IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第六章(10):光と陰と(後編)

Side アイリ

 

「一夏!」

 

 更識さんから連絡を受け、一夏が搬送されたという病院へとすぐに向かいました。時刻は深夜もいいところでしたが、そんなことはどうでもいいです。

 

  ピー ピー

 

 私たちの世界では見たことも無い機械から伸びた管のようなものとその先についた口当て、その内側が僅かばかりですが規則的に曇ることから、息をしているという事だけはわかりました。

 未だ意識が戻っていない状態であるため、油断はできません。

 

「一応、一命は取り留めたわ。でも、絶対安静よ。

 今は容態が安定しているけど、何時急変するかも分からない位、酷い状態だって……」

 

 音もなく近づき、私に一夏の容態を説明してくれたのは更識さんだった。傍らには、従者の虚さんが控えていた。

 

「……()()を使ったと聞いた時から、一夏の容態については覚悟は出来ています。

 ですが、医療機関関係のことは」

「勿論、私達の方で手配させてもらうわ。

 彼を失うのは私達としても避けなければいけないしね」

 

 更識さんの言葉に、とりあえず一安心しました。こちらの世界の医療機関どころか医療制度さえほぼ知らない私たちでは、最悪、無理をしてでも私たちの世界で発掘された遺跡(ルイン)の宝物の中にあった医療ポッドに頼る以外の方法がなくなりますから。

 ですが、これだけで安心できないのも事実です。

 

「……医療機関の手配、感謝します。

 ですが、もう一つ。要望を通させてもらってもいいでしょうか?」

「内容によるわ」

 

 更識さんの即答に、私も気を引き締めます。ここで対応を間違えれば、収拾がつかなくなりかねないと思ったためです。

 

「此方から、彼がある程度動けるようになるまで護衛をつけても構わないですね?」

「……言っておくけど、私たちの方からも人は出すわよ?」

「此方の言葉で言うと、念には念を、です」

 

 何とか平静を装いつつ、それだけ答えます。一方、更識さんたちも頷くと「分かったわ」とだけ答えます。

 

「そうね……そのことと、今後のことについて。

 後で一回、話し合いの場を設けてくれないかしら。もちろん、それまでの影内君の身の安全については今この場で決めたことを含んでもらっても構わないわよ」

 

 更識さんがいつも通りを装って言いますが、その顔には本当に僅かながら緊張の様子が見て取れます。

 

(……もしかしたら、向こうにとっても今回の事態は痛手なのかもしれませんね)

 

 終焉神獣(ラグナレク)のことを向こうは知らないのだと思いますが、それでもあの時に現れた敵を脅威として認識している、と言う事でしょうか。

 正直なところ、幻神獣を倒しうるISの存在と言うものが確認された以上は私達との契約自体がお払い箱になるかもしれないと考えていた手前、これは嬉しい誤算です。

 

(上手くやれば、一夏の治療も思っていた以上に良い条件を付けてもらえるかもしれませんね……。

 ここは、申し訳ありませんが全力で交渉に当たらせてもらいましょうか)

 

 この世界での活動基盤が皆無である私たちにとって、彼女らの協力は現状不可欠なものです。ましてや、一夏を医療機関に任せざるを得ない状況では尚更でした。

 

「……暫くは私がいるから。

 戦闘関係のことは、私に言って。できる限り対応する」

 

 一夏の支援に入り、そしてこの施設まで運んでくれたソフィスさんが不意に言ってくれました。今この場でのこの発言はありがたいです。

 

「……分かったわ。

 宜しくお願いね」

 

 更識さんは短く、ソフィスさんのほうを見ながら言いました。

 そのあと、ソフィスさんはそのまま一夏の護衛兼この世界での仮実働要員としてこの場で待機、私も看病のためしばらく残ることにしました。更識さんたちは手配などのためこの場を後にしました。

 

 

―――――――――

 

 

Side ウェイル

 

 資料として撮っておいた映像を確認していく最中、私はずっと上機嫌だった。

 

「さてさて、中々な結果になったね~♪」

 

