IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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第六章(6):導かれた終焉

Side 簪

 

「衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置を確認……」

 

 高速飛行しつつ、目標との距離を確認。

 

「デュノアさん。接敵まで、後5分」

『了解。

 接触し次第先制攻撃、だね?』

 

 確認した時点で今作戦でペアを組んでいるデュノアさんとも情報を共有しておく。

 

「うん。

 ここで、できるだけ削っておきたいけど」

「深追いは禁物、だね」

 

 デュノアさんと互いに頷き合い、この場における鉄則を確認する。

 今この場において、確認している敵は《福音》だけ。けれど、そもそもとしてISの暴走という前代未聞の事態の原因さえもはっきりとしないこの状況では、慎重にならざるを得なかった。

 それを抜きにしても、《福音》自体が私たちにとって圧倒的に荷が重すぎる相手である以上は深追いなんて出来るはずなかった。

 

『こちらでも、標的を確認しましたわ』

『間も無く待機ポイントに着く。

 作戦開始タイミングはそちらに任せるぞ』

「「了解」」

 

 二人揃ってボーデヴィッヒさんに返事を返して、そのまま作戦を続けていきます。

 

『こちら剣崎。

 目標へと接近中だが、後6分30秒ほどかかる』

「了解しました」

『了解だ』

 

 箒と鈴の現在位置も確認。確かに、私たちよりも遅れている。このまま行けば、作戦通りに私たちが先行して当たることになる。

 

「接敵まで後1分」

 

 カウントが否応なく進む。まだ始まってもいないのに、手に汗を握っていた。

 

「目標、目視で確認」

 

 間も無く、射程内。

 

「作戦開始!」

 

 射程内に入った直後、宣言してからトリガーを引く。

 私とデュノアさん二人での同時攻撃が、《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》へと向かっていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 自衛隊基地から半ば無理やり飛び去り、離脱していく。

 

『影内君、もうそろそろ機体の切り替えポイントよ』

 

 更識会長からの指示に、機竜を《ユナイテッド・ワイバーン》から《アスディーグ》に切り替えるポイントに差し掛かろうとしていた。

 

「そんなところに何か用か?

 ()()()()

 

 そんなところに現れたのは、黒髪を短く切り揃えた、外見から推測される年齢では俺とそこまで変わらないISを纏っている少女。纏っているISは背面に蝶の羽に見えなくもないユニットを接続しているが、色合いは《ブルー・ティアーズ》のそれよりも暗く深い青であり、全体的にはオルコットの《ブルー・ティアーズ》の意匠を踏襲しているようにも見える。

 

『……何処の誰だ』

 

 言葉は少なに、だが警戒は一切解かずに問いかける。答えが返ってくるとは思っていなかったが、意外なことに相手は答えた。

 

「答える義理はない。そして、お前にはここで死んでもらう。」

 

 その言葉に、即座に戦闘態勢を整える。

 

  ビシュシュシュン!

 

 即座に切り離されたオルコットのそれとは随分と形状の違うビットから、ビーム弾が放たれる。

 背翼の推進器と《機竜光翼(フォトンウイング)》を起動、回避へと移っていく。

 

「《竜毒牙剣(タスクブレード)》、ライフルモード」

 

 さらに、同時進行で《竜毒牙剣》のライフルモードを起動。牽制射撃を織り交ぜつつ、回避していく。

 

(……ビームを曲げた、か。

 確か、偏光射撃(フレキシブル)、だったな)

 

 だが、回避した先に追いすがるように曲がってくるビーム弾を見て軌道を変える。同時に、その技術を使える時点でそれなりかそれ以上の手練れであることが窺える。

 

(ええい、何がどうなっている!?)

