Side シャルロット
「すまない。大分、遅れてしまったみたいだな」
臨海学校二日目のIS起動実習の時間、箒だけは
同時に、それはこれからもう一仕事が始まることを告げていた。
「で、手筈通りに頼めるか」
「ああ、俺は構わない」
「僕も大丈夫だよ」
箒の号令に、二つ返事で返す。この場の誰も、それに反対する気のある人は居なかった。
「それでは織斑教諭。
事前に話していたと思いますが、これから剣崎の荷物運びのために少々ISを使いますので」
「ああ、それに関しては事前に聞いているからいい。
だが、くれぐれも
「心得ています」
影内君が織斑先生に断りを入れた――心なしか、影内君の口調が何時もより僅かに刺々しい――後に、三人そろって例の荷物が置いてある場所まで飛んでいく。
「それにしても……ISをISで運ぶのなんて、初めてだよ」
「すまないな。
だが、運んだあとが本番になることをわすれないでくれ」
「分かってるよ。でしょ? 影内君」
「同意する。とはいっても、やることは普段と同じような模擬戦だし、問題も無いが」
そう、これからやる事はISの入ったコンテナの輸送。インストール中の機体をほぼそのまま入れているコンテナをIS三機がかりで輸送しようという算段だった。
その後は、影内君と僕とで箒が今纏っているISと摸擬戦を交代交代で行い、その間に休んでいる人間がインストール作業を進めていくことになっている。
「それにしても……」
「うん? どうかしたか?」
「なんていうかさ……今まで、箒の機体っていうと《陽炎》のイメージしかなかったから、《打鉄》を使っているのが何だか新鮮に見えちゃって……」
箒が今使っているISは、とあるテストのために用意、調整された《打鉄》。と言っても、外見で変更点があるのは腰の付近に一振りの近接ブレードがさしてあることくらい。ちょうど、日本のサムライを思い起こさせる感じになっている。
ちなみに、影内君も例の白い機体《アスディーグ》ではなく、普段通りの《ユナイテッド・ワイバーン》を纏っている。
「昔はこの機体に世話になったんだがな……それに、《陽炎》も一応は《打鉄》の改修機だぞ」
「さっきの追加ユニットも込みにするともう外見上の面影がほとんど残ってないよ……」
これは掛け値なしの本音だった。本当に面影と呼べるものがほとんどない。それだけ、箒の専用機として特化していったという事なんだろうけど。
「にしても、本当に《打鉄》に積んだんだな、ソレ……」
「《雪片弐型》か?
言い出しっぺはある意味でお前だろうに」
「いや、こんなに速く実物になるとは思っていなかったから、つい、な……」
影内君が若干、呆れたような声を出していました。
なんでも以前に色々あったらしく、あまりいい思い出のない装備とのこと。詳しくは僕も聞いてないから何とも言えないけど、言い出しっぺと言う言葉にはそういう意味もあるんだろうなとも思った。
「三人それぞれに色々あるみたいだけど。
今は、やることやっちゃおうよ」
「そうだな」
「委細心得た」
色々と思う事はあるけれど、今やるべきことは変わらない。
そう思って、二人にも声をかけた。
―――――――――
Side 一夏
「で、最初は俺からか」
「ああ。普段通りに頼む」
場所を移し、再び海岸へと来ていた。
目の前には、今回のテスト専用に改造を施された《打鉄》を纏った剣崎が構えている。その手には、普段握っている《
「装備のテストとは言え、手は抜かないぞ?」
「無論だ。それでこそ、意味がある」
互いに叩いた軽口はこれで終わり。俺も剣崎も互いを見据えながら、静かに構えをとる。剣崎は正眼の構えに近い形を。俺は剣道の二刀流における中段の構えと呼ばれる形に近いものを、とは言っても持っている得物は大剣の二刀だったが。
接近のタイミングを計るが、やはりと言うか隙が見つからない。やがて俺も剣崎も焦れてしまい、そのまま示し合わせたかのように全力でぶつかり合った。