 資料の中に映っていたのは、《イミテイト・ポセイドン》とあの新王国の機竜使いの戦闘映像。中々の戦闘力に加えて、再生能力もあの白い神装機竜《アスディーグ》の神装《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》の効力をほぼ帳消しにできているなど、初の実戦投入作品としては中々の出来と言ってもいいだろう。

 しかし、不満点が無い訳でもない。

 

「ふぅむ……しかし、まだまだ改良点はありそうだなぁ」

 

 今回は海と言う緊急回避エリアがあったために何度も攻撃を受けない状況へと持っていき、その間に体勢を立て直せた。

 だが、最後。あの《七竜騎聖》によって動きを止められた《イミテイト・ポセイドン》は、そのまま《アスディーグ》の一刀に破られることになった。確かに、内部に《グラン・フォース》などを持っておらず、正式な培養過程などの資料は殆ど手に入らなかったために、終焉神獣(ラグナレク)《ポセイドン》の能力を正確に再現できたとは言い難い。だが、それでもああも簡単にやられてしまうようでは満足な出来とは言えない。

 相対した《アスディーグ》の機竜使い(ドラグナイト)も途中、異常な使い方をしていたために通常では考えられない能力を発揮していた。それは紛れもない事実。だが、それでももう少し抗いえなければ。

 

「ふぅむ……。そうなると、なぁ…………」

 

 巨大培養ポッドの中にいる、同じように育てている()()()()の《イミテイト・ポセイドン》を見つめながら、物思いにふける。何らかの改良は必要だろうし、この子たちの出番はまだまだ先になりそうだ。

 あるいは、《グラン・フォース》の代わりに埋め込んだ、制御装置も兼ねている()()。気乗りはしないが、そっちを改良することも考えておかねばならないだろうか。

 

「オイ」

 

 そうこうと改良案を考えていると、後ろからあの蜘蛛女が話しかけてきた。

 

「ふむ、何用かね?」

 

 さしたる興味もなかったが、これも一時の付き合いだ。付き合うとしよう。

 

「お前の作ったアレ、今度実戦投入するってよ。

 調整の方は問題ねぇんだろうな」

「ああ……《IS》か。

 一応、()()()()()のISコアと一部の機械らしくない機能(形態移行や自己意識、自己進化)を抜けば同等には動くよ。それでは不満かい?」

 

 とっくのとうに伝えるべきことは伝えていたはずだし、出来るならば至高にして至福の思索の時間を邪魔されたくはない。

 

「不満を見つけるための試運転だからな。

 だがまあ、一応確認しとけとのことでよ」

 

 私の態度に対して、舌打ちしながら実に面倒くさそうな態度を隠そうともせずに話し続ける。だが、それくらいのほうが此方も遠慮する必要が無いというものだ。

 

「それはそれは、ご苦労だことだ。

 では、実働データや映像記録だけは確実に入手できるようにしておいておくれよ。私から言う事はそれ以外にはもう無いさ」

「分かったよ」

 

 面倒そうに返事を返し、そのまま踵を返して去っていく。

 

「しかし、もう《I・S(イミテイト・ストラトス)》も実戦投入かぁ……。

 いやはや、時間が経つのは早いねぇ」

 

 有限たる時間を有効かつ有意義に使うため、私は再び思考の海へと埋没して行く。

 

(さてさて、どうすればあの『生命』を再現できるのか……)

 

 私が知りうる限り単一の命としては最強たる形、幻神獣。その最上種、終焉神獣(ラグナレク)

 早く、その秘術の総てを知りたくて仕方なかった。

 

 そして、行く行くは―――。

 

()()を解析し、まだ見ぬ土地へ――)

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

 臨海学校での、三日目のことはもうほとんど頭にありませんでした。

 ただ、何もせずに過ごして、ただ終わった。それだけです。前日の戦闘を考慮して訓練等はありませんでしたが、部屋に集まった七人、私、本音、箒、鈴、オルコットさん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんの顔は、揃って沈んでいました。

