Side 一夏
「海ぃ! 見えたぁ!」
「イヤッホオオオォォォォ!」
「嗚呼……潮が香る……♪」
バスに揺られて暫く、出発当初からテンションの高かったIS学園一年一組の面々だったが、海が実際に見えてくるとさらにハイテンションになっていた。
かく言う俺も、目的在りとはいえ海水浴の時間がとられている今回の旅に楽しみを感じていない訳ではない。
「いっち~もやっぱり楽しみなの~?」
そんな様子を察してか、後ろの方で一緒に座っていた本音が興味を隠す気も無い様子で聞いてきた。
「全くそんなことは無いと言えば嘘になるが……どちらかと言えば、大分前に師匠達を始めとした人たちと言った時の事を思い出していた、な」
特に嘘を吐く理由も無いために、そのまま考えていたことを率直に告げた。
「む……師匠は師匠の師匠達とも海へと言った事があるのか?」
前の席から乗り出しながら後ろを向いて質問してきたのはラウラだった。
「危ないから座っていたほうがいい」
「心得た、師匠」
「それと、その任を了承した覚えは無いと何度言えば……」
相変らずの呼び方に何度目かもわからない返しをしたが、それでも帰ってくるのは変わらず同じ呼び方だった。
「そ……それよりもさ!
影内君は、影内君の師匠ともいった事があるんだよね? 何時頃行ったの?」
場の雰囲気を変えるためか、デュノアが半ば無理やりに話題の変更を敢行してきた。此方もそれに乗っからせてもらう事にする。
「ああ……確か、ニ年ほど前だな。
もっとも、あの時は大半の時間を荷物持ちで過ごしたが……」
機竜側へと行ってまだ間もないころ、リエス島への強化合宿(及び第三
(……あの時、ルクスさんとクルルシファーさんと一緒に晩御飯作ったっけ)
ある事態、つまりルクスさん以外誰も料理ができないという事態を懸念したレリィさんによって連れていかれる事になったのを思い返していた。
レリィさん自身、思い出作りという意味を含めて自分たちで作ろうと画策していたみたいだが、流石に最後の保険くらいは掛けていたらしかった。俺自身としても調理場の手伝いという「雑用」を何度か熟していたことがあったため、レリィさんも知っていたらしい。
「荷物持ち?」
「ちょっと状況が特殊だったんでな……まあ、最終的には別な人が番をしている間に多少は遊べたが」
尤も、あれは番をしていたというよりはセリスティアさんの『軽い運動』によって体力を使い果たした一部の生徒が休むついでに交代してくれた、といった方が正しいのだが。
「そうなのか……でも、今となってはいい思い出なんじゃないか?」
「それについては全面肯定だな。
其の後に色々とあったが……」
剣崎からの言葉を前半は強く肯定したが、後半は
「何か嫌な事があったのですか?」
「ああ……まあ、そうだな。
無かったとは言えないが……」
さすがに遺跡でのことをいう訳にはいかなかったので誤魔化した。俺個人としても、あの時の事は後半、特に終焉神獣《ユグドラシル》が出てきた後の事は色々な意味で記憶に焼き付いているだけに、思いだしたくないことまで思いだしそうになる。
(だがまぁ……あの時に、《アスディーグ》とも出会ったわけだしな。
その意味では、僥倖とも言えるか)
そうして過去の思い出に至っている間に、どうやら大分バスは進んだらしい。
「もうそろそろ宿泊予定の旅館に着くぞ。
降車準備を済ませておけよ!」
「忘れ物の無いようにお願いしますね~」
「「「はいっ!」」」
最初に織斑教諭が、その次に山田教諭が一組全員へと声をかける。それに対する威勢のいい返事とともに、それぞれが準備を始めていた。
―――――――――
Side 箒
それぞれが降車準備を進めていく中、少しばかり暗鬱な気分を抱いていた。
(……誕生日、か)
考えすぎだとは思いたいが、何もないとは思えなかった。
何より、ここに来る前に受けた電話が不吉すぎた。
(あの時の迂闊な自分を殴り倒したい……)
企業代表になってからは非通知の電話なんてよく受けていただけに、さして警戒を抱かないまま受けってしまった。その一秒後に受け取ってしまった事を後悔したが。
(本当に、なんで……受け取ってしまったんだ……!)
