Side 一夏
「どんな状況なんだ……」
今現在、俺達は帰りの飛行機の機内にいた。面々は機竜側から来て頂いた人たちに、此方側の協力者である更識会長たち、そしてIS学園でよく一緒にいる面々。出発時は一緒に居なかった最後の面々は更識会長が許可したために乗れることになったらしい。元々、この面々は民間の航空機で帰ることになっていたので割と喜んでいたりするのだが。
「……では、このような場面では……」
「……いや、そうであるならばむしろ……それに、射撃があれば……」
「ですがそれでは……」
「そうならば……その時はドリルで反撃を……」
「なぜドリルに限定したのですの……?」
そんな機内の中で頭を抱えることになった原因その一。
リーシャ様とオルコットが盛んに誘導装備とそれを用いた戦術について話し合っていた。互いの機体特性に似通ったものがありつつも多くの相違点も持っている両者の話し合いは盛り上がっているようだが、近接防御の話し合いに入った途端にリーシャ様がドリルを押しているらしかった。
(自重してください……)
心の中でそんな事を思いつつ、別な場所へと目を移す。
「……ですので、下半身の筋力を鍛えたい時は……」
「むぅ……そのような方法が……」
「ええ。他にもですね……」
機内で頭を抱えることになった原因その二。
あちらでは剣崎と凰がセリスティア先輩からトレーニング方法について色々と聞いているらしい。それはいい。それはいいのだが――
「待ってください。その方法ではすぐに限界が……」
「はい。ですので、最初から全力では行わずにまずは無理のない範囲から……」
「いえ、それだと最低ラインを超えたあたりで限界が来ますよね……!」
「為せば成ります」
「「……!!」」
――二人のトレーニングの基準が何かおかしなことになりそうな気がしないでもない。
(……オーバーワークにならないように少し注意しておくか)
今後の鍛錬に少しの不安が募ったが、今はどうすることもできない。
「師匠、頭を抱えてどうしたのだ?」
「何でもない……それよりも、その任を了承した覚えはないと何度言えば……」
「あら、師匠だなんて。
何があったのかしら、一夏?」
ボーデヴィッヒが相変わらずの呼び方で呼んできたことに、目聡く反応したのはクルルシファーさんだった。
「特に何かあったわけではありません。
どうか、お気になさらず」
「私はこの人に弟子入りしたのだ」
「その任を承認した事実は存在しません」
自身の師へと自分が弟子入り志願されましたなどという気にはなれなかったために今の今まで報告していなかったが、其れもついにここにきて知られることになってしまった。
しかも、相手は
「そう……ついに一夏も弟子から師匠へとステップアップしたのね。
大変喜ばしい事だわ」
「揶揄わないで下さい。
何度も言いますが、俺はその任を承認した覚えはありません。それに、俺の実力がそこまで行ってはいない事は師匠達こそよく知るところでしょう」
務めて平静を装いつつ返事をしたが、内心ではこの常用を切り抜けれるだけの光明は見いだせていなかった。そのことに、奇妙な焦燥感を覚え始めていた。
「別に良いではありませんか、一夏。
私達としても、弟子の成長を実感できて喜ばしいものですよ」
「全く成長していないとは言いませんが弟子を取れるほどではありませんよ……」
さらに状況の悪化を促す夜架さんの参戦に、さらに頭を悩ませることになった。
「いや、私は師匠から教わりたいことが山ほど……」
「教えられることが無いと言っているだろうが……」
「いっそ、本当に弟子をとってもいいんじゃない?