 

 かなりの実力者に襲われた上、向こうは既に此方のことを知っている。

 

「更識会長、少々宜しいでしょうか?」

 

 迷うことなく更識会長へと連絡。

 

『敵の正体?』

「お願いします」

『分かったわ』

 

 此方が要件を言う前に、すでに更識会長はその内容を予想しているみたいだった。

 そして、二つ返事で承諾してくれる当たりやはりこの世界での情報戦では頼りになると感じた。

 

「ショットモード」

 

 ライフルモードにしていた《竜毒牙剣》の内片方をショットモードへと切り替え、斬撃を飛ばす。暗い青色のISはそのまま回避に移るが、その射撃は一切衰えることを知らない。変わらず、偏光射撃の嵐が襲ってきている。

 

(……とは言え、避けられないわけでもないか)

 

 初見であったオルコットとの時はとにかく、二度目ともなればある程度は冷静にもなれる。数そのものは多いが、その隙間を縫うように、あるいは一瞬だけ《竜毒牙剣》をパワードモードに切り替えて防いでいく。

 

(とは言え、時間をかけている場合でもない。

 早々に踏み込ませてもらう!)

 

 背翼の《機竜光翼(フォトンウイング)》を準備しつつ、速度を上げて行く。さらに、その中にも緩急をつけて狙いを出来うる限り絞らせないように距離を詰めていく。

 

「……さすがに、専用機とは言えISで神装機竜の相手は厳しいか」

 

 ただの確認のように、特に感慨も抱かずに自身のISの力不足を言い切っていた。

 だが、不思議とそこに焦りや恐怖といった感情は見受けられない。

 

D(ドラグナイト)S(ストラトス)S(システム)、起動」

 

 深い青のISを駆る少女が聞きなれない単語を口にした直後、そのISの右腕部分が()()()()()。さながら、VTシステムを起動させた時の《シュヴァルツェア・レーゲン》を彷彿とさせるように。

 その直後、溶け始めた右腕の裾から出てきたのは―――豪華な宝飾に彩られた鞘に収められた、一振りの剣だった。

 ISの装備としてはあまりにも不似合いなそれに、しかしこの一連の流れと現象と握りしめられた剣にはあまりにも心当たりがあった。

 

「――天へ舞上がれ、守り人たる多頭の魔竜。かの怨敵を滅せよ、〈ラードゥーン〉」

 

 さらに放たれた言葉は、それ以外などありえない。

 神装機竜の詠唱譜(パスコード)だった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

  ドシュドシュドシュドシュドシュシュ!

 

 私が放った《打鉄弐式》の主装備《山嵐》の多連装ミサイルが《福音》へと向かっていく。

 

  ドンッ! ガキュウゥゥ!

 

 同じように、デュノアさんが《イクス・ラファール》になってから追加された装備《オクスタン・ランチャー》を用いて先制攻撃を仕掛けていきます。実弾とビーム、2種類の弾丸が《福音》へと迫っていきました。

 

『La』

 

 ですが、《山嵐》のミサイルは《銀の鐘(シルバー・ベル)》による多連装エネルギー砲で撃ち落としにかかってきています。デュノアさんのライフルの弾丸も、そのまま回避軌道に移ってよけようとしていました。

 

「その、程度で……!」

 

 ですが、そう易々と回避させるつもりなんてありません。

 今回の追加装備と同時に、《マルチロックオン・システム》も本来のそれが搭載されているからです。

 

(コース修正……再入力……当たらないように、当てる!)

 

 《銀の鐘》による多連装ビームの嵐の中、僅かに空いた隙間の中を擦り抜けるようにコースを修正して再入力。《山嵐》のミサイルはそれの通りにビームを避けるような動き方をしながら《銀の福音》へと変わらずに殺到していきます。

 さらに、デュノアさんも《オクスタン・ランチャー》が外れたとみるや否や背面へと再マウント、直後に一瞬でアサルトカノン《ガルム》を両手に呼び出すと即座に銃撃へと移っていきます。

 

  ドドドドドドンッ!

