IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第七章(2):覚悟の形

Side 一夏

 

「一応聞いておく。

 その様子だと何かしらの確信を持っていると考えていいんだな?」

 

 簪に突きつけた機攻殻剣(ソード・デバイス)はそのままに、問いかける。どの道このままと言うわけにもいかないが、かと言って情報源を聞き出さないわけにもいかない。あるいは彼女以外にも知られている可能性も考慮しなくてはいけないからだ。

 

(最悪を考えるのであれば、更識会長たちにも知られている可能性も考慮すべきか……?

 だが、今の治療の状況を考えるとその可能性は低い……いや、それも一種の策略か……?)

 

 もし俺が織斑一夏という過去の日本が見捨てた一人であると知れれば、その隠蔽のためにこの治療が上手く行かなかったっとでも言って闇に葬ることくらいはしかねないだろう。だが、上手く行っているこの現状もそれを知られていないという誤った認識を与えるための策略とも捉えられなくもない。

 

(いや……どっちにしたところで、今このタイミングで機巧核剣を渡したうえでその情報を流す意味がない……なら、なぜ……?)

 

 冷静に考えれば、そもそも俺自身の自衛戦力となる機巧核剣を渡す意味がない。気づかれない位置から狙撃などと言う手もあるのだろうが、それにしたところで確実な一手を狙うのであれば渡さない方をとるだろう。

 しかも、眼前には簪がいる。姉妹仲はそこまで良くないと聞いているが、更識会長としてはむしろ歩み寄りたいとすら思っていた以上はそもそもこんな役を任せるとは思えない。それすらも計算の内、という嫌な考えがよぎるが、どのみち今の俺が持っている情報では判断の決定打となる情報がない。

 

「確信は、持っている」

 

 簪はそんな俺の様子を少し見てから、控えめに、だがはっきりと言い放った。

 務めて表情に出さないように細心の注意を払っていたつもりだが、もしかしたらそれ以外の何らかの変化で考えを読み取られたのかもしれない。

 

「でも、安心して」

 

 次に言い放った一言は、先の言葉の下に滑り込ませるように重ねてきていた。

 

「お姉ちゃんには伝えてないし、他の人にも言っていない。

 今知っているのは、私だけ」

 

 さらに続けざま、不可解と言えば不可解なことを言ってくる。

 怪訝な顔をしてしまったのだろうか、今度は若干の苦笑を混ぜながらだった。

 

「さすがに影内君の正体をお姉ちゃん……と言うか更識家本家に伝えるわけには行かなかったからね。

 影内君たちとの協力関係を切るわけにはいかなかったし、何より……私自身、影内君にとって不利になるようなことをしたくなかったし」

 

 その一言に、さらに疑いが深くなる。

 この行動の目的が不可解過ぎた。

 

「……何処で知った?」

「一番最初は、廊下で影内君が織斑先生と話していた時」

 

 その一言に、舌打ちしかけた。が、さすがにここですべきことではないと思い思考を切り替えようと努める。

 

(こんな形で邪魔になるか!)

 

 だがそれでも、思わぬ形で邪魔になった元姉に対し、今考えるべきではないと分かりながらも憤りを感じる。

 

「……それだけか?

 仮に俺がその織斑一夏であったとして、帰ろうとはしなかった以上は根拠に弱いと思うが?」

「織斑先生のもとに帰らないのは、箒と鈴からある程度聞いた。

 二人のもとに帰らないのは、貴方から直接聞いた」

 

 そこで、簪はいったん言葉を区切った。

 僅かな間、静寂が流れる。簪の首には相変わらず、俺が構える《アスディーグ》の機巧核剣が突きつけられている。

 

「別に、今すぐ誰かに言う気なんてない。

 でも……」

 

 そこで、簪は少しだけ言い淀んだ。あるいは、言葉を選んでいるのかもしれない。

 

「でも、もし影内君が今回みたいな状況になってしまったとしたら、私は多分言ってしまうと思う。

 箒と鈴の、二人だけには言ってしまうかもしれない」

 

 僅かな間を挟んで放たれたその言葉に、思わず顔をしかめた。

 俺自身、明示こそしなかったものの以前にしたかつての親友が誰であるかは今現在の会話からして簪も察しているだろう。

 にも関わらず、彼女は名前まで出して『言うかもしれない』といった。

 

