亡霊&坊ちゃん 『悪霧』   作:マチカネ

1 / 6
 LOST COLORSのライくんと幻想水滸伝の坊ちゃんのクロスオーバー。ライくんは桜間ライと名乗っています。坊ちゃんは渡来人。
 ルパン三世(イタリア版)からは出ているのはレベッカ、ロブソン、ニクス。
 ニクスはMI6を引退していますので,本名のジャスティン・パーソンと名乗っています。



第1章 両雄、出会う

 キャンピング車を走らせる小柄な少年、渡来人(ワタリ クルト)。頭に緑色のバンダナを巻いている。縛っている左端は紫。黄色い縁取りの入った赤いロングベストの下には袖を折りたたんだ白いシャツ、ズボンは茶色。手に革の手袋をはめ、背中には黒いロッドケースを背負う。

 初夏の日差しが、風を心地好く感じさせる。

 一本の電柱の隣を通り過ぎる。そのままべダルを止め、バック。電柱の前へ。

 張られた広告に目を止める。最近、財布の中身は寂しいのて、いいバイトを探していたのだ。

 アルバイトの募集の広告。映画のスタッフ募集。時給はとても良し。「これにしよう」

 連絡先をメモ。雇い主はイタリアの富豪、レベッカ・ロッセリーニ。

 

 

 その後、代理人との面接を済まし、無事に採用となる。

 

 

 

 映画のロケ地は、孤島の戸巣見島(とすみじま)。大きさは316K㎡、人口は約、27,250人。そこへ行くには直通のフェリーが必要。

 

 

 

 フェリーが戸巣見島に着いたので、キャンピング車を取りに車庫へ行く。

 長く旅をしていたら、慣れて船酔いなんて平気になる。

 薄汚れた白衣を着た男とすれ違う。カマキリを思わせる風貌。

 何かブツブツ言っていた、何とはなしに来人は聞き耳を立ててみた。

「どいつもこいつもオレのことを馬鹿にしやがって、オレが天才だってことを思い知らせてやる、オレ様は天才だ英雄だ天才だ英雄だ天才だ英雄だ天才だ英雄だ」

 そんなこと言いながら、ワンボックスカーのドアを開ける。

 こんな相手とは関わりにならないほうがいい。無視して自分のキャンピング車の前に行って、カギを開けた。

 

 

 

 撮影に使うのは廃ホテル。観光客目当てに建てられたものの、建設中に会社が倒産。新たな買い手もつかず、解体するのにも予算がかかるため、そのまま放置されていたのをレベッカが撮影のために買い取った。 映画の内容は、この廃ホテルを舞台にした、スティーヴン・キング風のホラー。

 

 

 

「お待ちしておりました、渡来人さんですね」

 レベッカに使える執事のロブソン・ズッコーリが、廃ホテルの前に来た来人を出迎える。

 ホテルの外観。元々はちゃんとしたデザイナーによる設計だったのだが、中途半端な状態で中止になったため、夜、肝試しするには絶好の佇まい。ホラー映画には持ってこい。

 

 中に入ると、綺麗に掃除されていた。ちゃんと空調も効いている。買い取った後、整備。

 デッキチェアに座ったレベッカ・ロッセリーニが山のように積まれたフライドポテトを食べていた。

「お嬢様、渡来人さんでごさいます」

 来人を紹介。

 デッキチェアから身を起こす。

「あら、可愛い子ね。写真よりも随分と可愛いじゃない」

 転送した履歴書の写真を見たレベッカが、来人を採用した最大の理由は可愛かったから。

 ぺこっと挨拶。その仕方でレベッカもロブソンも、来人が礼儀作法を身に着けている、育ちの良さに気が付く。

「ところで君、大道具とかでも頑張れる?」

 見た目からして、小柄な少年。

「見た目より、力はありますよ」

 嘘は言っていない。本当に見た目からは想像できないほど。

「そう」

 レベッカも生まれはともかく、来人が逞しく育ったであろうことは察しが付いた。

「そうだわ、紹介しておくね」

 立ち上がって、奥に向かって名前を呼ぶ。

 すると、奥のほうから青いシャツを着た銀髪の少年がやってくる。碧眼の、とても綺麗な顔立ち。

「今回の映画の主人公を演じてくれるのは彼よ」

 夜桜の絵の入った扇で仰ぎながら、笑顔で挨拶。

「桜間ライです、初めまして」

 

