永遠の17歳。の後輩22歳   作:しおぽん

6 / 6
遅くなりまして申し訳ございません。

活動報告も更新しました。


働きねずみと気高い獅子

俺は今、テレビ局にいた。

武内先輩や間島さんに連れられて初の外部撮影所、スタジオへ行くまでにアイドルではないが有名なお笑い芸人や朝のご意見番を見たとき改めて自分のいる場所が特異だという事がわかる。

 

テレビ局についてから直ぐに『川島瑞樹』のところへは行かず間島さんはアイドル番組の企画を行っている番組プロデューサーへの紹介や同所にいた他の番組プロデューサーにあいさつ回りを済ませた。

 

間島プロデューサーを追うように着いたのは大きく開けた場所で中央にはTV番組のセットが設置されていた。

もうその先では撮影は回っているのか『川島瑞樹』が他の出演者と会話をしていた。

撮影カメラ横には恰幅の良い中年の男性が立ち間島プロデューサーと話しており、しきりに間島プロデューサーの肩を叩き笑っていた。

武内先輩と俺は撮影風景を見る。

目の前に繰り広げられるのは教育テレビ等で見かけるような討論番組である、アイドルが出る番組とは思えないがさすが元女子アナといったところだろうか。

場馴れを感じさせる司会進行と目の奥に光る知性の輝きこれが学があるということなんだろうと教えてくれる。

「これは天は二物を与えずっていうのは嘘だよなあ。」

率直な意見である。

 

 

そのまま順調に時間が過ぎると思ったが間島プロデューサーの言葉からそれは断ち切られた。

「武内、城ヶ崎出演予定のイベントの件だが、俺は他のアイドルの企画の話をするから頼んでもいいか?もちろん終わり次第直ぐにいく。」

 

「はい、大丈夫です。」

二つ返事で答える武内先輩。

 

「真壁も武内についてけ、川島瑞樹の紹介はまた今度だ。」

スマホに届いたメールにはイベント先の場所が明記されていて移動につぐ移動が武内先輩と俺を待っていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

お昼を過ぎて日が少しずつ傾きを見せ始めた頃、イベント会場へ着いた。

ステージではデビューして間もないアイドルや今だ日の目を見る事が出来ないアイドル達が歌やダンス、グループ同士のビジュアルバトル等をイベント会場で競い合っていた。

 

「どうですか真壁さん、これがフェスティバルです。」

アイドル達の気負いもそうだが、来場した観客の声もステージ上のアイドルのアピールが行われると呼応するように歓声があがっていた。

 

「すごい熱気です・・・」

俺の言葉に相づちをうつ武内先輩。

「えぇ、規模や場所関係なくステージ上のアイドル方々は輝こうとしています。」

346プロを見学した時に目にしたアイドル達の努力はこういったものに向けての準備なのだろう。

 

もちろん、他の事務所のアイドル達もきっと。

 

「真壁さん、そろそろ城ヶ崎さんのところへ行きましょうか。」

 

武内先輩の案内によって爛々と輝きを放つステージから離れ、運営事務所と楽屋が設営されたところへ向かう。

楽屋前で現場スタッフと話す学生服姿の女の子がいた。

今時というのだろうか、午前中に出会った小日向さん、十時さんや佐久間さんと毛色の違いを感じさせる風貌だ。

 

しかし、スタッフと話し込む彼女は真剣で声をかけることすら躊躇うような雰囲気があった。

武内先輩もその所為で声をかけられないのか、スタッフとの会話が終わるのを待っているのかはわかないが少し離れた位置に待機していた。

 

数分程たっただろうか、会話を終えた彼女はこちらに気付いたのか声をかけてきた。

 

「武内プロデューサーじゃん、こんなところでどしたの?」

手首に着けたアクセサリーを右手で少し撫で視線を改めてこちらに向ける。

 

「おはようございます城ヶ崎さん、本日は間島プロデューサーの代理で参りました。」

武内先輩の変化に乏しい無表情に慣れているのか、彼女は軽快に会話が弾んでいた。

 

「で、後ろにいるそこの人が間島さんが紹介する予定の人?」

武内先輩の少し後ろにいる俺に目配せをしてから口を開いた彼女。

 

「えぇ、年末に予定されております企画の補助、未来のプロデューサー予定の方です。真壁さん挨拶を」

武内先輩に促され一歩前に出て挨拶をした。

 