 

 そのまま先制攻撃が着弾していく。

 

『La---lalalalala!!』

 

 ですが、《福音》もこの程度では小手調べにもならない様子でした。大した損傷も見受けられず、そのまま私たちの方へと向かってきます。

 その翼には、再度の攻撃をするためのエネルギーが蓄えられていまるようでした。ビームの発射部分にエネルギー反応が見られます。

 

「回避!」

『了解!』

 

 とっさにデュノアさんにも回避を促し、私もスラスターを吹かせていきます。

 ですが、それでもすべては回避できません。そこで、私は防御用追加パッケージの《不動岩山》の防壁を展開、避け切れない物のみ防御していきます。デュノアさんも同様に、肩部の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に内蔵されている《ガーデン・カーテンⅡ》をを使用して防いでいるみたいです。

 

(このまま、攻撃を重ねて……!)

 

 攻撃が止んだその瞬間に、連射型過電粒子砲《春雷》を撃ちまくります。組んでいるデュノアさんも両腕の装甲に直接接続されている三連装55口径突撃銃(アサルトライフル)《ヴェントⅡ》と両手に持った連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》の二挺による一斉射撃を仕掛けています。

 

  キュオキュオキュオキュオ! ガガガガガガ! ドッ!

 

 それぞれの攻撃が撃ち込まれていきますが、それでも《福音》には目立ったダメージが見受けられません。

 

「固い……!」

「私達だけで倒す必要は無い! 今はとにかく引き付けて!」

「分かってる!」

 

 デュノアさんの言葉に思わず反射的に怒鳴るように言ってしまったけれど、デュノアさんも分かっているのかそれ以上は何も言わずにひたすらに陽動に徹していました。そのまま、十分前後は戦っていたと思えます。感覚的には一時間にも感じられましたが。

 ですが、それでも限界があり、徐々に押され始めています。このままでは、そう長くは持たない。

 

 ――そう、()()()()()()

 

「ハアアアアァァァァァ!!」

 

 圧倒的な加速で接近してきた、紅色の機影。余りにも見覚えのありすぎるそれに、体の奥底から活力が湧いてくるような気持ちになりました。

 結果的にはそのISの攻撃は回避されてしまいましたが、その時には既に次の一手が打たれています。

 

「アタシもいるわよ!」

 

 さらに、赤い炎を纏った弾丸が乱射されます。その射手は、これまた馴染みの深い人でした。

 

「箒、鈴!」

「待たせたな」

「前衛に入るから、中衛は任せたわよ!」

 

 二人から勇ましい一言を貰いつつ、さらに作戦を続けていく。

 今からは私たちが攻撃の主力を担いつつ、二人に陽動の役割を任せて遅滞戦闘に入っていく。本格的な攻撃は後衛の二人の準備が整ってからだけど、それでもできる限りの攻撃は続けていく。

 

(後は、オルコットさんとボーデヴィッヒさんの二人の準備が整うのを待つだけ……)

 

 まず、私から《山嵐》のミサイルの一斉射を放ちます。それ自体は《マルチロックオン・システム》も用いて出来る限り当てて行きますが、それでもさすがにすべてを当てきれるものではありませんでした。

 ですが、攻撃はそれだけに終わりません、今度はデュノアさんが私が《山嵐》で作った時間を利用して背後へと回り込むと、そのまま背面のウェポンラックに接続された25mm6連砲身ガトリング砲《ファランクスⅡ》で攻撃していきます。さすがに第二世代で圧倒的な弾幕性能を誇っていた《クアッド・ファランクス》に搭載されていたそれを簡略化したとは言っても、攻撃能力は十分過ぎる物があります。

 

  ガガガガガガガガガガガガガ!!

 

 大量のマズルフラッシュと共に吐き出された弾丸の雨が《福音》へと襲い掛かっていきます。

 

『La♪』

 

 ですが、《福音》相手にはこれだけでは大した損傷になっていません。

 

「ハアアァァァァ!」

 

 ですが、その弾幕の中を箒が瞬時加速(イグニッション・ブースト)瞬時旋回(イグニッション・ターン)を用いて接近すると、そのまま加速を殺さないまま《(ムラクモ)》を振り抜いて攻撃していきます。

 ですが、それも掠ったのみ。それ自体はダメージ源にあまりなっていません。

 

「これでも食らいなさい!」

 