「フッ!」
息を吐きながら二振りの《機竜牙剣》を重ねて振るう。
「ハァッ!」
対し、剣崎は俺が振り抜いた方向と同じ方向に回りしつつ、事前に構えた今回のテスト装備《雪片弐型》を使って受け流してくる。僅かな間、火花が散った。
次の瞬間には、剣崎が動いている。受け流した動きそのままに
こちらも当然ただで受けるはずも無く、二振りの《機竜牙剣》の内片方を
剣崎は攻め手を緩めずにさらに踏み込んでくる。袈裟懸けの一撃が外れたと見るや、返す刀で再び此方へと切り掛かってくる。
「相変らずの腕前……だな!」
返す刀の一閃を、二振り目の《機竜牙剣》で受流す。そのまま蹴りに移行するが、剣崎はわずかに後ろに下がって避けると《雪片弐型》を構えたまま一瞬固まった。
直後、《雪片弐型》の刀身が青白く発光する。と言うよりは、実体剣の上にエネルギー刃が重ねられた感じだった。
(確か……エネルギーブレード形態もあったんだったな)
随分と前に読んだスペック表を思い出しながら、その正体を掴む。同時に、防御か回避を重視しなければならなくなった事に思い当たり、そちらへと戦い方を切り替える。
再び剣崎が
一方、剣崎はさらに攻めてくる。どこか、攻め急いでいる印象だった。
(さて……例の機能は使っているのかいないのか)
此方も多少攻めあぐねるが、だからと言って反撃出来ない訳でもない。
反撃の機会を窺いつつ、適度に回避と防御を織り交ぜてそのまま摸擬戦を続けていった。
―――――――――
Side 箒
(ええい、馬鹿食い過ぎるぞ!)
ただでさえエネルギーゲインが武装用、装甲用、機動用の三本全てが一緒くたになっていて気を使うというのに、《零落白夜》の馬鹿食いが拍車をかけていた。
(これだったら、無理言ってでも《
通常、攻撃は装備の選択や攻撃方法との兼ね合いである程度は能動的に管理できるし、機動系も同様。装甲にあたるSEは当てられれば減るため能動的とは言えないが、それでもそれ単体に回せる残量が把握できた。
だが、この三つが全て一緒になっているとなると話が違ってくる。攻撃行動を最小限に済ませて回避と接近行動に必要な移動用のエネルギーを確保しつつ、さらに前者二つを充分にこなすためには被弾を強力減らさなければいけない。
畳の上の水練、絵に描いた餅、机上の空論とはこの事だ。少なくとも、この攻撃方法でまともに戦闘をこなせるのはこれ専門に修練を積むか
無意識に、攻め手に急いでいく。
(……やはり、相手が影内ともなるとそう易々とは行かないか!)
だが、一向にこの剣が届く気配が無い。
やむを得ずに僅かに距離を開け、《雪片弐型》のレーザーブレードを取りうる限りの最短の時間で停止させ、通常のブレードに戻す。
(……一撃当てれば逆転できる、とは言うが。
格上どころか、同格相手でもこれは難しいぞ。やはり、二機以上いない事には……)
完全に初見の相手ならとにかく、影内は諸般の事情である程度はこの剣の事を知っている。となれば、対策も取れよう物。そもそも、それを抜きにしても影内自身が相当以上の使い手、そう容易い相手じゃない。
そんな中で、エネルギー管理がしにくいのは致命的だった。長時間のブーストもしにくく、被弾すればするだけジリ貧となる。加えて、攻撃の要とせざるを得ない《零落白夜》も馬鹿食いと至近距離の格闘戦を避け得ない攻撃レンジの関係上、使用できるタイミングは極端に限られる。
単純に二機以上いる状況ならもう一機にフォローなりなんなりを頼み込む形で可能性を広げることはできるが、今は一対一。期待するべくもない。
(それに……深く踏み込むのも、それはそれで気が引けるしな)
そして、装備自体の特性。《零落白夜》がエネルギーを対消滅させる、つまりSEを文字通り消滅させる装備である以上、下手に出力を上げすぎれば文字通り人体切断の大事故を引き起こすことになる。回避にも防御にも攻撃にも気を遣う、気難しい装備だった。
(これで、どうやれと……!)
