IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第七章(5):機竜の舞う空の下

Side 一夏

 

 セリスさんから話を聞き、直ぐに飛び立ってから数分。件の場所はすぐに見つかった。

 と言うのも、その場所に見知った、そしてこの機竜の世界には居ないはずの人物の姿を見たためだった。

 

「……打鉄、弐式?」

 

 それは、一機のIS。この、機竜が飛び交う世界には本来在り得るはずのない機械。そして、それが誰に預けられたISなのかもよく知っていた。

 それだけでも一大事ではあるのだが、厄介なことに、セリスさんの話にもあった賊と思われる一団が思いっきり接近している最中だった。

 

(《アスディーグ》で来ていて正解だったな……全く、厄介な……)

 

 内心で愚痴を零しつつ、さらに加速。重力の助けも借り、出し得る最速で俺自身の距離まで詰めていく。

 

  ビシュウゥゥン!

 

 賊の一人が機竜息砲(キャノン)を撃ったらしく、爆音と閃光がまき散らかされる。簪自身が気付いて回避してくれたが、最早、一刻の猶予も無い状況だった。

 

「《機竜光翼(フォトンウイング)》」

 

  機竜光翼を起動してエネルギーを翼から盛大に吐き出し、急加速。余裕があるとは言い難い距離ではあるが、ギリギリで届く距離だった。

 一息に距離を詰め、抜剣。《竜毒牙剣(タスクブレード)》を両腕に持つ。

 

  ギィィィィン!

 

 派手な擦過音をまき散らしつつ、、間一髪のところで後ろから簪に切りかかろうとしていた《ワイバーン》の機竜牙剣を弾き返す。不意打ち気味に切りかかったみたいだが、元々そこまで駆動出力の高くない飛翔型機竜同士。減速中だったとはいえ、それでも速度が乗っている此方の剣が勝るのは明白だった。

 

「影内、君?」

 

 簪が驚いたような、あるいは虚を突かれたような顔で此方を見ている。

 

(まあ、そうもなるか)

 

 簪からすれば、俺は本来、本社に帰ったのでしばらく会えないことになっている人物の筈だ。それが、今この場にこうして居る。それだけでも衝撃はそれなりに大きい事は想像するに難くない。

 

(それに……)

 

 目の前に広がる賊の一団。何処の誰かまでは判断しかねるが、どのみち倒すべき相手には変わりない。

 とりあえず、先ほど簪に切りかかろうとして弾いた《ワイバーン》を追撃。またもや切りかかろうとしてきたが、再度弾きもう一刀の剣で《ワイバーン》の手首に当たる部分を叩き切る。

 

神速制御(クイックドロウ)

 

 返す刀の神速制御で《ワイバーン》の両肩を叩く。さすがに障壁が張られはしたが衝撃は伝わったみたいで、幻創機核(フォース・コア)の機能停止には成功した。

 これで、残りは砲撃を加えていた《ワイアーム》と《ドレイク》が数機。

 

(まあ、この程度なら特に問題も無いか)

 

 もう飽きるほど何度も繰り返してきた。今更だった。

 再度の攻撃を仕掛けようとしていた賊の一団に対し、先んじて動く。

 

「《機竜光翼》」

 

 通常の推進器と同時に吹かせ、一気に距離を詰める。ある程度照準を付けていた賊の一団は、突然の移動に一瞬だけ狙いを見失っている。

 それは、この瞬間において致命的な出遅れに繋がっている。

 

「《竜毒牙剣(タスクブレード)》、アックスモード」

 

 神装抜きなら竜毒牙剣で最大の攻撃力を持つ形態を起動し、まずは最も近かった《ワイアーム》の両腕を切断。《ワイアーム》の肩の付け根から断ち切ったため、幻創機核との接続を直接断ち切っている。そのまま行動不能に追い込めた。

 さらに背翼の推進器を使い、回り込むようにして賊の《ドレイク》の背後をとる。ライフルを持ったまま振り返ったその反応は素直に素早いと言えるものだったが、それでも問題はない。

 

「《機竜刃麟(ブレードアーマー)》」

 

 回り込んだ時の半回転の勢いを殺さないまま、爪先の《機竜刃麟》で賊の《ドレイク》の機巧核剣を叩き切る。これでさらに一体、行動不能。

 横目でちらりと見れば、簪の無事も確認できた。既に賊の目が俺の方に向いている以上は狙われる危険も少なくはなっているだろう。

 