 さらに、鈴が続いて攻撃していきます。拡散衝撃砲で一気に攻めたてつつ、青龍刀《双天牙月》を柄の部分で繋げ、ブーメランのように投げつける。

 各衝撃砲での足止めこそ出来ましたが、ブーメランはどう見ても搭乗者を無視しているとしか思えない軌道で避けるのみでした。

 

「ああもう! デタラメしてんじゃないわよ!」

 

 思わず文句が零れた鈴ですけど、それも仕方のないことです。

 試験機の意味合いもある私達の競技用ISとは違い、純粋に実践を想定して製作されたISである《福音》は純粋戦闘における性能においては私達のISを大きく上回っていると見ていいでしょう。

 故に、今の展開もそう驚くものではありません。

 

(それに―――次の一手は、もう準備出来ている!)

 

 通信から聞こえてきた声に、()()()()を待ちます。

 

  ドゴッ! ビシュウウゥゥン!

 

 唐突に、《福音》へと大口径の砲弾と一条の光弾が突き刺さりました。

 

『遅れてすまない。

 準備が整った、これより長距離砲撃による敵機への攻撃を開始する』

『私も、長距離狙撃による援護を開始しますわ』

 

 後衛のボーデヴィッヒさんとオルコットさんの準備が整ったらしく、二人も攻撃に参加し始めました。

 明らかに遠い場所からの攻撃に、定量的なシステム上の判断しかできない状態にある《福音》は判断に迷っている様子でした。

 しかし、それも僅かな間の事。

 

『La』

 

 すぐさま、《銀の鐘》の照準を後衛の二人の方へと向きます。ですが、そんなことはさせません。

 

「忘れてもらっては」

「困るのよ!」

 

 前衛の二人がすぐさま再接近し、攻撃を仕掛けます。有効打になったかどうかはとにかく、足止めとしては非常に有効でした。それでも放たれたビーム弾は私とデュノアさんの二人でそれぞれの防御用装備を駆使して防いでいきます。

 

 さらに、ここで嬉しい誤算が発生しました。

 

  ゴガンッ!

 

 明らかに後衛二人とは別な方向から放たれた弾丸。

 

『IS学園の生徒の皆さん、これまでの奮戦感謝します。

 ここからは、私達も参戦させて頂きます』

 

 それは、今聞こえてきた通信の主、つまりは自衛隊IS部隊から放たれたものでした。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

「――天へ舞上がれ、守り人たる多頭の魔竜。かの怨敵を滅せよ、〈ラードゥーン〉」

 

 その詠唱譜によって召喚された機竜は、深い青を基調に所々が白、白に近い淡い水色に光るラインが入った外観をしており、ティアマトと同程度の大きさの体躯を持っていた。ただし、その中に推進器と思われる装備は無く、足には陸戦機竜に特有の車輪(ドライブ)が見て取れることから、陸戦型神装機竜であることが推測できる。

 だが、本来は装甲が無いはずの部分に装甲が存在し、それがあまりに機竜を接続する前までに使用していたISを踏襲していたことからもう一つ、あることも推測できた。

 

  ビシュウウゥゥン!

 

 そうして姿を現した直後に放たれた、一筋の光弾。向こうの機竜―――《ラードゥーン》という名前らしい―――が手に持っていた機竜牙剣とライフルの相の子のような装備から放たれていた。察するに、《ラードゥーン》の特殊武装なのだろう。

 

『……VTシステムの黒幕は貴様等か』

「ああ、そうらしいな。私は直接関与していないから知らんが。

 それよりも、存外余裕だな」

 

 確かに向こうが接続した瞬間に撃ってきたために《機竜光翼》を用いて急旋回と急速離脱して避けたが、それ自体は大したことではない。

 むしろ、問題は向こうが陸戦型機竜であるにも関わらずに飛行し続けている事。恐らくは以前の《VTシステム》の時と同様、ISとしての機能を維持したまま機竜を纏っているために出来た芸当だろう。

 

(装甲と駆動出力に優れた陸戦型が空を飛ぶか……厄介な)