「それは……是非とも止めて欲しいのだがな」

 

 頭の中だけでこの状況を如何にして打破するかを思考しながら、それだけを考える。

 正直、此方が切れる手札が無さ過ぎて光明が見えないのが辛いところだった。

 

「だったら……二つ、要求したいことがあります」

 

 簪はここでも一回言葉を切っていた。少しだけ緊張している様子にも見えたが、不利なのが此方であることに変わりない以上余り救いにならなかった。

 

「まず、一つ目。

 必ず生きて。そして、少しは貴方自身に優しくしてあげて」

 

 この言葉を言った時の簪の口調は、いつものそれに比べて強く感じられ、それこそ怒っているかのように聞こえた。

 

「……別に、自分から死のうとしたわけではないのだが」

 

 先日の、『超過起動(バーストドライブ)』の一件を言っているのかと思い、その言葉だけを紡ぐ。最も、あの時の一件に限らず自分から死のうとした覚えなどない。結果として危険な事態になることは多々あるが、自分が戦う立場にあり後ろに守るべき人がいるのではある程度仕方ない物もある。

 

「相手を倒すよりも自分の生き残りを考えてほしいっていう事。

 あの時も、増援自体は呼んでいたんだよね?」

「アイリさんと更識会長経由でな」

 

 そこまで言ったところで、簪の目つきがやや鋭くなったように見えた。

 

「呼んではいたけれど、その人が来る前にアレ使ったんだよね」

「俺の腕であの化け物を相手取ろうとするとアレ以外の手段が思いつかない。それに、危険性を排除するのなら、早めに倒すに越した事は無かったからな」

 

 大真面目に言ったつもりだが、簪の目つきがやや鋭くなった。

 

「その結果、危うく死にかける事態になったことはちゃんと考慮しているの?」

「戦っている以上はいつだって死にかけるどころか殺される可能性だってある。

 ましてや、あの時は敵が敵だったんだ。こればっかりは今の俺ではどうしようもない」

 

 師匠達ほどの腕前を持っていれば、あるいはもう少しマシな選択肢もあったかもしれない。が、最低限として押し止めることだけ考えて行動したとして、はたして『超過起動』を使わなくて済んだのか。自信は持てない。

 

「それでも、貴方に生きてほしいと思っている人がいる事。それだけは、忘れないで」

 

 簪は、今も剣が突きつけられていることなど気にしていないかのように強い口調とハッキリと分かるほど強くなった目つきで告げた。

 

「……随分と、気にしているみたいだな。

 そこまでの義理もないだろうに」

 

 簪の様子からして此方のことを真剣に考えてのことと言うのは容易に想像がつく。

 それはそれで嬉しいものがある。だが、最初に告げられた内容が内容であるためにそれに浸る訳にもいかなかった。

 

「だって、あなたが自分のことをそういう風に考えているっていう事実そのものがあの二人を軽視していることになってしまっているんだもの。

 ……二人が、どうしてIS操縦者になろうとしてか。知っている?」

「……いや」

 

 箒と鈴について俺自身が知っていることと言えば、俺が機竜側に行く前までのことだ。その時は世話になっているばかりであったために、特にいい印象を残せるような事は無いと思っている。

 だが、今までの話の内容と簪の口ぶりでは、まるで俺にもその原因の一端があるように思えてならなかった。

 

「……箒はね、貴方の苦しみを知って、後悔して、貴方が居なくなって、信じていたものが崩れて、一度は自殺を考えるようになるまで追い詰められたの。

 でも、そのあとに色々あって……今は、誰かを恨むだけじゃなく、一緒にいてよかったって言ってもらえるような人間になるんだって、そういっていた。

 その中には、貴方だって含まれてるはずだよ」

「……」

 

 そんなことを考えていたのか、とはさすがに言わなかった。

 一度は自殺を考えるようになるまで追い詰められた、その部分を知らずに今まで接していたことに後悔が募る。ましてや、簪の言っていることが本当ならその原因の少なくない部分に俺も関わっている。

 

(所詮……俺も、その程度の俗物か!)