(とは言え、長引かせる訳にも行かないしな。

 早々に終わらせるか)

 

 簪もどうしてここにいるか分からない以上、可能ならばその事情を聴いたうえで対応しなければならない。

 加えて言えば、個人的には良くしてもらっている相手でもある。確かに知られたくはなかった事が知られてしまっている相手でもあるが、それでもこの場で見捨てる理由にはならなかった。

 

「調子に乗るんじゃねぇ!」

 

 背面から車輪(ドライブ)を唸らせて近づく《ワイアーム》が一気に近づく。その手には戦槌(ハンマー)が握られ、今にもその力の限り叩き付けんとしている。が、余りにもお粗末な練度だった。

 再度、《機竜光翼》を吹かせ今度は縦方向に半回転。《ワイアーム》の戦槌の範囲から離脱。直後に通常の推進器を全力で吹かせる。

 

「――落鋼刃(らくこうじん)

 

 パワードモードに切り替えた《竜毒牙剣》の切っ先を真下に向け、急降下、狙いは戦槌を叩き込もうとしてきた《ワイアーム》。その機竜の肩関節。

 

  ザギンッ!

 

 金属同士が擦れ合う嫌な音が響き、問題なく片方の肩を切断する。

 

「――翔炎斬(しょうえんざん)

 

 さらに、可能な範囲で再装填した《機竜光翼》を吹かせながら、《戦陣(センジン)劫火(コウカ)》も用いてエネルギーを集中。今度は飛び上がりながら、もう片方の肩関節を切断。これで二機目の《ワイアーム》も両肩の幻創機核との接続を強制的に絶ち、行動不能にする。

 

(残りは……二機か)

 

 軽く息を整えながら確認すれば、残った《ワイアーム》と《ドレイク》が一機ずつ。今まで戦った手合いはいづれも高く無い練度な上に連携も取れていないと、少なくともここまでの戦いでは脅威と言える相手ではなかった。

 

(無論、それを理由に油断することはないが……)

 

 相手を見据えつつ、再度構える。

 一方、相手は既に真っ当な勝利を諦めたらしい。その照準を俺にはすでに向けておらず、簪の方に向けていた。

 

「《山嵐》!」

 

 だが、簪も代表候補生として訓練を受けた身。既に体制を整えており、即座に《山嵐》を撃ち放っていた。

 

  ドガァァァ!

 

 多数のミサイルが連鎖的に爆発を発生させる。派手な爆発はその威力と衝撃で残っていた《ワイアーム》と《ドレイク》自体を破壊することこそ叶わなかった物の、二機を駆っている機竜使い(ドラグナイト)二名の意識を刈り取るには十分みたいだった。

 

「……終わったか」

 

 気絶した賊の状態を軽く確認し、大事になっていないことだけは確かめられた。本来ならそもそも情をかける相手でもないが、こいつらが末端であり組織的に行動しているか、或いは誰かに雇われでもしていればその背後関係を調べる必要もある。そういう意味において、可能な限り生かして捕らえたかった。

 

「……さて」

 

 背後で状況を飲み込めないまま立っている簪の方に顔を向ける。

 一回冷静になったからかもしれないが、その顔には疑問と困惑が色濃く表れていた。

 

(無理もないか)

 

 いきなり異世界に飛ばされれば誰でも困惑と疑問、場合によっては絶望だって湧いてもおかしい話ではない。その意味では、取り乱さずにいるだけ大した胆力だった。

 ひとまず、操縦不能になっている機竜ごと賊を後方の部隊に預け、捕縛を任せる。これ以上のことは、元より俺の担当外だった。

 

「簪、少しいいか?」

 

 そして、ようやく、状況がある程度は落ち着いてきたころ。

 簪の方に向き直り、ある意味で目下最大の難問に取り掛かることにした。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 いきなり始まった未知の勢力との戦闘を終え、一息ついていました。

 確かに予想外過ぎる事が重なりましたが、それでも頼れる人が現れてくれたことも手伝って幾分落ち着いていられます。

 

(……現実逃避したいって気持ちも、あるにはあるけどさ)

 