 

 さらに、向こうは以前にあったボーデヴィッヒの《シュヴァルツィア・レーゲン》に搭載された《VTシステム》の一件への関与をあっさりと認めた。

 

(よほどの間抜けか、はたまた問題ないほどの背後関係があるのか……)

 

 これまでの行動から見るに、後者だろう事は容易に推測できる。そうなると、問題はその組織がいかなる組織か、と言う事である。

 

(とはいえ、こちらの世界の調査はやはり更識会長に頼る他無いか)

 

 早々に思考を切り上げ、戦闘へと集中していく。

 向こうは今度は背翼にあたる部分を展開してきた。だが、それは飛翔型機竜のそれとは違い、片翼につき三挺の《機竜息砲(キャノン)》が接続されたような形状になっている。そこから、合計六発の光弾が放たれた。一発一発が高威力であるうえ、両手に握られた特殊装備と背翼の形状をとっている特殊装備からの一斉者は単純に物量という意味でも脅威だった。

 だが、だからと言って回避できないわけでもない。適度に回避しつつ、接近のタイミングを計っていく。

 

「フ……このままでは埒が明かん。

 ()()()()()()()()()()()()

 

 そんな中、不意に聞こえてきたセリフ。それと同時に、目の前の機竜は牽制としか思えない散発的な攻撃を押しかけながら撤退しだした。

 

『逃がすか……!』

「いいのか?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その一言に、《銀の福音》のほうを思い出した。

 

(まさか……!)

 

 気づかれずにVTシステムを仕込めるような連中なのだし、暴走させる術を持っているのかもしれない。そう考えれば、今回の事態のタイミングの悪さにも説明がつく。

 

『……なんですって!?

 影内君、その敵との戦闘が片付き次第《銀の福音》の方へ向かって!』

「更識会長、一体何が!?」

『所属不明機が現れたわ。しかも、特徴が《ヴィーヴル》と酷似しているの!』

「……なんですって!?」

 

 その内容に、衝撃が走った。

 

(つまり、ここでの戦闘は足止めか……!)

 

 同時に、自分がまんまと敵の策略に乗っていたことを痛感して歯噛みする。

 けれど、今すべきはそんな事じゃない。

 

「そういう事だ。

 生憎、私はこれ以上関与する気は無いのでな。行くといい」

 

 それだけ言い残すと、目の前の敵は早々に去っていった。

 

「……行くしかないか」

 

 決断までに時間は必要無かった。すぐさま《福音》の方へと進路を向ける。その後は、焦る気持ちを押し殺しつつ、ひたすらに飛んで行った。

 

 

―――――――――

 

 

Side 簪

 

「これで……終わりです!」

 

 最後、自衛隊のIS部隊と一緒に協力しながら総攻撃を仕掛け続け、ついに無力化できました。ですが、さすがに最新鋭機というだけあって参加者全員の疲労が酷い事になっています。

 

「……目標の残存SE、0。無力化を確認しました。

 これより《銀の福音》および搭乗者を回収し帰投します」

 

 自衛隊IS部隊の隊長らしき人が基地へと通信していました。

 

「教官、任務完了しました。

 これより帰還します」

『よくやった。

 最後まで気を抜かずに帰ってこい』

 

 同じように、ボーデヴィッヒさんも現場責任者である織斑先生へと報告していました。

 

「おや、まだ来ていないのですか?

 Mも存外やるものですね」

 

 そんな中、不意に聞こえてきた声。

 発生源を見ると、いつの間にか四つ足が特徴的な機体が異様に細い槍のような装備をもって佇んでいました。余りにも異様な姿ですが、その姿には僅かながらの既視感を覚えました。

 

「まあ、いいですけどね。

 ひとまず、主演が来るまでは私の相手をして貰いますか」

 

 異様に丁寧な口調ですが、その口調には致命的に人間らしい抑揚が感じられない、一種異様なものにすら感じられます。

 それが、目の前の人間の不気味さをより引き立てていました。

 

「特殊武装、《竜髭棘槍(ニードル)》」

 

 それだけ呟いた直後、目の前の機体の槍の先端が僅かに発光しました。

 直後、目の前のISは一瞬消え―――此方が捕捉するより前に、自衛隊のISの内一機へと距離を詰めていました。そのまま、その槍を突き出しています。

 ですが、自衛隊のIS登場者もやられるばかりではなく、回避に移ります。

 

  キィンッ!