存外、新しい発見があるかもしれないわよ」
「メルまでそんな事を……」
さらにメルまでもが加わり、一層此方の戦況が悪くなってきた。
「影内君、どっちか飲む?」
「すまないな、簪。
麦茶の方を頼む」
そんな中、気遣ってくれたのか簪がペットボトル入りの飲料を持ってきてくれた。
が、片方が明らかに自然界にはない透明度の高い鮮やかな緑色の、言い換えるのであれば液体洗剤にでもありそうなエメラルド色のキュウリ味を謳っている炭酸であったため必然的に普通の麦茶の方を取る事になった。というか、なぜロシア代表用の航空機の室内にそんなものが有るのだ。
「このお菓子、美味しいね……♪」
「こっちのお菓子もおいしいですよ~~」
「うん……頂くね」
「召し上がれ~~♪」
唯一、安心して見ていられる場所などフィルフィさんとのほほんさんが相席している場所だけだった。傍らにうず高く積まれた甘味の空箱は気にしない。
(果たして俺は無事に日本にたどり着けるのだろうか……)
―――――――――
Side ルクス
色々と手の付けようがない状況になってきた機内を見渡しながら、シートに深く腰を掛けていた。
一夏には少し悪いけど、今この場をどうにかすることは僕には出来ない。彼の知恵と幸運に期待するとしよう。
「どうしましたか?」
「アイリ」
そうして少し休んでいたところに来たのは、アイリだった。
「うん……今回の事件について、ちょっと考え事しててね。
それより、一夏の側に居なくていいの?」
「兄さん同様の女癖の悪さを直すには、今の状況もいい薬でしょうから。
で、何を考えていたんですか?」
「アイリ……」
アイリからの容赦ない一言に地味なダメージを受けつつ、気を取り直して考えていたことを話すことにした。
「考えてた事っていうか、気になったのはあの蟻型について。
明らかに今までの
「今までの幻神獣の中でも、自身の種を含んだ複数の種を増殖させる能力をも持った幻神獣などいませんでしたしね。それこそ、
「その役割を担って来ていたのは、基本的に
けれど、それも今は封印されている筈……」
「にも拘らず、未だに
「それに、今回は機竜も幻神獣を操っているのではないかと思われるような人物も確認できなかった……」
「流出した機竜とは別なのか……あるいは、放置していても問題が無かったのでしょうか……」
アイリと確認されたことを整理しているだけでも、頭を悩ませる多数の事実に疲れたような感覚を覚えていた。
「いずれにしても、後で国元での調査や更識さん達からの情報も合わせて考えないといけませんね」
「そうなるかな……。
アイリ、更識さん達への対応は任せてもいいかな? 今のところ、一夏とアイリが一番信頼が厚いと思うからさ」
「まあ、別にいいですよ。
不甲斐無い
いつも通りの表情で嫌味を言おうとしたアイリだけど、その表情がわずかに緩んでいることを隠しきれていなかった。
「それに、今後も連絡役になれば一夏と長期間の離れ離れは回避できるだろうしね」
「んなッ!?/// 私がいつそんなことを言いましたか!?///」
咄嗟に否定したアイリだけど、その顔は熟したリンゴのように赤い。普段は散々揶揄われたり嫌味を言われたりしているだけに、この反応は新鮮だった。
「そう隠さなくてもいいよ。
一夏の事は僕も信頼してるしね。全面的に応援する気だけど」
「だ、だから……///
と言うか、いい加減に其方も諸々の関係をハッキリさせたらどうなんですか?」
「アイリはそれが一つなんだし、僕よりはハッキリさせやすいんじゃないかな?」
「言うに事欠いてこの人は……///」
この後、皆が来るまでの暫くの間、こんな具合の会話を楽しんでいた。
―――――――――
Side シャルロット
「皆、行っちゃったか……」
もうすでに飛行機雲を従えながら高高度を飛んでいる飛行機を見つつ、物思いに耽っていた。
作戦も既に終わり、各国からの参加者は既にそれぞれに帰って行ってる。最後発となった影内君や更識会長たちが乗った飛行機も、飛び立ってからしばらくたっていた。
