IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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ちょっとしたお知らせです。
先日、UAが10,000を超え、さらにお気に入りも100件を超えていました。
凄く嬉しかったです。

この小説を読んで頂いている皆々様、本当にありがとうございます。


それでは、続きをどうぞ。


第一章(5):対暗部用暗部

Side 一夏

 

「く……あ、あぁ……」

 

 この世界での初の対幻神獣戦があった翌日。

 ひとまず『球体(スフィア)』を簡単に偽装した場所の付近でほぼ野宿同然に一晩寝た後、支給されていた服に着替えて街の方まで歩き出していた。一応、この世界で活動するにあたり、当たり障りの無いものを選んだつもりだ。

 

 やはりこの世界に関する知識があるとは言え、それも二年前までの話。

 この二年間で何がどう変わったのか。多少なりとでも、情報を集めたかったのが本音だった。

 

 街に出てみれば、かつて俺が過ごした街ではない事が伺えた。

 

 だが、それ自体は些細な事だった。

 別に今更家に戻るつもりも無いし、情報収集が出来れば問題は無い。家の付近で気になる事が無いと言えば嘘になるが、優先順位が高いのはあくまで任務。そこを取り違えてはいけない。

 加えて言えば、今姉に見つかれば任務に支障が出かねない。その意味で言えば、むしろ幸運ですらあった。任務というか仕事に反対されるだけだったら無視すればいいだけだが、武力行使されたり某天災にでも連絡されれば任務が滞る事が確定する。

 

 情報収集と言っても、特に変わった事をする訳ではない。街中に飾られている大型テレビや電気屋においてあるテレビから流れてくるニュースの中にそれっぽい情報が無いかを確認したり、本屋で立ち読みできれば関係ありそうな本を漁る等々。少なくても現時点ではスパイ映画みたいなことをするわけではない。何より、こちら側での資金にかなり限りがある以上はやれる事もおのずと少なくなる。

 

 

 そうして二、三日過ごすうちに、分かったことがある。

 幻神獣(アビス)の存在は恐らく一般には伏せられているか、脅威では無いとされているということ。根拠としては、ニュースには先日の戦闘の一件は一切出てきてなかった事、政治関係の雑誌を覗けばISを根拠とした女権団体の主張がずらずらと書かれてた事、軍事関係の雑誌ではISのことを相変わらず「最強の兵器」と謳っていた事。同時に、自分達が使える最強の兵器を倒せる可能性の高い怪物が現れれば何かしらの大騒ぎになることは確実だろう事から、どこかで情報操作があった事も察することが出来る。

 ただ、やはり人の口に戸は立てられないという事か。UMAやUFOなんかを取り扱っている、所謂オカルト雑誌を立ち読みさせてもらった所、何枚かの写真に幻神獣と思しき姿が映っていた。その種類は、鹿に似たハイント、烏賊に似たクラーケン、硬質の体を持つゴーレム、合成生物のキマイラまでいる。挙句の果てにはガーゴイルに似た姿が写された写真さえあった。

 

(冗談はよしてくれよ……)

 

 正直、洒落になっていない。

 ただ単に写真を撮りに来て丸腰で幻神獣と接触なんて事になれば、死にたいですと言っているのと大差が無い。それは例えISを纏っていても言える事だろう。それは先日の一件で薄々感じていた。

 

 だがまあ、一応収穫らしい収穫は確かにあった。

 まず一つ目として、幻神獣が脅威としてまだ認識されていないことから、いきなり治安部隊に出くわす可能性は多少は低くなったと考えられ、引いては多少は動きやすいであろうという事。といっても、やはり細心の注意を払うことには変わらないが。

 二つ目として、さっきのオカルト雑誌を呼んでいた所いくつかの場所が正式に封鎖されているのが分かった。その多くは廃業して何年も経つ病院やホテルだったり、壁面にヒビが入っている山中のトンネルだったりと、一見しただけでは怪しさは感じない。だが、その中にただの空き地や公道などがあった。さらに言えば、そこで撮られたと紹介されていた写真にはしっかり幻神獣と思われる生物が写されている。

