IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第一章(6):交渉(前編)

Side 一夏

 

(……油断してた、か)

 

 侮っていたつもりは無いし、油断など微塵もしていない……はずだった。

 

 だが、今の自分は周囲を三機のISに囲まれている。

 内一機の搭乗者の顔は知っていた。先日のハイートとの戦闘の際、電車の運転手を助けていった女の子だ。今回は大型の装備を担いでいる。

 もう一機、真紅で染められた似た形状の機体に搭乗しているのは、断定はできないが見覚えのある顔付きだった。ポニーテールを見覚えのあるリボンで結わえた、鋭い目つきの少女。記憶にある姿とは随分と背格好が変わっていたが、面影は十分残っているように見えた。……操っている機体は異様としか言いようがなかったが。とりあえず、両手で握っている機体以上に長大な刀は何なんだ。

 そして、最後の一機。搭乗者は電車の運転手を助けた女の子とどことなく顔立ちや髪の色が似ており、血縁関係があることを思わせる。また、この機体だけ他の二機と大きく形状が違う。細身の機体で、武装もランスのような物を装備している。

 

 見た目の年からして自衛隊や治安部隊の類ではないだろうし、向こうからすれば俺はまだ得体の知れない相手のはず。そんな相手の前に投入したのだから、腕は確かな面々なのだろう。そして、この状況下で極少数で動ける立場も持っている。

 となれば。

 

(どこぞの犯罪組織か、あるいは暗部か……)

 

 今の自分ではこれくらいの可能性しか思い浮かばないのが少々悔しいが、それは今考える事じゃない。

 大事なのは、この三人が敵かどうかを見極め適した対処を取る事。

 

 ひとまず竜毒牙剣(タスクブレード)を再度構え、機竜刃鱗(ブレードアーマー)も展開。迎撃体制だけは整えておく。

 

「そこの白い機体の搭乗者さん。

 できればすこ~し動かないで貰えるかしら?」

 

 リーダー格と思われる女性がなんとも軽い口調で話しかけてくる。だが、その目がひどく真剣であったことは簡単に読み取れた。

 今回の事に関しても、ここまでの行動が早かったのかあるいは先読みしていたのか。いずれだとしても侮れない相手であることに変わりはなく、ゆえに迂闊な事は出来ない。

 

「もう、そんなに警戒しなくてもいいじゃない♪」

「…………」

 

 この状況で警戒を解けるものか。

 

「……どうしても喋ってくれないみたいだし、こっちから話しちゃうわよ?

 あなたの目的は何?」

 

 いきなり踏み込んだ質問。

 おいそれと答えるわけにも行かない上、相手の立場によっては答える意味合いがまったく違う。

 

 今まではだんまりを決め込んでいたが、このままでも埒が明かない。相手も踏み込んできたし、こちらも少々踏み込むか。

 

「……質問する前に名乗るのが普通じゃないか?」

 

 なるべく低く押し殺した声で問う。

 相手もそれまでとあまり表情を変えずに答えた。

 

「それもそうね、失礼したわ。

 私の名前は更識楯無(さらしきたてなし)。この国の暗部の一端を担う家の人間よ」

「……」

 

 まさか、暗部の人間が自ら名乗るとは。

 中々信じがたい事だが、裏を取る手段が無い以上はどうしようもない。

 

「さて、私は名乗ったことだし改めて聞くわよ?

 あなたの目的は何?」

 

 さて、どう答えるべきか。

 さっきの紹介の真偽がどうであれ、本当の目的を言ったところで信用されるかどうかは分からない。

 

 だから、警告だけしておくことにした。

 

「……詳しくは言えない。

 だが、お前達の方が此方の敵にならない限りは、此方もお前達に危害を加えることは無い」

 

 その意味を察したらしい。暗部だと名乗った女性、更識楯無は一瞬険しい表情を見せた。

 

 そう、さっき言った言葉の意味は不干渉である限り危害を加えることは無いが、()()()()()()()()()()()()()()()という事。その意味を一瞬で理解した彼女はさすが暗部と言うべきか。

 

 だが、更識楯無はすぐに表情を柔らかくした。

 

「そう、それは良かったわ。

 ……二人とも、武器を下ろしてもらえる?」

 

 その言葉が放たれると、他の二人がそれぞれの獲物を収めていた。更識楯無と彼女に似た少女はそれぞれの手にしていた装備を光の粒子のようにして、真紅の機体も手にしていた長大な刀を左腕に盾のように接続していた。