彼や彼女たちには今作戦の事も含め、多大な恩がある。私達としても、欧州での活動はできる限り協力する方向で話が進んでいる。
「シャルロット」
そうこうと考えていたら、後ろから母さんに声を掛けられた。父さんの座る車椅子を押している。
「もうそろそろ時間よ。
家に帰りましょう」
「分かったよ、母さん」
続けて言われた言葉に、短い返事と頷きを返して素直に従った。
こうして三人一緒になって歩くのも、随分と久しぶりだった。
「……すまないな。
友達と居たかっただろうに、無理なことを言って」
「気にしないで。
本音を言うと、僕も乗ってみたくて仕方が無かったんだ」
「まったく、この子は……」
父さんから遠慮がちに放たれた言葉を自信満々に否定したところ、母さんが若干呆れ気味になっていた。解せぬ。
「まあでも、そこまで言うからにはテストパイロットとしてしっかりと仕上げて見せなさいね。
アナタにも、もう一踏ん張りしてもらうわよ?」
「ハハ……お手柔らかに頼むよ」
母さんからの手厳しい言葉に苦笑している父さんですけど、その顔は活気とやる気に満ちています。
「うん。やってみせるよ。
デュノア社製第三世代IS《イクス・ラファール》。今はまだ僕の《ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ》を部分的に改修する形になるけど、僕はそれを待ち望んでいたんだから!」
―――――――――
Side ラウラ
(……皆、無事か)
ある程度騒ぎ疲れたのか、はたまた議論の区切りがいい所に来たのか。それぞれがそれぞれに休み始めていた。特に、作戦後に師匠と対峙したセシリアに至っては今は熟睡している。
(……二年前の様にならなくて、良かった)
二年前、
(しかし、二年前は当時の
今作戦が終わった折、副官であるクラリッサ――今は名字と階級ではなく名前で呼んでいる――から話を聞き、その後、正式な閲覧許可を得た上で確認した当時の記録を思い起こしていた。
(二年前……織斑教官の弟である織斑一夏氏の誘拐現場に突如として出現した、黒い体表に羽をもつ獣人のような怪物と、その交戦結果。
当時は部隊の再建にばかり目が行っていたが……)
改めて、当時、しっかりと記録に目を通しておかなかったことを後悔した。
(当時、参加した黒兎隊のISが搭載していた試作型大口径レールカノンと、参加した日本副代表である山田氏の持っていた大口径ライフルの集中砲火による着弾時の衝撃を以て動きを拘束し、織斑教官が当時使用していたIS《暮桜》に搭載されていた《雪片》を純粋なレーザーブレードとして使用、最大出力で稼働させ続けることで強引に溶断、か……)
記録を頭の中だけで思い起こしながら、その時の事が今の私へも繋がっていることを実感していた。同時に、当時から今に至るまで解けていない謎である、死体の発見されなかった織斑一夏氏の事も思い起こしていた。
(織斑教官の駆る《暮桜》はその時の過剰な消耗が原因でコアが事実上の凍結状態……再起動は絶望的。それ以外にも当時の黒兎隊へと痛撃、か……。
それに、織斑一夏は何処に行ったのだ……。死体どころか碌な血痕すら残っていなかったとは)
当時の黒兎隊が受けた壊滅的な被害の報告を思い出しながら、その後にあった部隊再編を始めとした種々の苦労も思い出してほんの僅かに苦笑いを浮かべてしまった。
(しかし……)
だからこそ、余計に思ってしまう。
(……明らかに戦い慣れている搭乗者に、国家の開発した最新鋭機を凌駕する戦闘力を持つ機体群。男性である
八機、その数字に不思議な縁と強い疑惑があった。
(その機数……ドイツが所持する
一国家と同様の機数に、単機では明らかに勝ち目のないほどの高性能。
師匠の事を信頼してはいるが、それでも疑問はどうしても残ってしまった。
(……師匠、貴方達はいったい何者なのだ?)