 

(今日の夜、報告してから行くか……)

 

 合成写真の可能性が無い訳ではないが、元より今夜も野宿の予定しかない。だったら、少しでも可能性のあるところへ行き、幻神獣の存在が確認されれば速やかに殲滅すべきだろう。だがそれを見通しのいい昼間に動くにはリスクが大きい。少しでも見つかりにくい夜間にした方が色々と隠しやすい。

 それまでに新王国の常駐部隊やルクスさんに報告もすべきだろう。

 

 だが、これらの僅かながら確かに前進した幻神獣の調査とは逆に、機竜関連の事は全然調べが進んでいなかった。そもそも流出していなければそれに越したことはないのだが、確定しているわけではない以上焦りが募るのも確かだった。

 

 

―――――――――

 

 

「――降臨せよ。天を穿つ幻想の楔、繋がれし混沌の竜。〈ユナイテッド・ワイバーン〉」

 

 深夜、町の光の大部分が消えたころを見計らい、ユナイテッド・ワイバーンを召喚し接続。迷彩を起動した上で飛び立った。

 目的地は昼間調べた、閉鎖された場所の中で可能性の高い場所。その中でここから近い場所をいくつか回る予定だ。

 すでに夕暮れの頃に常駐部隊やルクスさんに連絡し、行動の許可は貰っている。さらに今回はしっかりと仮面とフード付きローブも用意している。前回のようにアッサリと顔を晒すような事態は避けられるはずだ。

 

 

 目的地は特にこれと言って何の変哲も無い、山中の開けた草原。周囲には危険な崖も無く、道もそれなりに整備されているので迷うような場所でもない。

 ここで撮られた写真に映っていたのは、一部だけだったが硬質の金属で構成された巨躯の幻神獣、ゴーレム。幻神獣としては比較的大人しい部類で、鈍重という事も手伝い逃げに徹すれば十分逃げられる。ただし防御は固く、その巨躯から繰り出される一撃は冗談抜きで直撃すれば即死があり得るほど。

 手持ちの戦力での殲滅を考えるのであれば、アスディーグの最速を以って接近、《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》の一撃で速攻で片付けるのが吉だろう。

 

 だが、アスディーグを使うには少々不安が残っていた。

 この前は被害を出さないために速やかな殲滅が必要だった以上、アスディーグを使う事に躊躇いは無かった。だが今回、周りに人が居なければ殲滅速度を重視する必要は無い。それに治安部隊が出てきた場合、ユナイテッド・ワイバーンなら探知機(レーダー)で事前に察知し、時と場合によっては迷彩を用いて逃げることもできる。だが、アスディーグでは事前の察知はできず、引いては逃走も難しくなる。

 殲滅速度を取るか、対応能力を取るか。

 

(……ひとまず、索敵してからだな)

 

 どのみち、最初はユナイテッド・ワイバーンで周囲を索敵することには変わりない。だったら、その場の詳しい情報を一度調査してからの方がより良い判断を下せるはずだ。

 

 

 目的地の山中にはユナイテッド・ワイバーンで一時間と飛ばない内に到着した。

 迷彩をかけている状態で周辺を目視し、人が居ないことを確認。

 それが終わった後は見つかりにくそうな茂みを見繕って隠れ、迷彩を一旦解除してから探知機(レーダー)を起動。索敵を開始する。

 

 索敵の結果、今回はすぐに目的のゴーレムが見つかった。

 本当は居て欲しくなかったが、居るのであれば倒すだけ。

 

 同時に、周辺に人などの反応がないことも確認した。アスディーグを使っても問題ないように思える。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()ようにも感じたが、それを決定づける証拠もないので好都合だと思っておくことにした。

 