 

 余りにも遅すぎる後悔だが、今更どうしようもなかった。

 だが、簪の話はこれだけに終わらない。

 

「鈴は、織斑一夏の親友だって声を上げるんだっていっていた。

 それまで無視され続けた嘗ての貴方自身が……織斑一夏が決して無価値じゃないって、証明するって。この力は、そのためにって」

「……ッ!」

 

 思わず口から出そうになった言葉を、半ば無理やりに飲み込む。

 

(親友だと、そう思っていてくれるだけで十分だったのだがな……)

 

 鈴自身の人生なのだから、彼女のためか、あるいは今生きている人たちのことを考えて生きてほしかった。そういう思いがあることも本当だ。

 だが、現金なもので、それだけ自分のことを考えてもらえていたということに嬉しさも感じる。それを表に出すわけにもいかないから、喉から出そうになる声を飲み込んだ。

 

「だから、私は貴方が貴方自身を粗末にすることを許したくないの。

 あの二人と、そして貴方の、()()友人として」

 

 そんな俺の心中を知ってか知らずか、簪は一つ目の条件に対してこう締めくくった。

 その後、少しの間を置いてから次なる言葉を紡ぎ始める。

 

「そして、二つ目。

 貴方達の事を、教えてほしい」

 

 その言葉にそれまでの感情を押さえつけながら束の間、思考する。

 

「……俺たちの、事を?」

 

 確かに、向こうには此方に関する情報の多くを秘匿している。

 だが、このタイミングで言われては警戒せざるを得なかった。

 

「私個人としては、影内君やアーカディアさんを信頼できる人たちだって思っている。

 けれど、それはあくまで私個人の所感に過ぎない。だから、明確なものが欲しい。そう思っただけ」

 

 ここまで一気に言ったところで簪は少し言葉を切り、呼吸を整えた。その直後、それまで強張り気味だった表情を緩める。

 まるで、俺に安心を促すように。

 

「別に、今すぐどうこうっていう事じゃない。

 ただ、私は貴方達を信じたいから、教えてほしいってだけなんだ」

「信じたい、か。

 その割には、俺の正体を伝えない代わりの要求にも聞こえるが?」

 

 新王国で見てきた腹に一物抱えている笑みではなさそうだと思うが、だからといって安心していい訳でもない。ましてや、最悪を想定するのであればむしろ警戒しなければならなかった。

 

「分かってるよ。

 だから、貴方にその剣を渡したのだし」

「な、に……?」

 

 言われて思考し、そしてようやく剣を渡してからこの話題を始めた理由に行きあたった。

 

「対等になる様に、自分をある程度不利にするために……?」

「やっぱり、影内君は凄いね。

 その通りだよ」

 

 「これで正解だったかはわからないけど」と最後に悪戯っぽく付け加えた簪に、いよいよ呆れかえってきた。

 

(だからと言って、自分の命を賭けるか……?)

 

 考えようによっては効果がありすぎてそのことを言った瞬間に斬られかねないような内容である。

 確かに信用を得ることは難しいが、だからと言ってあまりにも乱暴に過ぎる手段だった。

 

「いくら何でも、無謀すぎやしないか?」

「だって、影内君のことだから最初から切るつもりにしたところで()()()()()()()()()()()()()にしようとするでしょ?

 だったら、そこで私も何かを言う事ができる」

「賭けもいいところの手段を、よくぞ使ったものだな……」

 

 こうは言ったが、冷静になれば簪の取った手段も強ち間違ってもいないことがわかる。

 そもそもとして、此方としては簪を含む更識会長たちとの協力関係を継続したい方針である。だが、ここで仮に簪に致命的な手出しをしてしまえばどうなるか。

 

(まず間違いなく協力関係が破局を迎える……最悪としては更識会長たちと全面衝突か)

 

 暗い未来しか見えない。

 

(とはいえ、簪なりの方法ではあるが一応、此方にも配慮はしていると……)

 

 そこまでは分かった。だが、どうしたところで二つ目の要求には俺が答えていい訳がなかった。

 

(一つ目は俺自身の問題だ。それはいい……。

 だが、二つ目。機竜側の情報となるとおいそれと返事を返すわけにも、な……)

 

