも目の前の怪物を放置して、助ければ、こっちの怪物がレベッカに襲い掛ってしまう。

 一発の銃声が鳴り響き、怪物の頭部に穴が開く、さらにもう一発、さらに一発と撃ち抜かれていく。

 倒れる怪物と、レベッカの前に立っているみのる。その手にはワルサーP38。

 その銃を使う相手にレベッカは心当たりがある、ライ以外の全員に。

 変装を剥がすみのる。その下の顔はやはり、ルパン三世。

「よう、レベッカ」

 キザにウインク。

「ルパン!」

 抱き着くレベッカ」

 

 流石にこの状況では銭形警部でも『逮捕だ、ルパン!』とは言えない。

 

 

 

 玄関のドアの前の怪物の遺体をライは調べている。斬鉄剣で人間の体と怪物の体を切り離された怪物。みな、カラカラに干からびていた。

 ドアの向こうは霧。ドアで霧は止められ、ホテルには入ってきていない。

「……」

 何かを考えているライ。

 

 

 




 第3章でルパン三世を登場させることにしていました。
 子供のころに食べたもので、どうしても再現できない思い出の味は、自分にもあります。

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