そんな後悔を抱きながら、昨晩の出来事を思い返していた。
―――――――――
『やっほ~、皆のアイドルで大天才の束さんだよ~♪』
プッ
受け取って二秒後に電話を切るのは初体験だった。
プルルルル プルルルル
再びかかってきた電話に、暫くは無視した。が、そのまま鳴り続けること数分。
場所は自室。今は本音がいないが、いずれ帰って来るだろう。
(……本音が返ってくる前に、終わらせるか)
諦めにも近い心境で再度携帯を開く。
『酷いよ、箒ちゃん!
せっかく、束さんが忙しい合間を縫って連絡したってのにさ!』
「忙しいのですか。
実の所、私も忙しい合間の数少ない憩いの時間ですので、お互いもう少し時間が取れるときにでもしましょう。それでは、さような……」
『ちょぉぉぉぉっとまったあああぁぁぁぁーーー!』
適当な事を言って電話を切ろうとしたが、謎の勢いと言うか技術によって阻止されてしまった。
『箒ちゃん、もうすぐ誕生日だよね!』
「……で、それがどうしましたか?」
名前を変えても、アレだけはそのままにしていた。
誕生日の日、一夏から送られたリボン。バスジャックの時も奇跡的に――多少焦げて短くなったが――残ってくれていた。
(一夏との、数少ない思い出なんだ……我儘だが、変えたくなかったんだよな……)
そんなことを知ってか知らずか、一応は血縁上の姉である人物――戸籍上は篠ノ之籍から離縁しているので違う――は随分と気楽な口調で何とも無責任なことを言ってのけてきた。
『よくぞ聞いてくれたよ!
箒ちゃん宛てのプレゼントを用意しているんだ! 楽しみにしててね、束さんが念には念を入れて入れ過ぎた最新最強のIS! 本当はいっくんの《白式》と対になるはずだったんだけど……』
「……念のため、確認の意味で聞きます。
誰に、何を、何の目的で送る気ですか?」
『箒ちゃんに、私が作ったISを、誕生日プレゼントで送るよ』
その一言に、携帯電話を耳に宛てながら天を仰いだ。
『それじゃあ、箒ちゃんの誕生日を楽しみにしててね!
じゃ!』
「ちょ、まっ!」
プッ
私が何かを言う前に、というか確認の言葉を発した直後くらいに一方的に別れを告げるとそのまま切ってしまった。
「切れてしまった、か……」
愚策とは分かりつつも、再度、同じ番号へと電話をかけてはみた。だが、その全ては徒労に終わることになる。
「……よりにもよって、なぜ今になって!」
思わず腰かけていたベッドへとそのまま仰向けに倒れ込み、そのまま呻くように大声が出た。そのまま歯軋りしつつ、携帯を持ったままの右手で目の部分を横に覆った。
(最悪、不参加に……いや、その場合は恐らく場所が学園の自室になるだけか。
なら、倉持技研は……結局同じか)
無意味だと知りながら、何か対策は無いかと思案してしまう。その度に私自身の不出来と無力を再認識し、意識せずに体に力が入っていく。右手の携帯がミシミシと言っている気がするが、気にしている余裕が無い。左手の掌に
(……もう、いっそ……いっその事……!)
思考が憎しみに染まっていき、同時に
「……ほーちゃん、何があったの?」
「……本音、か」
そんな私の醜態を見た恩人でもあり同居人でもある本音は、心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいた。おそらく、私が思案に耽っている間に飲み物を買い終えて帰って来たのだろう。
「……いや、何でもない。
気にしないでくれ」
無理やり顔の力を抜いてから、少しだけ右手をどけてその顔を見据えた。ここで笑顔の一つでも作れれば安心させられるのだろうが、今の私にそれは出来そうになかった。
「……嘘つき」
本音がそれだけポツリと呟くと、そのまま私の顔を自身の膝の上に乗せた。
「ほ、本音……?」
「無理、しなくていいんだよ」
「……無理、など」
していない、とは言えなかった。言う前に、本音が左手を優しく取ると、握りしめた拳を開いてしまったから。
「……こんなになるまで、握り締めて、耐えているのに……何もないはず、ないでしょ。
無理なんて、しなくていいの。私も、かんちゃんも、無理をさせるためにほーちゃんを迎えたわけじゃないんだから。頼ってもいいの。
頼りすぎるのも、問題だけど……でも、私もね。全く頼ってもらえないのは、悲しいな」
本音はそう言いつつ、何処からか出した救急箱から必要なものを出すと手際よく手当てしていった。
言い聞かせるように話しているが、同時に普段通りにゆっくりとした口調が、今は心地よかった。
「……すまない。
また、頼ってもいいか?」
「うん」
短く、だが明瞭に本音は肯定してくれた。
―――――――――
(……改めて思い返すと、不出来にもほどがあるな)