 理由なんて、考えるまでもありません。

 

 影内君が一命を取り留めつつも、決して軽くは無い怪我を負ったことが知らされたからです。

 

(影内君、大丈夫かな……)

 

 一晩明け、体力もある程度回復したからこそかえってそんな事ばかり考えてしまう。本音経由でお姉ちゃんから伝えられた話では、一命は取り留めていて容態も今は安定しているみたいだけど、余談を許さないとも言われている。

 

「…………」

 

 誰も、何も言わない。体力的な問題ではなく、精神的な重苦しさによるもの。

 

「……ひとまず、帰ったら見舞いに行くか」

 

 その中、最初に言葉を発したのはボーデヴィッヒさんだった。さすがに現役軍人、気持ちの切り替えも早かった。

 それでも、その目が普段よりも少し赤み掛かっていたのは見間違いじゃないと思う。

 

「……そうね、そうしましょうか。

 本音、影内が入院している病院が何処だかわかる?」

 

 その次に、未だに表情は回復しきっていないけれど鈴が言います。どちらかと言えば、無理にでも場の雰囲気を変えようとしているようでした。

 

「……確か、面会はできるかどうかわかんないかな~。

 確認はとってみるけれど……」

 

 本音も本音で、いつもほどの元気は無いけれど、それでも何とかいつも通りに振舞おうとしています。

 

(……そう、だよね)

 

 沈んでなんていられない、なんて強気な言葉を言う事はできないけれど。

 それでも、せめて沈んでばかりはやめよう。

 

 今度は私が戦えるくらい、強くなるために――。

 

 

―――――――――

 

 

Side アイリ

 

 一夏がひとまず、即死を避けて一命を取り留めたと言うことが確認できただけでも収穫だった。

 

(とは言え、それでも許しませんけど)

 

 彼が三つ目の約束を破った事には変わらない。さらに言えば、二つ目の約束もギリギリのところだった。だから、暫くの間は許してあげないことにしておきます。

 

(そうでもしないと、また無茶を重ねそうですしね)

 

 心の中だけでそんなことを確認しつつ、一時滞在となったソフィス卿の滞在期間中に代替人員を確保しなければなりません。

 幸い、兄さんも既にこのことを知っており、リーシャ様も協力してくれることになっているみたいです。そこまでの心配はしなくてもいいでしょう。

 

(ですが、それ以降のこと……一夏の今後や、此方のことをどうするかなど。

 更識さんとの協議のためにも決めておかないといけませんね)

 

 一夏が事前調査目的としてこの世界に派遣されましたが、その中で事態が悪い方向に進んでいることが確認されている。神装機竜の流出と、終焉神獣(ラグナレク)の出現と言う事態が、まさしくそれであると言えるでしょう。

 

「……あ、あの」

「簪さん?」

 

 私が頭の中で今後のことやそれに対する対応などを整理している中で、不意に声をかけられました。

 声がした方に顔を向けると、簪さんが一人で来ているのがわかります。臨海学校から帰って来るや否やこちらに向かったと聞いていましたが、思っていた以上に早い到着でした。一夏と親しい此方側の方々も何名か来るとのことですが、それでも早いです。

 

「どうしましたか?」

 

 何処か不安げな、でもどこか強い意志を感じさせる表情をしているのを見て、何かあったのかとも思いました。

 ですが、その口から放たれたのは意外な一言でした。

 

「この前の、戦闘の時……影内君が、約束を破って申し訳ありませんって、言っていました。

 以前も、何度か約束について影内君が言っていた時がありました」

 

 この前置きで、次の言葉が薄々予測できます。

 

「……もし、差し支えなければ。

 約束の内容を、教えてもらってもいいですか?」

 

 そう問うた彼女の顔には、ハッキリとした不安が張り付いていました。これから聞こうとしている内容が内容なだけに、それも無理からぬことです。

 ですが、これまでに彼女に話した内容を鑑み、知っておいて貰った方がいいかもしれないとも考えました。特に、今回のような事態が起こったなら尚更です。

 