 今回の映画のロケ地の見学のため、レベッカが来日したとき、たまたま、街で歩いているところを見かけて、一目で気に入り、即スカウト。

 本人も面白そうだと、即OK。

 2人の天然ぶりに、ロブソンは一抹の不安を持つ。

 

「あの失礼ですが、男の人ですよね」

 来人だけではなく、レベッカもロブソンも、性別はどっちだろうと思ってしまった。もしかしたら、男装の麗人かもと。

「正真正銘の男だよ」

 少し失礼な質問にも、ライは怒らずに答えた。レベッカもロブソンに対しても同じ。同じ質問は何回もされているので、慣れっこ。

 ただ、来人はレベッカとロブソンとも違う感じ方をした。かっての仲間の1人、謎の美女ジーン。なんとなく、彼女に似ていると感じた。見たの綺麗さ以外に雰囲気も。

 

 

 

 階段を降りて、来人は地下へ。

 ここは、まだ掃除が行き届いていないらしく、忍び込んだ連中が捨てていったらしい、たばこの吸い殻や空き缶が転がっている。壁の落書きも目立つ。

 地下にはいくつもの部屋があり、ロブソンに聞いた部屋のドアを見つけて、ノック。

 ドアを開けると、そこは何にもない部屋で、太った巨漢の男と猫背の男がいた。

 地下なので窓がなく、昼間なのに電気をつけていないと、真っ暗になってしまう。

「渡来人です」

 ぺこっと、お辞儀。

「これはこれは礼儀正しい子すね。あっ、オラ、小山進(コヤマ ススム)すっ」

 100キロはありそうな目の細い巨漢の男が挨拶。

 もう一人、猫背の目つきの悪い頭頂部に毛のない男は、一瞥しただけで奥に行ってしまう。

「ああ、ごめんす、彼、兵頭みのる(ヒョウドウ ミノル)っていう奴なんてすけど、別に君を嫌っているわけってことではないですよ。全員に対しても、あんな感じすっ、人見知りなんですっ。だから、彼のことを悪く思わないでやってくださいすっ」

 この巨漢の男、進は人の良い人物であることが、来人には知れた。

 他にもアルバイトに来た人はいるが、今はホテルの整備の仕事に行っているとのこと。

 

 

 