昨晩の出来事だけに鮮明に覚えているが、改めて思いだすとその情けなさに乾いた笑い声を挙げそうになった。さすがに何の前触れも無くそんなことをすれば完全に不審な挙動でしかないので、其処はさすがに抑えたが。
「箒さん、どうかしましたの?」
そんな風に考えてつつ外の景色へと視線を移したところ、隣の席に座っているオルコットから声を掛けられた。その顔には、どこか不思議そうな表情を浮かべている。
「いや、オルコットの気にすることじゃない。
これは私自身の事なんだ」
「まあ……何か問題でも起こったのですの?」
オルコットが不安そうな表情で聞いてくる。心配してくれているんだと分かると、何処か嬉しい部分もあった。
(それだけでも、活力になってしまうか……私も、現金だな)
「問題と言えば問題、かな……。
だが、もう手は打ってある。気にしないでくれ」
「そうでしたか……」
ほっとした顔で表情を緩めたセシリアだったが、直ぐに表情を引き締めると此方を真っ直ぐに見据えながら続く言葉を紡いだ。
「箒さん」
「なんだ?」
「……もし、何かありましたらお声掛けをしてくださいまし。
微力ながら、お力添えしますわ」
セシリアの言葉に、一瞬だけ面食らった。だが、意味を理解するにつれて自然と此方も笑みが零れてきた。
「そう、か……。
すまないな、世話になる」
「お気になさらず」
微笑さえ伴いながら、セシリアも再度返してくれた。
(……本当に、私は友人に恵まれたな)
自分には過ぎたほどの心強い友人の存在を再認識して、私も幾分心が軽くなったような気がしていた。
―――――――――
Side 一夏
「此処が、お世話になる旅館の『花月荘』だ。
毎年IS学園の臨海学校の際に宿泊施設を提供してくださっている。従業員さんの負担を増やさないよう、そして後輩たちの迷惑にならないように注意しろよ!」
「「「はいっ!」」」
織斑教諭が全体へと声をかけ、生徒たちが声を揃えて返事した。
それを確認した後、織斑教諭の隣に一人の女性が立った。着物姿で、外見から推測される年齢は三十代半ばほどだろう。だが、絶えず浮かべる人受けの良さそうな笑みが幾分年若く見せていた。
「女将の
皆さん、三日間よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
女将さんの挨拶に、再度、全員が揃って返事した。
「あら、此方が事前に話されていた方ですか?」
そのなか、俺の方を見るとそのまま織斑教諭の方へと尋ねていた。
「ええ、まあ。
今年はコイツがいるために浴槽分けが面倒になってしまい、申し訳ありません」
「いえいえ、しっかりしていそうな、良い子ではありませんか」
「そう見えるだけですよ。
はら、挨拶をしろ」
何気に貶されているが、そこは軽く流しておく。目上の人間には基本的に謙った表現を使うべきであることくらいは理解しているし、それを抜きにしてもここで騒ぎを起こす利点は無い。
「影内一夏と申します。
この度は種々のご苦労をおかけすることになるかと思いますが、何卒、よろしくお願い申し上げます」
「あらあら、ご丁寧にどうも。此方こそ、よろしくお願いしますね」
相も変らぬ柔和な笑みを浮かべつつ、此方の挨拶にもきちんと返してくれていた。
「それでは皆さん、お部屋へとご案内致します。
海に行かれる方は別館の方にて着替えられるようになっていますので、其方をご利用下さい。場所が分からない場合は、何時でも従業員にお声を掛けて下さい」
女将さんが再度、全員へと声をかける。対して一組の面々も声を揃えて返事してから、それぞれの荷物を持って中へと入っていった。
一方、俺の方は織斑教諭に呼び止められていた。
「ところで、影内。お前の部屋割りだが……」
「そう言えば、しおりには記載されていませんでしたね。
どこに?」
ある意味で今後の行動に深くかかわることが確定しているために、早々に確認しておくことにした。だが、そこで予想外の声が割って入ってくる。
徐に声をかけてきたのは、本音だった。
「いっち~のお部屋はこっちだよ~」
「そういう事で、此方で案内しておきます」
その声に続く形で、剣崎も同じように合流してくる。そして、この面々がそろった時点で薄々とは察せた。
「生徒会関係者で一室取ったのか?」
「そういう事になるな」
「室名の方には~、『生徒会』としか書かれていないからね~」
そう言う事か、と合点が行きつつも同時に一つ疑問に思ったこともあった。
「……その割には、伝えられたのが今なのだが」
「部屋割りの話しあいの時に、織斑教諭がかなり強硬な姿勢をとったらしくてな。
確定したのも昨日の事らしい」
「先生達も~、普段の態度からすれば珍しいって言ってたね~」