―――――――――
Side 楯無
(さて……今回の作戦は無事に終了したわけだけど……)
報告書を見つめながら、色々と考え込んでいた。
今は増援で来てくれた人たちはその人たちで固まっているし、他に乗せた子も疲れているのか寝ている。少しばかり手持ち無沙汰になった時間を使っての、考え事だった。
(……八機、か)
「お嬢様、どうなさいましたか?」
そんな時に来たのは、虚ちゃんだった。
「いや、ちょっとね……」
「今回、増援に来て頂いた人たちの事ですね」
スパンと言ってくるあたり、流石は虚ちゃんである。
「ええ。
八機、この数字が気になるのよね」
「小規模な国家であればこれだけで所持する全てのISか、それ以上ですものね。
疑惑を持つな、という方が無理な話です」
私の持った疑問を
「そうね。
今は戦力的な問題が大きすぎるから頼らざるを得ないし、今回来てもらった人たちは総じて信用できそうな人たちばかりだからまだいいにしても、彼らの所属している組織がどういったものなのかが未だに分からない。
信頼したいのは山々だけど、そのためには不足しているものもあるのよねぇ……」
頭を悩ませながら、今後の事を考えていた。
確実に彼らとの協力関係は続けるし、そうせざるを得ない部分がある。けれど、その先に何が待っているかによっては今の内から用意しておかないといけないのも事実だった。
「本当に、何処から八機も……一機だけでも手に入れるのなんて絶望的なほど難しいというのに……」
「そうよね。
しかも、性能は折紙付きなんてものじゃない。異常としか言えない域にさえある」
そこまで行ったところで、一回言葉を切った。
「虚ちゃんは、どう考えてる?」
私の質問に、虚ちゃんは少し考え込んでからその答えを言った。
「そうですね……。
ISコアの調達と、国家の最新鋭機すら凌駕する高性能の機体。その二点から考えるのであれば……篠ノ之博士が、関わっているのではないかと……」
「確かに、それも可能性の一つね」
半ば生返事となった私の返答に、虚ちゃんは腑に落ちないとでも言いたげな表情のまま私へと質問を返してきた。
「……お嬢様は、どのようにお考えなのですか?」
「そうね……。
虚ちゃん。虚ちゃんの答えは、影内君たちが使用している機体が
「それは、当然……お嬢様、まさか!?」
虚ちゃんが私の言わんとすることに気付いたらしい。その表情を驚愕に歪めながら、鸚鵡返しのように聞き返してきた。
「異常なまでの高性能、多すぎる機体数、男性でも使える、起動しない絶対防御、既存の機体とはかけ離れた機体構造。
これら全てに、すぐに答えられる事があるとすれば、それは恐らく……そもそも、
「で、ですが……今となっては、ISはISでしか倒せないというのは周知の事実です。
それを一体……」
若干慌てたような虚ちゃんの反論も、普通に考えれば当然の事だと思う。
でも、その答えは大事な事実を一つ忘れている。
「普通に考えればそうね。
でもね、虚ちゃん。忘れたの? ISが初めて世に出た時、ほぼ全ての人たちはそれまでの『常識』の外側にあるソレを一笑に付した。けれど、それはある事件を期に一変して、最強の兵器として君臨した。
私自身の御家の襲名を早める一因となった事件なだけに、忘れようにも忘れられない事件。
IS関連のノウハウが蓄積されてきた今では自作自演説が濃厚となってきた事件だけど、同時にあの事件で世界的に軍事兵器としてのISが知られるようになったのも事実。
そして、それまでの常識を一変させた事件。
「……影内さん達の機体は、『第二の白騎士』になり得ると考えているのですか?」
「物の例えで言っただけよ。
けれど、完全に在り得ないか、と聞かれるとねぇ……」
そこまで言ったところで、虚ちゃんの表情が緊張しだした。
「……いづれにしても、今はまだ大丈夫だし影内君たちも特に怪しい動きは見せていない。