 俺自身の失態による事態であるのが辛いところではあるが、どうしようもない。

 ここでの返事は保留し、新王国に報告してから対応できないかと考え――

 

「その話、私の方で預からせてもらってもいいですか?」

 

――ドアから現れたアイリさんが開口一番に放った言葉によって、思考が一瞬停止した。

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

 一夏の様子を見に来ただけのつもりでしたが、そこではあまりにも予想外かつ厄介な事態が起こっていました。

 

「もう一度聞きます。

 その話、私の方で預からせてもらってもいいですか?」

 

 務めて冷静に、そこまで言う。そして、一夏が構えている得物(機巧核剣)を見て、ひとまずそれだけは下ろしてもらおうと考えました。。

 

「一夏、いい加減に剣を下ろしなさい。

 気持ちはわかりますが、何かの間違いがあっては遅いですから」

「……委細、了解しました」

 

 互いにとって不幸な事故はあってほしくないという考えを読んでくれたのか、一夏も一瞬の逡巡の後に《アスディーグ》の機巧核剣を下ろしてくれました。

 

「それで、簪さん。

 私達のことに関しては、実のところ今この場にいる面々だけで答えることはできません。そんなことをすれば最悪、私達の首が飛びかねませんので」

 

 口調はいつもよりも強めに、けれど内心強気で言っておきます。

 正直なところ、完全に本当のこととは言えないけれど強ち嘘とも言えない内容なだけにはっきりとさせておかないといけません。

 

「……分かりました。

 もともと、そこまで強要する気はありませんでしたので。貴女方の判断にお任せします」

 

 簪さんも少し考えてから、意外なほどアッサリと納得してくれました。

 もともと強要するつもりは無いみたいでしたし、こうも配慮してもらえるというのは有難いものがあります。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 自分で自分の命すら粗末にしてしまう人に、正攻法でどうにかできるなんて思えなかった。

 なにより、私よりも遥かに付き合いの長いアイリさんや影内君の師匠といっていた人たちでもどうにかできなかったのだから、会ってまだ数か月の私ではもうどうしようもないとしか思えなかった。

 だから、最初はゆっくりやっていこうと思った。ゆっくりと、少しづつ自分の価値っていうものを認めていってほしかった。

 

(でも……それだと遅すぎる……)

 

 今回の一件で、改めて『敵』と言うものの脅威を認識できた。全てとは言えないけれど、あの一回だけでもそれまでの私が知っていたどんな敵よりも強力であることがわかる。

 しかも、それがあの一体しかいないという確証は無い。むしろ、バックの組織が強大である可能性が高い以上はクローニングの可能性も否定できない。

 

(影内君でも、死にかけるほどの事態にまでなってしまった……)

 

 無意識に、大丈夫という思い込みがあったのかもしれない。影内君なら、どんな敵が来ても倒せるんじゃないかって。

 とんでもない、致命的すぎる勘違いをしていたのかもしれない。

 

(そして何より、私たちは彼らのことを知らなさ過ぎるくせに甘えてしまっている……)

 

 戦力的にはどうしても影内君たちに頼りがちになっているのに、その彼らのことをろくに知らない。その正体がわからないことには迂闊なことはできないけれど、状況的に考えれば今後の体制構築のために彼らのことを知りたかった。

 

(なにより……影内君たちのことを信じたかった、それもあるしね……)

 

 希望的観測とも取れる話だけれど、影内君たちの性格的にたとえ一枚岩ではないにしろ、その物がテロ組織としか言えないような組織に属するとは思えなかった。

 

(何れにしても、今回はあくまで私個人として言っている。

 仮にお姉ちゃんたちに迷惑かけるような事態になったとしても、最小限で済むはず……)

 

 リスクはないとは言えないけれど、多分これが今の私にできる精一杯。

 だから、まずは信じてみる。そのうえで、頼り過ぎないように立ち回れるように鍛える。

 箒や鈴の思いも、私の知る範囲でだけれどある程度は伝えた。キッカケにしかならないかもしれないけれど、それでもキッカケさえないよりは良いと思った。

 

(……できる限りのことはやっては見た。後は、結果が出るのを待つだけ。

 願わくば、それが私達にとっても影内君たちにとってもいい物でありますように……)