「初めまして今回補助として参加致します、真壁草太です。至らぬところもあると思いますがよろしくお願いします。」

今日何度目のセリフを言って礼をする。

 

「あー、よろしくおねがいします。ところでまかべさんはアタシより年上だよね?堅苦しく話さなくても大丈夫だから。」

困ったようにはにかむ、幾ばくか後、俺の少し後方をみた彼女。

「アンタが出来ない性分だっていうのは知ってるから大丈夫。」

振り返ると同じく困ったように首を掻く武内先輩がいた。

 

 

大体の挨拶が済み、リハーサルを前日に終えていた城ヶ崎さん直々にフェス会場を案内してくれる事になった。

 

それから色々なところを回った。

もちろん、会場やグッズの販売所が賑かなのは分かっていたが会場裏もそれとは種類は違うが確かな熱気を感じさせる。

 

「は、はぐれた?」

いつの間にかあの二人の姿は影も形もなく舞台裏にポツンと佇んでいた。

 

何歳なんだよ、とだらしない自分へ渇をいれながらも視線は熱気冷めやらぬ舞台へと向けられていた。

 

舞台ではデュオユニットのアイドルが歌とダンスを音楽に合わせて軽快に披露している。

パフォーマンスを終える頃会場に来ていた観客達が拍手をする。

 

「彼女達はまだ良い、日の目があたっている。」

ふと隣から声が聞こえ視線を向ける。

するとそこには壮年のハンチング帽を被った男がいた。

 

「ああ、どうも初めましてだね。私はこういうものだ。」

急いでスーツの内ポケットから名刺入れを取りだし名刺交換する。

 

「芸能雑誌記者の善澤さん・・・。」

ハンチング帽子の歪みを正し、笑みを浮かべる。

 

「346プロダクションの方か、見たところこういう場所に馴れていないと見受けるがどうだろう。」

何故わかったのだろうと驚きを隠せずにいる俺。

 

「この業界の取材は長くやっていてね、その勘だよ。」

シガレットケースを懐から一本、同じくライターを懐から取り出した。

 

「すごく華やかな世界だよここは、だが光があるように影もある。」

二人で会話をしている間にデュオユニットのアイドルが戻ってきた。

その表情は明るく達成感で満ちているのだろう。

 

入れ替わる様に他のアイドルが舞台上へ。

 

「彼女達の夢を叶える場所でもある、しかし私や君ならわかるはずだ。私たちは彼女達で生活しているんだよ。売れなければ切り捨てられるだろう、年端もいかないような娘達が競い輝こうとしているのはそんな場所だ。」

舞台袖から見える観客達の姿を見て俺は息を飲む。

そこには入れ替わりで出ていったアイドルがパフォーマンスをしていたのだがそれに対する会場の反応は芳しくないものだった。

 

「これがプロの世界だ。そして君がいる346プロは芸能プロダクションの大手、言わばヒットメーカーだ。」

少し苦い顔をしたまま口上は続く

「一方では幾人の人気俳優やモデルを排出し、また、その一方では売れない商品は切り捨ててきた。そんなところだ。」

 

「これから君が見ていくのはただ華やかなだけではない残酷さもある光景だろう、もし君がプロデュースに関わっていくのであれば覚悟しなければならないことをちょっとした親心で伝えておくよ。」

売れない商品は作られなくなる、そんなのは当たり前だ。

売れないアイドルは・・・?

夢半ばで切り捨てられた彼女達はどうなるんだ?

 

舞台からパフォーマンスを終えたアイドルが戻ってくる。

最後まで流れを変えられず盛り上がりに欠けた結果だったアイドルは舞台袖に戻る頃、舞台上での晴れやかな笑顔も消えそのまま逃げるように去っていった。

 

 

 

 

【ーーーーーーー入らない!】

【また、ーー君押し出しです!】

【この一年でーー何があったのでしょうか?】

 

【恥さらし!なんでお前なんかがーーーーー!】

【あいつって確かーーーーなんでーーなんかやったんだよ。】

【使えーーーーを出すなよ】

【お前の所為で最後の夏が無駄になったわ、なんでーー始めたんだよ。】

 

 

【あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ!!!!!!!】

 

 

【ええ、損傷が激しくリハビリ次第で日常生活に支障がでない程度には戻れますがーーはもう・・・】

 