でも、情報だけは集めておきましょう。」
彼らを直接、敵に回す。
そんな事態など避けたいが、事と次第によってはそうも言ってられない。
(……文字通りの命がけで戦ってくれている。生半可でそんなことはできない以上はそうそうと大変なことをするとは思わないけど。
備えを欠かすわけには行かないのも、辛い所ね……)
―――――――――
Side 千冬
「……」
「……」
束のラボの一室で、共にとある映像の検証を行っていた。
「……ちーちゃん、どう思う?」
「馬鹿と冗談に狂気を混ぜたらあんな機体になるんじゃないか?」
若干投げやり気味に答えていた。それほどに、性能面では圧倒的な機体がそろっている。しかも、うち幾人かは腕前も常軌を逸するものがあると確信できたほど。
「機体の方は?」
「同じのを再現しろって言われたら『現物が無いと無理』と言える程度には無茶苦茶かな」
「……現物があればできるのか」
「半分はプライドで、もう半分は意地だけどね」
「…………そうか」
束にしては珍しいまでの返答に、溜息を吐いた。
「そういうちーちゃんは、何か具体的には?」
「……そうだな。
一夏も含めて総じて腕利きばかりだったが、中でもあの漆黒の機体と紅白の機体は突出していたな」
改めて映像を思い返しながら、確認するように話していく。
「ん~……搭乗者の技能的な意味ではあの黒い四つ足も負けてなかったと思うけど?」
「たしかにあの機体も驚異的だったが、あの機体は
飛べるのであれば飛んでいるはずだ。制空権が取れるというのはそれだけで大きな意味がある、わざわざ飛ばない道理はない。現に、飛んでいれば明らかに飛んでいる場面があったにもかかわらず、あの機体は味方の機体に空輸してもらうまで待っていた。
となれば、飛べないと考えるのが道理だろう。そして、飛べないのであれば最悪として空中からの射撃武器で一方的に叩くという手が取れる。
あの巨大な女王蟻によって蟻塚が崩落した時の映像を思い返しながら、そう答えた。確かに搭乗者の腕前も良く、機体の性能も十分以上の尾物に思われる。
「そっか~~……じゃ、突出してたっていう他の二機については?」
「まず目についたのは、漆黒の機体だな。
腕前の高さについては言うまでもないだろうが……それ以上に、格闘戦型にしては珍しい戦い方をしている」
「珍しい戦い方?」
「ああ。
あそこまで
あの漆黒の機体の戦い方を思い起こしながら、其れだけ答えた。
「カウンター? そんなに反撃してたっけ?」
「カウンターそのものはそこまでしていないが……。
あの蟻塚の内部に突入する前に、空の化け物共相手に戦っただろう。あの時、最初は自分から攻撃していたが、其の後は相手の攻撃に対応する形で攻撃を突き刺していた。
最初の方の攻撃は、恐らく一夏からの支援を受けた上での攻撃だろう。以前、一夏の駆るあの白い機体はオルコットの《ブルー・ティアーズ》のビットに触れた際にその攻撃力を強化したことがあった。恐らく、あの機体は特定の条件を満たした時に味方に《零落白夜》のような能力を付与できるのだろうな。故に、漆黒の機体は最初の攻防の際はその攻撃力の強化によって厄介な敵を優先して倒し、其の後に反撃を以て数を武器に攻撃してきた連中を一網打尽にしたのだろう」
私の説明に、束は一通り唸ると異常な速度でメモを取りながら何かを考え込んでいた。
だが、それも僅かな間の事。
「じゃあ、紅白の機体の方は?」
「変形機構など見たことが無かったが……そう言えば、なぜ変形するんだ?」
「あ、それは私の方で推測できるけど」
私が呟いただけの疑問に、束が間髪入れずに答えていた。
その内容に興味をひかれた私は、特に躊躇いも無くその真意を聞くことにした。
「ほう、何故だと考える?」
私の問いかけに、束はいつもの通りに無駄に自慢げになりながら話し出した。
「多分、陸戦と空戦の双方に特化した形態を用意したんじゃない?