 

 金属同士がこすれる音が響き、自衛隊ISの方の非固定浮遊部位が貫かれ、爆散しました。

 

(ただ刺されただけなのに、爆散……?)

 

 その光景に、少しばかりの違和感を覚えました。

 確かに非固定浮遊部位には液体燃料なども搭載されている場合はありますが、今、自衛隊が使用しているISは《打鉄》です。その推進器はエネルギー式で、機能停止することはあっても爆散することは考えにくい方式でした。

 それが、すぐに爆散。あの槍には何かあると直感しました。

 

「ああ、言い忘れてましたが。この《竜髭棘槍》、刺さると刺した物体の内側にエネルギーを噴射するんですよ。さらに追加で言っておきますが、絶対防御とやらも貫通できますので」

 

 私の抱いた疑問に対する答えだけならまだしも、さらに追加された内容は普通のIS乗りにとって致命的で―――

 

「内側から焼かれたくないのでしたら、是非、必死になって避けてみて下さいな♪」

 

―――いっそ薄ら寒いほど、楽しそうに告げられた内容は背筋を凍らせました。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 全速力をもって現場へと向かった俺を待っていたのは、異様な装備を搭載した特装型強化汎用機竜《エクス・ドレイク》を駆る敵と、それを迎え撃とうとしているIS学園と自衛隊の面々だった。

 

「《機竜光翼》、《竜毒牙剣》ショットモード」

 

 すぐさまさらに加速し、同時に注意を此方に向けさせるためにある程度の攻撃を挟んでいく。

 攻撃行動を中断された機竜使い(ドラグナイト)の女も直ぐに此方を認め―――不意に、口元を三日月の形にゆがめた。

 

「―――さて、それでは()()()()()()使()()()()も来て役者が揃ったところで、主菜(メインディッシュ)と行きましょう。もう少し楽しみたかったのも、まあ本音ですが。

 私、『亡国六刑士(ファントム・サーヴァンツ)』の『棘刑(きょくけい)』からの贈り物です」

 

 直後、『棘刑』と名乗った女は、その手に持った異様に細い槍を―――真下に、放った。

 その意味不明の行動に、だが一度その一種異様ともいえる戦闘能力を見せつけられているだけに、全員が警戒する。

 だが、その時間は長く続かなかった。

 

  ……ボコボコボコボコ

 

 余りにも規模の大きい泡が水面に現れ、次いで何か巨大な影が見え始める。

 

  ザバアアァァァァアァァァ!

 

 それを認識してから間を置かず、何か巨大な、牙が無数についた吸盤を所狭しと張り付けた触手のようなものが海面を文字通り力任せに割りながら自衛隊所属のISの一機が締め上げられた。

 

「が……はっ!」

「チィッ!」

 

 咄嗟に握っていた《竜毒牙剣》の内一本をロングモードへと変更、さらに《消滅毒》も付与してから触手の近くまで接近し、神速制御(クイックドロウ)を用いて切り裂く。

 

(この触手は……)

 

 同時に、この現象を見て凄まじく嫌な思い出が蘇ってきた。

 

(まさか……)

 

 あまりにも嫌な予感に、冷や汗が流れ落ちる。

 

「さてさて、それでは《新王国の機竜使いさん》を始めとした皆様方には此方を相手して貰いましょう。

 行きなさいな、《イミテイト・ポセイドン》♪」

 

 ―――その直後、嘗てルクスさんに、その後にローザ卿とソフィス卿が復活した個体を倒した終焉神獣(ラグナレク)《ポセイドン》と外見上はほぼ同一の幻神獣(アビス)がその姿を現した。


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