 

 

 

 

「ーーー、ー壁君、真壁君?」

ぐるぐる停滞し濁った思考から善澤さんの言葉で醒めた。

去っていったアイドルの背に自己を投影してしまっていたのだろうか、久しくなかったこれに同様しながらも額に浮かぶ嫌な汗をハンカチで拭う。

 

 

「少し退屈だったかな、それじゃ私はこの辺で去るとしよう。」

ハンチング帽を少し目深く被る善澤さん。

しかし彼は何かに気付いたのか小さく声をあげる。

 

「最後にあのアイドル達だけ紹介しておこうか、君も見たことがあるんじゃないかい?」

そこには二人で何かを話している茶色がかった黒髪の毛を2つくくりにした娘とロングヘアーで柔らかそうな茶髪をワンサイドアップにしている娘がいた。

 

「765プロ所属のアイドルがブレイクして勢い事態は落ちたが知名度は依然に高い、こだまプロダクション所属の3人グループ新幹少女だ。」

善澤さん曰く、このフェスでの最後を飾るユニットで、一番人気かつ注目アイドルらしい。

 

「二人しかいないですね、3人目の娘はどんな方なんですか?」

注目のユニットであれば詳しく知っていて損はないだろうと問いかける。

 

「3人目はリーダーのひかりという娘だよ。あまり大きい声では言えないがこだまプロダクションで見切りをつけられたのか彼女達にはプロデューサーがついていない。リーダーのひかりがチーム内の全てをセルフプロデュースしているらしい。」

あまりいい噂を聞かないプロダクションだ、と呟いてタバコに火をつけた。

 

それから今回、フェス出場をしているアイドル達の総評を聞いてから善澤さんとは別れた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「城ヶ崎さんの活動は10代女子向け雑誌モデル等がメインの為、その他の層からの知名度はは高くはないが注目自体はされているか・・・」

出場の順番では最後から二番目、新幹少女の前座にあたるのだろうか。

 

そんなことを考えている内に城ヶ崎さんの楽屋近くに戻ってきた。

すると、楽屋の扉は勢い良く開き中から人が飛び出してきた。

飛び出してきた人は近くに俺がいる事に気付くもスピードは殺すことができず胸元に飛び込むようにしてその勢いを止めた。

 

目にはいったのは綺麗な長い髪。

近距離で顔をあげた子は勝ち気そうな目をこちらに向けると少し間が空いてから離れる為に飛び退き何も言わず足早にその場を離れていった。

 

「な、なんだったんだよ。」

ぶつかった事を謝る間もなく去っていった姿に困惑していた。

楽屋前で少し待機していると。

 

 

「あっ!いたっ!」

声の先の方には城ヶ崎さんと武内先輩がおり、小走りに駆け寄ってくることで無事に合流を果たしたのである。

 

 

それから城ヶ崎さんから武内先輩がどれだけ動揺していたかを笑いながら説明され武内先輩はそれをいつもの癖と共に黙って聞いていた。

 

 

少しして武内先輩が腕時計の時間を確認する。

「城ヶ崎さん、時間はまだ早いですが衣装に着替えておきましょう。」

城ヶ崎さんは相槌をうって手を振りながら楽屋の中へ消えていった。

 

それから先程出会った善澤記者と新幹少女の話をし始めた時、事件は起こった。

 

楽屋の扉は勢い良く開き、バンッと音をたてる。

「ちょっと来て・・・」

沈んだ声と表情で武内先輩の手をひく城ヶ崎さん。

何かあったんだろうかと思いながら後を追う。

 

 

 

そこにはフェスで着用予定だった衣装がずぶ濡れの状態で鎮座していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「出演する順番を変更できないか、ですか・・・」

あれからが大変だった、動揺する城ヶ崎さんを落ち着ける武内先輩。

 

突発的なトラブルとはいえ、フェスを締め括る役をこちらに回してくれと言っているんだ。

難しいのは端からわかる。

 

「今回の城ヶ崎美嘉ちゃんの件はこちらにも落ち度がありますし、こだまプロダクションには此方から伝えておきます。武内さん、美嘉ちゃんには期待してますからね!お願いしますよ!」

しかし以外にも話しはスムーズに通り。

出演順番クリア。

 