 そんな下らないことを考えていたら、影内君がこっちに来てくれた。

 色々と疑問に思う事は多いけれど、ひとまず話せそうな人がいるというのはそれだけで安心できます。今は後続の人たちと合流して、先ほど戦闘不能に追い込んだ一団を預けているみたいでした。

 

(それにしても……)

 

 後から合流した人たちの服装とかを見ていると、どうにも時代がかった印象を拭えませんでした。何というのでしょうか、西洋の中世の軍服でも見ている気持ちです。

 

「簪、少しいいか?」

 

 少しして、全ての必要な引継ぎ作業などを終えた影内君の方から話しかけてくれました。

 

「あ……う、うん」

 

 状況が状況なため、私も少し声が固くなっていました。影内君はそれに気づいた様子でしたが、そこに言及する事は無く話を進めてくれています。

 

「数日ぶりのところすまないが。

 まず、どうやってここまで来たか聞いてもいいか?」

 

 心なしか、困ったような表情で影内君は私に聞いてきました。

 その質問に対して答えて困るような内容も無かったため、素直に答えることにします。『糸刑』と名乗った敵の事、その敵が繰り出してきた紅いクリスタルのような物と、それが展開した謎の機械によって形成された球形内部に拘束され、強い光と衝撃を感じ、気が付いたらここにいて先ほどの集団に絡まれ、最終的に影内君が来てくれた事。

 

 事の経緯を一通り話し終えてから影内君を見てみれば、その顔にはっきりと困惑とも警戒心ともとれる感情を露わにしています。

 

「……ひとまず、粗方の事情は理解した。

 しかし、これは……この場でどうこうとできる内容でもないな。色々な意味で」

 

 色々な感情を長い溜息で吐き出しながら、影内君はそれだけ言いました。

 

「簪、とりあえず少し待ってもらっていいか?」

「あ……うん。いいよ」

 

 頭を抱えつつ、影内君はそう聞いてきました。

 私にも否と言う理由もなく、簡単に返事を返します。

 

「分かった。それじゃ、少し待っててくれ」

 

 それだけ言うと、影内君は今度は《ユナイテッド・ワイバーン》を展開して何処かに通信をかけているみたいです。

 

 ――これが、私が思っている以上に大きな事態に発展しているなど、この時の私は想像もついていませんでした。

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

「……はい。わかりました。

 Yes. 伝えます」

 

 臨時の護衛についてくれているノクトに一夏からの連絡があったらしく、その内容を聞いています。ですが、その内容を聞き進めていくにつれて、徐々に顔が曇ってきていました。

 

「アイリ、緊急事態です」

 

 そして、通信を終えたノクトは緊張した面持ちで私の方に向き直りました。

 

「先ほど、セリス先輩の話にあった『誰か』が誰であるか確認できたそうです。聞き取った話からも、ほぼ確実であるとのことで」

 

 報告内容のわりに顔色が優れないように見えましたが、その疑問も直ぐに氷解することになりました。

 

「んー?

 でも、それなら相手の確認できたし成果としてはまずまずじゃないの?」

 

 ノクトと同様に私の護衛についてもらっていたティルファーが疑問の声を上げます。ですが、その疑問は私も同じように抱いたものなので特に口を挟むことはしません。

 

「No. 問題なのは、確認された人物で……。

 更識簪さん、だそうです」

 

 ためらいがちに放たれた名前に、私もティルファーも納得を覚えていました。その人がある意味で特別な意味を持っている人であるのは私もこの場にいる彼女たちも知っていることです。

 同時に、だからこそ対応が難しくも間違えられない人であることも直ぐに理解できます。

 

(これは、対応と根回しが大変なことになりそうですね。

 ……兄さんにも参加している軍議が終わり次第、報告して相談しましょうか)

 

 心の中でそんなことを考えながら、私も彼女を迎え入れる準備を進めることにしました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 影内君がどこかへと通信をしていましたが、それが一段落したのか私の方に向き直りました。

 

「簪、すまないが暫くは同行してくれ」

 

 諦めを多分に含めた口調ですが、やはり、

 

「えっと……分かったよ。

 その……なんか、大変なことになっちゃってるみたいでごめんね」

 

 その様子から、少なくない心労をかけてしまったことが見て取れたのもあって、ひとまず謝りました。経緯がどうであれ、私が原因であることは容易に想像できたからです。

 