「……私の一夏は、合計で三つ、約束を交わしました。

 一夏がそのどれのことを言ったのかまではわかりませんが……」

 

 それだけ前置きして、その内容を一つ一つ思い出しながら、私は話し始めました。

 いずれも、掛け替えの無いと同時に苦い思い出を伴うものばかりですが、それでも話すと決めた以上は話します。

 

「一つ目は……私の肉親を助けてほしいと、言いました」

「肉親……?」

 

 どこか懐かしく、けれど同時にどうしようもない後悔とやるせなさを感じましたが、それを表に出すわけにはいきません。努めて、平静を装います。

 

「唯一の、肉親です。

 本人の前では言いませんが、私にとってはずっと私を守り続けてくれた人です。ですが、私はその人の大した助けにはなれなくて……色々あって、まだ会ってそう長くはなかった一夏に、その役目を頼んだ……いえ、違いますね。その役目を、当時気付いていなかったとは言え精神的に問題の残っている一夏に押し付けた、と言ったほうが適切かもしれません」

 

 その時の私は多分、隠そうとはしていましたが自嘲のような笑顔を浮かべていたかもしれません。

 今にして振り返ってみれば、あの選択はもはや間違いとしか言えないのですから。

 

「内容が内容なので、二つ目より先に三つ目を言ってしまいますが……。三つめは、先の戦いで使用していた《超過起動(バーストドライブ)》を、今後使用しないというものです。ですが、それももう既に何度か破られてしまいましたが……」

 

 簪さんが、言葉を話さなくなるほどに緊張しているのが見て取れました。アレの危険性を目の前で見せられ、また、一夏に少なからず好意を抱いている事から、強く意識しているのでしょう。

 

(私も、人のことは言えませんけどね……)

 

 約束を結んだ(呪いをかけた)張本人である私が言えた義理でもないのかもしれませんが、それでもその気持ちはよくわかります。

 最近は恋愛関係で鈍感な部類に入る兄にさえ指摘されるくらいですしね。

 

「そして、二つ目ですが……。

 ()()()()()()()()()()こと。ただそれだけです」

「…………え?」

 

 私の答えに、簪さんが呆気に取られました。ですが、それも無理のないことです。

 そもそも、普通であれば()()()()()()()()()()()()()()。基本的に、人とは自分の命を守ることをある程度前提として行動するのですから。

 

「ど、どうして……」

 

 簪さんが驚きに満ちた表情でそれだけ絞り出すように聞いてきました。

 以前、ある程度の事情を話したこともありますし、特に大きな問題はないでしょう。

 

「……以前、一夏の精神的な問題に関して話したことはありましたね」

「は、はい」

 

 短く確認しつつ、その時の内容を簪さんに思い起こしてもらいながらこの後の話を聞いてもらう事にします。

 そちらのほうが、まだ理解しやすいと考えたためです。

 

「彼は自分自身に価値を感じていない。私達も気づくのが遅れために、気付くまで時間が掛かってしまった。気づいたのは致命的な事態が起こった時で、一夏が初めて実戦で《超過起動(バーストドライブ)》を使用したのもその時でした。そこまでの事態になって、私たちは彼の異常性にようやく気付けたんです」

 

 そう、あの時。一夏が《銀閃》ディルウィ・フロイアス卿の成れの果て、《幻魔人(ノクターナル)》と戦った時の事。あの時のそれはただ暴走状態に陥った機竜を、それ以前からリーシャ様の手伝いで身につけた調律で無理矢理出力を全体的に下げることでギリギリ扱えるようにしただけ、とも言えますが。

 

「彼には才能がありました。磨けば磨いただけ光るだろう、宝石のような才能の原石が。でも、それ以前のことから彼は自身の才能というものを信じなくなっていた。しかも自分でもそれに気づいていないためか、指摘しても治らなかった」

 

 あの時、何もできずにその場に立ち尽くした私と、その目の前で自分の命をさも当然のように使い潰す勢いで超高負荷の戦闘を続けていた彼。

 結局、決着は兄さんとグライファーさんが《幻魔人》を討伐することで収束しましたが、一夏があの時、結果的には時間稼ぎとなった戦闘をしなければ、今私はここにいなかったかもしれません。