具体的な設計図を見てないから何とも言えないけど、多分、空戦の時は飛行に割いている分のエネルギーを陸戦形態の時は装甲か攻撃にでも回してんじゃない? それと、空戦のために必要な推進器を陸戦のときに失う事を避ける目的もあるのかもね。
陸戦の時は跳躍で十分みたいだし、飛行に必要な分のエネルギーを別に配分することで最適化、それによって戦闘能力を引き延ばす目的じゃないかな。半面、空戦の時は移動の自由度が各段に上がるから回避を優先すれば装甲はある程度薄くしても大丈夫なんだろうし」
束の説明に、ある程度の納得は覚えた。
だが、そこで束は其のことについて考える暇を与えずにすかさず私へと質問してきた。
「今度は私が聞くけど、ちーちゃんは何か気づいた?」
「こう言い方も癪だが……あの紅白の機体に乗っていた餓鬼。非常に癪だが……戦闘における素養で言えば、確実に天才と言える領域だろうな。最低でも私と同等程度の才能は有る」
「おお~、ちーちゃんにしては珍しく買っているね~~。
で、攻略法的な何かはある?」
束からの再度の問いかけに、僅かに思考してから答える。あの手の手合いも、別に試合相手の中に居なかったわけでもない。
尤も、試合で相対した相手とは桁違いではあるが。
「有るとすれば……奇策だろうな。
具体的に言えば、武装の用途外使用などによって相手の予想を上回る事。あの手合いは普通に技術合戦をしても天賦の才というもので対応してくることも多いが、此方から意図的に相手の読みを崩させてやれば、存外崩せる。
後は、それをどうやるか、だが……」
そこまで言って、言い淀んだ。正直に言えば、すぐには思いつかない。
「束、そういうお前は何か他に気付いたことはないのか?」
「ん~~……あの漆黒の機体と、紅白の機体。それと、朱色の機体に金色の機体。あの四機の
まあ、確実だと思えるのが一機だけしかないけどさ」
「なんだと?」
意外といえば意外なほどの返答だが、聞かない手はない。
直ぐに内容を問いただそうとしたが、束も別段隠す気は無かったようで私が何かを言う前に話し始めた。
「まず、確実なのは紅白の機体。中身は十中八九、一定の条件下における温度というか熱量というか……その類を自由に操れる能力、かな?
自機の装備の過熱に、機体形状じゃ説明できない空中での空力能力。他にも色々。これらの現象全てに関わっている要素と言えば、温度だからね。だから、多分これは確実」
ここまでは流暢に語ってみせた束だが、この後を話す前に一回、溜息のような動作を挟んだ。束にしては余りにも珍しい動作を前に、思わず身構えてしまいそうになる。
「で、ここからは推測の要素が大きくなるから確実とは言えないんだけど。
まず、朱色の機体。能力は多分だけど、指定範囲内に下向きの加速を与える擬似重力の発生、かな。そう考えれば、いっくんの乗っているあの機体への加速も、それ以外の場面で敵が押しつぶされるような状態になったのも説明がつく。
次は、漆黒の機体。で、今現在考えているのは速度への干渉かな。この能力だと仮定すれば、相手の攻撃を遅延させたり自身の攻撃を早めたりしたのが説明出来る。
で、最後は金色の機体。仮定の中ではこれが一番信じられない能力だけど……瞬間移動。それ以外に考えられる可能性が極端に少ない」
「……いくらなんでも、荒唐無稽に過ぎないか?」
最後の機体に想定された能力。束の口から語られた能力の内容が余りにも現実離れしていたために聞き返したが、束は困り顔で首を振った。
「困ったことに、そうとも言えないんだよ。
確認された映像から推測した範囲では、だけどね」
「全く……大方、他の機体も何かしら隠し持っているだろうに。
判明しただけでもこれか……」
いっそ驚きや驚愕、恐れと言った感情を通り越して、呆れてさえしまう。
だが、それだけで終わるわけにも行かない。今回確認された連中に対する考察を更に進めつつ、同時に対策も練っていった。