何とかして模擬戦を続けていくが、そう長く持ち堪えられるものではない。間もなく、私のSEは《零落白夜》の使いすぎと影内からの的確な反撃によって底を付いた。
―――――――――
Side 簪
「……何時もより攻め急いでた、のかな?」
箒の戦い方を見ていて、自然とそんな事を口にしてしまっていた。
と言うのも、普段の箒なら回避したり仕切り直したりするような場面でも攻勢に出ていたような印象があったためです。
「確かにな。
攻撃に対して積極的だったという程度の話しではない」
「後半からは特に顕著でしたわね。
動きに精彩を欠いていた印象でしたわ」
「ぶっちゃけ、《陽炎》の方がいい動きしているわね。
あれ、そんなに使い辛いのかしら?」
一緒に見ていた他の専用気持ち達も似たような感想を抱いたようで口々に似たような感想を言っている。言っていないのと言えば、次の対戦相手のデュノアさん位だった。
「……フゥ……」
そうこう言い合っていたら、当の二人が下りてきた。
「お疲れ様」
「どうだった~?」
ひとまず、私は冷えたスポーツドリンク二本を、本音がタオル二枚を持って二人へと近づきつつ、軽く感想を聞いてみることにする。
「……何と言うか。
気難しい、な」
最初に出てきた一言に、少し不思議な感じがした。少なくても、見ていた限りでは大分戦い辛そうだったけど
「確かに、対ISの攻撃能力と言う一点では素晴らしいものがある。《打鉄》の標準的な近接ブレードに形状が近いのが僅かなりと扱いやすさの手助けになっている。剣術の心得があれば振れはする程度には、な」
「と言うか、救いがそれしか無くない?」
割とグッサリ来る一言を鈴が直球で言い放ったけれど、箒は苦笑いしただけでした。
其の後は、どれから言うべきか迷っているような感じでしたふが、やがて意を決したように其の後に来るものに移っていった。
「だが、その……やはり燃費だな。エネルギーゲイン三本統一でこの馬鹿食いだから、正直に言って時間が経てば経つほど焦る。しかも、手段もこれ一本だから牽制や他の手段と言うのも選択できないというのがな。蹴りか何か使えればまだましだろうが、それでも近接攻撃の域を出ない以上はやはり戦術そのものの幅が狭い。しかも、これ以外に武器を積めない以上は余計にな」
「私の《ブルー・ティアーズ》より極端ですわね……と言うか、箒さんでさえ持て余す近接装備とは」
特化型と言う意味では似通った部分のあるオルコットさんが溜息を吐きながら言いました。箒も「単純に腕前の問題もある」とだけ返答しましたが、答える際に困ったような表情を浮かべていました。
「僚機がいる状況で連携が出来たりすれば援護や……条件さえ満たせばある程度の補給も可能だから、基本は二機以上だろう。これを単機で運用できるのは素直に『特別な人』と呼べる領域の達人か、よほどの酔狂、あるいはそれ以外の選択肢が無いかくらいだろうな。
まあ、私の場合は《陽炎》の《
「連携をとるにしても、中距離以遠の苦手な距離のカバーから近接戦での連携……やることが多いな。一点特化型の機体と組めばそれだけである程度戦略が読まれる可能性もある。
対して、相手方からすれば対策自体は容易。しかも教官が一度大々的に使用した能力である以上は欠点も知られている可能性もある、か……。なるほど、気難しいというわけだ」
そこまで言い切ると、スポーツドリンクを一口飲んで一息ついていた。でも、飲み終わった後の顔は試合に挑む前にいつも見せている、鋭ささえ伴った真剣そのものと言える顔だった。
「……何か~、気になる事でもあったの?~」
本音がその顔を下から覗き込むようにして、箒に聞いていた。私も同じ事を思ったけれど、ここですぐに聞ける当たり本音は凄いと思う。
「ああ、いや……例の機体の事で、ちょっとな」
この一言に私と本音は顔を見合わせると、そのまま少し顔を近づけて声を潜めながら話し始めました。
「何か思い当たることが?」
「機能と言うか、能力の方でな……。