「いや……気にしないでくれ。簪の方も不本意だったことくらいは分かるしな。

 ひとまず、諸々の事情から今後の詳しいことはまだ話せないが、身の安全くらいなら何とかなりそうだ」

 

 相変らず困り顔のままですが、ひとまず、身の安全は保障してもらえるたいです。

 そのことに今更な安堵を覚えつつ、迎えが来るとのことでそれを待つことにします。

 

「……馬車?」

 

 およそ私の知る限り一部地域以外では一般的とは言えない乗り物が、しばらくして着ました。

 困惑する私を他所に影内君の方はと言えば慣れた様子で御者を務める人と話した後、そのまま中までエスコートしてくれました。何処か場違いな気持ちを抱きつつも、連れられるまま乗り込みます。

 

「……影内君」

「なんだ?」

 

 しばらくそのまま流れに身を任せて揺られていましたが、意を決して口を開くことにします。

 

「えっと……どうして、馬車なの……?」

 

 明らかに今の自分とは不釣り合いと言うか、乗ることになるとは思っていなかった乗り物に乗っていることにどうにも言いようのない場違いな感じが拭いきれずに聞いてみることにしました。

 ですが、

 

「……向こうみたいに自動車がある訳でもないからな」

 

 それだけ言うと、後は「もう少し待ってくれ」とだけ言って答えてくれませんでした。

 答えられない理由でもあるのかなと思い、そのままさらに揺られることにします。

 

「……もうそろそろか。

 少し、外を見てみてくれないか」

 

 言われるまま馬車に取り付けられたいかにも古風な窓の外に目を向ければ、そこから見える景色に言葉を失いました。

 

「ようこそ」

 

 その窓から見えた街並みは、およそ現代に残っていたとしても大抵は観光地などになっていて有名になっているはずの、中世の趣の生きる街並みでした。

 困惑が深まるばかりの私の耳に、影内君の声が響きます。

 

「俺たちの国。アティスマータ新王国へ」

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

 一夏から報告を受けて合流場所まで来てみましたが、報告内容に嘘など一つもなかった事をその時確信しました。

 迎えの馬車が止まり、中から一夏にエスコートされつつ降りてきたのは簪さんでした。過ごしてきた世界が違うからでしょう、馬車に慣れていないその足取りは所々危なげなものがあり、一夏のエスコートがあってようやく危なげない物になっています。

 

「あ……アイリ、さん?」

 

 完全に馬車から降りた後の簪さんが私のことをその瞳に収めると、困惑気味に私に話しかけてきました。

 分かっていたことですが、そうした様子を実際に自分の目で見て改めて、本当に此方に来てしまったんだな、と思いました。

 

「はい、お久しぶりです……と言うほど長い間顔を合わせていたわけでもありませんが。

 ひとまずは、ようこそ。暫くの間は私か一夏が案内役を務めます」

 

 ひとまず、挨拶と必要最低限の連絡事項だけ伝えました。簪さんも直ぐに納得してくれたみたいで、「分かりました。よろしくお願いします」と返事を返してくれています。

 

「さて。

 ひとまず、色々あったみたいですが此処が何処なのかを説明しましょうか」

 

 私の言葉に、簪さんも頷きました。やはり、気になっているみたいです。

 

「まず、此処は……この国の名前は、アティスマータ新王国。

 7年前、諸々の騒動を経て生まれた、まだ新しい国ですよ」

 

 私が一番最初に行った説明に、簪さんの顔に目に見えて驚愕と困惑が広がりました。

 

(まあ、そうなりますよね)

 

 私にとっては二度目の経験と言う事も手伝って、妙に落ち着きながら話すことができています。

 半面、簪さんは何かに気付いたようでした。

 

「な、7年前って……そんな話、聞いたこと無い……っまさか!?」

 

 どうやら、気付いたみたいです。

 

「ええ。恐らくは想像した通りでしょうが……。

 ここは、貴女にとっては異世界とでも呼ぶべき場所なのでしょうね」

 

 二年前にも言ったような言葉に少しばかりの懐かしさを覚えて感慨を抱いてしまった私とは対照的に、簪さんは顔を急速に青くしていました。

 

 

―――――――――

 

 

 ひとまず合流した場所で全ての事情を話すのは色々と問題がありますので、私達の家に来てもらう運びになりました。

 さらに馬車に乗り、少し。少し前に改装された私達の家を見たとき、簪さんが暫く固まりました。

 