「――覚醒せよ、血毒宿す白蛇の竜。其の怨敵を喰らい尽くせ、〈アスディーグ〉」

 

 すぐさまアスディーグを召喚し、飛翔。ゴーレムの腕が届かない上空まで上昇し、竜毒牙剣(タスクブレード)の内一刀を両手で逆手に持つ。

 

「竜毒牙剣、パワードモード」

 

 竜毒牙剣の機能の一つ、障壁牙剣(スケイルブレード)のように刀身に強化障壁を纏わせ、さらに剣の内部でエネルギーを高圧縮し剣の強度と威力を底上げするパワードモードを起動。

 

落鋼刃(らくこうじん)

 

 技と言うほど工夫された技巧ではないが威力は折り紙付きの攻撃、落鋼刃の準備を整える。

 

 やる事は簡単。竜毒牙剣を真下に向け、同時に背翼を真上に向ける。後は真下に向かって加速。仕上げに当たった直後に内部のエネルギーを放出するだけ。

 当てづらい攻撃だが、アスディーグの全重量を最大限加速させた上で一点集中させるため威力はそれなりに高く、ゴーレムのように堅牢な防御を誇る敵との相性はいい。

 

「グ、オオオォォォォオオォォォ!!」

 

 ゴーレムも気付いたらしい。

 顔などろくになかったが、上を向きその巨大な拳を突き出そうとしている。

 

 だが――

 

「遅い……っ!」

 

――竜毒牙剣を突き立てる方が速かった。

 

  ガギャアアアアアア!!

 

 耳障りな金属質の擦過音が響き、ゴーレムの右肩に竜毒牙剣が深く突き刺さる。

 

「消え去れ」

 

 瞬間、剣内部のエネルギーを《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》で変質させ解放。

 ゴーレムの内部から消滅の毒が侵食していくが、ゴーレムもただやられるだけではなかった。

 

 頭部が開き、宝石のような部分が露出。光が溜め込まれている。

 

(撃つ気か……!)

 

 タイミングは少々シビアだが、無論、撃たせる気など無い。

 竜毒牙剣のもう片方を手に持ち、ショットモードを起動。衝撃波を放とうとして――

 

  ドガァァァァ!!

 

――どこからか飛んできた六発の小型ミサイルが、光弾を放とうとしたゴーレムの頭部に直撃した。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

「当たった!?」

 

 前回まったく傷を付けられなかった反省を生かすため、今度は拡張領域にミサイルランチャーを搭載していました。

 今まで私が使ったことのある装備の中では最高火力の重火器。これで通じなかったら現時点で私が使える火器がほとんど通じない事になります。どころか、打鉄が装備できる装備の中でも単射では有数の火力を持つこの装備が通じなければ、そもそも通常の打鉄では根幹的に火力が不足している事を露呈することになります。

 

「……簪ちゃん、まだよ!」

「……簪、もう一発だ!」

 

 しかし、煙が晴れた直後、そこには僅かに黒い跡がついただけの巨人のようなバケモノがいました。

 今回の作戦を立案したお姉ちゃんとある理由により同行してくれた箒が確認して叫んだ時、私も二射目を撃とうとして――

 

「……え?」

 

――あの巨人のようなバケモノが、倒れました。

 よく見れば、あの宝石のような部分の輝きも消失しています。

 

(もしかして……!)

 

 白い機体の、流星のような最初の一撃。

 あの時点で勝敗は決していたのかもしれない。そう考えると、私のやった事は完全に蛇足ではないかと思い凹みました。

 

 ですが、ここで止まってもいられません。ひとまず事態が収まった事に安堵しつつ、もう一つの目的を果たすために移動し始めました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 箒

 

(…あの、白い機体。

 あの機体が、簪がこの前遭遇した機体……)

 

 最初に映像を見せてもらったとき、目を疑った。

 

 圧倒的な戦闘力を見せつけた、異様な機体。それを駆る操縦技術。

 だが、私にとってそれは二の次以下だった。

 

 その顔を見た直後、色々な感情がないまぜになって湧き上がってきた。

 

 冷静の考えれば、ありえないはずの人。だけど、どうしてもその人を連想した。

 

 記憶に残っている姿とはずいぶんと背丈が違い、目付きも違っていたが……どうしても、その人の面影を感じてしまっていた。

 

 

(お前は……一夏、なのか?)