今更同室になって何をするつもりだったかも分からないが、阻止してくれたであろう更識会長やその手伝いをしていただろう虚さんに、後でしっかりとお礼を言っておくことをこの時決めた。
「一部の生徒は推測で来るかもしれないが、その時は向かいの先生方の部屋に気付かれるだろうしな。
迂闊には近づけまいよ」
「それと、隣の部屋はセッシ~と~、リンリンと~、シャルルンと~、ラウランだよ~」
「……何処かで見たような面子だな」
完全にフランスでの『
(いざという時に動きやすいように、か)
薄々とこの部屋割りの真意を察したが、それについてはどうという事も無い。むしろ、この采配に感謝したいほどだった。
(何事も起こらないのが一番ではあるが……)
臨海学校が平穏無事に終わることを心の中で祈りつつ、俺も部屋へと入っていった。
―――――――――
Side セシリア
(なるほど……これが、日本の『旅館』という物ですか)
少しではすまない楽しみな気持ちを抱きながら、その扉をくぐりました。
中の設備は中々の物。最新設備を揃えているみたいですが、それぞれがこの国特有の歴史ある趣と調和するように装飾されています
そうして部屋へと入っていきましたが、中に居たのはある意味で見慣れた人たちでした。
「ようやく来たか」
「少しゆっくりと来ましたから。
日本のこう言った旅館は、何分初めてなもので」
「安心しなさい。
日本で過ごしたことがある私も、こういったのは初めてだから」
「でも、僕はこの落ち着いた感じ、結構好きかな」
ボーデヴィッヒさん、鈴さん、シャルロットさんの三人。IS学園に入学してから御馴染みとなった何時もの皆さんです。
「ところで、皆さん海にはいきませんの?」
「生憎、荷物を運び終わってそんなに経ってないのよ。
それに、今行っても更衣室代わりの所は途轍もなく混んでいるだろうしね」
鈴さんの返答に、私も納得しました。確かに、ここに来るまでの間に女生徒の集団が固まって更衣室へ行こうと言っていた覚えがあります。それも、結構な数が。
「そういう事で、一休みしているってわけ」
「長時間の移動で体も硬くなっているしな。
私としてはこの程度は平気だが、だからと言って焦ることも無い」
「そんなこと言って、本当は水着になるのが恥ずかしいだけとか無いよね」
「そ、そんなことは無い……」
ラウラさんの意外な一面を見た気がしますが、微笑ましかったので良しとしましょう。
それに、実際はフランスでの『
(なんせ、私も抜けきっておりませんしね)
加えて言えば、シャルロットさんに限ってはその後の《イクス・ラファール》に関する諸々の疲労もあることでしょうしね。
「ま、適当に休んだら行きましょ」
鈴さんが締めに言った一言に、私を含めた三人全員が頷きました。
―――――――――
Side 一夏
ひとまず泊まる部屋に荷物を置き、其の後に合流した簪と一緒に更衣室へと向かっていた。とは言っても、俺は当然別室での着替えであるため途中で分かれて一人歩いていく。
その道中で、奇妙な物体があった。
(機械で作られた兎の耳、か……)
触らぬ神に祟り無し。別に神というわけではないが、厄介事の種になりそうではあるのでそのまま全力でスルーする。
そのまま別館の更衣室へと歩を進めていく。意図的にある程度の遠回りをしておいて女子たちの近くを通るのは避けた。
早々に着替えを終え、海の方へと脚をむける。体の方には古傷の類が少々目立つが、それも気にするほどではないと判断して歩は進め続けた。
「影内君だ!」
「わ、私の水着変じゃないよね?」
「すっごい腹筋……」
「全身の筋肉と傷跡……ハァハァ……」
海に出たら出たで此方の姿を認めた他の女生徒からわりと色々な声が上がった。学園の制度が制度であるために男性が物珍しいのだろうが、それにしても一部から変な声が聞こえてきている気がする。
「影内、此方に来ていたか」
「剣崎?」
そんな中、後ろから来たのは剣崎だった。この年頃の、というかこの場の中の女生徒の中ではかえって珍しい、露出の少ないスクール水着を見ている。
「あちらでビーチバレーをやるみたいだが、一緒にどうだ?」
「お邪魔させてもらうよ」
そのまま、其方の方へと歩いていく。さらに、道中では見知った面々もいた。
「影内君」
「ん……簪か」
最初に会ったのは、簪。此方はこの前の買い物のときに買った水着を着ていた。
「ど、どうかな……?」
それだけ言うと、僅かに頬を赤らめながら反応を待っていた。その姿は素直に可愛いと思ったが、顔の赤さに体調が心配になった
「似合っている。
可愛いよ」
「か、かわ!?」
一気に赤くなったため、さらに体調の方が心配になってくる。尤も、それも本音が「お~い」とゆっくりとした口調で呼びかけたと同時に顔色が元通りに戻っていった。
「こっちでビーチバレーやってるって~!