 ですが、それでもあの後に一夏が三日近く寝込んだのは確かです。

 

「……本当は、こんな約束しなくても自分の命を大事にできるようになってもらうべきだった。

 けれど、私達にはそれができなかった。だから結んだ、そのはずだったんですけどね……」

 

 今回の一件で、一夏はまたしても危うく命を落としかける事態となった。結局、口約束以上のことができない私自身の無力さ加減を再認識する事態になっただけに、

 

(あの時、あんなことさえ思わなければ、或いは……)

 

 私は、一夏が羨ましかった。

 私にはどうしようもなく無かった、戦いに関する非凡としか言えない才能の原石を持つ彼が、どうしようもなく羨ましかった。

 

 私は、どうしようもなく戦闘には向かなかったから。

 

 けれど、あの時。私が、ただの一度だけやった、機竜の操作訓練の時。私を背負って医務室まで連れて行ってもらった時。

 

(まさか、羨ましいと言われるとは思いませんでしたね)

 

 屈託ない笑顔で、羨ましいと言われた。それが当然と言わんばかりの口調で。()()()()()()()()()()()、ただそれだけのことが羨ましいと言われた。

 だから、私は勘違いしてしまったのだと思う。

 

 彼なら、分かってくれるんじゃないかと。

 

 私が兄さんに対して抱いている劣等感も、過去のことを踏まえれば十全にとはいかなくてもある程度は理解してくれるんじゃないかと。

 その上で、もしかしたらと期待してしまった。何処か似ていて、けれど絶対的に違って、そして私や兄さんを信じて近くにいてくれた彼なら、或いは兄さんの助けになってくれるかもしれないと。

 

(詰まる所、精神的に弱ってたところで甘えてしまったと言う事なのでしょうけどね。

 それでも、あれは自分でも愚かとしか言えないのですが……)

 

 それで招いた結果が、今現在の精神的に致命的な問題を抱えた一夏である。

 

(……せめて、責任を取りませんとね)

 

 今の一夏を歪めた直接の原因が私なら、せめてそれだけでも責任を取らないといけない。

 それだけは、もうずっと前から心に決めたことなのだから。

 

 

―――――――――

 

 

Side セルラ

 

「いやはや、やられてしまいましたね」

 

 宛がわれた個室のベットに寝っ転がりながら、深く息をつく。でも、その後にどうしてもこぼれてくる笑みが抑えきれない。

 

「へぇ、よかったじゃない」

 

 そうして私が事後の余韻に浸っていたところに、無粋にも声をかけてきた女がいました。

 ですが、邪険にする相手でもないので一応は対応しておきます。

 

「そっちは不満そうですね、『衝刑(しょうけい)』」

「不満も不満よ。だって、全然戦い甲斐が無いんだもの」

「ってか、お前だけ相手がいいんだよ」

 

 さらにもう一人、男が来ます。いえ、実際にはさらにその奥にもう一人の男の影が見えたことからこの場には四人がいることになりますね。

 

「『噛刑(ごうけい)』に『轢刑(れきけい)』、貴方達も来ていたのですか」

「まぁな」

 

 返事をしたのは『噛刑』だけで、『轢刑』は相も変わらず黙ったままです。ですが、いつも通りのことなので別に構う事もありません。

 

「そういえば、『爆刑(ばくけい)』と『糸刑(しけい)』はどうしましたか?」

「『爆刑』は例の無人機(玩具)の付き添い、『糸刑』は部屋でなんかやってる」

「そうですか」

 

 それだけ言葉を交わし、あとは適当に互いに話題を選んでは雑談を交わしていく。例えば、今まで殺し合ってきた中で手応えのあった敵とか。

 

(さてさて、近々どうなることでしょうか……)

 

 その中、私は今後の戦いに対する抑えきれない喜悦が湧き上がってくるのを感じていた。


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