 

 

 そもそも男である以上ISを扱えるはずは無く、しかも彼は……。

 

(いや、今はまだ決まったわけじゃない)

 

 今は仮面を付けその素顔を隠している白い機体の搭乗者に疑問を抱きながら、私は同行していた二人と共に移動を開始した。

 

 

―――――――――

 

 

Side 楯無

 

 今回の作戦を立案したのは私だった。

 目的もやる事も至ってシンプル。

 

 一つ目の目的は、あの未確認生物に本当にISは通じないのかどうかを調べる事。

 過程としてはあの未確認生物に高火力の重火器を当て、その反応を確かめるだけ。そのために簪ちゃんにはわざわざミサイルランチャーを持ってきてもらった。

 結果は散々。一応ミサイルが着弾した直後に巨人のような未確認生物が倒れたように見えたけど、それ以前にあの機体が突き立てた一撃が聞いたと考えた方がいいのは分かり切っている。

 

(となると、ここからが正念場かしら)

 

 そして、二つ目の目的。あの白い機体が私たちの敵か否かを調べること。

 今現在の私たちがあの未確認生物に対して圧倒的に戦力と知識、経験が不足している。対して、あの白い機体は圧倒的な戦闘能力を見せて二回の勝利。この部分だけ切り取ってみても、あの白い機体を敵に回したくないと言わしてせしめるには十分。

 だけど、今のままではまだ明確に敵かどうか分からない。

 

(でも……敵には思えないのよねぇ)

 

 今回の作戦にあたり、この危険な橋を渡ることにした理由。それは単純に、この白い機体の搭乗者が私達に対して害意を持っているようにはあまり思えなかったから。

 もちろん、理由もある。

 

 まず一つ目は、先日の戦闘の時の事。簪ちゃんと運転手さんをわざわざ助けに入り、その後の戦闘を引き受けていた事。この事実を公表しない以上、どう見ても助けるため以外の目的が無い。それ以外の目的で行ったにしてはリスクが大きすぎる。

 二つ目はこれまでの行動。あの映像から顔や全身のアップを作製し、先日の戦闘があった場所の付近を中心に捜索した。結果は大当たりで、意外と早く発見。その後は怪しまれない程度に監視。常に同じ人を付けると気付かれかねないので、そこは人海戦術と監視カメラでカバー。結果的に何を調べていたかがある程度分かったため、来そうな場所をいくつか選定、人払いを済ませてから監視カメラを予め設置、待機していた。その後、見事にその内の一ヶ所に来た。この事から、どちらかと言えば敵対対象があの未確認生物に向いてるんじゃないかと推測した。

 

 この作戦の決行に当たり不満があるとすれば、私以外に二人がついてきたこと。

 本当は、この一連の作戦も私一人でやるつもりだった。けれど、二人が珍しく譲らなかった。二人には出来れば危険な事をして欲しくなかった手前、私個人としては参加に乗り気じゃなかったのだけれど。

 

 幾許もかけないで移動を済ませ、白い機体の周囲を三機で囲む。普通の相手だったら十分勝てる布陣だけど、相手が相手なので油断できない。

 

「そこの白い機体の搭乗者さん。

 できればすこ~し動かないで貰えるかしら?」

 

 軽い口調で話しかけ、様子を窺う。

 無論、相手も警戒して二刀の大剣を構えた。さらに、各部の装甲にも剣のようなものが追加されている。

 

 

 さて、ある意味ここからが最大の勝負ね。


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