いっしょにやろ~!」
「分かったから! ちょっと待ってて!」
本音の呼びかけに簪も大声で返答すると、此方の手を取ってきた。心なしか、先程より機嫌がいいようにも見えた。
「影内君と箒も、一緒に!」
「ああ」
簪の呼びかけに剣崎も短く返答していた、元より誘われていた身だが、断ることも無かったのだろう。
だが、現場に着いたら付いたでまた異様な面々が現れる。
「影内君」
「デュノア、と……そっちの布の塊は何だ?」
片方はオレンジが基調となっている水着に身を包んだデュノアだった。そちらはいい。
だが、問題はデュノアが連れてきたもう一人(?)だった。
「ほら、ラウラ!」
「だ、大丈夫……だ……」
「いや……なにがどう大丈夫なんだ?」
思わず突っ込んでしまったが、思いの他、反応は大きかった。
「くっ……ええい、ままよ!」
そのまま、若干、苦戦しつつも布の塊と化していたラウラはその体を覆っていたバスタオルを全て脱ぎ終えていた。
「くっ……このようなヒラヒラ、似合わないに決まっている……!」
顔を本格的に恥ずかしさで真っ赤に染めつつ、ラウラはその恥ずかしさを誤魔化そうとするかのように頬を膨らませながらそっぽを向いてしまっていた。
「いや、そんな事は無いと思うが……」
「だよね!
僕は絶対に大丈夫だって言っているのに、ラウラったら全く信じてくれなくって」
「そうだな。いい意味で似合っている」
「……~~ッ!」
その一言に、ついに限界に達したらしいラウラの顔が耳まで真っ赤に染まっていた。ボンッ、という音とともに湯気でも見えてきそうな感じでもある。
「相変らずの騒ぎね」
「凰に、オルコットもか。
お前もビーチバレーに?」
そんな状況で後ろから声をかけてきたのは凰だった。その横には、オルコットもいる。
「ええ、つい先ほど誘われましてね。
サンオイルも塗ってもらったところでしたし、ちょうどよいかと思いまして」
「体を動かすのは好きだしね」
二人からそれぞれに反応を貰い、「そうか」と返しておく。だが、この後に俺と剣崎、簪も参加する旨を言うと、途端に凰が不気味な笑い声をあげ始めた。
「フッフッフ……今度こそ勝ってやるわ、影内!」
「いや、ここでまでヤル気を出すなよ……」
異様なヤル気を見せだしてきた凰に、思わず突っ込んでしまった。
「ビーチバレーか。
童心に帰るな」
そんな喧騒の中、不意に大人びた声が聞えてきた。
「ですね。学生時代以来やったこと無いですし」
続いて、もう一つの声が聞えてくる。
声の主は、前者は織斑教諭、後者が山田教諭。二人とも今は水着に身を包んでいた。
「織斑先生も山田先生も綺麗~!」
「二人ともモデルさんみたい……」
「……巨乳なんて、巨乳なんて……パルパルパルパル……」
「教官……お美しい……」
二人の登場に其の場――生徒の一部の反応がおかしいのは努めて気にしない――が沸き立つ。
だが、俺はその輪の中には入らないでいた。
(本当に関心が無くなってきているな……)
どことなく自分がおかしくなっているのは自覚しつつも、この雰囲気の中では騒ぎを起こす気にはならないので努めて平静を装った。
その後は極普通にビーチバレーが始まったが、久々の楽しい時間だったためだろうか、大分力が入ってしまったらしい。途中でボールが二度ほど破れる事態になっていた。
ボールを持参した生徒には後でしっかりと誠心誠意の謝罪をさせてもらった事は言うまでもない。