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

 病室の廊下で、一人になった時になって初めてため息をつきました。

 先の会話の内容、いろいろと衝撃的な内容があったため今となってはやや気が重く感じます。

 

(どうして中々……どちらかと言えば気弱な方だと思っていたのですが)

 

 先の簪さんの行動を考えると、多くの認識を改めなければいけないなと言う思いが湧いて出てきました。賭けになりかねない要素が強かったとはいえ、それでも全くの無謀無策と言うほどでもない。アレが天然だとしたら、相当な才能でしょう。計算だとしても大した手腕です。

 

「にしても……私達のこと、ですか」

 

 独り言のように呟きながら、歩を進める。一番、気の重い内容でした。

 

(まあ……私や一夏の独断で決めていい内容ではありませんね)

 

 私達の立場的にも、そして実態としても私や一夏だけで決められることではないのは明白。そもそも住む世界自体が違うという関係上、何が起こるかわからないのですから。

 

(最低でも、新王国に帰って兄さんたちに相談ですね……ですが、しかし……)

 

 今回の発端、つまりは織斑先生に正体が割れ、それが派生する形で簪さんにも正体が割れた。

 

(……こうなってくると、改めて彼の正体を隠す手段を考えなければいけないのかもしれませんね。

 いえ、むしろ今回の簪さんの要求を逆手に取ることも考えるべきでしょうか……?)

 

 私達の正体、つまりはこのISが飛ぶ世界とは全く別の世界の人間であるという事。

 正直、秘匿しておかないと色々と良くない未来が見える内容です。

 

(……此方の世界に来て改めて実感しましたが、社会情勢や科学技術の発達具合があまりにも違いすぎますからね。

 このまま情報が拡散するような事態になれば、それこそ大混乱は必須。そうでなくても、万が一何かを間違って全面戦争すれば()()()()()が見えていますしね)

 

 此方側の情勢や科学水準を見て、総体的に判断すれば此方の分が悪いことは明白だった。

 そもそも、科学水準が違い過ぎる。こちらの方でも毒ガスなどが使われたことはありましたが、此方の世界ではそれを進んだ科学技術を使って大量に生産することができます。こちら側の条約によって今でこそ使われる事は無いみたいですが、相手が異世界となればどうなるかなど、自信は持てなかった。しかも、それらに加えて意図的にウイルスなるものを使って病魔をばらまくこともできるみたいですので、そういった面で見れば惨敗しか見えない。

 それらを抜いた直接戦力にしたところで、機竜の戦力的優位こそ私達にありますが、それ以外では全面的に負けているとみていいでしょう。戦車に携行火器に戦闘機、その他もろもろ。これらをすべて機竜ひとつで相手取ろうとすれば機竜使い(ドラグナイト)の負担はいかほどになろうものか。

 

(……直接の敗北をしないにしても、持久戦にでももつれ込まれれば根本的な兵站の生産力の差から私達が負ける。手段を択ばないという前提があれば勝ちの目が無いとみていい。

 攻めれはしても、はたして状況を覆せるかどうか……)

 

 最初は様子見兼牽制として、暗黙の内に調査が進むまでは此方の世界に対する干渉を国内外問わずにしないという状況が生み出されていた。

 だが、その結果。あまりにも私達の世界とは違い過ぎて、そして発展した世界。ISと言うものによってかなりの歪を抱えるにまで至ってしまっていますが、脅威であることに変わりはありません……。

 

(むしろ、それらによって倫理的な物が徐々に壊れ始めてしまっている面が散見される以上はより脅威であると考えてもいいのかもしれませんね……)

 

 仮に私達の正体を明かすにした所で、それを拡散させずに、かつ今までと同程度には互いにとって利のある関係が欲しい。

 それが、おそらくは今回の要求に対する最適解……なのかもしれません。

 

(何れにしたところで、今すぐ答えを出す必要もないですね……。

 頭の痛い問題ですが、成るべき早急に、しかし焦りすぎない程度には考えて答えを見つけませんと……)

 

 出口の見えない問題に、それでも立ち向かわなければいけない。

 ただでさえ今の一夏は怪我人なのですから、それくらいはしないといけない。

 

(それが、今の私が一夏に対してできる精一杯なのかもしれませんね……)


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