「……現実に使われているこういう家を見る機会が来るなんて思ってませんでした」

「私としては、ISやIS学園なる所に行く機会が出てくるという方が驚きだったのですけどね」

 

 文字通りの意味で異世界、私達の世界よりも遥かに色々と発展した世界。まさか空想ではなく現実に自分の目で見ることになるなどとは思いもしませんでした。

 

(国の革命に、古代人との戦いに、世界の改変に、裏切りにと……並大抵のことでは驚かない自信もあったんですかね。

 変に自信を持つのも考え物でしょうか)

 

 さすがに今回の一件は重すぎる。初めての時は驚きも少なくなかった。

 

「さて」

 

 そうして僅かな間、物思いに耽っていると一夏が前に出ました。

 

「おかえりなさいませ、アイリ様。

 そして、アーカディア家へようこそ。簪様」

 

 私はもう何度も見てきましたが、一夏が扉を開けつつ迎えてくれます。

 

(一時は本気で従者になろうとしていましたしね……。

 兄さんと一緒に説得したのも今となってはいい思い出です)

 

 物思いにふけた私とは違い、簪さんはボーッとした様子でした。簪さんの顔が少し赤くなっていたのは、見なかったことにしてあげましょう。

 

「お決まりのようなものですよ。

 さぁ、中へどうぞ」

 

 ひとまず、少し顔を赤くした簪さんを家の中に上げつつ、私も我が家の扉をくぐります。少し前に――主にリーシャ様主導で――だいぶ豪華になった我が家ですが、その分部屋には余裕もあります。彼女の秘匿性を考えても、そして彼女の知り合いである私達がいるという点で見ても、我が家に泊まってもらう事にしましょう。

 玄関を抜け、そのままダイニングに通し、人影が周囲にないのを確認して、ようやく本題に入ることができる状況になりました。

 

「さて、簪さん。

 まず、先ほど言った言葉の意味を含めて私達の現状をかいつまんで説明させてもらいますね」

「あ……はい。

 ……あ、でもそれって結果的には」

「以前、貴女が問いかけてきた内容の一端にも触れることになりますが……まあ、仕方がないでしょう。こうなってしまった以上は」

 

 簪さんも気づいたらしいですが、私としてもこんな形になるなど予想外もいいところです。しかし、ここにきてしまった以上、そして彼女の立場を考慮すれば、自然とこういう対応になります。

 

「ひとまず、今いるこの国と……そうですね。

 装甲機竜(ドラグライド)と、幻神獣(アビス)のことについて話しましょうか」

「装甲機竜……そういえば、襲撃してきたセイカって人も言っていた……」

 

 この言葉は、聞き逃せませんでした。

 

「セイカ……あなたがここに来るきっかけになった襲撃犯ですよね?

 その人が、確かに、そういっていたんですか?」

「は、はい……それに、臨海学校の時の襲撃してきた『棘刑』と名乗った人物も、新王国と口にしていた……と思います」

「……なるほど」

 

 少し話がそれましたが、重要な証言が聞けました。これだけでも、今回の苦労が報われるというものです。

 

「話がそれてしまいましたが、説明に戻らせてもらいますね。

 まず、この国はアティスマータ新王国。まだ成立してそう間もない国ですよ」

 

 話の方向を修正しつつ、私は説明に戻ります。一夏も一夏で、不測の事態に備えていてくれています。

 

「はい……でも、新しい国が生まれるほどの事って……」

 

 簪さんが、恐らくは誰でも持つだろう疑問を覚えていました。

 私としてはそう軽々に答えたくない内容ですし、今この場ではそう重要な内容でもありません。ある程度簡潔に説明するにとどめることにします。

 

「……厳密に言えば、それ以前の国が革命によって倒れた、と言うべきでしょうね」

「革命……」

 

 簪さんが僅かに驚いたような顔になっていますが、今はそのまま説明を進めていきます。

 

「そして、私達が使っているISとして説明している兵器。アレは装甲機竜と言う、古代兵器ですよ」

「……えっ? こ、古代、兵器?」

 

 簪さんが素っ頓狂な声を出して、今度は派手に驚いた様子を見せています。ですが、もうどうしようもないのでそのまま進めます。

 

「装甲機竜と言うのは、ですね……」


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