ついさっきだが、エネルギー消費の激しさを指摘したらそれは問題にならないという発言があった。しかも、電話の時には《白式》の対になるといった旨の発言も……」
そこまで言ったところで、私も箒の言わんとすることに気が付いた。
「もしかして、篠ノ之束博士が渡そうとしたISの能力って……」
「十中八九、エネルギーの供給に特化した能力だろうな……。
まさか無制限のエネルギー供給なんて言うインチキ臭い能力などではなかろうが、それでもどれだけのエネルギーを詰め込んだことやら……」
若干の呆れを含んだ感想を漏らした箒だったけれど、その眼から零れた光は真剣を思わせるほどに酷く鋭利だった。
「……競技としてのIS戦闘も、今は始まってそんなに経っていないからルールも曖昧な部分が多いけれど。
もし、そういうものがあるって広く認識されたら規制掛かりそうだね」
「同意だな。既にして《イクス・ラファール》の《砂漠の呼び水》があるが、あれとは違って入手する手段が極端に少ない事が拍車をかけかねん。
だからこそ、活躍できるとすれば実戦となるのだろうが……」
そこから先は言い淀んだ箒でしたが、それから先は私にもわかります。恐らくは、同じように聞いている本音にも。
(まるで……実戦をしてほしいかのようだよ)
内心で不安感を抱いた私でしたが、一緒に聞いていたもう一人は違ったみたいでした。
「でも~、私はちょっと安心したかな~」
「……? どういう事だ?」
「ほーちゃんが、ちゃんとそういうことを話してくれた事。
前みたいに、一人だけで思い詰めたりして無いんだな~って、さ」
相変らずゆっくりとした口調で、にへらっっという音が聞こえてきそうな笑い顔で応えていました。
でも、それは私も同じ気持ちです。
「確かにそうだね。
一人で思い詰めなくなったのは、私も素直に嬉しいよ。それだけ信頼されているっていう事だとも思えるしね」
率直に想いを述べた所、箒は一気に顔を赤くして俯いてしまいました。
「べ、別に……信じていないとは言っていないだろう……」
その一言に本音と一瞬向き合った後、二人揃って笑顔になっていました。それを見て、箒はますます顔を赤くしていきます。
「さて!」
ついに箒は赤くなった顔を誤魔化すように立ち上がると、そのまま次の試験に行こうとします。
「もうそろそろデュノアとの模擬戦の時間だ。
行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃ~い」
二人揃って送りだしたら、箒は今度はわずかに嬉しそうな表情で応えてくれました。
―――――――――
Side シャルロット
「さてっと、次は僕だね」
「そうだな、よろしく頼む」
短い挨拶を交わして、互いに睨みあった。箒とは一度ペアを組んだこともあって動き方などはある程度知っているけれど、今はその時とは互いに機体が違うという事もあってどこか緊張感もあった。
ゴッ ドッ
互いにブーストを吹かす。僕は距離を取ろうと、箒は距離を詰めようと。
箒の獲物は剣であるのに対し、僕は基本は銃。距離を取ろうとするのは必然だった。そのまま両腕に備えられた三連装55口径
(だけど……いつもより、少し前のめりな感じになっているのかな?)
そんなやり取りの中で感じた違和感。その正体に思い当たるのにそう時間はかからなかった。
やっぱり、使いなれない装備と言うのは手強いらしい。
(けど、容赦しないよ!)
そのまま出来る限り一定の距離を維持するように立ち回りつつ、銃撃を中心に攻撃していく。接近されれば即座に手の武器を《ブレッド・スライサー》に持ち替えて反撃、場合によっては肩の複合防盾に内蔵されている69口径パイルバンカー《
だけど、箒もやられるばかりじゃない。
「ハァッ!」
裂帛の気合とともに横一文字の一閃が放たれる。その鋭さは箒自身の剣技の熟練を示すかのようだったけれど、それ自体は後ろ向きに進むことで回避できる。そのまま
だけど、放った弾丸が箒に着弾することは無かった。箒は
(やっぱり、いい腕してるな……でも!)