 2階の一室、ここは客室の一つで窓もあり、昼間の日差しが入っていて明るい。

 この部屋には映画の出演者たちが集まっている。

 ライが入ってくるなり、女性陣が色めきだす。

 そんな女性の態度に、気が付いていない天然さも彼女たちにとっての萌えポイントの一つ。

 反対に黒いランニングシャツを着たウェーブの入った金髪の大男の顔は気に入らねぇと言っていた。

 鍛え上げられた筋肉がランニングシャツの上からでも解る。見た目が華奢なライとは対極的。

 彼の名前はジェイコブ・ゴードン。役どころは主人公の敵役なのだが、撮影前から、露骨に敵意をむき出し。

 出演する女性たちに囲まれて、いろいろ質問攻めにされている。

「ライくんは桜間って苗字だけど、それは芸名」

「いえ、本名だよ。母親が日本人なんで、国籍も日本。それに僕は俳優じゃないです。素人ですから、いろいろ、教えてください」

 爽やかな笑顔。

「へー、ライちゃんはハーフなんだ」

「演技のことなら、お姉さんたちがアドバイスしてあげるから」

「ありがとうございます。お姉さんたちに教えてもらえるなんて、とても光栄だな」

 計算した発言ではない、素で言っている。

「いい加減にしやがれ!」

 ジェイコブが怒鳴りつける。鼻息が荒い。

「ちょっと、落ち着けよ」

 隣りにいたライの相棒役の赤毛のアーネスト・ブラウンが落ち着かせようとした。

「そんなんだから、主人公から降ろされちゃうのよ」

 色っぽいプロポーションのヒロイン役のクリスティーン・ベネディクトが小声で呟く。

 元々、ジェイコブは主人公として候補に挙がっていた。挙げたのはロブソン。

 本人もやる気満々。あのゴシップクイーンと名高いレベッカ・ロッセリーニの脚本兼、監督の映画である。うまくすれば、今後の俳優人生は安泰。

 ところが、そのレベッカの鶴の一声で主人公はライになり、ジェイコブは敵役に回された。容姿が綺麗すぎるのも気に入らない。

 小声ではあったが、しっかりとジェイコブには聞こえていた。堪忍袋の緒が切れる。この短気さが主人公役を外された原因の一つとは本人はつゆしらず。

 床を鳴らせながら、クリスティーンに詰め寄る。

 自然にライはクリスティーンの前に守るように立つ。

 そんな仕草がジェイコブの怒りのレベルを上げる。

 さり気なく扇子を構えるライ。

「ちょっと、顔がいいからさって、いい気になりやがって!」

 ぶん殴ろうと振り上げた手が掴まれる。いつの間にかジェイコブの背後に立っているのはジャスティン・パーソン。ボディガード兼、アクション指導として雇われた。

 以前はMI6のエージェントで、その頃のコードネームはニクス。今は引退。MI6のエージェントであったことは家族にも秘密。

 ある事件でレベッカと知り合い、今回の仕事を頼まれた。

 娘がレベッカの大ファンだったので、ジャスティンには断ることはできなかった。

 無言でジャスティンに睨まれ、ジェイコブは冷却。

 ジャスティンが腕を離すと、吐き捨てるように部屋から出ていく。

「ありがとうございました」

 お礼を言って、頭を下げるライ。

 ライを見るジャスティン。

「いや、礼には及ばない。どうやら、余計なことをしたようだな」

 

 

 

 島の端にポツンと建っている家。玄関の表札は安内(ヤスウチ)と書かれている。

 誰も住まなくなって何年も過ぎ、荒れ果てていた。

 カマキリを思わせる風貌を持つ薄汚れた白衣の男は荒れ果てた家の中にワンボックスカーに積んでいた機材を運び込み、設置していく。

 ここは彼、安内重太郎(ヤスウチ ジュウタロウ)の生まれ育った家、両親とは死別。

「どいつもこいつもオレ様の研究を馬鹿にしやがって。異次元は存在するんだよ、それを証明してやる。このオレ様が天才だってことを証明してやる。このオレ様が英雄だってことを証明してやる。覚悟しておけ、学会の愚民ども。オレ様を追放したことを後悔させてやる」

 準備は整った、レバーを下げ装置を起動する。

 動き出した装置からは異様な音が鳴り、火花をスパーク。

 陽炎のごとく、何もない空間が歪み始める。

「やったぞ、成功だ! 次元に穴が開いたぞ!! オレ様は天才だ英雄だ天才だ英雄だ天才だ英雄だ天才だ英雄だ天才だ英雄だ天才だ英雄だ天才だ英雄だ天才だ英雄だ!!」

 勝ちを誇り高笑い。

 空間が軋み、開いた穴から歪な腕が飛び出す。

 自身に心酔しきっている重太郎には避ける間など皆無。掴まれた上半身がもぎ取られてしまう。

 開いた空間からはおびただしい量の霧が噴き出す。

 

 

 




 見たら鬱になると言う映画『ミスし』的な要素。ただ、鬱になりたくないので『ミスし』は見ていません。
 LOST COLORSと幻想水滸伝をクロスオーバーさせようと考えた時、坊ちゃんがライくんとジーンさんの雰囲気が似ていると言いそうな気がしたので。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。