その頃俺は346プロが贔屓にしている衣装専門のクリーニング店が会場近くにあったので武内先輩から渡された地図を頼りに駆け込んだ。

 

手続きは滞りなく進み、終わり次第すぐに会場へ持ってきてくれるらしい。

 

お礼を言って急ぎ会場に戻る。

行きに利用したタクシーを待たせており、素早く乗り込む。

 

 

数十分程経ち、タクシーを降りて向かうは武内先輩の元。

 

「武内先輩!クリーニング屋さんの方は終わり次第至急フェス会場にきてくれるようです!」

 

到着後、直ぐに武内先輩へ報告をすませる。

こういう時に武内先輩は強い、ポーカーフェイスというのだろうか。

 

動揺を見せにくいというか無表情が良い方に転んだ。

 

 

現状、俺や武内先輩ができる限りの事はしており、悔しいが後は流れを天に任せるしかない。

 

城ヶ崎さんもソワソワと落ちつかない様子でこの少しの間に何度も楽屋前にいる武内先輩に衣装は間に合うのか、どれくらいかかりそうなのかを確認していた。

 

武内先輩が大丈夫だと促したが城ヶ崎さんは少しの出てくると言って楽屋を離れていく。

 

 

 

 

暫しの時間が経ち、刻一刻と出番は近付いていた。

しかし、衣装が届く気配は未だない。

 

腕時計で時間を確認してから武内先輩が口を開いた。

「城ヶ崎さんを呼んできてください。」

武内先輩は今でも何か方法がないかを模索しているような少し厳しい表情をしていた。

 

かける言葉が見つからずその場を離れる。

関係者用の入り口で待機すると言っていた彼女は楽屋に戻ろうとしていたのだろうか、その途中にいた。

 

しかし彼女は一人ではなく、他のアイドルと話している最中の様だった。

 

城ヶ崎さんと相対している女の子に見覚えがある。

「あれはさっき楽屋から飛び出してきた娘じゃ?」

俺達3人が楽屋外へ出ている間に中にいた娘だ。

まさかな、と思いながらそっと意識を二人へ向ける。

 

 

 

 

 

「城ヶ崎さん、どうしたの?折角のフェスなのにTシャツとスカートなんて衣装にトラブルでもあった?」

 

こちらからは城ヶ崎さんの表情は見えない。

しかし、わかるのは向かい合う彼女が嘲るような態度であることだけだ。

 

「・・・」

城ヶ崎さんからの返事はない。

だが、しっかりと握りしめた拳が震えているのがわかる。きっと悔しいのだろう。

 

居ても立っても居られず城ヶ崎さんのところへ駆け寄ろうとすると俺の横をすり抜けて詰め寄る武内先輩の姿があった。

 

そのまま、城ヶ崎さんの傍らに立つ、相手は武内先輩の威圧感に押されてか半歩下がった。

 

 

「私は346プロダクションのシンデレラガールズのサブプロデューサーを務めております、武内と申します。後ろにいるのは補佐の真壁です。何か担当アイドルに御用でもございますでしょうか。」

流れるように名刺を渡しいつもより低く聞こえるトーン

で挨拶をした。

 

目の前の彼女はその威圧的な風貌に少し怯んだが武内先輩を少しにらみ返した。

「特に何も、困った顔をしていたから励ま!?」

彼女が俺を視界に入れてから言葉を詰まらせて固まった。

「そろそろ出演だ、だから失礼します。」

焦りを見せるように足早に去っていった彼女。

 

その場には一向にこちらを向こうとしない城ヶ崎さんと動きを待つ武内先輩がいた。

 

「アタシ、負けたくないよ・・・」

ボソッと震えた声で吐露する城ヶ崎さん。

 

「勝ちましょう。」

そこには格上相手だが城ヶ崎さんが負けるとは思っていないように即答する武内先輩がいた。

 

「秘策とはいきませんが、演出について城ヶ崎さんに相談があります。」

春先だが熱いフェスバトルが勃発しようとしていた。

 

 

 




「川嶋瑞樹さんの登場!」
「(セリフがないなんて)わからないわ」

ーーーーーーーーーーーーーー

【あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ!!!!】(脱糞)
【ええ、(肛門の)損傷が激しくリハビリ次第で日常生活に支障がでない程度には戻れますがーーは、もう・・・】

ーーーーーーーーーーーーーー

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。