僕も適度に距離を保ちながら、時折近接戦を混ぜていく。
箒も箒で強いけれど、それでもこの場に限ってはほぼ同等かそれ以上の機動力を持つ僕の《イクス・ラファール》に分がある。
間もなく、箒を何とか削り切って勝利を収めることができた。
―――――――――
Side 一夏
それぞれのインストール作業がもうそろそろ終わろうかという時間。剣崎の試験も終わり、無事に新しい姿となった《陽炎》の最終チェックを済ませていた時だった。
「……?」
例の腕時計型通信機への着信。それだけで、何が起こったかは察せた。
「簪、少しいいか?」
「何?」
簪に声をかけ、簡単に用件を伝える。
これが鳴った以上は、最悪の事態に備えて少しでも時間が欲しかった。
「少し席を外す。悪いが、先生方に何か聞かれたら伝えておいてくれないか?」
「いいけど……要件は?」
「本社からの呼び出しだ」
この一言で、簪はほぼ全て察したらしかった。一瞬だけ目付きを鋭くすると、そのままいつも通りに戻って一つ頷いた。
「分かった。伝えておくね」
「恩に着る」
俺も一言だけ返事を返し、そのまま手ごろな周辺の森の中へと入っていく。
「ご用件は?」
『今すぐに指定した自衛隊駐屯地に飛んでちょうだい』
この言葉を聞いた時にはすでに《ユナイテッド・ワイバーン》を準備し終え、迷彩を起動し、例の仮面と体型を隠せるローブを着用済みであり、すぐに行動できる状態だった。そのため、直ぐに移動を開始する。
諸々の事情は、移動中にでも聞けばいい。
『指定座標には仮面に表示されるガイド通りに行けば付くわ。けれど、途中で一旦降りるように指示されるから、その時に機体を切り替えて』
「委細了解しました。
それで、何が起こったのでしょうか?」
道中、指定される方向に飛びながら更識会長に詳しい事を聞いておく。やはり、事前の情報は出来る限り詳細なものが欲しかった。
『指定した地点の自衛隊駐屯地に、例の化け物が出現したの。
画像データからの推測になるけど、以前の「
今はその基地に所属していたIS部隊を中心とした迎撃戦が展開されているけれど、厳しいみたいね』
齎された情報に、焦燥感が募った。
(以前の『巣』の直衛となると、ガーゴイルか……!)
さすがに本職の自衛隊ともなればとも思ったが、以前のフランス軍の一件があった手前、出し得る限りの速度を持って飛翔し続ける。
(間に合えよ……!)
細かい情報や状況を出来る限り聞きつつ、ただひたすらに飛んでいった。
―――――――――
Side 簪
「お、織斑先生~~!!」
私が皆の元に帰って来た時、一般生徒の指導を担当していたはずの山田先生が急に織斑先生の元へと駆け寄ってきていた。
その様子から、ただならない事態が起こったことが容易に分かる。
「山田先生、一体何が起こったんだ?」
「そ、それが……!」
山田先生は息を切らしながら織斑先生の方にタブレット型の情報端末を渡しました、それに表示されていた内容を読み取った織斑先生も、見る見るうちに目の色と表情を変えていきました。
「……全員、課外授業を一旦中止! たった今、学園から非常事態宣言が通達された! 一般生徒は全員旅館で別命あるまで待機していろ!
それと、専用機持ち全員は即刻、指定した部屋に来い! 詳細はそこで話す、いいな!?」
そう間を置かずに織斑先生がその場の全員に聞こえるように素早く指示を出し、全体を動かしていく。私達専用機持ちはもとより、一般生徒も織斑先生の発した言葉からすぐに事態の緊急性を察して行動していく。
其の後は早く、一般生徒も五分もする頃にはそれぞれに割り当てられた部屋へと戻り終わり、私達も指定された部屋へと来ていた。通された部屋自体は大部屋だったけれど、運び込まれた機材の類に完全に様変わりしていて、即席の作戦指令室と化している。
「まず初めに言っておく。これから話す内容は、その全てが最重要軍事機密事項に該当する。
決して口外するなよ。情報の漏洩が発覚した場合、査問委員会による裁判と最低でも二年の監視が付く。覚悟の無い者は今すぐに退室しろ」
その一言を聞いて、誰も動こうとしない。そのことを確認した織斑先生が、比較的ゆっくりとした口調で続きを話ていきます。
「今から二時間前、アメリカとイスラエルが共同開発した第三世代型軍用IS《
その逃走ルートは、現在――東京の方を向いている」
ここまで言ったところで、織斑先生は一回言葉を切りました。其の後、私達の方を見据えながら、続く言葉を言い放ちました。
「諸君に《銀の福音》――以後は《福音》と呼称するが――これの迎撃を行って貰いたい」
―――これが、長い一夜の始まりでした。