 

 意外といえば意外な行動。だが、装備をそれぞれに構えていたさっきまでとは違い、少なくても敵意のようなものは感じない。

 彼女達の真意は分からないが、敵意が無いのであれば武器を構え続ける必要も無い。竜毒牙剣と機竜刃鱗を仕舞い、様子を見る。もっとも、防御障壁の出力は十分な値を維持し、すぐにでも離脱できるように機竜光翼(フォトンウイング)も準備を済ませておくが。

 

「話す気になってもらえたみたいで何より。

 それじゃあ、先を続けるわね」

 

 更識楯無がそう前置きすると、話を切り出した。

 

「あなた、私達と組まない?」

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

「あなた、私達と組まない?」

 

 この一言に、それまで警戒を解いていた白い機体が一瞬で再度戦闘態勢を整える。この手際の良さには驚かされるけど、誤解もされていそうなので早々に説明するとしましょう。

 白い機体に反応するように再度武器を構えかけた二人を制しつつ、再度声をかける。

 

「……一応言っておくけど、私は何も一方的に言うこと聞いてほしいわけじゃなく、ちゃんとあなたにも利益になると思っているのだけど」

「……説明してもらってもいいか?」

 

 ひとまず、話は聞いてもらえるみたいなのでそれで良しとしましょう。

 

「まず、私達があなた達に提供できるものだけど……情報と衣食住、でどうかしら?」

 

 そう、私が明示できる交渉材料の中で最も効果があると踏んだもの、それがこの二つだった。

 今までの白い機体の搭乗者の行動を考えると、少なくても日本国内においては情報源に乏しいであろうことは想像に難くなかった。特に、雑誌の情報源を元に行動した時点でそれは察せる。情報源を誤魔化しやすくはなるけど、情報の確実性が圧倒的に低くなるから。

 そして、衣食住。昨日までの行動範囲がほぼ同一であり、来た方向も帰った方向も同じだった。だけど、その方向には宿泊施設どころか民家さえロクに無い。しかも、その数少ない民家の人を調べても特に誰かを泊めているという事はなかった。他に考えられる要素が無いわけではないけど、可能性は低い。

 その意味において、私が提示した交渉材料は決して無意味な物じゃないはず。

 

「……」

 

 白い機体の搭乗者は、少しの間黙っていた。あるいは、私の言った言葉の意味を考えているのかもしれない。

 

「私達の欲しい物も、言っていいかしら?」

「……ああ」

 

 短かったけど確かに返事はしていた。

 手応えはある。そう感じた私は、話を続ける事にした。

 

「欲しいのは、単純。戦力が欲しいの。

 あの未確認生物を倒せるだけの戦力がね」

 

 この一言に再度警戒されかけたけど、その前に続きを言う。

 

「今の私達には、あの未確認生物に対して十分な攻撃ができる機体が少ないか……最悪、存在しない。

 でも、あの生物による被害を抑えるために十分な攻撃ができる機体と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一度言葉を切り、様子を窺う。

 

「……」

 

 白い機体の搭乗者は、再度私が言った言葉の意味を考え込むかのように沈黙。

 少しの間、その場には静寂が満ちた。

 

「……今までの言葉に、嘘偽りは無いんだな?」

「ええ。

 その点に関しては保証するわ」

 

 再度の沈黙。

 ややあって帰ってきた答えは、私の予想を少しだけ裏切っていた。

 

「すまないが、この場では返事できない。

 一度、上司に掛け合ってみよう。それでいいか?」

 

(…まあ、冷静に考えればそうよね)

 

 確かに、上司がいること自体に不自然さはない。それがどのような組織の上司であるかによるけど。

 

「分かったわ。

 返事を貰えるのは何時頃になりそうかしら?」

 

 ひとまず糸口を掴めた事に若干の安堵を覚えつつ、もう一点の大事な点を確認させてもらう。

 何事も時期を確認するのは大事なことだしね。

 

「……さすがに確実なことは言えない。

 だが、返事が来たら確実に伝える。何時何処で伝えればいいか、聞いてもいいか?」

 

 無難と言えば無難な返事。だけど、気を抜いていい返答ではない。

 

「そうねぇ……。

 私達は基本的にどこでもいいけど。あなたはどこがいい?」

 

 ひとまず、こっちも無難な返答で返しておく。

 これでどう出るかが気になるところだけど……。

 

「……すまないが、ここの近辺の土地に関してはあまり詳しくない。

 いい場所を知っているのであれば、聞きたいのだが」

 

 一見すれば何のおかしさも無いけど、同時にそれは向こうから選ぶ理由をなくしたという事。さらに、私たちにとってもこの選択肢は中々重要なものだった。

 あんまり怪しまれるような場所は指定できないし、かと言ってセキュリティがしっかりしていないような場所では仕方がない。

 

「私の知っている場所で、会合によく使っている場所があるわ。

 そこでどうかしら?」

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 まさかと言えばまさかの交渉を持ちかけてきた女性、更識楯無と言葉を交わしながら、様子を見ていた。

 最初は無理な条件を押し付けてくるか丸め込もうとでもしているのかと考えたが、内容そのものはそこまで悪いものでは無かった。ちゃんと内容が守られるのであればの話だが。

 

「私の知っている場所で、会合によく使っている場所があるわ。

 そこでどうかしら?」

 

 指定された場所は向こうのテリトリーだが、それでいい。

 下手に強硬姿勢に出て警戒を強められるよりはマシだ。それに、向こうは妙に俺とアスディーグの戦力を過大評価している傾向がみられる。ルクスさん達のような他の神装機竜を使える人達に比べるとまだまだ全然弱いのにだ。とにかく、これはこれで有効に利用させてもらう。

 

「分かった。そこにしよう」

「明日からそこに人を待たせておくわ。

 要件があったら伝えてちょうだい」

「ああ」

 

 ひとまず、大まかに話は纏まったとみていいだろう。

 これから新王国の『球体(スフィア)』を守っている常駐部隊と常駐部隊の通信要員を通じてルクスさん達にこの事を連絡し、判断を仰ごう。

 

「そろそろお開きでいいか?

 いい加減報告に行きたいのでな」

「ええ。

 それじゃあ、また会う時を楽しみにしているわ」

 

 気になっていたのは、一切動かなかった他の二人だが……今回は気にしなくてもよかったようだな。

 

 内一人の素性が少し気になるところだったが、今はまだその時じゃない。

 

 

―――――――――

 

 

『……以上が、今回の報告だね。一夏』

「はい」

 

 その夜。

 予定通り常駐部隊とルクスさんたちへの報告をしていた。

 

 あの三人組と別れてしばらく飛んだ後、機竜をユナイテッド・ワイバーンに変えたうえでさらに移動。

 『球体』付近の野宿場所まで戻り、そのまま竜声を介して通信した。

 

 もうすでに深夜だが、内容が内容だったためにすぐに報告する事になっていた。

 

『でも、まさかそっちの暗部が直々に接触してくるなんてね。

 詳しい事を実際に話して詰めたい所だけど、そのためには事前に日程を合わせておかないといけないかな』

「そう……ですね。

 では、その事を向こうに伝えておきましょうか?」

 

 ルクスさんは少し考えると、さっきまでの内容に少し付け加えた。

 

『いや。そのうえで向こうの日程も聞いてもらえるかな?

 一応僕も仕事の都合として話を通せば、ある程度の調整は効くしね』

 

 確かに『七竜騎聖』の権限ならある程度の調整は出来るだろうけど……むしろ、ルクスさんが直接この世界に来ることの方が問題が大きくないだろうか。

 なんせ、各国の国防における表向き最高の戦力。まして、アスティマータ新王国は今だ多くの問題を抱えている。

 迂闊に動くべきではないのではないかとも思い、その事を少し聞いた。

 

『ああ、そこは気にしないで。

 やりようはあると思うし、何も僕が行くことが確定したわけじゃないから』

 

 ルクスさんにはルクスさんの考えがあるらしい。

 確かに、俺が浅はかな考えを巡らせたところでルクスさんには及ぶべくもない。この人の判断を信じた方がずっといい。

 

「分かりました。

 では、向こうが提示した内容をさらに詰めるため話し合いをしたいという事と、そのための日程を聞く、という事でよろしいでしょうか?」

『うん、その方向でお願い。

 後、出来るだけ早い内にお願いできる?』

「はい。お任せください」

 

 報告と同時に明日やる事も決まった。

 目的地までは少し距離があるけど、どの道日中はほとんどやれる事が無い。早速明日にでも向こうに伝えることにしよう。




何時になったらIS学園に行けるのか。
作者も不安になってきた今日この頃です……。

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